雪の日のひととき





窓の外は、しんしんと降る雪に白く染められている。日の光が弱く照らす中を舞い散るそれは、風景を美しく彩っていた。
吐く息が曇りを帯びて冴えた空気に溶ける。

バルコニーに出た途端、室内の温かさとは打って変わった刺すような肌寒さにアスランは思わず肩を竦めた。
それでも手にした毛布を羽織ろうとはせず、彼の前方で背を向けて佇む少女だけを見つめる。

細い肩にうっすらと雪が積もっているのを目にし、眉を顰める。たいして厚着しているわけでもないのに、雪の中を彼女はどれくらいの間佇んでいたのだろう。


「カガリ、風邪を引く」

ふわりと広げた毛布で包み込みながら抱き締めると、驚いたような声が発せられる。
首を巡らせてアスランを見つめる愛しい少女の頬は、ピンク色に染まっていた。


その愛らしさと言ったらもう、思わず食いつい・・・いや、抱き締めたくなるものだ。(もうすでに抱き締めているが)


「ア、アスラン・・・」

驚いたように大きな瞳をさらに大きくしていたカガリだが、抱き締められていることに気付くと恥ずかしそうに身を捩った。
が、アスランの腕の力は反対に強くなる。

「離してくれ・・・」

「駄目だ。冷え切ってるじゃないか。さ、部屋の中に入ろう?」

「だって、雪が綺麗で・・・」

「部屋の中でも見れるだろう」

「でも、庭を・・・」

「部屋の中で見れる」

「だから、その、雪だるま・・・」

「作りたいなら温かくしてからだ。雪うさぎでも雪ジャスティスでも作ってあげるから」

雪ジャスティス・・・?

「で、でもだな、私は・・・」

ずるずると引きずられながらも懸命に言葉を探すカガリに、アスランは「可愛いなあ」と言わんばかりの微笑ましい目を向ける。

「解ってる。カガリが見たいのは、ここから見える街の様子だろう? 随分と復興したよな」

一瞬表情が固まり、だがそれはゆっくりと微笑みに変わった。
「うん」と頷き、カガリは愛しそうにバルコニーから見渡せる街を眺める。


戦争で傷付いたオーブの街。
その傷跡を見る度に、カガリは傷付いてきた。
哀しみに瞳を揺らせながら、それでも決して目を逸らすことなく戦争の現実を見据えた。そして、皆の力で徐々にその傷を癒していったのだ。


「だが、嬉しいのは解るけれど、お前が体調を崩しては何もならないだろう」

そう言ってアスランはカガリを抱えて室内に戻った。
暖房の効いた部屋に戻ると、冷え切った身体を温もりが包む。
名残惜しげに窓の外を見ていたカガリだが、やがて諦めたように視線を室内に戻した。
後ろではアスランがティーポットから紅茶を淹れているところだ。

「カガリ、お茶が入った。身体が温まるから」

差し出されたティーカップからは湯気が立ち、良い香りがする。
口に含めば熱いお茶が身体を芯から温めていった。

「あったかいな」

「あれだけ冷え切っていればな」

「それもあるけど、心があったかいんだ。ありがとな、アスラン」

ふんわりと笑うカガリ。


ああもう、どうしてくれようか、この犯罪的な愛らしさっ。
そんな可愛らしい表情で可愛らしい声で可愛らしい言葉を可愛らしく言うなんて、俺の理性を試しているのか?


何やら暴走した妄想を繰り広げながら、アスランは引き寄せられるようにカガリに顔を近付けていった。

無邪気に見つめてくる瞳はあまりにも澄みきっていて・・・ゆるやかにアスランを引き込んでいく。





カガリ―――っっ!!



甘くまどろむ雰囲気を一気に切り裂く声が響き渡り、同時に蹴破る勢いで扉が開け放たれた。
開いた扉の向こうに鬼気迫る表情で仁王立ちしているのは――アスランの親友にしてカガリの兄弟である、キラだった。


「「キラ!」」

二人は同時にその名を呼んだ。
カガリは驚いたように、アスランは舌打ちでもしそうなほど忌々しげに。

「キラ、どうしたんだ?」

「カガリの危険を察知したんだ。大丈夫かい? カガリ」

(ちっ、シスコンが・・・)

「何か言いやがったかい? アスラン」

カガリには慈愛に満ちた笑顔を、アスランには凄みを帯びた笑みを向ける。


「キラ、何言ってるんだよ。こんな所に危険なんてあるわけないじゃないか」

ははは、と笑うカガリにアスランは「まったくその通りだな」と一緒になって笑う。二人の様子にキラはこめかみをピクピクさせながらにっこりと笑い、アスランの足を思いっきり踏み付け、ぐりぐりと踏み躙った。


「〜〜〜っっ! キラ!! 何をするんだっ!!


うるさいよ、このムッツリスケベ!!


「シスコンも度が過ぎると見苦しいぞ」

「っ! 君には言われたくないね、へたれ!」

「(ムカッ)自分がカガリといちゃつけないからって僻むなよ」

「(ピキッ)ふん、僕は君と違ってカガリとは深〜い絆で結ばれてるんだよ。所詮は他人の君とは違う」


凄絶な笑顔で交わされる会話は一見にこやかに見えながらも、氷点下のオーラが周囲に漂っていた。
ここは温かい室内のはずなのに雪が舞う室外以上の冷気に包まれているような気がして、カガリは脱ぎかけた毛布をもう一度羽織った。

(何か、雰囲気がおかしいぞ、この二人・・・)

状況が把握できず、カガリは二人から距離を置くように1歩下がった。
その腕を引っ張って、声を上げる間もなく抱き締めたのはアスランだ。

「絆なら俺の方が強い! お前はただの“弟”で俺は赤い糸で結ばれてるんだからな!」

「な、何言ってるんだ!?」

真っ赤になって動揺を浮かべるカガリ。
二人を見つめるキラは笑顔だが、目はまったく笑っていない。

「“兄”だよ、僕は。それより手を離しなよ。カガリは僕の大切な宝なんだから」

ぐいっと後ろに引っ張られたかと思うと、今度はキラの腕の中に居た。

「お前、ラクスやフレイという少女のことはどうした?」

「それはそれ、これはこれ」

自分が法律だ。とばかりにスーパーコーディネーター(笑)は言いきってみせた。
思わず絶句するアスランだが、負けじと瞬時に体勢を立て直す。

「お前、『二兎追うもの一兎も得ず』って言葉知ってるか?」

「勝手にプラントに戻った挙句、そこの女の子達に迫られていた君に言われたくはないね」

「お、俺はカガリ一筋だ!」

「口では何だって言えるよね」

「そういうお前はどうなんだ! ノイマンさんに聞いたぞ。ラクスが居ないのをいいことに、お前マリュー艦長やミリアリアやカガリを1人占めしていたそうじゃないか!」

「何言ってんの? 小姑その一(=アスラン)とそのニ(=ラクス)がいない上に、世界一可愛い大事な妹(=カガリ)と、優しくて明るいガールフレンド(=ミリアリア)と、敬愛する美人な艦長(=マリュー)さんが揃ってるなんてこの世の春じゃないか」

「うっ・・・た、確かに・・・」

言われてみれば、何て羨ましい状況だろう。
一方自分はというと、その気もないのに積極的な少女達に押されまくっていて、とてもそれを楽しむことも喜ぶこともできる状態ではなかった。
何だかものすごい敗北感を感じる。



いつの間にかキラの腕の中から脱していたカガリは、お茶を飲みながら二人の舌戦を見守っていた。
結局いったい何だったんだろうと、彼女は未だに状況把握ができていなかったりする。



まあキラ、そうでしたの。うふふふふふ・・・


突如、部屋に流れ込んできた可愛らしい笑い声に、しかしキラとアスランは一瞬のうちに恐怖に凍り付いた。

この邪悪なオーラをまとう澄んだ声は・・・。


「あ、ラクス」

嬉しげなカガリの声がその正体を二人に知らしめ、絶望をもたらす。
恐る恐る視線を向けた先には、可憐な笑顔を浮かべる魔女がいた。

「こんにちは、カガリさん。今日も可愛らしいですわねv」

「な、何言ってるんだよっ。私なんかよりラクスの方がずっと可愛いじゃないかっ」

少女達の会話はとても可愛らしい。
文句のつけようがないくらいに可愛らしい。
ただ、片方はあくまで表面だけが・・・。

「ラ、ラクス・・・話、聞いて・・・」

アスランへの強気はどこへやら。キラの顔色は真っ青だ。
そんな彼に、ラクスは天使のような笑顔を向ける。キラの全身を悪寒が走った。

「うふふふ・・・だってキラったら、私とのデート中だというのに、突然「カガリ〜!」なんて叫んで走り去るんですもの。思わず追いかけて来てしまいましたわv」

おそらくあの鬼気迫る表情のまま全力疾走したであろうキラの後ろを、ものすごい勢いで追いかける歌姫・・・。想像すると、あまりの恐ろしさに背筋が凍る。


「キラ、お話がありますの。顔をお貸し下さいなv」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・」


ラクスと共に部屋を出て行くキラのがっくりと肩を落とした後姿を見送りながら、アスランは心の中でそっと手を合わせた。

(幸運を祈るぞ、キラ)

つい先程までは敵だった相手だが、やはり同情を隠すことはできなかった。


「あの二人、良いカップルだなあ」

にこやかにそう言ったのはカガリだ。彼女の目に、あの不穏なオーラは映っていないらしい。
きっとカガリにはキラ達の様子が、ほのぼのラブラブカップルという風に見えているのだろう。


まあいい。所詮は他人事だ。

ディアッカ直伝『自分は自分。他人は他人』の精神に倣い、アスランは扉の向こうに消えた恐怖の記憶をさっさと振り払った。


「さてカガリ、身体も温まったことだし、外に出るか?」

「ほんとか?」

パアッと光を放つように輝くカガリの表情に、アスランの中からさっきまでの黒いオーラはすっきり爽快に消え失せた。

この笑顔を見るためならば、雪だるまでも雪うさぎでも雪ジャスティスでも喜んで作ろう。


二人は手を取って、真っ白に彩られた庭へと向かった。





その後、アスハ邸の庭にはフリーダムやらジャスティスやらアカツキやらアークエンジェルを精巧に模した雪の芸術作品が並んでいたとか。



END

10万HITを申告して下さった、きゅう。様のキリリク『アスカガ小説』でした。
ほのぼのラブに見せかけた単なるギャグです(おいおい)。
このようなもので宜しかったんでしょうか・・・(滝汗)。

きゅう。様、10万HITおめでとう&申告ありがとうございました♪



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