導きの声

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しばらくの間ククルが出て行った扉を睨み付けていたエルクは、やがて寝台に腰掛けて項垂れた。
「・・・ちくしょう・・・」
やりきれなさに、唇をきつく噛み締める。

白い家でミリルが死んだ哀しみ、アーク一味に助けられた屈辱感、ククルと名乗る少女がアークの仲間だという衝撃。
色々なことが一度に起こり過ぎて、自分が今どうするべきなのかが解らない。



混乱しきった感情が落ち着くには、かなりの時間を要した。
やがて緩慢とした動作で立ち上がったエルクは、部屋を出て神殿の外に出た。
とにかく早々にこの場を離れたかった。
何も言わずに出て行くのは相手に失礼だが、これ以上仇の世話になるのはまっぴらだった。


しかし、外に出た途端に新たな衝撃に彼は硬直した。

(何だよ、ここは・・・っ!)

エルクの目の前に広がったのは、廃墟の如く朽ち果てた村の跡。
人の姿は無く、動物の気配も無い。
木造の家は崩れ、大地は荒涼として雑草が蔓延っている。
村の外れはすぐに断崖絶壁で、下りることも登ることも出来そうにない。
乾いた風は、何の恵みももたらすことはない。





エルクは神殿の中に戻り、奥へと進んだ。
広く、秀麗な神殿にもやはり人の気配はない。
静まり返ったこの場所には寂寥感のみが漂っている。
今まで存在したはずの世界から突然自分だけが取り残されたような錯覚を覚え、エルクは背筋が寒くなるのを感じた。
神殿の最奥に辿り着くと、ようやくそこにククルの姿があった。
彼女はたった一人でそこに立っていた。
背筋を伸ばして凛と立つその姿は、美しいと同時にどこか哀しい。

「ククル・・・」

言葉を無くしたエルクの様子に、ククルは苦笑した。
「外を見たのね? シュウさん達も同じような反応をしていたわ」
冗談交じりにそう云われ、エルクは途方に暮れたような表情になった。
「あんた、何でこんなとこに・・・?」
「それが私に与えられた役目だから」
何でもないことのようにククルは答えた。
おそらくシュウやリーザ達にも同じ答えを返したのだろう。
「・・・・・・」
「パレンシア城に行く決心は着いた?」
何の反応も出来ずにいるエルクに、ククルは再び問い掛けた。
「・・・・・・」
エルクは黙ってククルを見つめる。
いったい自分に何が云えるのだろう。
怒りも憎しみも、孤独な少女の姿に打ち消されてしまっていた。
エルクは、ただ頷くことしかできなかった。










パレンシア城跡に向かったエルクは、そこでアークの仲間であるポコと出会った。
そして、城の地下でエルクの村の守護精霊、炎の精霊によって真実を知る。

アークは、エルクの仇ではないということ。
それどころか、彼は五大精霊によって認められた勇者であること。
汚名を被りながらも精霊と世界の人々のために戦う彼らは、エルク達にとって味方だった。
本当ならばエルクを始め、世界の人達がアークを助けなければならないはずなのだ。

(アークは敵じゃなかったのか・・・)
あれほど執着していたのに、アーク達が敵ではなかった事実に何故か安心する。
そんな自分の感情に、彼は戸惑いを感じた。
(変だな。何で俺、ほっとしてんだ?)
首を傾げるエルクに、無邪気な声が掛けられる。
「どうかしたの?」
兵隊姿の小太りな少年、ポコが不思議そうに見上げてくる。
エルクは彼の丸い顔をじっと見つめ、
(まあ、こんなのが敵だって言われても、戦意失せるわな・・・)
ポコに対して甚だ失礼なことを考える。


そのポコに頼まれて、ククルにこれまでの経緯を報告するために神殿に帰ったエルクは、そこでようやく自分の本心に気が付いた。

(ああ、そうか)

エルクは、優しい微笑みを浮かべるククルを眩しそうに見つめた。
(俺は、ククルが敵じゃなかったことが嬉しいんだ)
どこかくすぐったいような気持ちで、エルクはそう確信した。









パレンシアタワーに乗り込んだエルクは、ポコと共にトウヴイルの村人を助け出した後、休む間もなくシルバーノアに乗ってロマリアに向かった。
そのロマリアには各国から次々に仲間達が集結し、ロマリア城壁内部のキメラ研究所でスリルに満ちた再会を果たした。
何しろガルアーノはアークやエルク達の複製を用意し、エルク達の猜疑心を煽る手段に出たのだ。冷静に見れば稚拙な作戦だが、内容はかなりひねくれているのでそれなりに効果があった。

エルクとポコの前に現れたのは、アークとククルだ。
偽アークの挑発に乗せられそうになったエルクは、ポコに窘められた。
「これ以上アークとククルを侮辱すると許さないぞ!」
おとなしい性格のポコが珍しく声を荒げる。
ポコの言葉に、エルクは偽ククルを凝視した。
実は彼はアークの方に気を取られ、見覚えの無いもう一人の存在をはっきりと確認していなかった。
「もう一人はククルなのか?」
「違うよっ。姿を似せてあるだけだよ」
ポコが強い口調で反論する。
「だからさ、姿はククルなのかって聞いてるんだけど」
尚も質問してくるエルクに、ポコは怪訝そうな表情になる。
「・・・うん、まあ・・・。1年前のククルに似せてあるみたいだね」

(1年前の・・・)
言われてみればその姿は確かにククルだ。
長い髪は結われ、活動的な衣装に身を包んではいるが、その美しい顔立ちはまさしくククルのもの。
「・・・・・・・・・可愛いv」
思わず零されたエルクの一言に、一瞬ぎょっとしたポコは慌てふためきながら喚く。
「ちょっとちょっと、エルクっ! あれは偽物だって言ってるだろっ! だまされるなーっ!!」
怒鳴られて、エルクは子供のように唇を尖らせた。
「わかってるよ、うっせえなあ」
渋々といった様子有り有りと、エルクとポコは偽アークと偽ククルを倒したのだった。







他のメンバーも仲間のコピーと出くわしたようで、再会した時は一触即発の緊張感に満ちていた。
しかし、間もなく現れたイーガによって同士討ちの事態は回避できたのである。



合流した仲間達は再会を喜び合うのもそこそこに先を急いだ。
揃った仲間達の人数は多いが、全員がまだ一人だけ足りないことを解っていた。
その人物の存在は最も重要かつ絶大だ。
彼がいなくては何も始まらない。


敵地の中を、誰からともなく歩を速めて突き進む。





ようやく辿り着いた部屋で、エルク達はまたもガルアーノの罠に嵌まる。
全員が動きを封じられ、身動きが取れないままガルアーノにやられそうになった時、誰かがその戒めを解いた。

先程までガルアーノが映されていた巨大な画面は、いつの間にか強い瞳を持つ美しい少年を映していた。
《皆、大丈夫か!》
「アーク!」
ポコが嬉しそうに声を上げる。

(あいつが、アーク・・・)
間近で見るアークは、ククルと同じくらい清廉で澄みきった雰囲気を持つ少年だった。
冷静に見れば解る。
彼は、犯罪など犯さないと。


精霊に導かれた仲間達はやがて、精霊の勇者の元に集い合った。



End

エルクとククルの出会い編です。
エルクはククルに一目惚れです(笑)。
ククルの方はやはりさして気に留めてませんが。

ここでのエルクはミリルに幼友達以上の感情はありません。
ついでにリーザに対しても友人以上の感情はないです。

次回はアークvククル色の強いシュウとアークの話です(笑)。





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