君がいる場所




「アスラン、カガリ見なかった? ・・・・・・あ」

親友の部屋に入ったキラは、室内を見回して動きを止めた。

壁に背を預けて座っているアスランは、何やら複雑な部品を組み立てている最中だ。
まだ形にはなっていないが、部品の中に混ざるカラフルな色からまた可愛らしいロボットでも作ろうとしているのだろう。

それはともかく、キラの視線が釘付けとなったのは親友の膝の上だ。
胡座をかいて座るアスランの膝には、明るい金髪が乗っている。

「・・・・・・何してるの?」

「見て解らないか? ロボットを作ってるんだ」

「いや、膝の上・・・」

「カガリが寝てるに決まってるだろう。起こすなよ」

顔色1つ変えずに冷静に答える親友。
キラの問い掛けにも手元から視線を外さず、作業の手も止めない。
その腕の下、アスランの膝を枕にして眠っているのは、探していたきょうだいだ。

「重くないの?」

「いや」

「・・・じゃあ、邪魔じゃないの?」

「別に」

「あ、そう・・・」

のぞきこんでみると、力なく投げ出されているカガリの細い手の下には、彼女が読んでいたであろう書類の束がある。書類に目を通している途中で寝てしまったようだ。

このままでは足が痺れるだろうに、アスランは平然としている。
カガリにはとことん甘いアスランのことだ。カガリを退けようとか起こそうとかいう考えはないのだろう。

「疲れてるのかな、カガリ」

「ああ、忙しいからな」

カガリのことだとまともに応答するアスランが可笑しくて、キラはこっそりと吹き出した。
しかし、カガリが心配なのはキラも同じだ。

戦争が終われば、ガンダム乗りの自分達の力は必要ない。
変わりに、戦後処理に追われるのがカガリやラクスのような責任ある立場の人間だ。
特にカガリはウズミの跡を継いで今やオーブの代表。その忙しさたるや押して知るべしだろう。
キサカやエリカ・シモンズが助けてくれているとはいえ、最終的な判断はカガリに委ねられる。
まだ少女でしかない彼女の肩には重い責任が圧し掛かっているのだ。
それでも責任感が強く、生真面目なカガリは妥協を許さず、すぐに無理をしてしまう。

キラがカガリを探していたのも、彼女が心配だったからだ。
休憩も取らずに仕事をしているようなら連れ出し、睡眠も取っていないようなら無理にでも休ませるつもりで。

(どうやら杞憂だったみたいだね)

考えてみればカガリの傍には世話好きの親友が付いているのだ。
自分自身も彼には世話になっているのだからよく解る。
アスランは決してカガリに無理はさせない。


寝ているカガリの傍にしゃがみ込むと、キラは金色の髪へと手を伸ばし、優しく撫でる。
柔らかな手触りに、自然と笑みが広がる。

健やかな寝息を立てるカガリの表情は穏やかで、微かな笑みさえ浮かんでいる。
アスランの傍が、こんなにも彼女に安心感を抱かせているのかと思うと悔しくなるが、それでもやはりキラが望むのはカガリと親友の幸せだ。

(でも・・・)

やっぱりアスランが羨ましい。
僕もカガリに膝枕してあげたい!

「ねえ、代わらない?」

「嫌だ」

「・・・・・・即答だね」

「当然だ」

「・・・ちょっとでいいからさあ・・・」

「絶対に嫌だ」

「・・・ケチ・・・」

「どうとでも」

見ると恐いくらいに真剣なアスランの顔があった。
絶対に譲るものか!という強い意志が見て取れる。

「そんなにムキにならなくても・・・」

自分を棚に上げて恨めしそうにアスランを睨むキラに、呟くような答えが返る。

「こんな時くらいだからな・・・。カガリに何かしてやれるのは」

「・・・アスラン」

カガリのために何かしたくて、もどかしさを感じていたのはアスランも同じだった。

アスランの沈んだ表情を見て、キラの心も重くなる。


親友二人が暗い雰囲気を纏った時。


「・・・う〜ん・・・」

吐息のような声と共にカガリが身じろぎし、アスランとキラはハッと彼女に目を向けた。
起こしてしまったのだろうかと焦る二人の視線の中、ゆっくりと瞼が上がって琥珀の瞳が現れる。

「ご、ごめん、カガリ・・・」

「お、起きたのか?」

慌てる二人に、焦点の合わない目が向けられる。

「・・・あすらん・・・きら〜・・・」

「何? カガリ」

「どうした?」

ろれつの回らない声に名前を呼ばれ、二人の視線がカガリに集中する。
腕が頼り無く伸ばされ、身を乗り出して次の言葉を待つ二人の頭に指先が触れた。


「・・・・・・よしよし」


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

すうすう。

ぱたんと腕が降ろされ、静かな寝息が漏れる。


―――沈黙が流れた。


「「・・・・・・っ」」

小さく声を上げて二人は口を押さえて肩を震わせる。
カガリを起こしてしまわないように声を押し殺しながら、アスランとキラは必死に笑いを堪えた。
苦しさに二人の顔が酸欠で赤く染まるが、しばらくの間は笑いが収まることはなかった。


「カガリ、可愛いv」

まだ収まらない笑いに声を震わせながら、キラが言った。
アスランもまた、愛おしげに目を細めてカガリを見つめる。

寝惚けた上での言葉とはいえ、たった一言でアスランとキラの心を軽くした少女。
二人の視線を受けながらも、彼女は気持ち良さそうに眠っている。

アスランをこっそりと盗み見ると、嬉しそうだが何とも微妙な表情だ。
”よしよし”などと言われて頭を撫でられれば、子供扱いをされたのだと感じるのは当然のことで、カガリに対して強い恋愛感情を抱いているアスランとしては複雑な心境だろう。

自分はカガリの”兄”だと確信しているキラ自身ももちろん複雑だったが・・・。やはり嬉しさの方が勝っていた。


―――君がいる場所は、こんなにも温かい。


撫でられた感触のくすぐったい余韻の中、アスランとキラは飽きることなくカガリの寝顔を見つめていた。


END

ほのぼの。ひたすらほのぼの(笑)。
カガリを甘やかしまくるアスランが書きたかったのです♪
単にアスランとキラがへたれな話になっただけなような気も・・・(汗)
カガリは色々と忙しいようですが、アスランとキラは何だか暇そうですね(苦笑)。
彼らは普段何をしているんだろう?



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