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桜月夜 〜覚醒〜“原田左之助”
男は女を守るもの。
女が大事な奴ならば、尚更男は命懸けで守ってやらなきゃならねえ。
それだけは譲れない、俺の信念だった 。
“ざまあ・・・ねえな・・・”
自嘲を込めて吐き出した声は掠れて弱々しく響いた。
辺りに漂う濃い血の匂いは、この手に握る槍で貫かれた無数の羅刹が流したもの。
その血の海の中、疲れ果てた身体を木の幹に凭れ掛け、荒い呼吸を繰り返す。
立つことすら辛く、木に背を預けたままずるずると座り込むと、けほ、と咳き込んだ口の中から血の味がした。
生身の人間の力で大勢の羅刹を相手にするなど、無謀以外のなにものでもない。
助力があったからこそ、俺は羅刹の餌にならずに済んだのだ。
『生きてるか?』
声に顔を上げると、血と汗と土埃にまみれながらも飄々とした男が近づいてくるのが見えた。
鬼の体力は無尽蔵らしいが、流石に奴も疲れは隠せないようだ。
『まだ、死ぬわけにはいかねえよ。新八と合流しなきゃならねえし、千鶴だって見つけてやらなきゃ・・・』
俺にはまだやらなきゃならねえことがある。会いたい奴もいる。
だから、ここでくたばっちまうわけにはいかねえ。
そう、思うのに。
疲れ果てた身体は休息を必要としているようで、指一本すら思うように動かせない。
徐々に重くなる瞼。
ゆらゆらと霧掛かっていく視界。
頭の中がぼうっとして、思考を奪っていく。
少し・・・。
少しだけ、眠ろう・・・。
そうすれば体力も戻るはずだから、千鶴を探して、新八と合流して、それから・・・。
ああ、その前にこいつにも礼言わなきゃな。
俺が寝ている間、見張りさせちまうだろうし、詫びとかねえと・・・。
“悪い、後で起こしてくれ”
そう言おうとしたが、上手く声に出せただろうか。
霞む意識の向こうで、あいつが何か言ったような気がした。
■■■■■
「よう、いい子で待ってたか?」
左之助がそう声を掛けると、頬を膨らませた平助と眉間に皺を寄せた一がランドセルを背負いながら歩み寄ってくる。
「その言い方は不快だ」
「そうだよ、ガキあつかいすんなよな!」
小学二年生と一年生は十分子供だろ。
そう返したいのは山々だが、二人が更に機嫌を損ねることが解りきっているため口には出さない。
ところが、そんな左之助の配慮を無にする存在が隣に在った。
「な〜に言ってやがんだ。こんなにちびっこい癖によ」
げらげらと笑いながら乱暴な仕草で、自分の胸の辺りにある二つの頭を撫で繰り回すのは空気の読めない男、新八だ。
きらん、と一の眼に鋭い光が閃く。
一瞬後、弁慶の泣き所を情け容赦なく蹴り上げられた新八が苦悶の声を上げながら蹲る姿があった。
低学年児童である一と平助が授業を終えるのは早い。
だがそのまま帰宅しようにも彼らの家は山奥にあり、小さな子供だけでの下校は危険過ぎる。
子供達自身も親達もまったく気にしていないのだが、学校側がとにかく心配するのだ。
その為彼らは左之助や新八、総司が授業を終えるまで図書室で自習するのが放課後の日課となっている。
そうして図書室の外で待っていた総司と合流し、五人は帰宅の途に着いた。
いつもの帰り道。
いつもの風景の中に、異色を見つけた。
街を外れて山道への入り口に立った時、彼らはそれに気付く。
色付き始めた木々の一本の巨木に背を預け、何をするでもなく立っているだけだというのに、どこか独特の存在感がある長身の男。
青みを帯びた長い髪を無造作に縛り、日に焼けた褐色の身体は遠目にも鍛え上げられていることが解る。
年下の三人を庇うように、新八はさりげなく一歩前に進み出、左之助は男側の位置に移動する。
自然な様子を崩すことなく和気藹々と話しながらも、五人は見知らぬ男を油断なく眼で確認しながら歩く。
何事もなく男の前を通過しようとした時、男が動いた。
「くっ・・・っ」
小さく呻き、上半身を前のめりにさせて肩を振るわせる男。
「?」
苦しんでいるのか、それとも泣いているのか。
当惑する彼らの視線の中、男は意外な反応を見せた。
「くく、は、はははははっ!」
笑ってる?
(な、何だ?)
いったい何がおかしいんだ?
訝しげに男を見つめていると、顔を上げた男とばっちり視線が合った。
その瞬間。
「ぎゃはははははははは!!!」
男は五人を指差して、腹を抱えて思いっきり笑い転げ始めた。
(何で初対面の奴に突然指差されて笑われなけりゃならねえんだよ!)
至極当然の怒りだろう。
五人は揃って不機嫌な表情となり、男を胡乱げに見る。
その様子が余計におかしかったのか、更に大きくなった笑い声が山の中に響き渡った。
失礼な男はそれからしばらく笑い続けていたが、やがて笑いの合間に震える声で言った。
「くっくっく、風間から聞いてはいたが、本当に小せえな・・・っ」
「風間・・・?」
聞き覚えがある名だ。
刹那、背後の総司の気配が変わった。
背を向けていても感じ取れる、これまで剣の稽古の時にだけ見せていた子供には持ち得ない覇気。
男もその尋常ならざる気配に気付いたようで、必死に笑いを治めながら両手を上げる。
「おっと、そんなに警戒しなくても何もしねえよ。お前らに何かあったらお姫さんが泣くからな」
そうなると五月蝿い奴らがいるんだよな〜、と冗談交じりの言葉が続く。
「あんた、千鶴ちゃんが何処にいるか知ってるの?」
言いながら総司が前に進み出た。
何故ここで“千鶴”の名が出てくるのかと、左之助達も総司の動向に注目する。
殺気の込められた鋭い眼差しに見据えられた男は、おや、と眉を上げた。
「なんだ? もしかして記憶があるのか?」
この状態の総司の前ではここにいる四人はもちろん、歳三ですら一瞬足が竦むというのに、男にはまったく堪えていないようだ。
総司の実力を知らないが故の無知というよりも、緊迫した空気に気付きながらもそれを楽しむ余裕のように見える。
「二条城で風間にくっついてたっていう二人のうちの青い方だよね」
「えらい言われ様だな。俺は不知火匡様ってんだよ。覚えとけ」
“不知火匡”!?
初めて聞く名前のはずなのに、左之助の中でそれは強く心を打った。
男に対する警戒心が薄れ、代わりに感謝と悔恨の念が沸き上がる。
(俺はこの男を知っている)
そしてそれは決して悪い感情ではない。
むしろ、ここにいる大切な仲間達に対する親しみと同じものだ。
背を預けられる存在。そう感じる。
事実、彼が左之助達に向ける表情の中に悪意は一切なく、懐かしさと喜びに溢れていた。
「まさかお前らが生まれ変わるなんてなあ。永く生きてると面白いことが起きるもんだぜ」
「そんなことはどうでもいいよ。千鶴ちゃんに会わせて」
総司の声はあくまで冷ややかで、彼が左之助とはまったく違う感情を不知火に向けていることが窺えた。
(こいつを懐かしいって感じてるのは俺だけなのか?)
見ると新八や一、平助の表情にも警戒心だけが露になっている。
このままでは駄目だ。
そう判断し、左之助は前に出た総司の肩を掴んで後ろに引き寄せた。
「何するのさ」
「いいから下がってろ!」
強い口調で言うと、総司がきょとんとした顔で左之助を見上げた。
構わずに不知火と向き合うと、彼は面白そうに左之助を見下ろした。
「なあ、俺、あんたと会ったことあるか?」
「ん? あるぜ。お前の他にもそいつ以外とは会ってるな」
不知火が目線で示したのは総司だ。
だが会っていると言われた三人は不審げに眉を顰めるだけで、心当たりはなさそうだ。
“嘘を吐くな”と言いたげな三人の反応にも不知火は気にした様子も見せず、左之助の頭を大きな手でぽんぽんと軽く叩く。
「憎たらしいくらい図体でかかったのになあ、随分縮んじまったよな、お前」
「小学生捕まえて何言ってやがる」
「それもそうだな。だが、これからにょきにょき伸びるかと思うとむかつく」
何やら物凄く理不尽な文句を言われている気がする。
伸びるな、縮め、という怨念でも込められているかのように、左之助の頭に置かれた手に力が入る。
「やめやがれっ! それよりお前、千鶴の居場所知らねえか?」
「知ってるぜ。だが教えらんねえな」
炎のように立ち昇ったのは、総司が醸し出す殺気だろう。
新八が「落ち着け、総司!」と焦る声が聞こえた。
「ふざけてんなよ、不知火! 俺らがどれだけ千鶴を探したか! 千鶴は無事なんだろうな? 網道さんはどうしてる!?」
「おいお前、記憶があるのかないのかどっちだ?」
「?!」
不思議そうな不知火の問いに、左之助は自身の口から出た言葉に戸惑う。
(俺は今何を言った?)
口を噤んで自分が言った言葉を思い返そうとすると、頭の中に怒涛のように流れ込んでくる様々な記憶の欠片があった。
今ではない時代。ここではない地で、大事な仲間達と共に命燃やして戦い抜いた壮烈な日々。
目の前の男、不知火とは彼の記憶に残る最後の戦場で共に駆け抜けた。
(何だ、この記憶・・・俺は・・・)
突然、バサッと何かが頭に被せられ、視界が暗くなった。
何だ、と驚く間もなく膝裏に衝撃を受けてバランスを崩し、地面に膝を付く。
左之助は知る由もないが、彼以外はしっかりと事の顛末を眼にしてしまった。
何を思ったか突如総司が自分の上着を左之助の頭に被せ、怯んだ彼にあろうことか膝カックンを決めた光景を。
「いきなり何やってんだお前はーっ!」
思わず新八がそう叫んだのも無理からぬことである。
そんな新八の叫びも一や平助の責める視線も、不知火の呆れた表情も気に留めず、総司は不知火と向き合った。
彼の足元では左之助が蹲った状態のまま動かない。
だが、上着に隠れて見えない彼の状態を不知火は正確に感じ取っていた。
(風間の言っていた通りか)
久しぶりに気分が高揚する。
左之助がこうなることを知っていたということは、総司も“そう”なったことがあるのだろう。
鬼だからこそ感じ取れる、彼の変異。
果たして左之助は自身の状態に気付いているだろうか。
「千鶴ちゃんの居所、吐いてもらうよ」
そう言って総司は背負っていたランドセルからリコーダーの袋を抜き、中から小太刀を取り出して鞘から抜いた。
磨き上げられた刀身が日の光を反射して鋭く煌く。
「ちょっと待て、何でリコーダーの袋の中にそんなもんが入ってんだ?!」
「総司、銃刀法違反だ!」
「はじめくん、そこじゃないしっ」
「外野は黙ってなよ」
「緊張感ねえな・・・」
とはいえ外野と呼ばれた三人はともかく、総司から発せられる殺気は本物だ。
小太刀の切っ先は明らかに不知火に狙いを定めている。
「千鶴ちゃんはどこ?」
「それを訊いてどうする?」
「連れ戻すに決まってるでしょ」
「連れ戻して? それでどうするってんだよ。今のお前らんとこにお姫様が戻るわけねえだろ」
はっきりと言われた言葉に総司の表情が険しくなる。
状況を理解できずとも、“千鶴は戻らない”と断言されたことに一や平助、新八も傷ついたように顔を歪めた。
「お前らはまだガキだ。そんなお前らが姫さんに“戻ってくれ”って言ったとして、あの姫さんが頷くと思うか? 特に今のお前の姿を見たら、姫さんはどう思うよ?」
指摘され、総司は小太刀を構える腕をだらりと下ろした。
底冷えするような殺気は消え、幼い顔に苦悩の色を浮かべる。
「千鶴ちゃんは悲しむのかな・・・」
「普通の人間として生きて欲しい、とさ。風間はそりゃねえだろと思ってるみてーだが、どうやらその通りらしいな。まさか記憶を持ってる奴がいるとはな」
話が見えず、新八達は総司と不知火を交互に見やりながら困り果てていた。
すると、足元から掠れを帯びた声が聞こえてくる。
「千鶴は・・・無事なんだな・・・?」
ゆらりと立ち上がった左之助は、被せられた総司の上着を払い除けて不知火を見上げた。
彼の様子に変わったところは見られない。“変化”は落ち着いたようだ。
「鬼の里で平穏に暮らしてるぜ」
「そうか・・・」
心から安堵する左之助から、幼さが消えていた。
彼は“以前”の彼だ、と確信する。
「記憶がある奴がいるなら調度いい。お前ら、羅刹を見ただろ?」
「見たよ。何であれが現代でも動き回ってるのさ」
お陰で千鶴ちゃんに会えたからいいけどさ、と続く総司の言葉に不知火は思わず頭を抱えた。
「お前の頭の中は姫さんだけかっ」
「勇兄さんもいるに決まってるでしょ」
「「総司は黙っとけ」」
左之助と新八の声が見事に揃った。
「網道の羅刹は俺達が片付けたが、変若水は元々外国から渡ってきたもんだ。日本から無くなっても、外国ではまだ研究されていた。でかい組織は一度俺達が潰したが、完全には無くせなかったんだよ。で、近年になってまた羅刹共が増えてきたってわけだ。おそらく日本にも研究施設があるはずだ。でなけりゃ最近やたら増えた説明がつかねえ。俺は一応気をつけろってことを全国の鬼の一族に伝え回ってるところだ」
本来ならば左之助達の一族の当主に話をするはずだったが、風間から聞いていた彼らの姿を一度見てみたくてここで待っていたのだという。
会えて嬉しいと思う以前に、小さくなった彼らの姿が思いの他面白くてつい笑い転げてしまったのはご愛嬌だ。
「ガキのお前らに伝えるのはやめとくつもりだったが、記憶があるなら話は別だ。お前らがあの頃と同じくらい強くなったら、姫さんに会わせてもいいと風間は思ってんだとよ。せいぜい精進しろ」
「どうして風間の許可がいるのさ。力を付けたら問答無用であんたらの手から千鶴ちゃんを奪い去って僕のお嫁さんにするよ」
「「・・・・・・・・・」」
前世と立場が逆じゃねえか?
不知火と左之助は同時にそう思ったが、口には出さなかった。
代わりに声を上げたのは新八だ。
「ちょっと待て! どうして千鶴ちゃんが総司の嫁になるんだ!」
「だって僕将来当主になるし、千鶴ちゃんに相応しいでしょ?」
「納得がゆかぬ。当主だからとて千鶴に相応しいわけではない」
「そうだよ! ちづるがすきになってくれなきゃ、なんのいみもないし!」
「平助の言う通りだ。惚れた女と所帯を持ちてえのは俺だって同じなんだからな」
見た目、六歳から十二歳の小学生達の会話である。
ぎゃあぎゃあと千鶴を巡って論争を繰り広げる子供達の様子に、不知火は眼に涙を浮かべながら笑い転げるのだった。
「何を阿呆な会話してやがる」
ガン、ゴン、ゲシッ、ゴン、ガン♪
呆れた声とともに、電光石火の速さで全員に等しく拳骨が繰り出された。
痛みに蹲る左之助達の後ろには、いつの間に現れたのか学生服姿の少年が立っていた。
「・・・歳兄、何で俺だけ蹴りが入るんだ・・・?」
恨めしげにそう言った新八に、歳三はじゃあ拳骨も、と拳を振り上げる。
「そ、そうじゃなくてえええっ!!」
新八の悲痛な悲鳴はゴインッという鈍い音と、直後に襲いくる痛みによって封じられた。
撃沈した新八を尻目に歳三は不知火に目を向けると、五人を守るように前に進み出た。
「こいつらが何か失礼なことしましたか?」
幼くも美しく整った顔に警戒を浮かべながらも、礼儀を弁えた丁寧な口調で問う。
「いや、もう話は終わった。じゃあまたな」
あっさりそう言うと、不知火は踵を返して山を下りて行く。
その背に、左之助は咄嗟に声を上げた。
「不知火!」
「ああ?」
顔だけをこちらに向けた不知火に、左之助は僅かに逡巡した後、胸の奥にわだかまっていた言葉を口にする。
「悪かった」
何が、とは言わない。
ただそれだけが、左之助が伝えたかった言葉だった。
一拍の間を置いて不知火はニヤリ、と笑った。
「おう、貸しといてやる」
ヒラヒラと片手を振りながら、今度こそ振り向かずに不知火は立ち去った。
「で、こんな所で何してやがった? 今の人は知り合いか?」
不知火が山道の向こうに消えた頃、歳三が左之助達に問うた。
「それがよう、さっきの奴、千鶴ちゃんの知り合いみたいなんだけどよ・・・」
状況を理解しきれていない為、新八の口調は自信なさげだ。
一と平助も困惑した様子で左之助と総司を見やる。不知火とまともに言葉を交わしたのはこの二人だ。
「千鶴の知り合い? おい、どういうことか説明しろ」
「僕達が強くなったら千鶴ちゃんをお嫁にくれるそうですよ」
「・・・・・・は?」
「今のところ、千鶴ちゃんをお嫁にもらえるのは僕と左之さんだけみたいですけど」
「・・・・・・何の話だ?」
総司の説明はまったく意味不明だ。
混乱する歳三と抗議の声を上げる新八達を他所に、総司と左之助の間に激しい火花が散った。
「相手に不足はねえな」
「新参者には負けないよ」
互いに睨み合う二人の間には、対抗心と共に懐かしさが通い合う。
百数十年の時を越え、固い絆で結ばれた仲間と再会できた喜びが強く込み上げてくる。
「お前の変化は、こういうことかよ」
「左之さん、自分が誰か解る?」
総司の問いに、左之助は確かな口調で一言一句を紡いだ。
「“新選組十番組組長、原田左之助”」
左之助が浮かべた笑顔は、晴れやかに澄み渡っていた。
■■■■■
千鶴がいない。
新選組が幕府軍と共に逃げ延びた大坂城で、逸る思いで彼女の姿を探した。
次々と大坂城に集まってくる仲間達。その中に、彼女の姿がない。
共にいたという井上は遺体となって見つかったという。
しかしその傍に彼女はいなかった。
傍にいれば良かった。
危険でも、連れ歩いていれば守れたかも知れないのに。
たった一人で戦場に取り残され、どれほど不安な思いをしているだろう。
怪我はしていないだろうか、無事に逃げ延びただろうか。
誰もが彼女の無事を祈った。助けに向かいたかった。
だが、それも叶わずに千鶴の消息も得られぬまま、江戸に逃げ帰ってしまった。
江戸では何度も千鶴の家に足を運んだ。
やがて新八と共に新選組を脱退し、靖兵隊を結成するも、やはり千鶴のことが気掛かりで何度も江戸の彼女の実家に行った。
そんな時だ。不知火と再会したのは。
奴は網道さんが江戸を戦火に巻き込むために、羅刹を量産させていることを知り、それを阻止する為に動いていた。
網道さんが活動しているのなら、いずれ千鶴の耳に情報が入り、彼女も父親に会おうとするかも知れない。
だから俺は不知火と共に戦った。
これ以上羅刹を増やさないよう、今居る羅刹が人を襲う前に殺した。
そうして戦い続けて 力尽きたのだ。
夜の帳の下りた部屋の中、左之助は窓に映った自分の姿を見つめていた。
白い髪、金色の瞳、二本の角 。
桜舞う月夜に舞い降りた千鶴、そして最後の瞬間まで共に戦った不知火がかつて見せた、鬼の真の姿。
自分自身もまた、彼らと同じ“鬼”なのだと実感する。
人のものではない異形の姿。
そんな自分の変化に、込み上げてくる感情は歓喜だ。
(今度こそ、お前を守る)
前世で探し続け、ついに見つけることが叶わなかった大切な少女。
彼女の笑顔がどれだけ新選組の癒しになっていたか。
彼女の言葉がどれほど彼らの力になっていたか。
失って初めて痛感した、彼女への深い想い。
二度と見失わないように。
彼女が傷つくことがないように。
今度こそ、守り抜いてみせる。
秋深まる夜の闇の中、一人の武士が固い誓いを胸に刻んだ 。
〈了〉
11.9.20up
二番目は原田さんでした。沖田さんから半年ほど経っています。背景桜ですが(汗)。
今回三番目の人と順番迷いましたが、結局原田さんが先になりました。
原田さんの最期はアニメを参考にしました。
この話ではそちらの方が何だかしっくりきたので・・・。
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