世界は二人のために






爽やかな朝だ。
空は青く晴れ渡り、朝を告げる小鳥の歌が一日の始まりを優しく告げる。


新しい朝。希望の朝。喜びに胸を開く、そんな朝を――不機嫌絶頂で迎える者がいた。





・・・朝っぱらから嫌なモン見ちまったぜ・・・。





朝陽が柔らかく光を落とす部屋でホークアイは寝台に上体を起こし、畑仕事に精を出す農家のお年寄り並に早起きをした我が身を呪った。
出来ることなら今目にしている光景はすべて忘れ、このまま気持ちの良い眠りに戻りたい。

「そうだ・・・これは夢だ。悪い夢なんだ、うん。さてもう一度寝て・・・じゃなくてそろそろ目を覚まそうぜ、現実の俺・・・はは・・・」

乾いた笑いを虚しく響かせ、ホークアイは布団を被って横になろうとした。


「・・・ん」

微かな声を漏らし、ホークアイの隣の寝台がもぞもぞと動いた。
軽く綴じられていた瞼がゆっくりと開き、深い藍の瞳が眠たげに瞬きをする。

「朝か・・・? ああ、おはようホークアイ」

「よぉ・・・デュラン・・・」

身を起こそうとしたデュランだが、はっとしてその動きを止めた。
彼の表情が優しいものとなる。
それを見て目が据わるホークアイ。

朝陽を浴びてきらきらと輝く美しい髪を、デュランの手が愛しそうに撫でる。
握り締めたホークアイの拳がふるふると震える。


「一つ、訊いてもいいか?」

「何だよ」


強張ったホークアイの声に、どこか甘さを帯びたデュランの声が返る。



何故、お前とリースが一緒に寝ている・・・?



デュランの腕の中で安心しきったようにすやすやと眠る少女。
やはり夢ではなかった。


「何を訊くかと思えばそんなことか。答えは一緒に眠ったからだ」

「そんなごく当たり前の答えを聞きたいんじゃねえ。何で、お前とリースが一緒に寝ることになったのか、その過程を訊いてるんだよっ、俺は」

眠るリースを気遣ってか、ホークアイは小声で怒鳴った。
デュランはきょとんと彼を見て、不思議そうに言う。

「お前が言ったんじゃないか。恋人同士なら一緒に朝を迎えて夜明けのコーヒーを飲むのだと」


ああ言ったとも。確かにな。
「恋人同士とはどのようなことをして絆を深めるのか」と問うてきたから、自分なりの考えを述べたのだ。

ホークアイ自身がリースとともにやってみたいこと――を。


「だから実行してみたんだ。なかなか良いもんだな、朝一番に腕の中のリースの寝顔が見れるってのは」


俺への当て付けか、貴様・・・


思わずナイトブレードモードとなって本気で暗殺を考えるホークアイ。

不穏な空気を敏感に感じ取ったのか、リースが身じろぎした。
そして、綺麗な湖面のような瞳が開かれる。

「おはよう、リース」

優しい呼びかけに一瞬驚いたように目を丸くしたリースだが、すぐに柔らかな微笑みと変わった。

「デュラン・・・」

燦燦と落ちる柔らかな光の中で、寄り添う二人は微笑み合って朝を迎える。
あまりにも美しく、優しい空間には、色とりどりの花が咲き乱れているようだ。


ホークアイの手がダガーに伸びた。


「おはようございます、ホークアイさん」

「おはようv リースちゃんvv」

殺気は瞬時に霧散し、幸せオーラを振り撒きながらにっこり微笑むホークアイ。哀しいほどに単純だ。


「おはよ、デュラン、ホークアイ・・・・・・リース?」

室内に3つあるベッドの最後の1つで眠たげに身を起こしたケヴィンは、デュランの腕の中のリースを見止めて眼を丸くした。

「おはよう、ケヴィン」

「おはようございます、ケヴィンさん」

「・・・・・・おはよう」

デュランは明るく、リースは優しく、ホークアイは陰鬱に挨拶を返す。先の二人はともかく、ホークアイのは朝から聞くには少々気が滅入る声音だ。

「何でリースがいるんだ?」

不思議そうに訊かれ、デュランとリースがポッと頬を染めて互いに見詰め合い、ケヴィンに照れたような笑みを向けた。

俺の時と随分態度が違うじゃねえか、デュラン・・・

さっきまでのふてぶてしさはどうした、と内心で突っ込みを入れるホークアイの視線の先で、デュランとリースはまるで結婚の報告でもするかのように初々しくケヴィンに答えた。

「俺達、一緒に寝たんだ・・・(///)」

「え! だ、だってリースは女の子じゃないかっ。だめだよ、こんなのっ(///)」

真っ赤になって動揺するケヴィンの素直な反応が何だか可愛い。
ホークアイは思わず(よーし! もっと言ってやれケヴィンッ!!)と、彼の純粋さにエールを送る。

「ケヴィン、俺達は恋人同士だからいいんだ」

「そ、そうか」

納得したらしい。

もうちょっと粘れよ、ケヴィン!

胸の内でそう叫ぶホークアイだが、結局言葉にはできなかった。
悔しかろうが腹立たしかろうが、やはりリースには嫌われたくない。

黙っていれば貴族然とした美貌を哀愁に染め、心の中でぐっと涙を堪えるのであった。



そんな微笑ましく清々しい朝を迎えた4人は、別室に泊まっていたアンジェラやシャルロットを加え、朝食を食べるため宿屋の食堂へと向かった。


その日の食堂は、ある一角を中心に不気味な雰囲気に包まれていた。


鷹のような鋭い金色の双眸と、艶やかに濡れる切れ長の若草色の瞳が、氷河期を思わせる冷たさを帯びてスッと細められている。
不運にもその視線をまともに見てしまった、彼らの外見に惹かれて近寄ってきた哀れな通行人は、一様に青褪めてそそくさとその場を離れていった。


暗雲が、爽やかな朝の空気を重苦しく変える。


が。

そんなこと知ったこっちゃあないという、周りを見ていない物凄い神経を持つ者達が居た。


「デュラン、これとても美味しいですよ。一口いかがですか?」

「お、さんきゅ」

「はい、あーんv」

「よ、よせよ、恥ずかしいじゃないか・・・」

とか言いながら口を開けて、差し出された食べ物を美味しそうに頬張るデュランと、その様子に愛らしい笑顔を浮かべるリース。

「リース、これ苦手だろ? 食ってやるよ」

「あ、ありがとうございます」

その皿に伸ばした二人の手が空中で触れ合った。

「「あ」」

見つめ合う二人。
触れ合った手がそっと絡む。



ガタンッ!



いー加減にしなさいよね、あんた達!!



食欲が失せるわっ!!



耐えきれなくなったアンジェラとホークアイの凄まじい怒声に、4対の不思議そうな視線が集まる。


「何を怒ってるんだよ」

「あの、どうかされましたか?」

「何かあったか?」

「しょくじちゅうにさわぐなんて、マナーがなってないでち」

デュランとリースはもちろんのこと、ケヴィンやシャルロットも状況が理解できずにきょとんとしている。
お子様二人はどうやらホークアイ達と違い、デュランとリースの他を隔絶した独特の雰囲気に何の疑問も抱いていないようだ。

一方、ホークアイとアンジェラには、この状態は絶え難いものがあった。
目の前で四六時中いちゃつかれれば、彼らの神経も磨り減るというものである。自分達が独り身ならば尚のこと、彼らのラブラブオーラは鬱陶しいを通り越して殺意すら芽生える。



何じゃないわよ! 朝っぱらからいちゃいちゃいちゃいちゃと、いい加減にしろつってんのよ!!



アンジェラの言う通りだ、デュラン! 貴様、見せつけられる方の身にもなってみろ!!


ホークアイの台詞はどうもデュランにだけ向けられているようだ。裏を返せば彼は、デュランの立場に自分が立ちたいだけである。


「ははっ、馬鹿だなあアンジェラもホークアイも」

二人の剣幕に動じる様子も見せず、デュランは爽やかな笑顔で言った。


お前達も相手を見つければいいじゃないか


凄まじい殺気が天を突き抜けるかの如く立ち昇り、食堂内を隅々まで満たした。

子供達は恐怖のあまり泣き出し、お年寄りは苦しげに胸を押さえて次々と倒れていく。
爽やかな朝の食堂が、今や地獄への入り口と化してしまった。



あんた、どうやら命が惜しくはないみたいね・・・


いい度胸じゃねえか・・・



「待って下さい、アンジェラさん、ホークアイさん。喧嘩は駄目です!」

「そうだよ、二人とも。食堂は食事する処!」

「なにをおこってるのかしりましぇんけど、おとなげないでちよ」


三人の的外れな台詞に、一気に脱力感がアンジェラとホークアイを襲った。

本気か、こいつら・・・?
信じられないような思いで三人を見やれば、渦巻く黒いオーラなど醸し出すほのぼのオーラで見事に弾き返しながら、まるで家族の団欒のような会話が交わされる。

「リースしゃん、シャルロットも“あーん”してほしいでちー!」

「いいですよ。はい、あーん」

「良かったな、シャルロット」

「うらやましいでちか? ケヴィンしゃん。うけけけ」


喜ぶシャルロットの様子に、デュランは優しい瞳でリースを見つめる。

「リースは良い母親になるな」

「デュランったら、もう(///)」

真っ赤になって照れるリース。
思わず怒りを忘れてデレッと鼻の下を伸ばすホークアイだが、彼女の視線がデュランに注がれているのを見て正気を取り戻す。


許すまじ、デュラン!


ホークアイの恨みの念に気付くことなく、団欒は続く。

「リースしゃんがママなら、パパはデュランしゃんでちか?」

「良いなあ、家族、幸せになる」

うっとりと未来予想図を思い浮かべるシャルロットとケヴィン。二人の思い描く理想の家族がそこにあった。

デュランとリースは互いに視線を交し合い、そっと微笑み合う。

彼ら自身も幼い頃は寂しい思いをしてきた。
自分達の子供には決してそんな思いはしてほしくないと願う。

そして、共に幸福な家庭を築くパートナーが互いであれば、何という幸せだろう。



幸福の色に染まる未来を思い、慈愛に満ちた笑顔になる4人。





蚊帳の外に置かれた約2名の殺気はますます燃え上がり、周囲を恐怖と混乱に陥れていった。





誰が言ったか、“暗黒世界到来”。

世界の終わりが近いことを、誰もが確信した。



END

05.10.10.UP


59000番を申告して下さった水城リンス様のキリリク『激甘デュラリー』でした。
二人の世界にどっぷりと浸かって周りのことなんか目に入っていない二人ということですが、
こんなので宜しいのでしょうか?(汗)
哀れなのはホークアイとアンジェラなのか、偶然食堂に居合わせてしまった不運な一般市民なのか・・・。

何はともあれ、水城リンス様、59000HITおめでとう&申告ありがとうございました♪
遅くなってしまい、済みませんでした(滝汗)。



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