坊ちゃん:天流(ティエンリウ)・マクドール 2主:ユアン(元)
この日、同盟軍の本拠地内石版の前では、季節外れの寒冷前線が吹き荒れていた。 ある一角を中心に冷気が溢れ、ホールの中の気温は氷点下かというほどに厳しい寒さ。 冷気を発しているのは言わずと知れた性悪魔道士ルックだ。 常にどこか不機嫌そうな彼ではあったが、この日は輪を掛けて険しい表情だ。 黙って突っ立ったまま、通り掛る人間達を恐怖に陥れている。 いつも元気に皆に挨拶して回る同盟軍軍主も、ホールに入った途端に固まった。 (声を掛けたら殺されるっ!(汗)) と直感したとかしないとか。 しかしホールは公共の場であるため、嫌でも皆通る。 誰もがルックと目を合わせないように顔を背け、早足でホール内を駆け抜けて行く。 溜まりかねた兵士達がシュウを始め、軍幹部達に泣き付く光景が城中で見られたという。 このままでは駄目だと軍主を始め幹部達が対策に乗り出した。 勘の鋭いルックに気付かれないように、物陰に身を隠してホールを伺う。 大の男が何人も、しかも同盟軍の主要メンバーが集まって身を潜めながら小声で話し合う様はかなり異様なものがあるが、本人達はそれに気付く余裕もなかった。 「とにかく、原因を探りましょう。いくら何でも今日のルック殿は異常です」 不敵な軍師もさすがにルックの絶対零度の冷気には恐れをなしているようだ。 その顔も声も固く強張っている。 「原因って言っても・・・。誰がそれを知ってるんですか?」 軍主ユアンの問いに、誰も答えることができない。 ルックが普段何を考え、どんなことに腹を立てるのか。 それを知る者は一握りしかいない。いや、この世で2人しかいないと言ってもいいだろう。(ちなみにもちろんレックナートとトランの英雄の2人のことだ) 「本人に聞くのが手っ取り早いよな・・・」 ぼそっと呟かれた言葉に、全員の視線がその人物に注がれる。 「な、何だ?・・・・・・・・・・まさか」 青雷のフリック。彼はどこまでも運がなかった。 「よ、よう、ルック」 蒼白な顔に引き攣った笑みを浮かべ、悲壮な覚悟を決めてルックに歩み寄るフリック。 ギロッ ビクッ 殺気の込められた目付きで思いっきり睨まれ、フリックはその場に硬直した。 (こ・・・これ以上近づいたら命が危ない・・・) 百戦錬磨の傭兵の直感。 しかし、男フリック・28歳。 10歳も年下の、しかも力の無い魔道士を相手にここで引くわけにはいかない。 心も凍る恐怖をプライドで耐えつつ、尚も言い募る。 「や、やけに、不機嫌、そう、だな。いったい、何が、あったんだ?」 あからさまに裏返っている上に、震えるその声はなんとも情けない。 物陰から様子を伺う軍主他メンバー達は一様に、 (情けなさすぎるぞ、ブルーサンダー!!) とか何とか心の中で叫んではいたものの、やはり彼らもルックは怖い。 「失せろ…」 地を這うが如く低い声がルックの口から漏れた。 ホール全体が恐怖に凍り付き、哀れな通行人達もことごとくその場に固まる。 あたかも同盟軍本拠地に氷河期が到来したかのようだ。 思わず回れ右をして全力疾走でここから逃げ出したいと切に願ったフリックではあったが、足はその場に踏み止まったままだ。 別にプライドで持ち堪えたのではなくて、恐怖のあまり竦んで動けなくなってしまったわけなのだが。 しかし自分が金縛りを掛けたとは気付かないルックの方は、動こうともせずに目の前に立ち続けるフリックに苛立ちが募る。 「・・・死ぬかい?」 右手が淡く光を持ち始める。 (真の紋章まで使うかあ―――っっ!!!??) いと哀れ・・・・・・・ ユアンの紋章で一命を取りとめたフリックだったが、精神的ショックがあまりにも大きかった。 意識を取り戻した後も虚空に視線を浮かせたままぶつぶつと独り言を呟く彼は、話しかけても何の反応も示さない。 「使い物にならなくなったな・・・」 的確ながらも冷酷にシュウが言い放つ。 頭を抱えるメンバー達。 これ以上犠牲が増える前にルックを何とかしたいが、フリックの二の舞はごめんだ。 「あのさあ、ティル呼んで来た方がいいんじゃねえの?」 一人冷静な態度を保つシーナの一言に、全員がハッとした。 「そうです! ユアン殿、マクドール殿を迎えに行って来て下さい!」 普段はユアンが天流を慕う様を快く思わない軍師が、地獄に仏と言わんばかりに明るい表情になる。 「そうだよねっ! あのルックをなだめられるのはティエンさんだけだっ!!」 『おおおっ!!!』 軍師の勢いにつられて力強く発せられたユアンの言葉に、その場にいたメンバーも沸く。 絶望的な危機を救える希望の光を見出し、彼らの脳裏には後光を発しながら女神が如く微笑む天流・マクドールの姿が思い浮かんでいたと言う。 「馬鹿か、こいつら・・・」 呆れたように呟くシーナ。 しかし感動に咽ぶユアン達の耳には届いていなかった。 「遅い・・・」 生え際がやばいのではと噂される額に青筋を浮かべ、険しい顔の軍師が呟く。 軍主がナナミやシーナ、ビクトール、フッチらを連れ立ってビッキーのテレポートでバナーの村に向かって早数時間。 未だ待ち人は来ない。 「まあ、バナーの峠を超えてグレッグミンスターに辿り着くまでは長いですからね」 「それからまた引き返してくるわけだから、まだしばらく掛かるかと・・・」 カミューとマイクロトフが冷静な意見を述べる。 「しかし、これ以上はさすがに・・・」 困ったように言うクラウスの視線の向こうには寒冷前線の姿。 あれからホールに吹き荒れるブリザードは衰えるどころか、ますます勢いを増しているようだ。 凍死者が出ても不思議はないほどの寒さの中、シュウ達は防寒用のコートを羽織ってホールの様子を伺っている。 もうすぐ日暮れというこの時間、すでにホールに近づく人の姿はない。 昼頃までは目さえ合わさなければ何とか横切れた石版の前だったが、時間が経つにつれて不機嫌度を増したルックは過激度に拍車がかかり、目の前に動くものがあれば問答無用で攻撃を加えるようになってしまったのだ。 事実、サスケはルックの視界に入った瞬間に切り裂きを食らわされた・・・。 さらに時間が経ち、空が茜色に染まり始めた頃複数の足音が背後から聞こえ始めた。 振り向くと、走り寄って来る軍主やトランの英雄の姿。 その後ろからはナナミ、シーナ、フッチが疲れ果てた様子で歩いて来る。 「シュウさん! 連れて来たよ」 「お疲れさまです。マクドール殿も、わざわざお越し頂き申し訳ない」 「いえ、お気になさらずに」 さすがにユアンや天流の息も上がっている。 シーナ達はすでに限界らしく、その場にへたり込んで荒い呼吸を繰り返す。 「? ユアン殿、ビクトール殿は?」 一人足りないことに気が付き、カミューが問う。 その言葉にユアンは後ろを振り返り、ビクトールの姿がないことに気が付いて首を傾げる。 「ビクトールは城に入った時点で倒れました。そのうち戻るでしょう」 淡々とそう言ったのは天流。 軍主達のスピードに追い付けず、ビクトールは城に着いた途端に倒れてしまったのだ。 城の中なら危険はないため、天流は彼を放っておいた。 優先されるのは同盟軍の非常事態の方なのだから。 「で、何があったんですか? それに、何故そんな格好を?」 防寒着を着たシュウ達の姿に、天流は不思議そうに問いかける。 「いえ、あまりに冷気が強いので・・・」 クラウスの答えに更に不思議そうな表情になる天流。 「冷気? 今は春先でしょう?」 そう。現在の季節は春先。 暑くも寒くもなく、ぽかぽか陽気の過ごしやすい季節である。 本来ならば。 「ルックを、見てみろよ・・・」 荒い息の中、苦しげにシーナが言った。 天流はホールをのぞき込み、石版前のルックの姿を見て視線を戻す。 「ルックがどうかしたか?」 「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」 ホールに充満する恐ろしいほどの冷気を、天流はまったく感じていないようだ。 思わず呆然となるユアン達だったが、シーナだけは動じることもなく。 「えらく不機嫌なんだよ、あいつ。俺達ではどうすることもできないからさ、お前から聞いてくれねえ?」 天流は納得したように頷き、ルックの方へと向かう。 固唾を飲んで見守る同盟軍の面々。 近づいてくる気配に気が付いたのか、俯き加減だったルックの顔が上げられる。 思わず、朝からその場で様子を見ていたメンバー達が緊張に身体を強張らせる。 少し前にサスケが、問答無用で切り裂きを食らったことを思い出したのだ。 しかし、近づいてくる天流に、ルックは何も行動を起こすことはなかった。 普段から天流とその他の人間に対する態度がまったく違うルックである。 近づく人間が天流であれば、反応もまた他とは違うのだろう。 やがて二人の距離が1M程となり、天流は足を止めた。 「やあ、ルック」 「何。あんたいたの」 応えるルックの声はやはり地を這うほど低く、彼の不機嫌さを物語る。 恐ろしさに傍観者達は凍り付くが、間近で地獄の声を聞いたはずの天流はふと首を傾げると左手の手袋を外し、何を思ったかルックの額に手を当てた。 ユアン達は身も凍る恐怖に内心悲鳴を上げる。 誰もが「このままではティエンの命が危ない!」と身を乗り出すが、一歩踏み込んだ所で足が止まる。 前に進むことを遮られているような感覚に足元を見てみると、足が床に凍り付いていた。 (((なんっじゃこりゃあ―――っっ!!!))) 踏み出した姿勢をそのままに、足にまとわりつく氷はどんなにもがいてもビクともしない。 見回せば、ホールの中には雪が結晶のまま降りそそいでいるのが見てとれる。 ルックの不機嫌の成せる業なのか。 (((なんでティエン(さん)(殿)は何事もなくホールを横切れたんだ!!??))) これもトランの英雄の実力なのか? 恐るべし天流・マクドール! それはさておき、皆の心配をよそにルックは天流にされるがままおとなしくしていた。 ここまで他人との対応に差があると何だか悲しくなってくるユアン達だったが、天流とルックなのだから仕方がないのかも知れない。 「ルック、熱がある」 ルックの額から手を外し、天流は一言そう言った。 (((・・・え?))) 床に凍り付いた足を何とか動かせないかともがいていたユアン達は、天流の意外な言葉に動きが止まる。 (熱? 熱があるとか言ったか?) (いや、どう考えても今のルックはブリザード以外のなにものでもなく、熱なんてものがあるわけがない) (そうとも! 凍て付く氷の塊と言われた方が説得力があるっ) とか何とかわけのわからない思考が渦巻く辺り、同盟軍の面々の混乱振りが伺える。 そんな周りの様子には気付かず、心配を含む天流の言葉が続く。 「風邪引いたんじゃないか? 顔も赤い」 どこをどう見てもいつも以上に不機嫌そうな顔にしか見えない。 「声も掠れていたし・・・」 地を這う恐ろしい声としか言い様がない。 「具合も悪そうだ」 機嫌が悪いの間違いではないのか。 「部屋に戻って安静にしていた方がいい」 安静でもなんでもいいからとにかく部屋に戻ってほしい。心から・・・っ 「なんで僕が風邪を引くのさ・・・」 聞きたいのはこっちだ!(以上同盟軍、心の叫び) 「季節の変わり目は体調を崩しやすいからね」 先にも述べたが、今の季節は春先である。 冬が終わり、暖かい春へと変わりゆく季節。 そんな変化の時期に身体が対応しきれず、体調を崩してしまう人は少なくない。 軽いものから重いものまで人によって様々ではあるが、ルックの場合は何と言えばいいのか。 「ふん、通りで気分が悪いと思ったよ・・・。ったく忌々しい・・・」 吐き捨てるように呟くルックの端正な顔は不機嫌そのものだ。 風邪で気分が優れないことにルックは苛立っていたということか。 つまりは八つ当たり・・・? 「部屋に戻ろう、ルック」 穏やかに言って促す天流に素直に従い、ようやくルックが石版の前から離れた。 自分よりも僅かに背の低い天流に寄りかかるようにホールを去るルック。 その顔が妙に嬉しそうだったことは、誰も気付かなかった。 いや、気付けなかったと言うべきか。 その場にいた全員が茫然となって、寄り添うように去って行った二人の後姿を見つめていた。 彼らの脳裏には、問答無用で切り裂きを食らったフリックやサスケを始め、今日一日でルックの手に掛かって医務室送りになった仲間達の姿が浮かんでは消えていく。 いつの間にか日は落ち、茜色だった空は藍色へと変化していた。 春先とはいえ夜はまだ肌寒いはずではあったが、ユアン達にはありがたいほど暖かく感じられる。 ブリザードも治まり、平和の戻ったホールの中で同盟軍の幹部達は誰もが無言のまま。 ようやく復活したビクトールが声を掛けるまで、いつまでも立ち尽くしていた。 同盟軍全体を恐怖のどん底に陥れた絶対零度の魔術師の少年は、英雄の甲斐甲斐しい看護を受けてすっかり気分も機嫌も治り、次の日には無事全快して石版の前に立っていたという。 同盟軍軍主を始め幹部ら数人が足に霜焼けを作って、医務室のホウアンの首を傾げさせたのはまた別の話である。
END
何か・・・ルックが風邪を引いて当たり散らすってネタ、別のサイト様で見たような・・・ 決して、決してパクッたわけではないんですよぉ〜〜〜っっ!!!(滝汗) 気が付けばこうなってたんですぅ〜(泣) でも、ルックって具合が悪くなると不機嫌になって辺り構わず当り散らしたあげく倒れそうですよね?(笑) ・・・性質悪・・・。
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