「俺はお前に助けられてばかりだな・・・」
ふいに聞こえた呟きに、カガリは不思議そうに隣に座るアスランを見た。
つい数時間前まで繰り広げられていた戦争。
プラント議長パトリック・ザラの死によって終結した戦争の後、キラ、アスラン、カガリはストライクルージュでアークエンジェルに帰艦した。
激しい戦闘の疲労を癒していた二人の会話が途切れた時、アスランは暗い表情で小さく呟きを漏らしたのだ。
カガリの怪訝そうな視線を受け止め、アスランはひどく頼りなさげな表情で深く息をついた。
「カガリを守りたいといつも思っているのに、俺は結局いつもカガリに助けられてるだけだなと言ったんだ」
言いながらアスランは片手を自分の頬に添える。
先ほど、アスランの自爆行為に怒ったカガリに殴られた箇所だ。
思いっきり殴られたそこは赤く腫れ、痛みを感じる度に己の不甲斐無さを実感する。
自分の機体で戦闘に出ると告げたカガリに、「俺が守る」と言っておきながら結果は「助けられた」。
カガリはアスランに言った「死なせないから」という誓いを守ったというのに、自分は・・・。
「お前、またハツカネズミ化してるのか? ハゲるぞ」
「・・・・・・放っておいてくれっ」
真剣に思い悩むアスランに、カガリが告げたのはあまりといえばあまりな台詞。
しかも彼女の手はご丁寧にアスランの頭の上。おそらく生え際辺りを、人差し指でぐるぐると円を描いている。
馬鹿にしてるのか?
とアスランが疑ってしまうのも無理のないことだろう。
「俺は落ち込んでいるんだ。お前を守ると約束したのに・・・」
「何言ってるんだよ。お前だって私達をいつも守ってくれてるじゃないか」
「私達」という言葉にアスランの気分は益々落ち込んだ。
アスランはキラと共にフリーダムやジャスティスで厳しい戦闘を経て、幾度となく人の命を救ってきた。
ラクスの居るエターナル、キラの友人達が居るアークエンジェル、そしてカガリの居るクサナギ。
身体を張って自分達を守ってくれるキラやアスランには、誰もが感謝する。
カガリもまた、帰艦した二人にいつも笑顔で駆け寄って「ありがとうな!」と言ってくれる。
それはそれで嬉しいことなのだが、アスランが言いたいのは少し違う。
「・・・俺は、戦うことでしかお前を守れないのかな・・・」
本当に望むのは、カガリという一人の少女を守り、支えること。
「皆」を守ることも確かに大切だ。
自分にはその力があるのだから、できる限りのことはしたい。
だが、戦闘でしかそれができないのだろうか?
カガリが自分にしてくれたように、彼女が辛い時には傍にいたいし、力になってやりたいのに。
「皆」のためではなく、「カガリ」のために何かがしたいのに。
しかし、カガリはそんなアスランの苦悩に対して、あっさりと否定を口にした。
「私はお前やキラにたくさん助けてもらったぞ?」
「え?」
「お前達がいたから私は色々なことを学んだんだ。お父様の言葉も理解できるようになった」
互いとの出会いによって何かが変わったのは、決してどちらかだけではない。
キラやアスランと出会い、様々な観点から言葉を交わしたことでカガリ自身も大きく成長した。
何も知らず、ただ突っ走っていた子供だった少女が、今こうしてアスランという一人の人間を救うまでに。
「お前達と出会えて良かった。ナチュラルとかコーディネーターとか関係無く、お前と友人になれたことは私にはとても大切なことだ」
「カガリ・・・」
カガリの言葉はいつもアスランを癒し、支えてくれる。
胸の奥から込み上げる熱い思いに、言葉が詰まった。
思わず溢れ出した彼女を強く抱き締めたいという衝動に、アスランは慌ててカガリから目を反らした。
その行動に、カガリが不安げになる。
「もしかして嫌だったか? 友人だと思われてるの迷惑だったかな?」
「なっ、そんなことはないぞ! 俺は・・・っ」
哀しげに俯くカガリの言葉に冷静な彼が珍しくひどく焦った声を上げ、迷うような間を置いて意を決したかのように、真摯な瞳をカガリに向けた。
「俺は、お前のことが好きなんだ・・・」
アスランの頬がほんのりと赤く染まる。
彼にとっては生まれて初めての愛の告白だ。
プラントでは涼しい顔で何でも完璧にこなし、同僚のイザークなどにはひどく反感を買ったが、それすらどこ吹く風とばかりに平然と無視していたアスラン。
しかし、今の彼にそんな完璧さはどこにもない。
赤く染まった余裕のない表情でじっとカガリの言葉を待つ彼の胸は鼓動が激しく、ただ立っているだけでもかなりの精神力を消耗していた。
そんなアスラン・ザラ一世一代の告白に、それを告げられたカガリはパアッと顔を輝かせ、
「そうか! 良かった。私も好きだぞっ」
「・・・・・・・・・えーと・・・」
何か違う。
そう思ったが口には出せなかった。
何も言えないでいるアスランの様子には気付かず、カガリは嬉しそうににこにこと笑っている。
いや、彼女は本当に嬉しいのだ。それは解る。
誰でも人に好かれれば嬉しいだろう。
ただ。
(理解、してくれてるのか??)
それが疑問だ。
アスランは間違えようもなく恋愛感情で「好き」だと言ったのだが、カガリの様子を見る限り彼女は「友達が増えて嬉しいな〜♪」とか思っているとしか思えない。
もう一度ちゃんと気持ちを伝えようと口を開きかけたアスランだったが、さっきので激しく消耗していたため一向に気の効いた言葉が見つからずに混乱に陥った。
ぐるぐるとハツカネズミ化するアスランの隣で、おもむろに時計を見たカガリはすっくと立ち上がり、晴れやかな笑顔でアスランを見る。
「じゃあ、私はクサナギに戻るな。お前も休めよ」
そう言って身を翻し、足取りも軽く上機嫌にその場を後にした。
残されたのはアスランただ一人。
「・・・・・・もしかして、俺はふられたんだろうか・・・」
誰もいない広い室内に、アスランの呟きだけが虚しく流れた。
END
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