最近はハイランドとの抗争も無く、比較的平和だということで同盟軍軍主ユアンを始めナナミ、フリック、ビクトール、シーナ、ルック、そしてトランの英雄・天流・マクドールの7人は本拠地より多少離れた地まで息抜きと称してピクニックに来ていた。
ルックなどは付き合わされることを渋っていたが、天流が同行すると聞けば態度を一変させてついて来た。
見晴らしの良い小高い丘に上がったユアン達は、一本の巨木の元でハイ・ヨーの用意してくれた弁当を広げる。
ほのぼのとした雰囲気の中食事は進み、会話も弾んでいた頃、
「なんて綺麗な人なんだろうって思ったんですよ」
「え?」
どういった話の流れだったのか、突然夢見る乙女ポーズでそんなことを言い出すユアンに、天流はきょとんとした様子で彼に目を向けた。
そんな天流ににっこりと微笑みながらユアンは言葉を続ける。
「ティエンさんを一目見た時に思ったことですv 今は綺麗で優しくて落ち着いてて素敵な人だなあって思ってますvv」
手放しで褒め称えられ、天流は恥ずかしげに視線を泳がせる。
「・・・ありがとう」
「ティエンさんは僕のことどう思いましたか?」
期待に瞳を輝かせながら身を乗り出してくるユアンに、天流は苦笑しながら思い出そうとするかのように思案した後、
「元気で明るそうな子だと思ったよ」
「えっと、今はどう思います?」
天流の言葉に照れ笑いを浮かべながら、更に身を乗り出すユアン。
「頑張り屋だね」
ふわりと微笑まれ、ユアンの顔が赤く染まる。
「ティエンさんに褒めてもらってよかったね、ユアン」
にこにこと笑いながらナナミが弟の頭を撫でる。
嬉しさに顔の造形が崩れる軍主の姿に、周囲も苦笑を漏らす。
ちなみにルックは嘲るような一瞥を送っただけである。
「皆のティエンさんへの第一印象はどうだったの?」
今度はフリックらに言葉が向けられ、メンバー達は意表を突かれて驚きの表情となる。
「ビクトールさんはティエンさんと初めて会った時どう思った?」
ユアンの言葉を引き継ぎ、好奇心に顔を輝かせながら問うナナミに、ビクトールは困ったように笑う。
「まあ、可愛らしい子供だとは思ったなあ」
可愛らしいと言われ、天流の顔が不快げに顰められる。
その可愛らしい子供を食い逃げに利用したというのは、二人だけの秘密(その時現場にいたクレオやマリーはこの場にいないため)である。
「じゃあフリックさんは?」
「えっ、いや、その・・・」
姉弟の無邪気な問いに、フリックは引き攣った顔で困り果てる。
それも当然だろう。フリックの天流への初めの頃の印象は決して良いものではない。
(ええと、あの頃は帝国軍人だから信用できんとか、オデッサが信頼してたことに嫉妬して生意気だとか・・・散々悪態ついたし・・・あっ、でも第一印象だから、一目見た時に思ったことを言えばいいんだよな?
初めて会った時に思ったのは・・・)
「どこのお嬢さんだ?」
ドスッ
「ぐっ!」
天流の怒りの一発が鳩尾を抉る。
痛みのあまり蹲るフリックに、哀れみと蔑みの視線が集まる。
「馬鹿・・・?」
ルックの容赦のない呟きがフリックに突き刺さった。
そんなフリックのことはさっさと無視して、ユアンは次にシーナに矛先を向けた。
「シーナはどう思ったの?」
問われたシーナは「ん〜」と唸りながら頭を捻る。
「あんまり覚えてないんだよなあ。俺らが初めて会ったのってガキの頃だし」
その言葉に天流とルック以外が驚きの声を上げる。
「えええ!? ティエンさんとシーナさんて幼馴染だったんですかっ!?」
「聞いてないぞ、そんなこと!」
「何で今まで黙ってたんだ!?」
「別に黙ってたわけじゃねえよ。だいたい何でフリック達に言う必要があるんだよ?」
もっともである。
ただ、幼馴染というほど親しい間柄ではなかったのだが。
「真面目そうな奴だなとは思ったかな」
「シーナは落ち着きのない子供だった」
「子供に落ち着きがあるかよっ。お前が変なんだっ」
「今でも落ち着きないよね。あんたまだ子供なわけ?」
「なっ、相変わらずムカツク奴だな、お前はっ!」
「光栄だね」
怒りを露にするシーナに、ルックは見下すような視線を向けて鼻で笑う。
周囲は苦笑しながら二人の言い争いを見守った。(ルックが怖くて止められなかったとも言う)
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「誰さ。こんな所にまで酒を持って来た奴は」
ルックの呆れ果てた呟きが柔らかな日差しの中を冷たく過ぎる。
しかし、その冷たさも聞く者がいなければ意味は無い。
そして、ルックの冷めた視界には、酔いつぶれて倒れ臥すユアン達の姿が映っていた。
「ルックは意外と酒に強いんだな」
ルックを除くと今や唯一人、素面を保つ天流が感心したように言った。
「君ほどじゃないけどね」
返す言葉は呆れを含んでいても穏やかなものだ。
相手がユアンやフリックらなら容赦無く飛び交う毒舌も、天流が相手だとまったくの無害である。
注がれるままに酒を口にしていた二人ではあったが、全員が潰れた今は互いにお茶を酌み交わしている。(自分で注ぐのではなく酌み交わしている所がポイント(←?))
木々の隙間から差し込む日の光が、風に揺れる葉に合わせて揺れながら足元の草を照らす。
気持ちの良い気候ではあるのだが、すぐ傍で鳴り響く酔っ払い達の鼾や寝言やらがやたらと耳につき、ルックの機嫌は降下していく。
おもむろに立ち上がると、ルックは天流の手を取ってその場を離れた。
雑音が届かない所まで移動すると手近な巨木の根元に腰を下ろし、天流もそこに座らせた。
ようやく心地良い静けさに包まれ、二人は一息つく。
「君の僕への第一印象って?」
どこか遠慮がちな問い掛けに、天流は肩を並べて座る友人を意外そうに見やる。
「ルックもそんなこと気にするんだ?」
君だけだよ。
という言葉は胸のうちに仕舞う。
「たぶん、良い気分にはならないと思うよ」
「別にいいよ」
ああ、やっぱり印象は悪いんだろうな。
当時を思いながらルックの気分は落ち込んだ。
あの時の天流は気に留めてもいない素振りだったけれど、会った途端クレイドールなんか仕掛けられて腹が立たないわけがない。
それでも、天流がその時どう思ったのかを知りたくてルックは言葉を待った。
思いつめたような横顔に、天流はその時を思い起こしながら答える。
「ルックを初めて見た時は・・・」
緊張に強張るルックの表情。天流に気付かれないように握り締めた拳に力が篭もる。
「なんでこんな所に子供がいるんだろう? と思った」
「・・・・・・は?」
間を置いてルックの口から発せられたのは、あまりにも気の抜けた声だった。
秀麗な顔は珍しく驚きを隠せずに茫然となっている。鳩が豆鉄砲を食らったとはこの表情のことだろう。
そんなルックの反応をどう取ったのか、天流は申し訳無さげに俯いた。
「ごめん。子供なんて言われたくないよね」
「・・・いや、というか、・・・それだけ?」
「?」
どこかずれた会話に天流が不思議そうに首を傾げた。
無邪気な琥珀の瞳に見つめられ、内心焦りながらルックは疑問を口にする。
「いきなり魔法で攻撃したから・・・」
「ああ。おとなしそうに見えてやんちゃだなとは思ったな」
「・・・・・・やんちゃ・・・」
そんな可愛い言葉で括ってしまって良いのか?
責められても仕方が無いと覚悟していたが故に、天流からの意外な答えには呆れを通り越して何も言えなくなった。
そんなルックに、今度は天流が問い掛ける。
「ルックは? 僕と会ってどう思った?」
「・・・・・・さあね」
決まり悪げに目を反らしたルックの頬がわずかに紅い。
「僕には聞いておいて自分は言わないの?」
滅多に見せない拗ねたような天流の表情に、知らず知らず口元が綻ぶ。
「君と似たようなことだとでも言っておくよ」
「え? ああ、帝国からの使者が僕のような子供で意外だった?」
小さく漏らされた笑いが肯定だと受け取ったのか、天流は納得したかのように笑みを返す。
そして、二人の間に穏やかな沈黙が流れた。
葉を揺らして通り過ぎる風に誘われるように意識が軽くなる。
反対に重くなる瞼を瞬いて隣を見ると、天流も同様にうとうととしているようだ。
肩に手を回して引き寄せるとルックの肩口に軽い感触。ルックの肩に頭を預け、小さく身体を動かして居心地の良い体勢に落ち着くと、天流の唇から吐息が漏れた。
無意識に甘える天流の仕草に、嬉しさと照れを感じる。
間近にある天流の顔をのぞき込むと、彼はすでに半分以上眠りの国の住人となっているようだ。
白い頬に長い睫の陰が落ちる。
隠された金色に輝く双眸を思い出すと、ルックの胸が高鳴る。
(教えてやらないよ。君への第一印象なんて、さ・・・)
初めてその瞳に射抜かれた時の衝撃は、今なお忘れることができない。その時から自分は彼に引かれていたのだと、今は素直にそう思える。
(一目惚れなんて、猿軍主みたいなこと言えるもんか)
天流がそれをネタに人をからかうような真似をするわけがないと解ってはいても、冷静沈着唯我独尊の紋章の申し子のプライドに掛けて知られるわけにはいかない。
琥珀色が隠された瞼に口付けを一つ落とし、ルックも翡翠の瞳を綴じた。
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とっぷりと日が落ちたノースウィンドウ城では怒り心頭の軍師が、軍主達の帰りを手薬煉引いて待っていることなどこの時の彼らには知る由もなかった。
それ以前にそもそもルックは目を覚ますとすぐに天流を連れてグレッグミンスターのマクドール邸に向かったので、どうせ二人には関係のないことではあった。
END
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