彼の真意
坊ちゃん:天流(ティエンリウ)・マクドール


「そう、ルックが・・・」

秀麗な顔を臥せ、少年が悲しげに呟きを落とす。
少年とは言っても、実際はすでに三十路過ぎなのだが外見はどう見ても14、5歳の少年だ。

彼の名前は天流・マクドール。
20年近く昔に一つの国を救った異国の英雄である。

「ティエンさん・・・」

心配そうな声で名が呼ばれる。

故郷より遠く離れたここグラスランドの地、ビュッデヒュッケ城にて英雄の少年はかつての仲間と思わぬ再会をした。
それが、彼の目の前にいる青年、フッチだ。
過去、共に戦っていた頃は天流よりも年下の幼い少年だったフッチも、今や20代も後半の立派な男性である。

英雄との再会の喜びもつかの間、フッチは自室に天流を招き、現在身を置くこの国で何が起きているのか彼に語っていた。

「ティエンさん、貴方なら彼を止められるのでないですか?」

天流よりもずっと成長したフッチだったが、彼に対する口調は変わらずに敬語だった。
今でもフッチにとて天流は尊敬と憧れの対象なのだ。

天流自身も弟のように思っていたフッチに懇願するような声音で問われ、英雄の少年は更に俯く。

天流も、助けられるのなら助けたかった。
「彼」は、共に戦った仲間なのだから。

「しかし、彼はそれを望まないかも知れない…」

プライドが高く、頑固な彼はこうと決めたことは覆さない。
そんな彼が自分の命を掛けても成し遂げようとしている事。
天流にはそれが何なのか、よく解っていた。
彼のやろうとしている事を正しいとは思えないし、止められるならばと思う。
だが・・・

「私の言葉で彼が意志を変えるとは思えないよ」

天流の言葉に、フッチは項垂れる。

確かに天流の言う通りかも知れない。
彼が天流をリーダーとして仲間として認めていたのは15年前までのことだ。
その後、彼が何をしてきたか、どんな思いでいたのか誰にも解らない。









「邪魔するよ」

「「!!!!!?????」」

突然掛けられた懐かしいとも言える声に、天流とフッチは驚愕のあまりに硬直した。
それはそうだろう。
記憶に間違いがなければその声は、今現在話題に上っている人物その人なのだから。

「「ルック!?」」

二人の声が見事に重なった。

天流のすぐ背後に立ったのは、紛れもなくルックだ。
最後に会った時とは髪型も服装もまったく違うが、それでも彼が懐かしい友人であることがすぐに解った。
相変わらず無表情なルックの翡翠の瞳は、目の前にいる少年だけを映している。

三人は、しばらくの間微動だにしなかった。
内、二人は驚愕のあまり動けないのだが、もう一人は・・・。

最初に動いたのはルックだ。
手を伸ばし、穴が開くほどじーっと見つめていた天流の身体を両腕で包み込む。
茫然としているため、天流はされるがままにルックに抱き込まれた。

「やっと見付けた」

「ル・・・ルック・・・」

「な、何でルックがここにいるんだ?」

ようやく硬直状態から立ち直り、フッチが戸惑いの声を上げる。
そこでルックは初めてフッチに目を向けた。

15年前をそのままに「邪魔する気?」とでも言いたげな剣呑な表情に、フッチの方も15年前さながら恐怖に凍る。

「何? 僕がここにいちゃまずいわけ?」

そりゃそうだ。
仮にもルックは敵である。
ここにいて良いわけがない。

「あ、いや、その、別に、そんなことは・・・」

15年前とは違い、すでに大人になっているというのにフッチにはまだこういう時のルックに逆らう勇気も度胸も無かった。
こんな時に頼りになるのはやはり天流である。
突然現れたルックに呆然となっていたが、何とか我に返った彼はルックの抱擁を解こうと身を捩る。

「ルック、離してくれないか?」

「やだね。ようやく見つけたんだ。二度と離してなんかやらないよ」

(相変わらず独占欲の強い奴だな・・・)

トランの英雄を抱きしめて傍若無人に独占欲を露にするルックに、いっそ感心すらしてしまうフッチ。
天流はというと、どうすればいいのか解らず困惑している。

「まったく、よくも15年間も逃げ回ってくれたよね。紋章の気配まで消すなんていい度胸じゃないか。僕がどれだけ君を捜したと思ってるのさ」

「・・・・・・は?」

言われたことの意味が解らず、素っ頓狂な声を上げる天流。
その様子に苛立ったのか、ルックは天流の肩を掴んで上半身を僅かに離した。

「君の右手の紋章だよ! 僕の目を眩ませるために気配を消しただろう? お陰で僕は君がここに現れたから、ようやく気配が掴むことができたんだよ! 本当に手間を掛けさせてくれるよねっ」

紋章の気配すら押さえて姿を消し、行方の解らなくなった天流をルックは杳として見付けることができなかった。
いくら風の力を自在に操れるとはいえ、広い世界でたった一人を捜すのは困難だ。
天流が風に乗せてルックを呼ぶか、紋章の力を解放でもしない限りは。

そんな中、フッチが身を置くここビュッデヒュッケ城はルックにとって警戒すべき敵の城。
常に気を張っていたため、微かなソウルイーターの気配を感じることができたのだ。

「ルック・・・私はルックから逃げ回ったわけではないが・・・?」

天流は別にルックから逃げ回っていたわけではない。
確かに紋章の気配を押さえてはいたが、それは真の紋章を狙う輩から身を隠すためで、決してルックがどうということではないのだ。

「うるさいね。僕からすれば立派に逃げ回っていたように見えるんだよ」

そんな無茶な・・・

思わず突っ込みを入れそうになるフッチだが、やはり恐怖が先行して何も言えない。
反論する気にもなれないのか、天流は疲れた表情で目を逸らす。

「・・・それよりもルック。君はわざわざ敵地にまで私を捜しに来たのか?」

困惑の表情で天流が問うと、ルックはふんと鼻を鳴らし、

「そうだよ。だいたい君が僕から逃げるから、僕は世界を滅ぼしてやりたくなったんだ」


・・・・・・・・・・はい?


何だか聞き捨てならない台詞がルックの口から聞こえたが…。

「世界が危機に陥れば君は出て来るかなーって思ったんだ。戦争に参加はしなくても僕が行動を起こせば君は近くまで現れると読んでね。出て来なければそのまま世界に八つ当たりしてたさ」

するなよ。八つ当たりなんか。

あまりのことに目が点になる天流とフッチ。
本当にそんな理由で破壊者になったのだろうか、この男は。


「君さえそばにいるなら僕は破壊者なんてやめるけど? どうするのさ、ティル」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


どう答えろと言うのだろう。
つまり破壊者達の凶行は、本当に天流の手であっさりと止められたということか。

先程の二人の会話が天流とフッチの頭の中をぐるぐる回る。

「なんで何も言わないのさ? まさか嫌だとでも言うわけ?」

混乱する天流達が何も言えないことに苛立ち、ルックの秀麗な顔が険しくなる。

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ、ルック」

とにかく落ち着いて考えを整理させて欲しいと、天流はルックから身を離そうとする。
だが、ルックは強い力で天流を抱きしめ、

「だめ。はっきり言って欲しい。僕のそばにいるって」

「いや、だから・・・」

「そばにいるよね?」

「その前に・・・」

「いるよね?」

「ルック・・・」

「い・る・よ・ね?」(にっこりv)

「・・・・・・・・・・はい」

(・・・ルック・・・それじゃ脅迫・・・)

考える暇も選択権も与えられず、迫力負けした天流。
フッチは天流の窮地に同情の涙を流す。

満足の行く返事をもらった(もぎ取った)ルックは優しい笑みを浮かべ、天流を抱きしめてその唇を塞ぐ。
それに驚いたのは天流とフッチだ。
天流は慌てて逃れようとするが、思いの外力の強いルックの腕から逃れることができない。
フッチは驚きのあまり硬直し、すぐに赤くなって後ろを向いた。

(ルックの奴、僕がここにいるってこと忘れてるんじゃないだろうな)

いや、そう言えば彼はあまり人目を気にしない図太い神経してたなと過去を懐かしむ。

そんなフッチの後ろで二人のキスは激しさを増していくようだ。
天流の苦しげな、それでいて甘い息遣いが聞こえてくる。
このままだとここで事に及ばれてしまう恐れがある。

フッチが焦りを感じ始めた頃、天流が深く息を付く音が聞こえて振り向く。
視線の先では、力が抜けたらしい天流を支えながらルックが満足げな笑みを浮かべていた。

ルックはフッチに視線を向けると、ニヤリと凶悪に微笑んだ。

「それじゃティルはいただいていくよ。ああ、破壊者は解散するから安心しなよ」

そう言い残して、天流を抱いたままルックはテレポートでその場から消えた。


「・・・・・・そんなこと言ったって・・・」

取り残されたフッチは、しばらくの間茫然と突っ立っていることしかできなかった。

今、ここで一体なにが起こったのか。

状況を飲み込むのにかなりの時間を要したが、それより何よりこの事態を仲間にどうやって説明すればいいのか。





その後、破壊者と呼ばれる集団は姿を見せることがなくなった。


しかし、いつか世界のどこかでそういった集団がまた姿を現すことがあるのだが、黒幕らしき「男」の知り合いらしい人物が理由を問いただしたところ、「あいつが勝手にどっか行っちゃったから連れ戻すためにね」とかいう返事が返ってきたという・・・。

そして、しばらくするとその集団はまた歴史の表舞台から突然姿を消す。
どうやら「ある人物」があわてた様子で現れたかと思えば、「男」はその人物を抱きしめてどこへともなく姿を消したらしい。姿を消す時「男」の言い残した言葉は・・・「騒がせたね。それじゃ」だったと、ある人物の書記に記されていた。


そんなことが起きたりもするのだが、それ以降は「あいつ」は二度と「男」のそばからいなくなることはなくなったので、世界には平和が訪れたのだった。





(ティエン・・・本当にごめんなさいね・・・)

永き時の流れを見守ってきた門の紋章を持つ盲目の女性は、かつての英雄のこれから半永久的に続くであろう気苦労を思い、一人静かに涙を流すのだった。

弟子の育て方を思いっきり間違えてしまったことを深く深く後悔しながら・・・・・・。



END


ルク坊というより、ルク→坊ですか。ある人物って誰でしょうね?
にしてもこれって・・・・・・

あははははは〜・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げよ(脱兎)



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