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愛しき君が為
整然とした広い部屋にはパソコンのキーボードを物凄い勢いで叩く音が響き、机の上に山と積まれた書類は目にも止まらぬ速さで右から左へと捌かれてゆく。
超人技を黙々とこなしているのは銀髪の美しい青年と、浅黒い肌の端正な青年だ。
二人の真剣な目線はしっかりと書類や画面を捉え、見事なまでに集中している。
「おい、ディアッカ」
「何? イザーク」
沈黙を破って書類を捌く手を止めることなくふいに発せられた声に、これまたキーボードを叩く手を休めることなく答える声。
「あれから何ヶ月経った?」
「約半年かな」
暫くの静寂。
紙面を走るペンの音とキーボードを叩く音が流れる。
バンッ
突然、書類を捌いていた手が机に叩きつけられた。
「やってられるかー! いつまで俺はカガリに会うのを我慢すればいい!? こうしている間にもアスランやフリーダムのパイロットに抜け駆けされるやも知れんというのに!」
「俺だってミリアリアに会いてえよ! あのサイとか言う奴やキラ・ヤマトに先越されてるかも知れねえ! 俺のミリーなのにいっっ!!」
優秀なるコーディネーターの中でもさらにトップエリートの実力を誇るイザーク・ジュールとディアッカ・エルスマン。二十歳になって間もないながらも、プラントにて確固たる地位を確立する二人の若き軍人は――揃って二人のナチュラルの可愛い少女にベタ惚れだったりする。
その少女というのがナチュラル達の希望の星、オーブの姫君カガリ・ユラ・アスハとカメラ片手に戦場をも渡り歩く、可愛い顔して胆の据わりまくったジャーナリスト、ミリアリア・ハウだ。
先の戦争の後、またもやプラントと地球に離れ離れとなって早数ヶ月。
戦後処理に追われる日々が続く中、愛しい彼女に会えない鬱憤は溜まりに溜まっていた。
ちなみにイザークが叫んだ“フリーダムのパイロット”とディアッカが叫んだ“キラ・ヤマト”は同義語である。
人畜無害な顔でにっこり笑いながら人々を手玉に取る超自己中コーディネーターで、男に厳しく女の子(AA乗組員限定)にはとことん優しい。そんな彼が愛し大切にしているのが可愛い妹カガリと仲良しのミリアリア、美人艦長マリュー・ラミアスであり、彼女達を想う男性陣にとって彼の存在は脅威の一言に尽きる。
歌姫という凶悪かつ重い枷が付いてはいるものの、その彼女も今やプラント代表として忙しい日々を送る中、うっかりしていると隙を突いて三人のうちの誰かが攫われかねない。
だからこそ、遠く離れたプラントから動けないイザークとディアッカの危機感は募る。
だがしかし、二人に舞い込む仕事は後を断たないというのが現状である。
今もまた、カガリやミリアリアに会いたくて溜まらずに悶絶する二人の元に、新たな書類が続々と届く。
その中の一枚を目に留めたディアッカは一瞬瞠目し、続いてだらしなく口元を緩めた。
「見ろよイザーク! オーブ代表が会合のためにプラントに来るんだとさ!」
「何!?」
シュバッ!
目にも留まらぬ速さでディアッカから書類を奪ったイザークは食い入るように書面に目を通し、怜悧な美貌に妖しげな笑みを浮かべた。
「よし、ディアッカ。カガリの滞在期間は何が起ころうともオーブ代表に同行するぞ。すべてのスケジュールをカガリに合わせろ。オフの日は俺達も問答無用で休暇だ。戦争が起ころうがプラントが崩壊しようが絶対だ」
「おうよ。地球が滅亡しようが関係ないな」
――そのような事態になれば休暇なんぞ取ってる場合ではないのだが・・・。
残念ながらそれを突っ込める第三者はこの部屋には居なかった。
「そんじゃあさっそくアスハ代表に伝えてくるぜ。ミリアリアを一緒に連れて来て欲しいって頼まないとな♪」
「ああ・・・って待て貴様。何故当然のようにカガリと連絡が取れる」
「だって俺、カガリちゃんとメル友だし」
――その日、ジュール隊の隊長と補佐官の壮絶な激戦が繰り広げられたことは、哀れな目撃者の胸の中にだけ固く仕舞い込まれるのだった。
■■■■■
「すまないな、付き合わせてしまって」
プラントに向かうシャトルの中、座席に並んで座るミリアリアにカガリは済まなそうに声を掛けた。
「気にしないで、カガリさん。言い出したのはあの頓珍漢なんでしょ」
答えるミリアリアの声は優しい。カガリに対しては穏やかな表情を見せているが、内心ディアッカに対する呆れでいっぱいだ。
「まったくあの馬鹿。オーブ代表を私情で振り回すなんて何考えてるのかしら。イザークさんもイザークさんよね。カガリさんに会いたいのは解るけど、何もオフまで独り占めしなくても・・・」
カガリはディアッカから送られてきたメールの内容を思い浮かべた。
“イザークはカガリちゃん欠乏症、俺はミリー欠乏症。へるぷみーぷりーず!!”
切実な想いが伝わるような伝わらないような・・・。
だがとにかく、二人が自分達に会いたがっているのは確かであり、偶にしか会えないのだから多少の我侭も仕方がないだろう。
「でもディアッカもミリアリアに会いたくて仕方ないみたいだし、私も随分会ってないから嬉しいけどな」
カガリさんは甘いわね・・・。
苦笑交じりのため息をつくミリアリア。
しかし私情だらけとはいえ、プラントきってのエリート軍人が二人も傍に付いていてくれるのはありがたいと言える。
和解したとはいえ、コーディネーターの中にはナチュラルを良く思わない者も少なくない。逆もまた然り。
そういった人間にとって中立国オーブとその代表であるカガリは邪魔な存在でしかない。
だからこそ、イザークとディアッカが傍に居てくれるのは心強い。
プラントの空港に降り立った二人を迎えたのは、プラントの要人―イザークとディアッカであった。
二人を見た瞬間カガリは顔を輝かせ、ミリアリアは思いっきり険しくした。見事に対照的だ。
「お迎えに上がりました。アスハ代表」
微笑を湛え、イザークはカガリに対して優雅に一礼する。
周囲では彼に見惚れる女性達の感嘆の声が漏れる。
カガリは慣れないロイヤルスマイルを浮かべて差し出されたイザークの手を取った。
その手に僅かに鳥肌が立っているのを見てイザークは内心笑いを堪える。
いつまで経ってもこういうことには慣れないようだ。
そんな二人の隣ではもう一組の感動の再会があった。
「久しぶり、ミリアリア」
「まったく、これから毎日あんたと顔を合わせなくちゃいけないなんて」
呆れた表情で尖った言葉を口にしながらも、ディアッカを拒絶する色は無い。
会えた嬉しさにミリアリアを思いっきり抱きしめたい衝動に駆られるディアッカだったが、なけなしの理性とミリアリアに怒られる恐怖心でそれを抑え込んだ。
これからの数日間。幸せな日々を過ごせそうだ。
■■■■■
「・・・・・・何故こうなる・・・」
まさかこれはAA随一の可愛い子ちゃん(古っ)カガリとミリアリアを独占しようとしたことへの、キラ・ヤマトとアスラン・ザラとラクス・クラインによる呪いだろうか。
白磁の肌を赤く染め、戦場ですら感じたことのない激しい動悸と苦しい呼吸の中、イザークは立ち上がる気力もなく自室の寝台に横たわっていた。
「大丈夫か?」
心配そうに覗き込む愛しい少女の顔がはっきりと見えないことがもどかしい。
「くそ、何故俺はこんなにも体調が悪いのだ!」
あまりの気分の悪さに機嫌まで最悪のようだ。
額に当てた手からも高い熱が伝わる。
「カガリちゃんにスケジュール合わせるために無理して馬車馬のように相当働いたからなあ。コーディネーターとはいえさすがに疲労したんだろう」
「どこまで無理をしたのよ、貴方達は・・・」
ディアッカの言葉にミリアリアが呆れたように呟く。
コーディネーターが過労で倒れるほどの労働っていったいどれほどの重労働なのか。
「くっ、よりによってこんな日に・・・」
吐き出された声には堪えきれない悔しさが滲む。
せっかく、せっかく今日は忙しいスケジュールの合間の僅かなオフ日なのに、よりにもよってその日に倒れるとわっっ。
悔しさと情けなさに歯を食いしばるイザークに、カガリは優しげな声で語りかけた。
「イザーク、幸い今日は休暇を取ってるんだろ? ゆっくり休めよ。な?」
その休暇は誰のために取ったと思っているんだっ!
「心配するな、今日は私が看病してやるから」
「ば、馬鹿言うな・・・。移ったらどうする・・・」
「大丈夫、私はそんなにやわじゃない。伊達に鍛えてないぞ」
それじゃ何か? 俺がやわだとでも言いたいのか?
険悪に細められた目線に怒りを込めるが、カガリには伝わらなかった。
赤い顔で瞳を潤ませながら不機嫌な表情を作ったところで、“苦しそうだな。可哀想に”と同情しかされない。
二人のやり取りを眺めながら、イザークの心情を正確に把握できたディアッカはそっと友人から目を逸らした。
(頑張れイザーク、それにカガリちゃんに看病してもらえるんならラッキーじゃないか)
そしてにっこりとミリアリアを振り返る。
「んじゃミリー、イザークのことはカガリちゃんに任せて俺達はデートと行こうぜ♪」
「「は!?」」
同時に発せられた驚愕の声は、ミリアリアとイザークのものだ。
何を言い出すんだこの馬鹿はっ。
という意味を込められまくった視線を悠然と受け流し、ディアッカは人懐こい笑顔を浮かべる。
「カガリちゃん、そんなわけで後よろしく〜」
「え? あ、ああ」
当惑するミリアリアの肩をしっかり抱き、ディアッカは茫然とするイザークとカガリを残して部屋を出て行った。
「な! 待て、ディアッカ!」
扉が綴じる音で我に返ったイザークが慌てて身を起こすが、途端に眩暈に襲われて崩折れる。
慌てて駆け寄ったカガリはイザークの身体を支えて、そっと寝台に横たわらせた。
「お前なあ、具合が悪いのだから大人しく寝ていろよ」
「・・・こ、これしきのことで・・・っ」
何とか起き上がろうとするが、身体に力が入らない。
さらに頭の中が何やらふわふわして、このまま眠りに付きたい誘惑に駆られる。
「イザーク、無理するなって。傍に居てやるから少し休めよ」
「・・・・・・すまん」
嗚呼、半年振りにカガリとの時間が過ごせるというのに、それを楽しむ余裕もないなんて・・・。
だがそんなイザークの嘆きも虚しく、休息を必要とする身体と意識はやがて眠りの中へと沈んでいくのだった。
眠っていても美しいイザークの顔を見つめながら、カガリは寝台の端に頬杖をついた。
半年振りに会えた大切な人。共に過ごせる時間を楽しみにしていたのはカガリも同じだ。
しかし相手は今やすっかりと夢の世界の住人。
「早く元気になれよな」
つまらなそうに、カガリはイザークの赤く染まった顔を指でつついた。
一方、ディアッカは満面の笑顔で自分の隣をミリアリアが歩いてくれている幸せに浸っていた。
「ねえ、いいの? あの二人残してきちゃって」
「別に〜。だいたい病人の傍に何人も居たって邪魔にしかならないだろ? あそこはカガリちゃんに任せるのが一番だって」
「そうかも知れないけど・・・」
「心配しなくたって今のイザークじゃ手なんか出せないさ♪」
「誰がそんな心配したってのよ、馬鹿っ」
顔を赤くして睨みつけるミリアリアだが、ディアッカは依然として満面の笑顔だ。
あまりにも幸せそうな表情に、ミリアリアの怒りも持続できなくなる。
「何がそんなに楽しげなわけ?」
「そりゃ、ミリーが俺の隣に居るんだから嬉しいに決まってるじゃないか」
好意に満ち溢れた飾らない言葉に、ミリアリアの顔は先程とは別の意味で赤くなる。
「久しぶりにミリアリアに会えてすっげー幸せ。お前は? 少しは喜んでくれてる?」
期待に目を輝かせて答えを待つその様子は、最愛のご主人様に褒められるのを待つ大型犬のようだ。
ここで冷たい言葉を口にするのはあまりにも居た堪れない。
ディアッカに対してはどうしても素直になりきれないミリアリアではあるが、懸命に言葉を捜した。
「ま、まあ、元気そうで良かったとは思うわよ」
照れ隠しにそっぽを向いて答えたミリアリアには見えなかったが、ディアッカは心から幸せに満ち溢れた笑顔を浮かべていた。
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翌日。
イザークはものの見事に復活した。
「さすがコーディネーターだなあ・・・」
たった一晩休んだだけで全快してしまったイザークに、カガリは心から感心しているようだ。
対してミリアリアはまるで別の生き物でも見るような目で、健康そのものの美貌の青年を見ている。
「コーディネーターだからというよりも、何か・・・」
(カガリさんのために無理矢理体調を戻したように感じるのは何故・・・?)
「ふん、俺はやわなナチュラルとは違うからな!」
どうやらカガリに言われたことを根に持っていたようだ。
「ま、これでようやく心置きなくダブルデートが出来るな♪」
楽しげな様子のディアッカの手がミリアリアの肩に回る。
それに倣うようにイザークの手がカガリの腰を抱く。
「な、何よ?」
「な、何だ?」
がっちりとそれぞれの腕に抱かれた少女達が不安げに相手を見上げる。
返ってくるのは不敵な微笑み。
「思いっきり楽しむことにしようぜv」
「昨日の分までな」
こうして四人は休日を心ゆくまで楽しんだのだった。
END
イザカガ&ディアミリのラブコメです(笑)。
カガリとミリアリアは愛されキャラだといいと思います♪
特にコーディネーターにモテモテです(笑)。
この話、一応続編があります。そのうち完成すればいいのですけど・・・(苦笑)。
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