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【白銀と春の息吹】
幻想水滸伝の主人公の名前はシュリ・マクドール 幻想水滸伝Uの主人公の名前はエルシオン(エル)
どこまでも真っ白な世界―――
「うわ・・・・・・・・・・・」
それは、窓を開いた先に広がっていた。
朝日を受けてキラキラと輝く真っ白な雪。
何もかもが雪に埋もれて、その形を僅かに覗かせている世界を見ていると、まるで異世界にでも迷い込んだような気がする。
それは、昨日の夜から降りはじめた雪のせいだった。
この時期特有の厳しい冷え込みのせいで、暗い夜空からチラチラと舞い落ちる白い綿雪は休む間もなく降り続き、一晩で外の景色を白銀の世界へと塗り替えたのである。
どこまでも真っ白で穢れの存在しない世界、その光景に目を奪われていた。すると、
「シュリさ〜〜ん!」
その声に視線を落とせば、今まさにその場所へと飛び出してきたのだろうエルシオン達の姿が目に入った。
「エル?」
こちらに向かって振ってくる手に手を振り返せば、エルシオンが窓の下まで走ってきた。
「おはようございま〜すv」
「おはよう。今朝は早いね」
そう微笑んで返せば、エルシオンはニッコリと笑顔を浮かべて見せた。
「はいv 折角こんなに雪が降ったんだし、皆で人文字作ろうって事になったんです」
「人文字?」
不思議そうに見ていれば、離れた場所でちょっと高い場所から降り積もった雪に向ってダイビングしているナナミ達の姿が見えた。
なるほど・・・・・・足跡一つない雪の上に倒れこむ事によって人型を取り、それを文字に見立てようというのだろう。
様々な形で倒れているが、辛うじて分かるのは『大』だけだったりするのが微笑ましい。
「楽しそうだね」
「楽しいですよ〜v あ、そうだ!シュリさんも出てきませんか?」
そう問われて、シュリは少し考え込んだ。
数年前、テッドがまだグレッグミンスターに居た頃、一度だけ大雪が降った日があって、その時そんな遊びをした記憶がある。
確かあの時は―――グレミオ達に黙って家を抜け出し、城門の外までも出かけていった筈だ。
広い草原一杯に真っ白な新雪がどこまでも続いていて、日の光を受けてキラキラと輝いていた。
最初は、そんな綺麗な光景に見とれていた自分を、テッドが突然突き飛ばした事に始まったような気がする。
その時の倒れたポーズの跡が妙に間抜けに見えて、大爆笑していたテッド。
それが悔しくて負けじと突き飛ばし、同じように妙に間抜けな跡を見て笑い返した―――懐かしい記憶。
無邪気にも冷たい雪に抱かれるのが楽しくて、何度も何度も雪の上に倒れこみ、疲れたらそのまま冷たい雪に埋もれてどこまでも青い空を二人で見上げていた。
「ね、シュリさんもやりましょうvv」
そんな懐かしい記憶に―――頷いていた。
すると、『それじゃあ』とばかりにエルシオンの手が上に向かって差し出される。
それが一体何を意味するのか分からずに首を傾げると、
「飛び降りてきてください。受け止めますから」
と、満面の笑みが返ってきた。
確かに武術においても自分と引けを取らない程の腕前で、その力が強いのは知っている。
だが、それと人一人の重みを受け止めるのでは話が違うだろうと思う。
だが、そんな戸惑いも関係ないとばかりに期待に満ちた瞳で見上げてくるエルシオンの姿を見ていると、遠い昔、テッドもまた同じように手を差し出していた記憶が蘇ってくる。
最も、テッドの場合には受け止める為ではなく、ここへ飛び降りて来いという意思表示だったが・・・・・・
「さあ!シュリさん!」
促すように声を掛けられて、迷いもあったが窓枠に手を掛け身を乗り出した。
そして一気に飛び立てば、朝日が目にキラキラと輝きを映した。
耳元を過ぎる風の音と、近づいてくる地面。
落ちる感覚に身構えていると、フイに全身を暖かい風が包みこんだ。
同時に、まるでそこだけ重力がなくなったかのように、身体がフワリと浮いた事に気が付いた。
「・・・ぁ・・・」
理由はすぐに思いついたので顔を巡らせれば、すぐ近くに同じように浮いている人物の姿が目に入った。
「何やってるわけ?」
不機嫌と呆れの混じった声が掛けられる。
(あっっ!こら〜〜!ルック!何、人のいい場面を横取りしてるんだよ〜〜!!!)
「落ちたらただじゃ済まないだろう。シュリ」
風に乗って近くへと漂ってきたルックが、シュリの腕を掴んで引き寄せた。
(あ〜〜!こらああ〜〜!!何、一人いい目を見てるんだよ!シュリさんを返せ〜!っていうか、ボクが折角、かっこよく抱きとめようと思っていたのを邪魔しやがって〜〜〜!こンの、お邪魔虫〜〜〜!!!!)
「大丈夫だよ。そんなにヤワじゃないし」
苦笑しつつそう返すが、顰められたままのルックの眉が緩む事はなかった。
「何言ってるんだか」
ルックはそう言って、抱き寄せたまま元の部屋の窓へと向かって飛んだ。
(あっ!!!こら、ルック!シュリさんをどこへ連れて行くんだ〜!返せ〜!戻せ〜!!!シュリさ―――)
そして部屋に入った途端、窓をピタリと閉めて外界と遮断してみせると、それまで抱きしめていた身体を離し、頬を包み込むように手が添えられてきた。
「ほら、もうこんなに冷たくなってる」
触れ合う箇所から感じるルックの手の暖かさ。
それによって思った以上に自分の身体が冷えている事にやっと気が付いた。
そして、その暖かさにシュリはそっと目を閉じた。
「ったく、こんな薄着で飛び出そうとするなんてバカだよ」
そんな毒舌も、心配してくれての言葉だと分かるだけに苦笑が浮かぶ。
「―――暖かい」
そう言って笑みを零せば、ルックの口元にも僅かな笑みが浮かんだ。
「ほら、言わん事じゃない。第一、雪塗れになる事の何が楽しんだか、僕には分からないね」
「ルックは、遊んだ事ないんだ?」
「当然だろう。この寒い中、何好き好んでもっと寒い真似をしなくちゃならないのさ」
「でも、意外と楽しいんだけど?」
その言葉に、ルックの眉は不機嫌そうに顰められた。
「子供じゃあるまいし」
にべもない返事が返ってくる。
外見的には自分も、ルックもまだ『子供』だと言ってもいいが、それを敢えて口にはしなかったのは賢明だろう。
でなければ、今度は一体どんな毒舌が返ってくる事か―――
でも確かに、無邪気に雪と戯れて遊ぶルックという図が思い浮かばないだけに、これ以上藪を突付いてヘビを出す必要もなかった。
「それよりも・・・・・」
と、ルックがドアの方へ向かって視線を流した。
「?」
何が気になるのだろうとそちらへ意識を向ければ、何やら遠くからドタドタと凄まじい足音が近づいてくるのが聞こえてくる。
その上―――
『お〜の〜れ〜〜!許すまじ、ルック〜〜!シュリさんを返せ〜〜〜!!!』
という声まで響いてきては、正体は自ずと知れるというものだ。
「煩いのが来た」
さも嫌そうにルックが顔を顰める。
そして小さく口の中で呪文を唱えると、フワリと暖かい風が二人を包み込むとその部屋から消えていった。
バターーーーーーン!
「ルックーーーー!!!」
叫んで飛び込んだエルシオンだったが、時は既に遅かった。
空気が変わった事にそっと目を開けてみれば、そこは梅林だった。
白い小ぶりの花を咲かせている梅の木達。
桜とは違う趣のあるその姿に、つい口元が綻んだ。
「ルック、ここは?」
年が変わってそれほど経たない今の時期は、デュナン地方ではまだ梅は咲かない。
トランでもここまで満開の梅林はまだ存在しない筈だ。
となれば、かなり南に下った事になるだろうと当たりをつけた。すると、
「ファレナ女王国」
返ってきたルックの言葉は、予想に違わなかった。
トランよりも南に位置するこの国では、もう既に春の息吹が宿っているらしい。
「本当なら桜が良かったんだろうけど、まだ時期が早いからね」
枝を一つ手折りながらそう言ったルックは、手折った枝を手向けてくれた。
「ありがとう」
それを受け取りながら礼を口にし、そっとその花の匂いを嗅ぐ。
仄かな、梅の花の匂い。
目を閉じてそれを感じながら、しばらくの間静かな時に身を任せた。
何も語らない時間。
ルックもまた口数が多くないので、ただ黙って側に立っているのだろう。
けれどそれは居心地の悪いものではなく、妙に心が落ち着くものだった。
やがて瞳を開けば、南から吹き上げれられる春の風に木々が枝を揺らし、梅の花が震えている姿が目に入った。
「知ってる?『高潔』、『忠義』、『澄んだ心』、『独立』・・・・が何を意味するか」
突然のルックの言葉に、それが示すものを考えてみた。
すると、自分の手の中にある一本の枝が目に止まる。
「それって、確かこの梅の花言葉だったかな?」
そう応えて手にした梅の枝を掲げて見せれば、ルックはどこか謎めいた笑みを浮かべてみせた。
それが、まるで今の回答に対して『正解』とも『不正解』とも言っているように見える。
それに戸惑っていると、笑みを載せたままルックが音もなく近づくと、そっと抱きしめてきた。
「ルック?」
どうしたのかと言外に乗せて問うと、耳元に寄せられた唇が―――
『君の事だよ―――』
と、囁いた。
「え?」
突然、何を言い出すのかと上げた声はルックによって封じられ、後は物言わぬ梅の木だけが見ていた。
「今度は―――桜を見に行こうか」
そっと髪を撫でられる感触と共に、そんな声が聞こえてきた。
暖かい春の息吹は、疲れた身体を否応なく眠りへと誘ってくれる。
そんな中、瞼の裏に薄紅色の花々が舞う木々が浮かび上がった。
(きっと・・・・・キレイだろうな・・・・・)
満開の桜の花。
舞い落ちる花弁の中に佇むルックの姿はきっと映えるだろう。
そう思ったから、小さな声で答えた。
「・・・・・うん」
辛うじて聞こえたのだろう、一瞬だけ止まった手が再び優しく撫でるのを感じつつ、今度こそ深い眠りへと誘われていった。
― fin ―
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