坊ちゃん:月華(ユエファ)・マクドール
2主:ユアン(元)
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その日、同盟軍本拠地ノースウィンドウ城は興奮に包まれていた。
常に騒がしくも活気のある城だが、この日は輪を掛けた喧騒に包まれ誰もが落ち着きを無くしている。
その原因は、トラン共和国に赴いていた軍主ユアンが偶々訪れたバナーの村で偶然出会って連れ帰った一人の人物である。
もうお解りだろう。
人々が目を輝かせながら取り囲むその人物こそ、歩くカリスマ、動く伝説、喋る理想。
トランの英雄、月華(ユエファ)・マクドール。
建国の英雄と称えられ、トランの民からは今や崇拝すらされている至高の存在は、まだ幼く繊細な印象の少年だった。
穏やかで優雅な物腰は育ちの良さを伺わせ、優しげな美しい顔立ちは男女を問わずに魅了する。その証拠に月華を一目見た瞬間、同盟軍の者達はことごとく固まり、茫然とした表情で月華を見つめている。
3年前に月華と共に戦った元解放軍のメンバー達は誰もが突然の再会に驚き、そして喜びに満面の笑顔を浮かべて彼の元に駆け寄る。
「月華! 久しぶりだな!」
青づくめの青年フリックは「U」になって身につけた大人の平静さもどこへやら、喜び勇んで月華を抱きしめる。
「また会えて嬉しいぜ、月華」
フリックに抱きしめられた月華の頭を大きな手で撫で、豪快に笑うのはビクトール。
「月華ちゃ〜ん! どけ青!」
フリックの背中に蹴りを入れ、月華を自分の腕の中に引き寄せるのはシーナ。
「月華様! お久しぶりです…」
「月華さん! また会えるなんて…」
涙を浮かべながら天流に熱い眼差しを向けるのは、月華を慕って早何年、くの一カスミと元竜騎士フッチ。
その後もクライブ、テンプルトン、ヒックス、テンガール、ビッキー、スタリオン、タイ・ホーらがぞろぞろと集まってくる。
加えて・・・
「貴方がトランの英雄の月華・マクドール殿ですか?」
「お会いできて光栄です!」
やや興奮した面持ちでマチルダ騎士コンビが現れる。
続いてトランの英雄を一目見ようと集まる同盟軍の面々。
ホールの中は大勢の人で溢れ、身動きの取れない事態となった。
誰もが感動に満ちた笑顔で月華を抱き締めたり頬擦りしたりして再会を喜ぶ。
揉みくちゃにされた月華は、驚き戸惑いながらもどこか懐かしげにかつての仲間達を見やる。
その時、突如冷たく響き渡った一声。
「切り裂き」
ズバババババッッ!!!!!
「「「ぬあああああっっっ!!!」」」
突然、フリック、ビクトール、シーナを中心に(しかも上手く月華だけを避けて)巻き起こった鎌鼬に、ホールに集まっていた総ての人間が切り裂かれた。
恐怖に引き攣りながら全員が一斉に後ずさり、綺麗に開けた道を当然のような顔で進んで来たのは一人の美少年魔道士。
白い頬に僅かに付いた血痕は、おそらく誰かの返り血だろう。
それを不快げに足元にあった黄色いスカーフで拭き取り、月華の目の前まで進み出た彼は端正な顔に打って変わった優しさを浮かべた。ちなみにいきなりスカーフを引っ張られ、首を締め上げられた軍主の「ぐえっ」という悲鳴は気にも留めなかった。
「久しぶり。変わりはないみたいだね」
「うぅ〜〜・・・」
「ぬおぉぉ〜〜っ」
「・・・・・・」
周囲から聞こえる呻き声をBGMに見惚れるほど優しい微笑みを浮かべる少年を、月華は青褪めた表情で見つめ返した。
フリック達が軍主の紋章によって癒され、立ち上がるのを待って、月華は仲間達に言葉を掛ける。
「皆、久しぶり。元気そうで良かった」
澄んだ声と共に穏やかな微笑みが端麗な顔に浮かべられる。
解放軍時代に老若男女問わず虜にした天魁星スマイルである。
絶大な威力を誇る笑顔を直視してしまった同盟軍メンバー達は、切り裂かれた痛みも忘れて月華の微笑みに魅せられた。
その瞬間、同盟軍はトランの英雄の前に陥落した・・・。
この後、ノースウィンドウ城では盛大な宴会が始まった。
ビクトールが月華との再会を祝して飲み明かそうという案が、元解放軍のみならず同盟軍全体を巻き込んだためだ。
戦争中にこんなことしていていいのかと軍師辺りは顔を顰めたが、如何せん賛成派が反対派に数で圧倒的に勝るため、鬼軍師と名高い彼も止めることができなかった。
何より一番乗り気なのが軍主であるユアンその人だったりするので尚更だ。
主役はもちろん月華である。
夕飯までには家に帰りたいと言ったのだが、ユアンを始め大勢の人達に引き留められ、断りきれずに今に至る。
熱い視線を浴びながら、後から後から後から(以下無限)話し掛けられても丁寧に応対している辺り、月華の我慢強さや人の好さは尋常ではない。
それがまた彼のファンを増やす要因である。
■■■■■
その様子を、人知れずに眺める存在があった。
誰にも気付かれない暗き虚ろの中、月華の姿だけが優しい光に包まれている。
その「者」にとっては、月華だけが唯一灯された明かり。
『・・・まずいな・・・。このままでは・・・』
低い呟きは、誰にも届くことなく闇に消える。
その「者」は大勢に囲まれた月華を見つめ、唇を噛み締めた。
■■■■■
大騒ぎの翌朝。
「「月華さあーんっ! おはようございまーすっ!vv」」
早朝からやたらと高いテンションで軍主姉弟が月華の部屋にやって来た。
宛がわれた部屋には、すでに着替えも済んだ月華が寝台に腰掛けている。
彼は元気良く部屋に入って来たユアンとナナミに顔を向けると微笑を浮かべた。
「ああ。おはよう」
月華が笑ってくれたことに感激しながら、姉弟は両側から月華の手を取って促す。
「朝食食べに行きましょうっ!」
「こっちですーvv」
月華は抵抗することもなく、引っ張られるまま二人に付いて行く。
すると、部屋の外に出た途端。
「よお、月華。朝飯か?」
「俺らも一緒に行っても良いか?」
フリックとビクトールが軍主であるユアンにではなく、月華に伺いを立てる。
「朝から月華に会えるなんてラッキーv」とばかりに頬を染める、明らかに待ち伏せしていたと思われるいい年をした男二人。
ナナミは笑顔で「どうぞーv」と答え、ユアンは不機嫌そうに腐れ縁を睨み付けた。
さらに先に進むと、階段の傍でこれまた待ち伏せていたであろうシーナが月華に抱き付く。
「月華ーv 飯食いに行こうぜvv」
その後ろから階段を上ってくるのはマチルダ騎士。
「おはようございますっ!」
「マクドール殿、是非我々もご一緒させて下さい」
マイクロトフは赤い顔で敬礼し、カミューは優雅に月華の手を取って口付けする。
次々に増える面子に、お互いに牽制し合って火花を散らすユアン達だが、当の月華は黙ったまま彼らを探るように見つめている。
その瞳が僅かに剣呑さを帯びたことに、誰も気付かなかった。
階段の下には石板と、その管理人の姿がある。
階上の騒ぎに気付いて顔を向けたルックは、中心に月華の姿を見止めると石板を離れて彼らに近付いていった。
端正な顔は不機嫌そのもので、ユアン達を切り裂こうと淡い光を放つ右手が上げられ・・・
「・・・・・・」
気配に振り向いた月華と目が合い、動きが止まった。
僅かな沈黙の後、怪訝そうに問う。
「君、誰だい?」
「「「「「え?」」」」」
その声に、ユアン達は驚いてルックに視線を向ける。
ルックは困惑から険しいものへと表情を変化させ、月華を睨む。
フリックやビクトール、シーナは驚愕してルックを凝視する。。
3年前から月華を見る時だけは表情が和らぎ、普段は氷のような翡翠の瞳が優しく温かなものとなるのを知っている彼らは、今のルックが月華を睨むという状況はあり得ないことだった。
「ルック? 何云ってるの?」
顔を顰めてルックに問い掛けるユアンを無視し、ルックの瞳は月華を見据える。
常人であれば恐怖に竦むであろうきつい視線を浴びながら、月華の唇がゆっくりと笑みを象った。
「あんただよ、あんた。月華の中の誰か。月華はどうしたのさ?」
意外な台詞に全員が驚き、一斉に月華に注目が集まる。
フリックやユアンが困惑し、躊躇うような表情で月華の名を呼ぶ。
月華の口元には、彼らにも解るほどに不敵なまでの笑みが浮かんでいた。
そして唇はゆっくりと言葉を紡いだ。
「よく解ったな。おかっぱ風使い」
ピキッ☆
瞬間的に全員が凍り付いた。
誰もが信じられないという顔で、真っ青になって固まる。
何が信じられないって、優しく穏やかな月華が言い放った台詞と、それが風の魔術師の少年を指しているという事実だ。
云われた本人はわなわなと震えながら、「月華」が言った台詞ではないと解っていてもショックを隠せない様子だ。
しかし、今の発言で目の前の「月華」が何なのかに思い当たる。
「・・・君、まさか・・・」
「き、貴様、何者だ!? 月華は、月華はどうした!!?」
「うるさいよ、青いの」
ごすっ!
「落ち着けよ、青いの」
どすっ!
何とも勇気のあることに、「月華」の正体を見極めようとしたルックの言葉を遮ったフリックだが、罰だとばかりにルックのロッドが後頭部に月華の拳が鳩尾にそれぞれヒットした。
呻き声を漏らしながら頭と腹を抱えてしゃがみ込むフリックを尻目に、ルックは確信したように鼻で笑う。
「君の正体、解ったよ」
「へえ」
「ど、どういうこと? 月華さんの正体って、月華さんどうしちゃったんだよ!?」
ルックと月華の要領を得ない会話に業を煮やしたユアンが声を上げた。
だが、それに答える前に、
「どうしたんですか? こんな所で皆集まって」
「あ、フッチくんとサスケくん」
不思議そうにメンバーを見渡し、月華の存在にフッチは嬉しそうに頬を染める。
朝の挨拶をしようと口を開いたその時、月華は険を含んだ笑みを浮かべた。
「ああ、あん時の竜のガキか。おかっぱ共々あの時の恨みは忘れてないぜ」
「ユ・・・ユエファ・・さんっ!?(ガ―ンッ)」
憧れの月華の言葉にショックを受けるフッチ。
いち早く怒りの声を上げたのはルックだ。
「ちょっと! その顔と声で下品な言葉話さないでくれる!?」
「―――・・・。お前、何か論点がずれてないか?」
「だいたい君、何年も前のちょっとしたことをいつまでも根に持ってるんじゃないよ!」
「ちょっとしたこと!? 人をテレポートで高い所から突き落とすのがちょっとしたことか!?」
「ちょっとしたことだよ!」
「し・・・失礼ですがルック殿。この方がマクドール殿ではないとはどういうことでしょう? それではいったいマクドール殿はどこに? そして、その方はいったい・・・?」
激しさを増そうとするルックと「月華」の口論に、恐る恐る挙手をしてカミューが口を挟んだ。
言い争いを止め、「月華」はユアン達を見渡すと偉そうに胸を張った。
「月華ならこの内(なか)で眠っている。俺はユエの一部さ」
「何格好つけてんのさ、死人のくせに。おとなしく紋章の中に帰ったらどうだい?」
「・・・っ(怒) このガキ! 目上に対する礼儀ってもんを知らねえのか!?」
「知ったこっちゃあないね!! それより月華の姿で下品な言葉使うなって何度云えば解るのさ!!」
「ちょ・・・ちょっと待ってくれよ。結局そいつは何々だ?」
困ったように声を上げたのはフリックだ。
ルックは呆れ果てた表情で、馬鹿にするような視線をフリックに向ける。
「何? まだ解らないわけ? あんた達も会ったことあるだろ」
「え?」
首を傾げる彼らに答えを告げたのは「月華」だ。
彼は悪戯っぽく笑って言った。
「俺はテッドだよ。ユエの親友のな」
「「「「テッド!?」」」」
「「「「「?????」」」」」
驚嘆するのは元解放軍のフリック、ビクトール、シーナ、フッチ。
わけが解らないのは同盟軍のユアン、ナナミ、カミュー、マイクロトフ、サスケ。
周りの反応など完全に無視を決め込み、ルックは月華の姿をしたテッドに詰め寄った。
「で? 何の権利があってあんたは月華の身体を乗っ取ってるわけ?」
「人聞きの悪いこと言うなっ! そんなのユエを守るために決まってるだろう。大事な親友をこんな危険な場所に一人放り出すわけにはいかないからな!」
「なっ、俺達は月華の仲間だぞ! 危ない目になんか遭わせるわけないだろう!」
聞き咎めて反論をしたのはフリック。
しかしテッドはフリックを厳しい視線で見据える。
「お前ら、昨夜寄ってたかってユエを酔い潰そうとしてたじゃないか。その後、何しようと考えてたんだ?」
ギクッ
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
全員に心当たりが有り過ぎたようで、顔色を変えて後ずさる。
「小猿と竜のガキと忍者のガキはさっさと潰れたからどーでもいいが」
「「「悪かったなっ!!」」」
「その後・・・特に青いのと熊とタラシはユエに次から次へと酒を飲ますわ、泣きながら抱き付きセクハラするわ、赤騎士は歯の浮く台詞でユエを口説くわ、青騎士は真っ赤な顔で穴が開くほどユエを凝視するわ・・・」
ユアン、フッチ、サスケの怒鳴り声をさらりと受け流し、テッドは昨夜を思い浮かべながら一人一人を睨み付け、最後にルックに辿り付くと更に激昂した。
「中でも性質が悪いのはおかっぱ! お前だっ!!」
「・・・何さ」(さっきからおかっぱおかっぱとこいつ・・・(怒))
「お前、ユエを寝室に連れて行って襲っただろーが!!」
「「「「「「「えええっっ!!!???」」」」」」」
全員の叫びがホールに響き渡った。
通行人達が何事かと彼らに注目するが、ユアン達は周囲など目に入ってなかった。
「何馬鹿なこと云ってるのさ。昨夜はそいつらがあまりに月華に絡むから切り裂き食らわして月華を救出して」
ぞく・・・
その時の出来事を思い出し、フリックやビクトール、シーナの背筋を冷たいものが伝う。
「寝室まで運んで寝かし付けてあげた礼としてキスしただけだよ」
「それが許せねえって云ってんだよっっ!!!」
寝込みを襲うなっ! とテッドが噛み付く。
続いてシーナやユアンがルックの発言に怒りを露にする。
「てめぇ、ルック! 月華にそんなことしやがったのか!?」
「ひきょーですっ!!」
見ればフリック達も責めるように睨んでいるが、ルックはそんなものどこ吹く風とばかりに一蹴する。
「負け犬の遠吠えは見苦しいよ」
「むきーっ! ムカつくですーっ! わかりました、月華さ・・・いえ、テッドさん!」
叫んでユアンはビシイッとメンバーを指差し、
「軍主命令としてこいつら全員、月華さんの半径1M以内接近禁止とします! それなら安心ですよね!!」
「「「おいっ!」」」
一同が一斉に抗議の声を上げる中、テッドは冷静にユアンを見やる。
「・・・あのな、お前も充分危険なんだよ猿。お前もユエに近寄るな」
「なっ、なにゆえですっ!!?」
「初めて会った時にお前がユエに言った台詞、忘れたとは言わせないぞ」
「えっ・・・? そ、それは・・・」
「? 何だ? 何を言ったんだ?」
「つまりな」
シーナの問いに、テッドは怒りのためか引き攣った表情で説明を始めた。
それは、バナーの村で出会いを果たし、その後グレッグミンスターに赴いた時のことである。
トランの英雄に憧れ、月華・マクドールに一目惚れをしたユアンが感動に浸りながら月華に言った。
『月華さん、一緒に戦って下さい!!』
『うん、いいよ』
答えは非常にあっさりとしたものだった。
ただでさえうっとうしいほどキラキラうるうるしていたユアンが、その瞬間さらにピンク色の光を放った。
『本当ですか!? 本当の本当にいいんですかっ!?』
『うん』
『わあ、ありがとうございますううvvv じゃあぜひ城にも来て下さいっ!!』
『わかった』
『そこで結婚式挙げましょうv 僕、絶対に幸せにしますから、お嫁に来て下さいっvv』
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱりこの話、なかったことにして』
『あああ!! 待って下さいいい! 冗談ですううぅ!!(涙)』
以上。回想終わり。
「「「「何考えてんだバカザル!!!」」」」
元解放軍の一喝が軍主に飛んだ。
「てわけで、こんな野獣の群れの中に子羊を放り込むようなこと、するわけにはいかねえんだよ」
そう言って、テッドはにやりと笑う。
姿形は月華なため、綺麗な顔立ちに浮かぶ氷の微笑はかなりの迫力だ。それはもうルックに匹敵するほどに。
続いて形の良い唇から発せられた澄んだ声が象った決定的な一言。
「全員滅殺」
言葉と共にユアン達に向けて差し出された「月華」の右手が闇を纏う。
「うわっ、やべえ! こいつソウルイーターを使えるんだったっ」
フリックの叫びと同時に闇は一気に広がり、全てのものを飲み込もうとでもするかのようにホールに満ちてゆく。
命の危機が迫る事態にシーナが焦りながらルックとユアンに叫ぶ。
「おいっ、真持ちは真持ち同士、何とかしろよっ!!」
「無茶言わないで下さいいぃぃっ!!」
「・・・もうすぐだ」
「え?」
喧騒からは外れた場所でぼそりと呟いたルックの言葉。それが聞こえたのは近くにいたフッチだけだった。
真意を訊こうと口を開きかけ、ふいに変わった月華の様子に黙り込んだ。
広がっていた闇が徐々に薄れ、赤黒く輝いていた月華の右手の光も輝きを失ってゆく。
ユアン達もそれに気付き、茫然と動きを止めて月華を眺める。
「あれ?」
「「「「「え?」」」」」
漏らされた月華の不思議そうな声に、一同も素っ頓狂な声を上げる。
月華は右手を下ろし、ぼーっとした表情で周りを見渡し、小さく首を傾げる。
その可愛らしい仕草にユアン達が見惚れていると、ルックが月華に歩み寄り、先程とは打って変わった優しげな声音で話し掛けた。
「おはよう、月華」
「え? あ、おはよう、ルック」
「え・・・? ユエ・・・ファ?」
ルックが呼んだ名前を、茫然と呟くメンバー。
ついさっきまで「テッド」ではなかったかと、混乱する彼らに視線を向けた月華はふわりと微笑んだ。
「おはよう、皆」
「テッド」の強気な笑みではなく、月華だからこそ浮かべられる花が綻ぶような綺麗なそれに、誰もが顔を赤く染めて心ときめかせる。
ユアン達だけではなく、たまたまその場に居合わせた全員が、である。
「朝食、食べるだろ?」
「うん」
いち早く現実に戻ってきたルックは照れながらも月華の手を取って二人仲良く食堂に向かう。
「あああっ!! ずるいルック!!」
遅れて我に返ったユアン達は、慌てて二人の後を追った。
「え? またテッドが出てたのか」
レストランで朝食を共にしながらユアンやフリックらから事の次第を聞いた月華は、事も無げにそう言った。
「またってことは今までも出て来たことがあるのか?」
「何度かあるよ。夢の中では何故か鈍いとか無防備だとか言って怒られるし・・・」
フリックの問いに頷き、そういえば今日も怒られたなと呟く。
それにメンバーは後ろめたそうに視線を交わすが、月華は気付かずはにかんだ笑みを浮かべた。
「僕が寝てる間、たまに出て来ることがあるんだ。すごくいい奴だから、仲良くしてあげて」
「「「おうっ、もちろんだっっ!!」」」
「「「「はいっ、もちろんですっ!!」」」」
すでにテッドに殺され掛けたことは忘れ去っているようだ。
一人冷静なルックは彼らを冷たく見下すように一瞥した。
食事を終えた頃、シーナが不思議そうにルックに問いかけた。
「なあ、ところで、なんでルックは一目で月華の中のテッドに気付いたんだ?」
「あ、そうだよね。それに月華さんが元に戻るのも解ってたみたいだし」
フッチも続き、全員の視線がルックに集まる。それを表情一つ変えずに受け止め。
「月華が朝目覚める時間くらい熟知している」
さらっとそう言った。
――――・・・・・・・・・・・・。
「なんじゃそりゃああです――っっ!!!」
軍主の叫びは、城を揺るがして青空に響き渡った。
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闇の空間。解りやすく云えばソウルイーターの中では、悔しさに地団太を踏むテッドの姿があった。
「くっそーっ!! やっぱりあのおかっぱ風使いは危険だっ!!」
END
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