|
仕えるべき存在
突如、体中に奔った衝撃に天流は一瞬意識を失いかけた。
すんでのところで持ち直し、足に力を入れたが衝撃の激しさに身体が揺らぐ。
数歩後ろに控える忍者がそれに気付かないわけもなく、気付けばその腕に抱きとめられていた。
「如何なされました」
「少し、眩暈がしただけだよ」
心配をかけさせないように平然と答えたが、カゲは無言のまま天流を抱き上げた。
「ご無理はなされぬよう」
「いや、この格好は恥ずかしいから下ろしてほしい」
確かに、男である天流が男にお姫様抱っこで運ばれるのは筆舌に尽くし難い羞恥だろう。
例えその場所が人気(ひとけ)のない滅びた村の跡であっても。
天流の訴えを、カゲはただ「ご辛抱を」とだけ返して聞き入れてはくれなかった。
これはもう誰にも見られないようにと願うだけだ。
黒焦げとなった家々の残骸の跡も痛々しいトトの村。
数日前に訪れた時には大量に転がっていた村人達の遺体も、今は誰かの手によって丁重に葬られている。
ミューズへと向かう途中、進路にあるこの村に足を踏み入れて幾許も経たない中、突然天流の身体に異変が起きた。
自分の周囲を淡い光の膜が覆っているのに気付いて右手を見ると、生き物のように蠢く闇が見てとれた。
(この村に何かあるのか?)
周囲を見渡すが、静寂だけが広がる。
しかし村の奥に目を凝らせば胸を騒がせる何かの気配を感じた。
そちらに意識を向けようとすると、一段と右手の闇が大きく蠢く。
その中にあらゆる波動を感じた。
憎悪にも似た激しい感情、歓喜に震える不気味な感情、哀切のような不可解な感情、様々な複雑な感情の流れが渦巻く。まるで宿敵と親友が同時に現れたかのような、相反する想いが入り乱れていた。
(この場を離れなければ・・・)
このままでは制御不可能な状態に陥る恐れがある。
ソウルイーターをここまで反応させるものの正体を突き止めたいのは山々だが、今の天流では紋章を抑えられる自信がない。
ただでさえ傭兵の砦からトトの村に向かう中で紋章の動きがおかしくなっているのだ。
カゲと共にハイランド軍の動向を見守ることに決めてから、ある程度の覚悟はしていた。何故かハイランドに居ることによって抑えられている紋章が蠢きだすであろうことを。
だが、これまでは至って平穏だったのだ。しかし傭兵の砦が堕ち、次にハイランド軍が侵攻するであろうミューズに向かう中、紋章は少しずつ動きを活発化させ始めている。
ハイランド軍から離れたせいだろうか。
考えられるのはそれしかないように思える。
それではハイランド軍の中の何かによって、ソウルイーターは抑えられているということか。
その“何か”さえ解れば・・・。
腕の中で右手を押さえて考え込むように目を伏せる天流を見下ろしたカゲは、ふと村の奥に視線を向けた。
複数の人の気配を感じる。
殺気はなく、そもそもこちらに意識は向いていない。
彼らが何者なのか、この村の奥に何があるのか、カゲは正確に知っていた。
だが、まさかその二つが結びつくとは思わなかった。
ソウルイーターがこれほどまでに反応したということは、“彼ら”は“力”を得たということだろうか。
となれば。
(・・・星が動く)
それは遠くない未来、この国が大きな戦争へと向かうことを示唆する。
知らず知らず、天流を抱く手に力が入る。
(巻き込ませはしない・・・。この方だけは、何があっても・・・)
そのためならば何でもしてみせよう。
天流達が去った後、村の奥の祠から出てきた二人の少年の手には“黒き刃の紋章”と“輝く盾の紋章”がそれぞれ輝きを放っていた。
■■■■■
トトの村から離れると、やがてソウルイーターは鎮まった。
気を抜けばまた蠢き始めかねないが、ひとまずは落ち着きを取り戻す。
ようやくカゲの腕から解放され、天流は色んな意味で安堵した。
「やはり今の僕ではこれを持つのは荷が重いね」
苦笑交じりに零れたのは、天流には珍しい弱音だ。
それほどに紋章は天流を蝕んでいるのだろうか。
カゲの常に能面のような無表情が痛ましげな色を浮かべた。
しかしすぐにそれは消え、ふいに遠くに向けた視線は鋭い。
突然変化したカゲの雰囲気に、天流は面食らったように目を丸くした。
「どうした?」
「血の匂いが・・・」
「血? 何故」
「おそらくモンスターの類かと」
モンスター同士の争いならば気に止める必要は無い。動物が相手でも捕食しているのだろうから、あえて邪魔する必要は無い。無闇に刺激しないように素通りすれば良いだろう。
だが、どうやらその気配は進行方向から感じられるようだ。
このままミューズに向かう道を進むと、否応無く現場に近づくことになり、モンスターがこちらに気付く恐れもある。
天流とカゲはそれぞれの武器を手に、警戒を緩めることなく道を進んだ。
「うわ・・・っ」
天流にもはっきりとモンスターの気配を感じられるようになった頃、小さく聞こえたのは確かに人間の声だった。
人が襲われているのか?
その瞬間、二人はモンスターの方へと駆け出した。
草むらの向こうに、倒れた男性に突進しようとするモンスターの姿を目に捉え、カゲは手にしたダガーを投げつける。
ダガーは見事に命中し、今にも男性に噛み付こうとしていたモンスターは突然襲う痛みに悲鳴を上げた。
悶えるモンスター目掛けて駆ける天流は、勢いのままに手にした剣をその首に突き立てた。
剣はシードの家から拝借した演習用の刃の削られたものなので、本来ならば殺傷能力は高くない。だが全速力で走って勢いが付いたことによって、剣はモンスターの首を貫通した。
断末魔を上げることもなく倒れたモンスターが完全に息絶えたことを確認し、天流は突き立った剣を抜いた。
こびり付いた血を振り落とし、刃に残る血と油を拭き取って鞘に戻す。
「助けて頂いてありがとうございます」
穏やかな声に振り向くと、モンスターに襲われていた男性が立ち上がって天流とカゲに微笑みかけていた。
所々に傷を負っているが、大きな怪我はなさそうだ。
年の頃は三十代半ばほどだろうか。旅人というわけでもなさそうだが、何故こんな所でモンスターに襲われていたのだろう。
「ご無事ですか?」
「はい、もう駄目かと思いましたが、私は運が良いですね」
そう言って男性はにっこりと笑って手を差し出した。
握手を求めているようだが、今は右手を他人に預けるには躊躇してしまう。
天流の思いを汲み取り、男性の握手に応えたのはカゲだった。
「私はホウアンと申します。この先のミューズ市で医者をしている者です。実は薬草が足りなくなってしまいまして、探しに来たのですが・・・やはり用心棒の一人も連れてくるべきでしたね。貴方方にお怪我はありませんか?」
「心配は無用。医師殿も気をつけられよ」
手を離すと、カゲは天流の後ろへ下がった。
「薬草は見つかりましたか?」
「いえ、それがまだ足りません。この先怪我人が増えるかも知れませんので、薬はいくらあっても足りることはないんですよ。もし宜しければ手を貸して頂けませんか? あ、もちろんお急ぎでしたら無理にとは言いませんが」
「構いません、手伝います。カゲも、いいかな?」
「御意」
天流とカゲの明らかに主従関係が窺えるやり取りを興味深く眺めていたホウアンだが、詮索する素振りも見せずに「ありがとうございます」と頭を下げた。
天流もカゲも、薬草に関する知識は広い。
ホウアンが必要とする薬草も、名前が解れば実物を探すことは容易だった。
そんなこんなで一刻も過ぎる頃には籠いっぱいに薬草が積まれていた。
「ありがとうございます、お二人とも。こんなに早く薬草が集まったのは初めてですよ」
「お役に立てたのなら何よりです。ミューズまでお送りしましょうか?」
「何から何までありがとうござます。では是非今夜は私の家にお泊り下さい」
ホウアンの申し出に天流とカゲは思わず目を見交わした。
「もうすぐ日も暮れますし、私の家で休んで下さい。今ミューズは街への出入りが規制されていますが、私ならば明日はちゃんとお二人を送り出せますよ」
街への出入りが規制されるという言葉に、天流は素早く思考を巡らせた。
傭兵の砦が落ちたのは昨夜のこと。今頃は傭兵達が大勢ミューズ市に逃れているはずだ。
そしてミューズ市はハイランド軍との戦争に備え、外からの干渉には敏感になっている。
僅かな時間一緒に居ただけでもホウアンが人格者であることは解る。
優秀な医者であり、信頼できる人柄は多くの人に慕われているだろう。
彼が手を貸してくれるならば確かにミューズ市への出入りは簡単だ。
さて自分達はどうするべきか。ミューズの外から情勢を見守るか、それとも。
「なれば暫くミューズ市に滞在させて頂きたい」
天流が結論を出す前にそう言ったのはカゲだ。
「暫く滞在・・・ですか? ですがミューズ市はこれからハイランドとのいざこざが起きて・・・」
「某(それがし)は医学の心得がある。医師殿の助けとなろう」
カゲの真意を計りかねていた天流だったが、口を出そうとはしなかった。
忍者である彼が医学に精通しているのは事実であり、主君に絶対服従する忍が、忠誠を捧げる者に不利な判断を下すことは考えられない。彼には彼の考えがあるのだろう。この場はカゲを信頼して任せることにした。
ホウアンは戸惑いを隠せない様子で天流とカゲを交互に見る。
「手を貸して頂けるのはありがたいのですが、戦争になるかも知れないのです。貴方方は戦う術をお持ちのようですが、危険過ぎます。今ならまだハイランド軍の手は及びません。ですから・・・」
早くこの地を離れろ、と言いたいのは解る。
けれど、天流はそのハイランド軍の侵攻に合わせて動いているのだ。ミューズの近くには居る必要があった。
「傭兵の砦の兵士には知り合いが居ます。彼らがミューズ市に逃げ延びている可能性は高い。彼らを探したいのです」
咄嗟に口をついて出た天流の言葉に、カゲが驚きを見せたことには気付かなかった。
「そうでしたか、それは心配でしょう。解りました、お二人とも私の家においで下さい」
同情の込められたあたたかな言葉に、天流の胸が痛む。
嘘を吐いてごめんなさい、と心の中でホウアンに詫びる天流だったが、傭兵の砦には本当に天流のかつての仲間が居ることを知るカゲは、動揺を封じるのに多大な精神力を費やした。
一瞬、天流の記憶が戻ったのかとさえ思ったのだが、現実はそんなに簡単ではないようだ。
その後、天流は自らを“テッド”と名乗り、ホウアンと共にミューズ市に向かった。
ミューズ市の入り口には、見張り役と思われる同盟兵士が立っていた。
彼らはホウアンの姿を見るとすぐに門を開き、中へと通してくれた。
ホウアンの隣に立つ天流に目を向けると、何故か兵士達は頬を染めて慌てて視線を逸らす。
不審に思われたのだろうか、と考えていると、ホウアンが堪えきれずに笑いを漏らした。
「テッドさんは綺麗な顔立ちをされていますからね、女性慣れしていない無骨な兵士達には目の毒なのですよ」
「・・・・・・」
嬉しくない。
ここでもまた性別を誤解されて過ごすのか、と思うと憂鬱になった。
「申し訳ありません、男の子なのに女性に間違われるなんて不愉快でしょう?」
ホウアンの言葉に天流は目を丸くした。
まさかそんな言葉を掛けてくれる人がいるなんて・・・。
当初から天流の性別を“男”だと察してくれた人間は、悲しいことにこれまで居なかった。
女性的な仕草など身に付いてもいないはずなのに、何故こうも誤解され続けてしまうのか。怒りを通り越し、情けなさを超越して、すでに諦めの境地に達していた天流にとって、ホウアンの言葉は救いだった。
粉々になりかけていた“男としての自尊心”が、ほんの一欠けらだが守られたような、小さな軌跡――。
天流の中で、ホウアンへの好感度がぐんぐんと勢いを付けて上がっていったのは言うまでもない。
ミューズ市内に入ると、天流はホウアンの家へと招き入れられた。
診療所も兼ねているその家は、医療器具や薬草が所狭しと並んでいる。
居住空間は主に二階らしいが、整然としているその部屋はホウアンが滅多にここで過ごしていないことが見てとれた。
夜中に急患が来ることや、呼び出されることを考慮して常に一階の仮眠室で休憩しているのだと言う。
一通り部屋の説明を受け、早速薬草を調合する作業に入ろうとすると、どこからともなくカゲが現れた。
柱の陰からスーッと現れて天流の背後に控えるカゲの姿に、ホウアンは引き攣った声を上げる。
「はあ、驚きました。いきなり消えたと思ったら、突然現れるなんて・・・」
「ご無礼致した」
そう言って軽く頭を下げる。
忍者であるカゲは人目につくことを厭う。
彼はミューズ市に近づくと忽然と消え、独自の手法でミューズ市に忍び込んだ。
彼の手に掛かれば天流も同盟軍に見つからず隠密にミューズに入ることはできたが、できることなら天流は正規の方法で市内に入った方が良いと判断したのだ。
今の情勢で突然現れる余所者にミューズ市の市民は不審を抱く。
ならば市民に信頼されているホウアンの元で庇護されていれば、面倒な事態は回避できる。
二人きりになった時、天流は「何もミューズ市に入る必要もなかったのだけれど」とカゲに言ってみた。
それに対してのカゲの返答は「ハイランド軍がミューズ市に攻め入るにはまだ時間が掛かりましょう。となればミューズ市に入らぬ場合、主殿は野宿されることとなります。今の主殿には向きますまい」だった。
天流には反論の言葉も無かった。
記憶を失う以前ならばいざ知らず、今の天流には野宿の経験などほとんどないのだから。
テッドと出会って少しずつ色々なことを覚えたものの、やはり天流はお坊ちゃんである。
■■■■■
ハイランド領と都市同盟領を隔てる境界線。
そのハイランド領側に立って、鋭い眼光で都市同盟領を見つめる一人の男の姿があった。
長く微動だにしなかった男だが、ふいに視線を動かした。
彼の目の前に、闇の中から浮かび上がるようにして忍び装束の男が立つ。
「ようやく現れたか、カゲ。待ちくたびれたぞ」
威圧感すら覚える声に、カゲは黙って頭(こうべ)を垂れた。
「お前の真の忠誠が天流殿にのみ向けられているのは知っているが、私がお前の依頼主であることも忘れてもらっては困るぞ」
「承知している」
短く応えるカゲをこれ以上問い詰めても無駄だとばかりに、レオン・シルバーバーグはさっさと本題に入った。
「それで、ハイランド軍と都市同盟の様子はどうなのだ?」
カゲはこれまで自分が見てきたことを淡々と語った。
ルカ・ブライトがユニコーン隊壊滅の罪を都市同盟に被せ、まずは傭兵の砦を落としたこと。傭兵の中にはかつて解放軍として戦った者達も含まれていたこと。そして砦から逃れた傭兵達の中に、ユニコーン隊の生き残りの少年達がいることを。
だがカゲは天流のことに関しては一切その存在を匂わすことはしなかった。
語り終えると、レオンは特に驚きもみせずに言った。
「生き残った少年兵の一人はジョウイ・アトレイドと言ったな?」
問いにカゲは無言で頷く。
「使えるかも知れんな。一度会ってみたいものだ」
「もう一人の方は?」
「孤児の子供だろう。役に立つとは思えん」
アトレイド家の長男は優秀だという情報はレオンも掴んでいるだろう。
彼は頭の悪い人間は嫌いだ。貴族育ちのシーナに対する評価さえ厳しかったのだ。道場に住む孤児の少年など鼻にもかけない。
「レオン殿はルカ・ブライトには興味がござらぬか」
カゲの言葉に、レオンは「馬鹿なことを」とせせら笑った。
「ルカ・ブライトには軍師など必要ない。あの男が他人の意見を聞き入れるように見えるか?」
確かに、横から口を出そうものなら五月蝿いとばかりに斬り捨てられそうだ。
「あの皇子は優秀だ。天流殿に勝るとも劣らぬ覇者の資質を備えている。しかし、奴は血に餓えた野獣だ。天下を取る気も、王国を繁栄させようという気もない。ただ破壊と殺戮だけを追い求めている。奴は世界にとって害にしかならんわ」
吐き捨てるような口調からは、ルカ・ブライトに対する畏怖と嫌悪の感情が読み取れる。
どちらも我が道を突き進むタイプの二人の相性は最悪なことだろう。
「ワシは軍師としての力を振るえる場が欲しいのだ。天流殿を主と仰ぎたかったが、ついにマッシュを越えることはできなんだ。あの方はルカ・ブライトとは違う意味で難しい方だった。たった一人の軍師しか求めず、あの方の厳しい条件を備えていたのはマッシュだけ。例えワシが無理矢理正軍師の座に着いたところで、あの方はワシの意見に耳を傾けては下さらぬだろう。昔マッシュに破門された――何と言ったか、あの若造は・・・とにかく奴などは論外だろうな」
マッシュに破門された人物のことは知らないが、天流の軍師になるのが非常に難しいことはカゲにも理解できる。
天流は軍主であると共に軍師の才能も備えていた。戦場においては自分自身の判断によって作戦を変更することもある為、軍師となる者とは咄嗟の事態にも素早く対応できるだけの揺ぎ無い信頼関係が何よりも必要となる。
三年前の戦争は天流の中で思い描く確固とした未来像があり、その実現のために軍主の座に着いた。そんな天流と志を同じくし、共に歩んでゆける軍師――それは世界の覇権を取るとか、強大な権力を打ち倒す野望に燃えるレオンではなく、圧制からの解放とトラン国民の意識の変革を望んだマッシュこそが相応しい。
「カゲ、ジョウイ・アトレイドと接触しろ。そしてワシの前につれて来い。使える奴ならば、ワシは軍師としての力をすべて尽くしてこの戦争を終わらせてみせよう」
「では、都市同盟に与すると?」
その質問にレオンは答えなかった。
「天流殿とマッシュがすべてを掛けて守り抜いたトラン共和国の脅威となるものは、すべて排除する」
断固とした強い声音。
都市同盟領―ミューズ市の方を見据える瞳には強い決意が窺える。
三年前の戦争は、レオンの中にも何か強烈なものを残したのだろうか。
ふとカゲの脳裏にあの頃の記憶が蘇る。
戦争が終わった後、天流によって国が統治されることを誰もが望んでいた。
その思いが誰よりも強かったのがレオン・シルバーバーグである。
マッシュ亡き後、天流のもとで宰相としてトラン国に仕えるつもりでいたことは、戦後の会議などでの様子からも明らかだった。
現大統領のレパントも、かつて帝国将軍としてバルバロッサ皇帝に仕えていた将軍も、兵士達や国民も、皆が新たな国家元首に天流を望んでいた。
しかし、天流はそんな思いに応えることなく、ある日忽然と姿を消した。
レパントや将軍達には天流とマッシュによって様々な要職が割り当てられていたが、レオンは何も望まれていなかった。
仕えるべき主を失い、何も与えられず、目標をなくしたレオンは、やがてトランを去った。
もしもレオンがすぐ近くに天流が居ることを知ればどうするのだろう。
トランに戻り、天流を国王の座に座らせるだろうか。
それともこれから始まる戦争に巻き込ませ、天流の力でもってデュナン地方を平定させようとするのだろうか。
三年間の記憶を失っているのを知れば、レオンはおそらくそれを利用する。
マッシュと出会う以前の天流なのだから、彼の軍師になれるよう策を巡らすはずだ。
だからこそカゲは天流の存在を隠した。
レオンと接触せずとも、傭兵の中にビクトール達の存在を知れば彼等を助けようとするかも知れない。
再び戦争に巻き込ませるくらいならば、記憶など取り戻さなくて良い。
ただ心安らかに居てくれれば良い。
その身は、必ず守るから――。
(その為ならば)
忠誠を捧げた国家に裏切られた二人の少年の姿が過ぎる。
三年前の天流と同じように、時代のうねりの中に引き込まれ行く運命を背負わされた少年達。
気の毒に思う。
同情も覚える。
だが天流の安寧の為であれば、彼等を犠牲にするのも厭わない。
レオンと別れ、カゲはミューズ市へと戻った。
ホウアンの診療所には、唯一人の絶対の主が居る。
感情を抑えることに長けた忍者が、逸る気持ちを抑えられないとばかりに足を速めた。
END
レオン・シルバーバーグ登場です。
うーん、改めて書くと坊ちゃんてば純真な男心を弄んでたんですね(え?)。
カゲはひたすら坊ちゃんのために動いています(笑)。
そしてホウアン先生登場。ホウアンが本拠地に行くまで一緒です。
|