好き。



















好きって、一体何の基準で、どういう原理で、
そう思うものなんだろうか。
シーナはそれをずーっと不思議に思ってきた。








――…ティエンに、会うまでは。








大体そんな人、いなくても困らないし、
可愛い子は可愛いくて、美人な子は美人。
それを素直に愛でるのは、男の使命だろ?
ずっと、そう思っていたのに。


……ティエンと出会って、ティエンと接するうちに。


いつの間にか胸が熱くなることを知って、

焦がれるような疼きを感じて、

貪欲なほど求める気持ちを知った。



「……あーあ、手に入らないものは基本的に追わない主義だったんだけどなぁ」



声はかけてみるが、諦めも早い。
それがある意味、シーナの良い部分でもあったし、
ふざけて見える部分でもあった。
本人もそれは自覚していたのだろう。
高望みもしなければ、どこかに留まりもしない。
――そうやってフラフラ生きてきたのに。

……どうして、彼はあんなに高貴で純粋で、美しいのだろう。

世界に彼を表現する言葉はない、足りない。
こんな言葉じゃティエンの素晴しさを伝えられない。
そう思う位、愛してしまった。
もう、手遅れなところまできている。
「………諦めるって、どうやってやるんだっけか」
そんな簡単な事まで忘れてしまって。
その姿を見つけてしまえば、勝手に目が追っていて。
声を聞けば、足を止めてしまう。
何だか、中毒の様だと、呆れてしまう位、愛してる。


それを伝えたら、ティエンはどんな顔をするのだろうか。
やっぱり、困った様に、微笑むのかな。


それだけでも十分かもしれない、
そう思えてしまう位、好きで好きで、どうしようもない。





ただ、そんなティエンに魅かれるのは決してシーナだけではないのだ。
「………本当まいっちゃうよなぁ」
今日も本拠地の中を、なるべく沢山の人と接するために歩くティエン。
そんなティエンに、馴れ馴れしく触ったり話しかけたりする住人。
その光景を見ていると、シーナは、はらわたが煮えくり返りそうになる。
それがたとえ、シーナにとっての友人である、
ルックが何の気なしにティエンと話しているのだとしても、
彼の大切な信頼する軍師と話しているのだとしても。


かわらず苛々してしまう自分に、更に苛々する。


まさに悪循環だ。
「………相手、男だし」
好きになった人も男。
嫉妬してしまう対象も、男。
シーナは思わず頭をかかえた。
無類の女好きと言われてきた自分が、まさかそんな。
「こんなに男に夢中になるとはなー、どうりで女じゃダメな訳だ」
はあーっと深い溜め息をつくと、
シーナは姿勢を正して改めて外を見つめた。


「考えてたって、気になるもんは気になんだし。
結局行くっきゃないんだよなー」


ふうっと一回短く息を吐いたシーナは、
ひらりと窓から飛び降りると、
今はタイ・ホーと話しているティエンの元へと駆けて行った。
「ティエン!」
大声で呼びながら駆け寄るとティエンと、
タイ・ホーが振り返って。
「よー、シーナ坊。どうした?」
シーナの事を子ども扱いした呼び方をする、
タイ・ホー独特の口調。
だが幸運な事に、タイ・ホーとヤム・クーはシーナにとって、
唯一気持ちを隠さないでいられる大人だった。

「うっせぇなー、おっさんが馴れ馴れしくティエンにしてっから、
ティエンを守ろうと思ってきたんだよ」

タイ・ホーの方を冗談交じりに睨みながら言うと、
タイ・ホーは本当に楽しそうに笑って、シーナの髪をかき混ぜて。
「そーかそーか、んじゃティエン、この辺でな」
突然の事の成り行きに、首を傾げて見ていたティエンは、
ほとんど条件反射の様にこくんと一回頷いた。
「………本当に行っちゃった、どうしたのシーナ?」
あんなに駆けて来たのだから何か用事があるのだろうと
察したティエンが微笑んで聞いた。
だが、そう聞かれるとシーナもリアクションに困る。

「……ええっと、さっきの通りなんですケドね……」

タイ・ホーに言ったあれは、冗談だとでも捕えたのか。
もしくは聞いてなかったのか……。
「??シーナ、用事があったわけじゃなかったのか?」
……ティエンにしては、少し厳しい物言いだと思う。


それもその筈、最近は戦争戦争と立て込んでいて、


温厚なティエンにとって心休まる暇もない、酷い戦況だ。
だからこそ、1日1日、なるべく沢山の人と話して、
彼らの心を癒して、落ち着かせてあげられればと思っているのだろう。
…――じゃあ、そんなティエンの心は誰が癒してあげるのだろうか。
シーナはふと、目の前で張り詰めた感情をもてあますティエンを見つめた。
「用がないなら、悪いんだけどもう行くよ?」
少し申し訳なさそうに眉を寄せたティエンに、
シーナは反射的にその細い手首を掴んでいた。
「……用事、あったわ。やっぱ」



「え…………、って、シーナ………?!」



それだけ言うと、ティエンの手を引いて歩き出したシーナに、
ティエンは訳がわからず声を上げた。
「どこ、行くんだ、まだ…………」
やることが、と言葉が続くのはわかっていた。
だけどそれを遮って、シーナは言った。
「分かってる、でも、俺も何かしたいんだって」
「………――え?」
多分ティエンには通じていないと分かっていたが。
シーナは言わずにはいられなかった。
首を傾げるティエンに構わず、シーナは歩き続けて、
やがて本拠地の最上階に辿り着いた。
今は、誰もおらず、とても静かだ。

「……シーナ?用事って………?」

はぁ、とわずかに乱れた息を整えながら、
ティエンは困った様に尋ねた。
――…これだけ勝手をしても怒らないのは、
ティエンが本当に優しい人だという、証拠だと思う。
シーナはそれだけ思うと、
ひっそりと微笑んで、窓の外を指差した。
「……忙しくて、見る暇もなかったか?」
これだけ黄金色の光が差し込んでいるのに、
全く気付かなかったティエンの背を押して、窓辺まで誘って。


ぶわりと鳥肌が立つような、
最近では一番美しい、夕焼け。


「……………あ」
黄金色の光が、これでもかという位窓一杯に差し込んで。
そして、限られた時間帯の中で、精一杯綺麗に輝いている。
湖を柔らかく染める太陽は、
ゆっくり ゆっくりと その姿を消していって、
やがて湖と一つになるような錯覚を覚えた。
「………綺麗だよなぁ」
毎日ぼんやりと見ているシーナでさえも、
今日の夕焼けは特別美しいなと思う程で。
何て良いタイミングで抜群の光を与えてくれたのか、
と感動すら覚えた。


「………忘れてたよ、こんな景色」


そんなシーナの気持ちを知ってか知らずか、
ティエンは久々に見る穏やかな表情で、
ぽつりと 僅かに零した。
「忘れてねぇだろ、時間なかっただけでさ」
素直に感動してくれているティエンを見ていたら、
何だか恥ずかしくなってきてしまって、
シーナはわざとぶっきらぼうにそう告げて。
ティエンは分かっているのか、ふふっと小さく笑んだ。
「……ありがとうシーナ、気を、使ってくれたんだね」
「………ティエンは皆の為に頑張ってるんだから、
俺らがお前の為に頑張るのは当たり前だろ」
そこで、俺が、と言えないのもまた、シーナの性格だ。
ティエンは、少し驚いた様な顔をしてから、
本当に嬉しそうに、はにかむ様に笑って。


「――…うん、忘れないよ。何があっても、今日という日を」


その言葉の意味は、シーナにも容易く理解出来た。
また暫くしたら、激しい戦いが始まる。
ティエンの命だけはとられまいと、沢山の命がまた、
ティエンの名のもとに散っていくだろう。
それでも、今日生きていた人を。
昨日生きていた人を。
今まで生きていた人を。
絶対に忘れない、と、そういいたかったのだと思う。
と、シーナはぼんやりと考えていた。

それはティエンが更にティエンを追い込む要因なのだけれど、
そうする事でしかティエンは自分を救えなかったのだと思う。
「……俺だって、お前が頑張ってるとこ、忘れないからな。
第一、俺、頑張ってるお前見てるの好きなんだよな」
『好き』それは言葉に出せばとても軽い感じがした。
でも、確かに頑張っているティエンは、
軍主として、愛すべき人だった。
勿論、シーナの場合それ以外の感情の方が大きい訳だけれど。
「………ありがとう」
いつかぶりに見るティエンの『本当の笑顔』に、
シーナはクラクラしつつも、精一杯微笑んで見せて。


二人で、暫く、空が紫になる頃まで外を眺めて、
翌日からはまた、二人の関係は軍主とその部下、
いつもの凛々しいティエンと、
遊び人のシーナに戻っていた。






それでもシーナは、今日も思う。

自分の愛するあの人は、今日も無理をしていないかと。

……そして、愛する人の為に何かしたいと思う事、
それは決して理屈じゃはかれないものなんだと、
シーナがぼんやりと気付き始めたのも、丁度この頃だった。


























END


季緒せつなさまから相互リンク記念に頂きました、シナ坊小説です!
悩みながらも坊ちゃんのために頑張るシーナが素敵です♪
いい加減そうに見えてシーナは友情に厚く、愛情に誠実な良い男だと思います。
そんなシーナの友情と愛情を受ける坊ちゃんはきっと幸せになれますよねv


素敵なSSを、本当にありがとうございました!



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