英雄の愛情手料理
坊ちゃん:ティエンリウ(天流)・マクドール
2主:ユアン(元)



「ティエンさん、グレミオシチューってどんなシチューなんでしょう?」



石版のそばで二人の友人と談笑していた天流は、いつものように自分を見つけて駆け寄ってきたユアンから出た思いがけない言葉に、珍しくきょとんとした表情で相手を見つめた。

「グレミオシチュー・・・? どこでそれを?」

滅多に目に掛かれない無防備な表情に、思わず“かーわいーいvv”と花を飛ばしながら飛びつきそうになったユアンだが、さっと伸びてきた足に引っ掛けられ、倒れたところをさらに踏みつけられた。

「あ、わり。引っ掛けちまった」

「悪いね。いきなり転ぶから思わず踏んづけてしまったよ」

平然とそう言ってのけたのは、足を引っ掛けたシーナと遠慮なく踏みつけたルックだ。


わざとだろーがあんたらはっっ!!


猛然と犯人達に噛み付こうと身を起こしたユアンは、そっと差し伸べられた手と「大丈夫か?」という優しい言葉に瞬く間に幸せオーラをまとった。
ルックとシーナの脳裏には“単純”の一言が呆れと共に浮かび上がる。

「それで?」と促され、ユアンは居佇まいを正して説明を始めた。

「先日フリックさんとビクトールさんと一緒に食事していたところ、僕が注文したシチューを見て二人が言ったんです」



『シチューを見ると思い出しちまうよな、グレミオシチューを・・・』

『ああ、あれは絶品だった。何しろ誰かさんへの愛が詰まりまくったシチューだからな』


湯気の立つクリーム色のそれを見つめ、二人はどこか懐かしげに、だが切なげにそう呟いた。
いつもとは違う雰囲気の二人に、ユアンも一緒に居たナナミも思わず戸惑ってしまう。

『ねえ、グレミオシチューってなあに?』

好奇心に負けてナナミが問うと、フリックは「しまった」とばかりにばつの悪そうな表情となり、ビクトールは苦笑しながら『何でもねえ。気にすんな』と答えたのだという。


が、しかし。

『気にすんな』と言われて「はいそうですか」と片付けられるものだろうか。


『気にすんな』なんて言われりゃ余計気になるんですよ。そんくらい解れや腐れ縁。



「――というわけです」


「「未熟者・・・」」」

冷たい声がシーナとルックの口から同時に漏れた。
言葉の向く先は当然フリックとビクトールに対してである。

猿軍主の前で感傷に浸って余計なことを口走るとは。あの二人の考え無しの行為や言動がどれだけ天流に迷惑を掛けてきたか、いい加減自覚すればいいものを。
こうなってしまえば、行き着くところは1つしかないではないか。

「良かったら僕が作ろうか? グレミオシチュー」

予想通り発せられた言葉に、ルックとシーナの端正な顔が苦虫を噛み潰したように歪んだ。
一方ユアンは天流の言葉を受け、この世の春だとばかりにピンク色のオーラを発して無数の花を飛ばす。

「ほ、本当ですか? ティエンさん!!」

「僕で良ければ」


手料理!!天流の手料理!!天流のシチュー!!愛の詰まったシチュー!!
天流の愛!!


ティエンさんの僕への愛が詰まった愛妻シチューですねっっ!!


「とち狂ってんじゃねえよ阿呆猿」

「勘違いも甚だしいよ馬鹿猿」

シーナとルックの暴言も、今のユアンの耳には入ってこない。
夢にまでみた天流の料理が思いがけず食べられるとあって、ユアンはまさに狂喜乱舞の状態だ。幸せ絶頂、都合の悪い言葉は耳が受け付けず、彼の世界にはもはや自分と天流のみしか存在しない。


「でも城の住人全員分は無理かな。せいぜい二十人分位しか作れないと思うけれど・・・」

「のーぷろぶれむですよ!! 僕一人で五人前くらい食べられます! あとはナナミに分けてあげてー残りは翌日温めて朝昼夜食べますー!!」

当然のような顔で堂々と独り占め宣言するユアン。
しかし世の中そんなに甘くはない。

「ほー、独り占めする気かよ」

「自分だけ食おうって魂胆か」

「聞き捨てなりませんね」

「軍主殿の言葉とも思えない」

「そりゃあ粋じゃねえやな」

「ムムームー」

ビクトール、フリック、カミュー、マイクロトフ、タイ・ホーその他諸々が口々に軍主を非難し始める。いつの間にか石版の周囲には人だかりができていた。

取り囲まれ、ざわめく人垣にいつルックの苛立ちが爆発するかとシーナは内心ビクビクだった。とりあえず今のところは天流がそばにいることもあって、ルックの怒りゲージの伸びは低いとは思うが。

ルックが切れるより先にぶちっといったのはユアンだった。


何ですか何ですかあんたらはーっっ!! ええい散るです散るです!! ティエンさんの手料理は僕だけのなんだから!!!


「ユアン、そういう我侭は良くないよ」

「うぅ・・・っ・・・はい・・・ごめんなさい・・・」

窘められ、さっきの勢いはどこへやらティエンさんラブvのユアンはしょんぼりと肩を落とす。

「けどさ、ティル。作れるのはせいぜい二十人分だろ? どう見ても周りには百人くらい集まってるぜ」

シーナの指摘に天流は困ったように人垣を見渡した。
宿星はもちろんのこと、同盟軍兵士やトラン義勇軍に一般市民まで。しかも騒ぎを聞きつけてどんどんと増えてきている。


「猿。あんた仮にも軍主なんだからこの鬱陶しい状況始末しなよ。そもそもあんたが事の発端なんだから」

責任取れとばかりにユアンの背中に蹴りを入れて人混みに突き出すルック。
衝撃にたたらを踏みながらも何とか持ち堪えたユアンはルックに恨みの視線を向けようとして、天流の困惑した表情を捕えるやビシッと周囲を見据えて声を張り上げた。





「えー、これより第一回
ティエンさんの愛情手料理争奪戦を執り行いまーすっ!!!



「「「「「「「「「「
おおぉ――――っっ!!!!!」」」」」」」」」」





――第一回・・・?

眉を顰める天流、ルック、シーナの視線の先で、大地を揺るがすほどの歓声が巻き上がる。

まるで戦場の勝鬨にも似たそれには、一人一人の強い意志が宿る。
曰く――“トランの英雄の手料理だー! わーい嬉しいな♪ こんな素晴らしい機会に恵まれるなんて超ラッキーv よーし絶対食べるぞおー!!”とか何とか。


よーし! ティエンさんの手料理が食べたい奴は僕について来ーい!!


ユアンを筆頭に、人波は気合の入りまくった声を上げながら、轟音とともに雪崩うって外に飛び出していった。



ホールに静寂が戻った。

石版の前に残ったのは、天流、ルック、シーナの三人のみ。


しばらく沈黙したまま怒涛のように大勢が走り去って行った跡を眺めていたシーナは、我に返ったように天流に視線を移した。

「で? どうするんだ?」

「作るよ。二人にも手伝ってほしいのだけど、良いかな?」

“良いかな?”のところで窺うようにほんの少しだけ小首を傾げる。
そんな可愛らしい仕草を見せられて、シーナとルックに“否”などと言えるわけもなかった。
いや、そもそも確認などされなくとも、二人には天流の手伝いをする以外の選択肢は初めからないのだが。

「じゃあまずは材料の調達だな! 俺トニーさんとこ行って野菜をもらって来るよ」

「ではルックは僕と一緒にユズちゃんの所に鶏とミルクをもらいに行ってくれないかな?」

「いいよ」

そうして三人は石版の前から離れ、無人となったホールには不気味なまでの静けさだけが落ちた。





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掘り出したばかりの人参、じゃが芋、玉葱を始めとした様々な野菜をカゴに入れ、シーナは用心深く階段を下りていた。
少しでも気を抜けばカゴから飛び出してゴロゴロと転がっていきそうで恐い。

シーナに野菜を譲ってくれたトニーが手伝いを申し出てくれたが、農業のことを詳しく知らないシーナですら、彼が朝から夕方までせっせと忙しく畑を耕している姿を知っているため、仕事を中断させてまで手伝ってもらおうとは思わなかった。

(でも誰か一人くらい手伝いを頼めば良かったぜ)

今頃『第一回ティエンさんの愛情手料理争奪戦』に参加しているであろう暇人を除いても、手の空いている人間くらい探せばいくらでも居ただろうに。

そんな時。

「大変そうですね、シーナ殿。手伝いましょうか?」

天の助け!

パッと振り返ったシーナは、仲良く並ぶ善意の塊ヤマモト夫妻に「是非手伝ってくれ!!」とばかりに満面の笑顔を見せた。

フリード・Yは洗濯を終えたのだろうヨシノの持つ空の桶にいくつかの野菜を移して持ち、ヨシノは夫のサポートをするように隣を歩く。

「立派な野菜ですね。でも土塗れ。良かったら私が洗いましょうか?」

「ありがとうヨシノさん! 是非お願いっ」



一方、天流とルックはユズから食材をもらった後、テレポートで食堂に移動していた。

天流の手には逆さ吊りにされた鶏が一羽、時々気が付いたかのようにバタバタと暴れだすそれを、いともたやすく制御しているのは流石だと言えるだろう。
ルックはミルクの入った瓶を、ミルク臭さを嫌って出来る限り自分から遠ざけるように持っている。


食堂をきりもりするハイ・ヨーに厨房の一角を貸してもらえないかと願い出ると、気のいいコックは二つ返事で頷いた。

「いいアルよー。ティエンさんの料理には興味アルね。ああ、良かったら鶏捌くアルよ」

手伝いまで申し出てくれるハイ・ヨーの好意を素直に受け、三人はさっそく厨房に入っていった。





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ノースウィンドウ城から少し離れた平野では、熾烈な争いが繰り広げられていた。
トーナメント方式で勝敗を付け、上位十人だけが天流の手料理を口にできるとあって、皆の目の色が違う。

「ティエン様の手料理は俺が頂くーっ!!」

「愚か者め! 貴様如きがティエン様の手料理に相応しいわけがなかろう!!」

「ティエン殿の手料理の為にーっ!!」

「ティエンさんの手料理は渡さない!!」

あちらこちらで武器の打ち合う音とともに“ティエン様の手料理”という単語が飛び交う。
余程食べたいらしい。





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鶏がハイ・ヨーの手で解体されつつある頃、ヨシノに綺麗に洗ってもらった野菜がシーナとフリード・Yによって厨房に届けられた。

天流達は引き続きヤマモト夫妻の手を借りながら、野菜の皮剥きを始める。
家事に慣れている天流、ルック、ヨシノはもちろんのこと、フリード・Yやシーナも意外に手際が良い。フリード・Yはよく妻の手伝いをしていたようだ。愛妻家の彼らしい。
天流と同じく生粋の貴族であるシーナはお坊ちゃん育ちらしく料理の経験はほとんどないが、彼の場合は元々手先が器用なのだろう。始めは恐る恐る包丁を握っていたが、コツを掴めば後は順調だった。

しかし所詮は料理初心者。玉葱が思いっきり目に沁みた。
ツーンとした痛みに思わず手を止め、慌てて水で顔を洗ったシーナは涙に潤んだ真っ赤な眼でルックを睨み付けた。
こうなることを見越した上でシーナに「これを薄切りにしろ」と言い渡した紋章の申し子は、素知らぬ顔でじゃが芋の皮を剥く。


「・・・ねえ、何やってるの?」

戸惑いを含む声に視線をやれば、幼さの残る顔に当惑を貼り付けたテンプルトンとフッチが所在無げに立っていた。その後ろにはフッチの保護者ハンフリーも居る。昼食を食べに来たのだろう三人は思いも掛けない状況に出くわして、その場に固まっている。
彼らが混乱するのも無理は無かった。天流とルックが並んでじゃが芋の皮を剥く様など、そうそう見れるものではない。

「ユアンのリクエストでグレミオシチューを作るんだ」

天流の答えに、テンプルトンとフッチは一瞬驚きを浮かべ、次いで気遣わしげに彼を見た。
二人の声にならない問いに気付き、天流は優しく微笑む。大丈夫だよ、と言うように。

フッチとテンプルトンより先に反応したのは鶏肉を捌いていたハイ・ヨーだった。

「シチューアルか! そういえば元解放軍の皆さんはあまりシチューを注文することないアルね」

その言葉に、未だかつての仲間達の心にグレミオの犠牲が重く圧し掛かっていることを知る。
フリックやビクトールを始め、多くの仲間達が天流に纏わる全ての出来事に心を痛めていることは天流も気付いていた。彼等が今も天流に抱く後悔や罪悪感を、ふとした時に感じる。
いくら「過去のことだから」と言い含めても、彼等はきっとこれからも引き摺っていくのだろう。

(・・・困ったな)

「君が気にすることじゃない。勝手に後悔でも何でもさせてやれば? 所詮自己満足なんだから」

哀しげな苦笑を浮かべる天流に、ルックは感情のない声音で言い放った。
相変わらず天流以外には容赦のない口だ。


「あの、僕手伝います!」

「僕も手伝うよ」

意を決したかのように申し出るフッチにテンプルトンが続き、ハンフリーが頷く。
そんな三人に天流はふんわりと微笑んで、はっきりとこう告げた。

「ありがとう、フッチ、テンプルトン、ハンフリーさん。それじゃあ人参の皮剥きよろしく頼む」

「はい!」

「わかった」

「ああ」

“立ってる者は親兄弟でも使え”とばかりに指示を出す天流に、ルックとシーナは気付かれないように笑いを噛み殺す。だが彼等自身も天流のその精神で今、じゃが芋の皮剥きや玉葱の薄切りをしているわけなのだが・・・。





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あっはっはー! 今の僕に敵はなーしっ!!

青空高く、軍主の高笑いが響き渡った。

向かってくる敵(と言っても自軍の兵士)をばったばったと薙ぎ倒し、ユアンは遺憾なくリーダーの実力を発揮して勝ち進んでいた。

全てはティエンさんの愛のシチューのためにv

哀れな敗者を足蹴にし、ユアンはノースウィンドウ城に向かって声を張り上げた。


待ってて下さいねーティエンさーんっっ!!!





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一口大に切り分けたじゃが芋を水にさらして灰汁抜きし、同じく一口大に乱切りした人参とともに熱湯で茹で、その間にバターを熱した鍋で玉葱を炒める。

玉葱の薄切りによって眼を赤く腫れ上がらせたシーナは濡れた布で目元を冷やしながら、天流とルックによる流れるような作業をぼーっと眺めていた。

「お前等いい奥さんになるよなあ」

思わず漏らした素直な感想に、すかさず飛んできたお玉と鍋の蓋が寸分違わずシーナを直撃した。

「料理をする男性全般に失礼になるようなことを言うな」

「お前等なんて一括りにしないでくれる? こういうのは夫婦共同作業って言うんだよ」

「・・・・・・ルック?」

シーナに向けていた厳しい瞳が戸惑いに代わってルックを凝視する。
今の言葉の真意はいったい・・・?


「ルックってティエンに再会してから素直になったよね」

計量スプーンで量った小麦粉を降り掛けるように天流の鍋に加えながら、隣で同じ作業をルックの鍋に施すフッチに小声で囁くテンプルトン。
フッチはどう答えて良いか解らず乾いた笑いを虚しく吐き出した。


柔らかくなってきたじゃが芋と人参を汁ごと玉葱を炒めている鍋に移す作業は、とても天流とルックの力では成し遂げられないためハンフリーとフリード・Yの仕事となった。


「ふむ、これは何事ですかな」

ざばーゴロゴロゴロじゅわ〜などという効果音と重なって、冷静な声が聞こえてきた。

一斉に視線が向けられた先には、軍主をも恐れさせる鬼軍師の姿。
昼食を食べに来て、普段とは違う厨房の騒ぎが気になったのだろう。
常に無表情な冷徹軍師でさえ、この状況には意表を突かれて困惑気味だ。

「ユアンのリクエストでシチューを作っています」

鶏肉と固形スープの素を鍋に入れながら、天流はフッチ達への答えと同じ言葉を口にする。
鬼軍師―シュウはトレードマークとなりつつある眉間の皺を深めた。

「貴方に料理を・・・あの頓珍漢軍主が・・・」

トラン共和国からの大切な賓客に何てことさせるのか。

「気にしないで下さい。元々はフリックとビクトールが言い出したことですから」

「・・・・・・あの間抜けコンビが・・・」

どちらにしろシュウの怒りを煽るだけの結果になってしまった。

黙っていた方が良かったのかな。
問いかけるような視線をルックやシーナに向けるが、シュウ以上に軍主と腐れ縁に厳しい二人は「よくやった」とでも言いたげに凶悪な笑みを浮かべた。

「仕方ありませんな。主と部下の不始末は私の責任でもあります。私に出来ることがあれば何なりと申し付けて下さい」

「そうですか、助かります。では中身が焦げないようにこの鍋をかき回して下さい」


歴戦の戦士にすら恐れられる鬼軍師に鍋をかき回させることができるのは、彼だけだろう。


何気なく誰も成し得ない偉業をやってのけたトランの英雄は、調味料の準備に取り掛かった。





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「っしゃー!! これで最後かあ!!」

「ふ、この俺が相手だったのが不運だと思え」

「大切な人のためになら、男はいくらでも強くなれるものだね」

「悪いが、譲れないものがある」

ビクトール、フリック、カミュー、マイクロトフが次々と“ティエンさんの愛情手料理”の切符を手にする。
美青年Sは格好良いことを言っているように見えて、要は“愛しい天流の手料理を他の男に食べさせてなるものか!”という男の嫉妬丸出しである。





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ひと煮立ちさせた鍋に牛乳が投入される。
続いてグレミオ直伝の調味を加え、天流は少しだけ小皿に載せたそれをルックに差し出した。

味を見てほしいという行為だが、何故かルックは鍋をかき回す手を止めず、ただじっと天流を見つめている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

天流の手が小皿をルックの口元に運ぶと、素直に口に含んだ。


(つまり食べさせろってことかよ!!)

(何で口で言わないのさ)

(公衆の面前で・・・っ)

内心でそう突っ込んだのはシーナ、テンプルトン、フッチだ。シュウやフリード・Y等は自分の見た光景が信じられないのか、顔を強張らせて固まっている。


「いいんじゃない? 美味しいよ」

料理勝負では決して出ない一言が、躊躇いも無くルックの口から出た。

ルックのお墨付きにほっとした笑顔を見せ、次に付け合せのサラダに取り掛かる。
ヨシノが見事な繊切りにしてくれたキャベツや人参に、シーナが小口切りにした胡瓜やくし型に切ったトマトを添え、貝割れ大根や茹でたコーンを散らして特製のドレッシングで和えて完成した。

シチューの方も沸騰直前に火を止め、無事出来上がった。

「皆、手伝ってくれてありがとう。お陰で完成しました」

天流の労いの言葉に、自然と拍手が沸き起こる。と同時にそれぞれに空腹感が襲ってきた。
料理に夢中で失念していたが、昼時を過ぎようとしているのに誰もがまだ昼食を食べていなかったのだ。


「それでは、昼食にしようか」


異を唱える者は皆無だった。





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ティエンさーん! 勝ちましたーっ!!

「お、いい匂いだなあ」

『第一回ティエンさんの愛情手料理争奪戦』の栄えある上位十人が意気揚々と食堂に入ってきた。
皆誇らしさと、これから食べられるご褒美“ティエンさんの愛情手料理”への期待に満面の笑顔だ。

「お疲れ様、大変だったみたいだね」

優しい天流の言葉が試合の疲れを癒してくれる。
だが、食堂の様子を眼にしたユアン達は、その場にピシリと固まった。


「ティル、シチューお代わりしてもいいか?」

「どうぞ、シーナ」

「あ、僕も欲しいっ」

嬉々として空の器を手に鍋の元へ向かうシーナと、それに続くフッチ。

「うーん、これは絶品アルなあ。レシピが欲しいアルよ」

一流コックハイ・ヨーが唸ると、シュウは一口を味わいながら満足気に頷く。
ヤマモト夫妻も口々に褒め称え、ユズとトニーの丸い顔は何とも幸せそうだ。
無言でスプーンを口に運ぶルックやテンプルトン、ハンフリーもシチューの味に満足しているようで、スプーンを置こうとはしない。


「・・・えーと・・・? これはいったい・・・」


「おー、馬鹿猿に腐れ縁にその他大勢、ようやく来たのか。言っとくけどお前等全員の分残ってないぜ」

お代わりを注いでいたシーナが入り口に突っ立ったままのユアン達に声を掛ける。

「な、何でですかあ!? だって、僕試合で勝ったのに・・・」

「そんなのあんた達が勝手に始めたものだろ」

視線すら向けず、ルックは優雅にスプーンを動かす。

「だ、だからって何でシュウ達が勝手に食べてるわけ!? ずるいよ、試合に出てもいないのに〜!!」

軍主の悲痛な叫びを聞きながら、フリックやビクトール等元解放軍の顔色が変わる。
・・・まさかこれは・・・。

そんな彼等に、天流は静かに口を開いた。


「ユアン、皆。“働かざる者食うべからず”という言葉を知っている?」


「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

穏やかな美貌から発せられる静かな声が、背筋に薄ら寒いものを感じさせる。
すでに続く言葉を予測できたであろうフリックやビクトールは、目に見えてがっくりと肩を落としている。


「君達が仕様もない争いを繰り広げている間、ここにいる人達は僕を手伝ってくれたんだ。お礼をするのは当たり前だろう?」


凍りつく面々の中、フリックやビクトール等元解放軍メンバーは否応無く四年前を思い出させられていた。

自分自身に過ぎるほど厳しかった天流。彼は他人に対しても、時として非常に厳しかった。
すべきこともしない人間が、何かを得ようなどとおこがましいにも程がある――と。


そういえば、ユアンが言い出した『第一回ティエンさんの愛情手料理争奪戦』などというものに、天流を誰より大切にするルックとシーナは何も言わなかった上に、参加しようともしなかった。
二人は知っていたのだろう。こうなることが。
その証拠に、茫然自失に立ち尽くす自分達に向ける彼等の表情は嘲りに満ち、秀麗な顔立ちにはでかでかと“ばーか”と書いてある。


・・・やられた。

全員が同時に自分達の敗北を悟った。


だが、そんな中でも立ち直りの早い賢明な人間も居た。

赤騎士カミューは端正な顔に魅力的な笑みを浮かべ、天流に言った。


「ティエン殿、後片付けは私達が致しましょう」


かくして、赤騎士カミューと青騎士マイクロトフは無事絶品グレミオシチューを食べられたのであった。
ちなみにカミューがマイクロトフを共に敗者の群れから連れ出したのは、麗しい友情というよりも一人で後片付けするのが嫌だったからに他ならない。



「軍主殿自ら兵の強化試合を執り行ってくれたとは感心ですね。フリック達もご苦労」

氷の微笑を浮かべた軍師の冷ややかな言葉。
人はそれを“駄目押し”という。


容赦なく止めを刺された軍主達は、それからしばらく真っ白になったまま別の世界から戻って来なかった。



天流の料理に満足したルックが彼を連れて二人だけでテレポートしても、ユアンが気付くことはなかったという。



END


140000番を申告して下さった武内あやさまのキリリク
『同盟軍本拠地、水面下では総キャラによる坊ちゃん争奪戦を繰り広げ、
表面ではルック・シーナ・坊ちゃんで仲良く料理を作るお話……勝者はルック』でした。

勝者・・・坊ちゃんという気がしないでもない(苦笑)。
三人どころか大勢で料理作ってしまいましたが・・・こんなんでよかったんでしょうか?(汗)

何はともあれ、140000HITおめでとう&ありがとうございました♪


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