強き願い、その想い

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アークの姿が消えた祭壇。

「大丈夫じゃろうかのう?」
不安げにチョンガラが呟く。
「信じて待ちましょう」
ククルはそれだけ言って一同を見回し、
「アークが帰るまでそう時間は掛からないと思います。皆はシルバーノアで待っていると良いでしょう」
彼女の言葉にそれぞれがシルバーノアへと向かう中、エルクだけは緊張した面持ちでその場を動かなかった。

「どうしたの?」
ククルが尋ねると、エルクはほんのりと頬を染めた。
「その・・・、あんたに、言っておきたい、ことがあって・・・」
硬い声で途切れ途切れに呟く。
「なに?」
のぞき込むと、エルクは真っ赤になって顔を背け、大きく深呼吸を繰り返し始める。
「エルク?」
何度か深呼吸した後、大きく息を吸い込んだエルクは、当惑するククルの方を意を決して振り返る。

「俺、あんたが好きなんだ」

はっきりとそう告げた。
「ありがとう。私も好きよ」
「・・・・・・っ」
いともあっさり返された応えに、脱力したように肩を落とすエルク。
だがすぐに勢い良く顔を上げて、ククルに詰め寄る。
「そうじゃねえっ! 俺は、あんたのこと・・・その、誰より好きなんだっ。特別な意味でっ!」
叫ぶようにそこまで言って、恥ずかしさに真っ赤になって目を逸らす。
「あんたとアークが付き合ってるってのは知ってるけど・・・、そんでも好きになっちまったんだよ・・・。別に、あんたらのこと邪魔しようってんじゃなくて、ただ、俺の気持ちだけでも知っててもらいたくて・・・。・・・迷惑だったら悪ぃけど・・・」

勢いに圧され、しばらく茫然としていたククルだったが、やがて菫色の瞳に困惑の色が広がった。
「・・・何だかよく解らないんだけど・・・。特別な意味とか、アークと私が付き合ってるって・・・何なの?」
今度はエルクが困惑したような表情になる。
「あんたこそ何言ってんだよ? あんたとアークは恋人同士なんだろ?」
「そうなの?」
「・・・・・・」
訳が解らないというククルと呆れ返ったようなエルクの間に、妙な沈黙が降りる。

「あんた、意外と天然ボケ?」
「・・・失礼ね」
滅多に見せないククルの不機嫌そうな表情。
興味深げにその様子を見やった後、エルクは適切な言葉を探して頭を悩ませる。彼自身、こんな展開は予想だにしていなかったのだろう。

「えーと・・・、あんたはアークとどうなりたいわけ?」
ようやく探し出した言葉を口に出すと、ククルは少し思案した後、
「ずっと一緒にいたいわ」
素直にそう言った。
「つまり、さ・・・。俺もあんたに対してそういう気持ちなんだよ。離れてると会いたくなるし・・・」
そこで言葉を切り、エルクは申し訳無さそうに、
「昨夜のさ、アークとの会話、聞いてしまったんだ」
「え?」
昨夜というと久しぶりにアークと会って、二人きりで夜中まで寄り添い合ったことだ。
お互いの弱音を打ち明け合った二人だけの時間。

「アーク、あんたにプロポーズしてたよな?」
「は?」
思い掛けない言葉に、ククルはきょとんとなる。
間抜けたようなその声に、エルクも間抜けな表情になる。
「何か、あんたと話すと調子狂うな・・・」
困ったように呟きながら、ガシガシと頭を掻く。

「この気持ちは、その、いわゆる恋愛感情なんだよっ、。それっくらい解るだろっ?」

照れのためか、怒ったような強い口調で言い放つ。
このままではどうにも埒が明かないと思ったのか、直接的な表現を選んだエルク。
ククルは、言われた言葉の意味をすぐには理解できなかった。
別に彼女が恋愛面にとことん鈍いとかではなく、以前アークと一緒に願ったことがよぎったからだ。
驚きと、信じられない思いで、彼女の顔が蒼白になる。
ショックを隠しきれないククルを見て、エルクは困ったような、寂しいような笑みを浮かべた。
「そんなに困んなよ。俺が勝手にあんたを好きになっただけなんだからさ」
「違う・・・。こんな、こんなはず・・・」
エルクの言葉も届かないほど混乱し、ククルは呟きを漏らしながら力無く首を振る。
「何が違うんだよ?」
戸惑いながら、エルクは青褪めたククルの肩に手をやる。

細い肩は微かに震え、ククルは強い願いを残した一年前に思いを馳せる。
「あの日・・・。精霊から力を授かったその時、私とアークは願ったの。誰も、私達を愛することがないようにって。そうしたら、誰も傷付かずに済むから・・・」
自分達の未来があまりにも不確かである予感に、アークもククルも不安になった。
死ぬことが怖いわけではない。だが、自分達がいなくなった後、いったいどうなるのか。
仲間達は傷付くに違いない。
それでも、『仲間の死』であれば「あいつの分まで生きよう」という気持ちになれる。
だがそれが『何よりも大事な人の死』であったらどうだろう?
失う怖さは人を臆病にさせる。
乗り越えろと言っても、人の心がそう簡単に割り切れるわけがない。

「辛い思いしかさせられないのなら、始めから愛なんていらないって。そう、思ったから・・・」
「何だよ、それ?」
顔を顰めていたエルクの雰囲気が、徐々に鋭い緊迫したものに変わる。

「ふざけんなよ!」

込み上げる怒りに任せて怒鳴る。
エルクの声にハッとして目を向けると、彼の傷付いたきつい眼差しが真っ直ぐにククルを見据える。
「あんた、前に俺に言ってくれたよな? 辛くても哀しくても思い出とそこに在った人の思いを否定するなって。そのあんたが俺の想いを否定すんのかよっ!!」
「エルク・・・」
怒りに満ちたエルクの叫びは痛々しく、彼を傷付けた事実にククルの胸が痛んだ。
「誰もあんたらを愛さないようにって言ったってな、俺達は皆とっくの昔からあんたとアークのこと大切に想ってんだよ! 大事な仲間なんだからっ!!」

うっすらと浮かんだ悔し涙を、乱暴な仕草で拭う。
慌てたようにククルは白い両手を伸ばし、彼の頬を包んだ。
当惑する菫色の瞳が傷付いた黒い瞳をのぞき込む。
「ごめんなさい、エルク・・・。私・・・」
どうしたら良いのか解らない。
傷付けてしまった少年に、ククルは謝罪の言葉しか掛けることができなかった。
傷付けることを恐れて遠ざけようとした願いが、却ってその人を深く傷付ける結果になってしまった。

こんなはずではなかったのに・・・。

途方に暮れたようなククルの身体に、エルクの両腕が回され、そのまま抱き竦められる。
突然の抱擁に驚いて、エルクの頬に当てられていた両手は宙をさまよう。
「・・・あんたが好きだ・・・。応えてくれなくてもいいけど、否定したりするなよ・・・」
先程までの激しさは無く、心細げな掠れた声で囁く。
「エルク・・・」
行き場を失った両手はエルクの腕に添えられ、ククルは緊張を解いて身体を預ける。
年下の少年の腕は思いの外力強く、ククルの身体をしっかりと支えている。
そう言えばアークも細身でありながら、難無くククルを抱き上げられた。
(やっぱり男の子なんだな・・・
小さく吐息をつき、ククルは微笑みを浮かべた。

程なくエルクはゆっくりと身体を離した。
「あんたを好きでいるくらい、許せよな。それに俺も、あと何年かしたら背だって伸びてアークやシュウよか格好良くなるんだ」
「うん。楽しみにしてる」
微笑みを浮かべて頷くククルの言葉は、心からのものだった。


近い未来に自分とアークが存在できるのか、未だに不安だったが、自分達を愛してくれる人の想いを拒絶しようとは、もう思わない。
今はただ、その人達の想いを無駄にしない生き方をしたいと望むだけだ。

それを教えてくれた目の前の少年を見ると、不思議な愛しさが込み上げてくる。

(今の貴方だって充分格好良いよ・・・)

言葉にはしないが、心からそう思う。





エルクが、名残惜しそうにシルバーノアへと向かって間もなく、ククルの目の前に光が溢れ、アークが現代に戻ってきた。




End

エルク告白編。熱烈ですね(笑)。
エルクは情熱的ではありますが、一方でとても潔いです。
ククルに対して見返りは求めていません。
ただ自分の想いを知っていてほしかったんです。(リーザとは正反対です)

ククルの気持ちはまだ不明(苦笑)。
エルクのことは好きですが、恋愛まではいってないんじゃないでしょうか。

次回はシュウの告白編です。





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