戦う先に



「なあ、辛くないのか?」

俺の突然の問いかけに、視線の先にいるアークは驚いたような表情で振り向いた。
普段は冷静なアークがこんな無防備な顔をするのは珍しい。

「いきなりどうしたんだ?」

反対に俺に問い掛けてくる。
まあ、いきなりあんなこと聞かれても答えに迷うよな。
でも他にどう言えばいいのかな?
俺はこういうのって苦手なんだ。
自分で言うのも何だけどさ、頭とか口とかあんまり回る方じゃないし…。

「だからさ…あんたいつも気を張ってんじゃん? そういうのって疲れねえ? 精霊とか、人間のために必死でさ…」

アークは自分ではない他の者達のためにいつも必死だ。
誤解され、いわれのない恨みを買いながら、それでも世界の未来のために・・・・・・。

なかなか言いたいことを表現できない俺に、それでもアークは俺の言いたいことが解ったのか、端正な顔に苦笑を浮かべた。

「俺はそんな立派な人間じゃないよ。この旅の目的なんて母を救うため、父と会うため。そして・・・」

言葉を切って、僅かな沈黙の後アークの自嘲気味だった笑みが優しく穏やかなものに変わる。
男の俺から見てもかなりの美形なこいつがこんな風に笑うとこ見たら、大抵の女は落ちるんだろうな。・・・なんかムカつく・・・。

「ククルとの幸せのため、なんだから・・・」

・・・・・・ああ、この顔はククルを想ってたのか。

正体さえ知られなければどこに行っても女にモテるアーク。
けれどこいつは女達の熱い視線を浴びても全然気にも止めやしない。
というのもアークには故郷に彼女がいるから。
それがククル。落ち着いた雰囲気の透明な感じのする綺麗な女の人だ。

俺達のパーティーにもククルに劣らないくらい綺麗な女の人はいる。
シャンテやサニアは美人だし、リーザやちょこは可愛いと思う。
ただククルは彼女達とはちょっと違う感じがするんだ。
なんて言えばいいのかな。
すごく神聖な存在ってやつ。
それはアークにも感じることだ。


精霊の勇者アークと精霊の巫女ククル。
一緒にいることが当たり前のような二人。


どんなに離れていても、二人がお互い深く想い合っているのは誰の目にも明らかだ。
世界の命運を背負う重圧に、深い孤独に、互いの存在があるからこそ耐え続けてる二人。

俺の心配なんか余計な世話だったかな?
でもさ、何でもかんでも二人だけで背負うことないんじゃねえの?
俺らの存在ってなんだよ。

なんて考えてる俺は、すごく変な顔してたみたいだ。
アークが一瞬きょとんとした顔になったかと思えば、声を殺して笑い始めた。
・・・・・・おい・・・(怒)

「頼りにしているよ、エルク。これからも俺に力を貸してくれ」

アークの手が俺の頭を撫でる。
まるで小さな子供に対するみたいに・・・・・・て、俺はアークと1歳しか違わないんだけど(怒)

「・・・・・・なんかガキ扱いしてねえ・・・?」

俺の言葉にくすくすと笑いを漏らし、手を下ろすアーク。
その表情は楽しげで、歳相応にも見える。
けどやっぱり何か無理してるように感じる。
俺達じゃアークの心を軽くしてやることはできないのかな。


そんな無力感に捕らわれてたんだけど、ポコやトッシュ達、1年前からアークと行動を共にしていた連中は俺なんかよりずっとアークのことを解ってた。

急ぐ旅だけど休養は大事だと言って、シルバーノアはトウヴィルに着岸したんだ。
それを聞いた時は「そんな場合じゃないだろう」と顔を顰めていたアークだけど、全員から押し切られて渋々といった様子で口を噤んだ。

シルバーノアから出ると荒れ果てたトウヴィルの村の様子が目の前に広がる。
それでも俺が初めてここに来た時と比べると、少しずつ復興しつつある。
村の奥へと進むと巨大な神殿に辿り着いた。
こんなにも荒れ果て寂れた場所なのに、この神殿に入ると何故か心が落ち着く。
皆もそう感じているんだろうか?
誰もが表情を和らげていた。

そんな俺達の誰よりも早くに奥へと進んで行ったのは、アークだ。

アークの後姿を見送るトッシュやチョンガラが笑い声を上げた。

「まったく無理してんじゃねえよ」

呆れたように言う声も表情も温かい。

アークが消えていった神殿の奥には、きっとククルが優しい微笑を浮かべて待っているんだろう。

勇者が、安らぐ家に帰った少年に―――そして護るべき、愛すべき女性と出会えた男に戻る瞬間。



戦う理由は両親とククルと自分のためだと言いきったアーク。
でも優しいアークとククルのことだから、これからも無理をして戦うんだろう。
なら俺も自分と、アークとククルのために戦う。

俺やミリル達のような子供を増やさないように。
アークとククルが二人で幸せになれるように。
アークが頼れる存在になれるように。

それが俺の戦う先に求めるもの。


そのために戦おうぜ、なあ、アーク・・・・・・

END


なにが書きたかったかというと、アークがどれだけククルが好きかとか
エルクや仲間達がどれだけアークやククルのことを大切に思ってるとかそんなことです。
わかりづらくてすみません・・・(汗)
この後「いつか、きっと」へと続いても不自然じゃないですね。

アークは誰かのためとかいう前にククルと自分のために戦ってます。
ククルも同じことです。
自己犠牲精神というものは私が嫌いなので(苦笑)。



ブラウザのバック推奨