|
とある姉の呟き
私は姉である。
“姉”というからには当然、年下のきょうだいがいる。
やたらと顔は良いのに、まったく可愛げのない弟だ。
いや、弟達と言うべきだろうか。
無駄に広い土地と家で近い親戚達が共に暮らしている為、私には両親が同じ弟の他にも幼い頃から面倒を見てきた弟や妹がたくさんいるのだ。
毎日喧嘩も絶えないけれど、賑やかで仲の良い兄弟達である。
私の家は色々と複雑な家系だ。
その最たるものが、“鬼の血筋”である。
別に漫画やアニメの影響などではなく、先祖代々伝えられている血統だ。
実際、私達の身体に流れる血は普通の人間のものとは明らかに違うらしい。その為、鬼専用の病院なんかがある程だ。
私達の一族が“鬼”として一族を存続させているのには理由がある。
それは私達、東の鬼達の真の頭領である雪村家の鬼の帰りを待つためだ。
雪村家は幕末の頃に人間達によって滅ぼされたと伝えられている。
けれど、殺された雪村の鬼達の中に頭領夫妻の双子の子供達がいなかったことから、どこかで生き延びているのではないかと希望を持った先祖が、今度こそ雪村家を守るために鬼として子孫を残したのだという。
それが私達だ。
まあ、幼い頃からそう聞かされてはいたけど、正直話半分に聞いていたのは皆同じだろう。
確かに周りの人達とはちょっと変わったところはあるが、自分が鬼だなんて信じられるわけがない。
子供の頃は無邪気に信じていたが、成長するにつれ「そんな非現実的なことあるわけないでしょ」と呆れるようになっていた。
しかしそんなある日、弟達が突然『“雪村の双子鬼”をつれて帰る』と言ってきた。
何の冗談よ、というのが私の最初の言葉である。
いったいどこの馬鹿がそんなことほざいてるのか、と怒りすら感じた。
だが、一族にとって何よりも特別な“雪村”を騙るような者がいるだろうか、と冷静に考えてみる。
そもそもそんな嘘にあの弟達が騙されるわけはないし、“雪村”の重要性を知りながら冗談を言う子達でもない。
ならば本当に“雪村の双子鬼”を見つけたということか。
いや、でも百数十年前に行方不明になった双子をいったいどうやって見つけるのよ。
私達が戸惑っている間にも、当主を始めとした年寄り達は一族総出で雪村の双子鬼を迎える準備を始め、私達もそれを手伝わされた。
寝不足は美容の大敵だって言うのに、散々こき使われた。
これで“雪村の双子鬼”が嘘だったら、弟達よ、覚悟しな・・・。
結果として、弟達の言葉は本当だった。
弟達と共に現れた数人の男女を見た時、私はこれまで感じたことのない圧迫感のようなものを感じた。
特に淡い金髪の男から感じる覇気は尋常ではなかった。
それは、東雲家の当主ですら及ばない“鬼の力”というものなのだろう。
そんな中で、よく似た面立ちの二人の男女の姿を見た瞬間、内側から何か熱いものが込み上げてきた。
私の中に流れる鬼の血が、二人の存在に狂喜しているのが解る。
ああ、この二人が私達一族が永い間捜し求めていた“雪村の双子鬼”なんだ。そう確信した。
胸が熱くなったのは私だけではない。
兄弟達も、親達も、皆二人の兄妹に釘付けで、当主達年寄り連中はぼろぼろと涙を流している。
一族の者すべてを魅了する存在。
私達はついに“雪村の双子鬼”を見つけられたのだ。
一人は南雲家を継いだ為、血筋はともかく“雪村”の者ではなくなってしまったけれど。
でも、私達は雪村の姫を迎えることができた。
一族の悲願が、この日果たされたのである。
そうして始まった歓迎の宴では、何を思ったか、弟達が雪村の姫を嫁にしたいと言い出した。
将来一族を背負っていくであろう面々の、少なくとも五人が姫を娶る気満々なのだと言う。
いったい、弟達と姫との間に何があったのだろうか。
何故弟達は雪村の双子鬼や風間の頭領と接触を図れたのだろう。
私達には解らない絆のようなものが、姫と弟達の間にはあるようだ。
雪村の姫は幕末の時代を生きた女性だが、明治の初め頃から人の世の時間と隔絶された地にいたらしい為、私と同じくらいの年齢だ。
容姿は綺麗と可愛いの中間。
童顔ではあるけど、穏やかで優しげな美人だ。
さすが幕末から明治の頃の女性ということで、物腰は柔らかく気品がある。“姫”として育てられたわけではなくとも、それなりの教育を受けたのだと窺えた。
何しろ、礼儀作法に五月蝿い年寄り達が皆まったく不満など感じさせず、終始目を細めて彼女を見つめていたのだから。
そして、彼女は性格も善良だ。
風間の頭領や双子の兄君はかなり癖が強そうだったが、姫君は素直で控えめな可愛らしい女性である。
当初は身分を考慮して丁寧に接するのを心掛けていたけれど、姫君が困っているので止めろと弟達に言われてしまった。
姫君自身も“姫として扱ってくれなくて良い”と言ったので、私はその日から彼女を“千鶴ちゃん”と呼ぶようになった。
■■■■■
「ばれんたいん・・・ですか?」
「そう、日頃お世話になってる人や好きな人にプレゼントを贈る日なの」
ある日、大量のチョコレートやら生クリームやらを買い込んできた私は、廊下でばったり会った千鶴ちゃんと立ち話をしていた。
私の大荷物に目を丸くしていた彼女に、きたる二月十四日のイベントについて説明すると、千鶴ちゃんは目を輝かせた。
「良かったら弟達に何か作ってみない?」
「よろしいんですか?」
「もちろん! 弟達も千鶴ちゃんからチョコレート贈られると嬉しいと思うよ」
「私、皆さんにちょこれいとを贈りたいです」
「よーし、一緒に作りましょ!」
そうして、千鶴ちゃんを含めて何人かの女性達でバレンタインチョコを作ることが決まった。
弟達はもちろんのこと、一族の男共は千鶴ちゃんからチョコをもらえれば狂喜乱舞することだろう。
料理もお菓子も、昔ながらの和食しか作ったことがなかったという千鶴ちゃんだけど、最近は家の台所に立つようになって少しずつ洋食も作れるようになってきた。
最初は戸惑いながらチョコレートを刻んだり、溶かしたりしていたが、手際はやはり良い。
「ええ、と、びたあちょこが甘くなくて、みるくちょこが甘めでしたっけ?」
甘いものが苦手な者と、そうでない者のために作り分けようとするところがいじらしくて、私はずっと訊きたかった質問を彼女にしてみた。
「千鶴ちゃんは、誰が本命なの?」
「本命・・・?」
「誰が一番好きなのかってことよ」
別の子が声を上げた。
どうやら皆、千鶴ちゃんと弟達の関係には興味津々のようだ。
「千鶴ちゃんと年が近いのは歳三さんね。文句なくイケメンだし、責任感も強いし、オススメだなあ」
「左之助さんも良いわよね。包容力もあるし、千鶴ちゃんをすごく大事にしてるもの」
「総司さんだって千鶴ちゃんを特別扱いしてるわよね。勇さん以外に無関心だったのに、千鶴ちゃんにはべったりだもん」
「あら、それを言ったら一さんなんて、誰に対しても無表情なのに千鶴ちゃんに向ける眼は凄く優しいのよ」
「平助君は凄く解りやすいよね! もう千鶴ちゃん大好きって感じ!」
「あ、いえ、その・・・」
きゃあきゃあと騒ぎ立てる私達のテンションに、千鶴ちゃんは戸惑い気味だ。
聞くところによれば、千鶴ちゃんの周囲には同じ年頃の女の子は少なかったらしい。
京の鬼の姫である千姫様が一番の親友だというが、親しい女性はその方くらいなのだろう。
東雲家に来てからは、弟達が常に張り付いているので、こんな風に何人もの女子と会話したことなんてないんだろうな。
私達の勢いに当惑しながらも、律儀な性格の彼女は一所懸命に考えて答えを返してくれた。
「まだ、誰が一番好きなのかは自分の中でも解らないんです。ただ、今しばらくは皆さんと一緒にいたいと思います」
やっぱり、弟達と千鶴ちゃんの間には私達の知らない何かがあるんだろうなって思う。
きっと私達が無闇に触れるのは許されない何かが。
幼い頃からやたらと顔は良いけれど、可愛いげのなかった弟達。
家族を大切にし、確固たる自分を持って、子供らしからぬ雰囲気を持っていた弟達。
そんな弟達が揃って大事にし、求めたのが雪村千鶴という女性だ。
女なんてよりどりみどりの弟達が、ひたすら彼女だけを見つめている。
誰を選ぶかは千鶴ちゃん次第で、弟達もそれを解っている。
私はそれを見守ることしかできない。
正直歯痒い。早く決めてあげて、とも思う。
でも一方で、いつまでも決めないで、とも思ってしまうのだ。
弟達と共にいる時の彼女が、すごく幸せそうだから。
そして弟達も、とても楽しそうだから。
牽制し合ったり、威嚇し合ったり、かと思えば結託し合ったり。
きっと、千鶴ちゃんにとってこの時間はとても大切なのだろう。
だから考える。
私は姉として、弟達に何ができるのだろうって。
千鶴ちゃんを得られた弟は素直に祝福する。
選ばれなかった弟達は精一杯励ますわ。
まあとりあえずは、千鶴ちゃんのチョコレートを家にいない弟達にきちんと二月十四日に届けられるようにすることから始めようかな。
〈了〉
13.2.10up
歳三さんの姉か総司さんの姉か。たぶん歳三さんの姉かな?
弟達と千鶴ちゃんの恋の行方をワクテカしながら見守っております。
|