幸せな日




5・・・4・・・3・・・2・・・1。


「誕生日おめでとう、カガリ!」
「おめでとう、キラ!」

日付が変わると同時に双子は顔を寄せ合って声を揃えた。
二人が一緒に手にしているデジタルの時計は5月18日に変わったばかりだ。
この日、キラとカガリは1つ年を重ねた。

戦争のない地球。
アスハ家が所有する邸宅の1つにキラとカガリは同居している。
平和が訪れた世界で初めて互いの誕生日を祝う二人は、16年間存在すら知らなかった二人だけのきょうだい。
今日は二人の生まれた日。

「カガリと誕生日を祝えて嬉しいよ」
「うん、私もだ」
「去年の誕生日は戦争中だったから祝えなかったんだよね」
「それまでは、お父様が祝ってくれた」

1年前は戦争中で、誕生日を祝うどころではなかったが、それ以前まで二人は幸せな誕生日を過ごしてきた。
キラは両親や友達が、カガリは父や仲間達が祝ってくれていた。
ほんの数年前のことが、何故かとても遠い。

カガリは戦死した敬愛する父を想うと、まだ胸が痛かった。
表情を曇らせるカガリを優しく抱き寄せ、キラは穏やかな声で語る。

「これからは、僕がいるからね」

「私も」

カガリの無邪気な笑顔は、キラの何よりも好きなものだ。
辛い戦争の最中、彼女の温かさと優しさにどれだけ慰められただろう。
カガリによって救われてきたのは、親友のアスランだけではない。自分もそうなのだと、改めて思う。

アスランのことを思い出して、キラはおもむろに立ち上がると机の上にあるパソコンの電源を入れた。

「キラ、どうしたんだ?」

不思議そうに、カガリがキラの後ろから画面をのぞく。
「ん〜、ちょっと」と歯切れの悪い答えを返しながら、キラがメール画面を開くと、

「あはは、やっぱりね」
「?」

楽しげに声を上げて笑う片割れに、わけが解らずに彼の視線を辿ってみて、次の瞬間カガリの瞳が丸くなった。

画面に映し出されたものは。


〈カガリ、キラ、誕生日おめでとう〉―――アスラン


「他にもミリーやサイやラクスからも来てる」
「皆暇なんだなあ」

どの新着メールも日付は全て5月18日。
皆が皆、日付が変わると同時にメールを送信したようだ。
パソコンの前に座って秒読みしていた彼らの姿を思うと、思わず笑いが込み上げる。

そんな中で、もっとも正確に迅速に送信したのが言わずと知れたアスラン・ザラだった。
短い文章の中にも彼が双子をどんなに大切に想っているのかよく解る。
ようやく友情を取り戻した親友と、何よりも大切な少女のために。

友人達からの温かなメッセージに面映くとも幸せな気持ちになりながら、キラはパソコンの電源を消してカガリに向き直った。

「さ、もう寝ようか。明日は母さんがご馳走を作ってくれるよ」
「そうだな。キラのお母様の料理は私も楽しみだ」

『キラのお母様』という言葉に、キラは複雑そうな表情となった。
実のきょうだいであるはずなのに、親が違うことが切ない。
産みの親の記憶が皆無な二人にとって、キラはヤマト夫妻、カガリはウズミこそが親だ。
キラには愛すべき両親でも、カガリには赤の他人。
しかも、ウズミ亡き今カガリには親が居ない。
自分の両親を親だと思えばいいというのは、思い上がりにしかならないだろうか。

思い悩むキラの様子に気付いたのか、カガリの細い手が突然彼の頭を乱暴に撫で回した。

「わっわっ、なにすんのっ」
「せっかくの誕生日なのに暗い顔するなよ」

えっと顔を上げたキラの目の前に、カガリの笑顔があった。

「私は今幸せだぞ。確かにお父様がいないのは淋しいけど、こうして皆が祝ってくれるんだからな」

ああ、彼女はこういう子だったな。
解っていたことだが、改めて認識するカガリの前向きで素直な性格。
なんて真っ直ぐで純粋な心を持っているのか。
双子でありながら、こうも自分とは違うのだと苦笑する。
キラは、カガリといるだけで自分の中の闇が浄化されてゆく気がした。

「今日は一緒に寝ない?」

カガリに抱き付いて甘えてみせると、答えるように背中に手が回された。

「ったく、甘ったれだなキラは」

呆れたような声音ながらも、それは了承の意。
これほどに安心できる腕の中は、他にはないだろう。

(ごめんよ、アスラン。でも今だけカガリを独占させてよね)

心の中でカガリに熾烈なまでの恋心を抱く親友に謝罪しながらも、キラはカガリを抱き締める手を離そうとはしなかた。





■■■■■





翌朝、キラとカガリは清々しく目覚めた。

お互いの温もりの中での眠りは思いの外心地良く、戦争中にはあり得なかったほどぐっすりと眠れたのだ。

「たまにはこんなのもいいな」

照れながらそう言ったカガリの言葉に、キラに否やはない。
おそらくカガリ以上に自分がそれを望んでいるだろうから。



着替えを終えた二人がダイニングルームに行くと、食欲を刺激する良い匂いが部屋を満たしていた。
食卓には料理が並び、キッチンからは調理の音がする。

起きてきたキラとカガリに気付いたヤマト夫妻は、満面の笑顔を二人に向けた。

「二人とも、誕生日おめでとう」

温かな言葉が二人に染み込み、どちらからともなく笑った。





朝食を終えた頃、玄関のチャイムが鳴った。

応対に出たキラの母はややあって父を呼び、そして二人は両手いっぱいに何やら抱えて戻って来た。

「な、何それ?」
「キラとカガリさんに届け物よ」
「「え?」」

見るとそれらは懐かしい面々からの贈り物やカードの山だった。
差出人は共に戦ったアークエンジェルやオーブの仲間、そしてプラントから。

「うわあ、マリュ―さんからだ!」

箱の1つを手にとってキラが嬉しそうに歓声を上げる。
マリュー・ラミアスはムウ・フラガと共にキラの良き理解者であり、姉のような存在だ。
そんな彼女が自分の誕生日を知っていてくれて、しかも当日に贈り物をしてくれたことが嬉しくて堪らないようだ。

「キラ、ラクスからも届いてるぞ」
「本当だ。あ、カガリ、このカード、ディアッカさんからだよ。あの人ミリアリア以外に興味ないと思ってた」

酷い言われようである。
しかしカガリも同意見なのか、感心したように頷いた。
そして二人は、ミリアリアに言われて仕方なく送ったのだろうと結論づけた。

「これはキサカとエリカ・シモンズからだ。何だよ、二人とも手渡せばいいのに」

「うわあ、すごいもの発見したよ」
「ん?」

信じられないものを見たという表情のキラが手にするカードに視線をやって、カガリも同じく驚愕した。

何かの間違いでなければ、キラの手元の差出人の名前は―――イザーク・ジュール――。
思い浮かぶは銀髪の気難しいコーディネーターの少年の姿。

「あり得ないよねえ・・・」

キラが信じられないのも無理は無い。
最後の戦闘で力を貸してくれたとはいえ、ほとんど話したこともない存在だ。
しかもキラはストライクの件によって、彼との仲はお世辞にも良いとは言い難い。いや、悪い。
イザークはディアッカとは比較的仲は良いらしいが、アスランとは微妙で、キラ自身は彼のことが苦手だった。

「そうだな。あの意地っ張りがこんなことするなんてな」

何気ないカガリの言葉にキラは目を丸くした。
まるでカガリはイザークを知っているかのようだ。しかもそれは友人のことを話すかのような口振り。
まさかな、とキラはその考えを打ち消した。

しかし実は、キラとは反対にカガリとイザークは意外と友好的である。

ストライクルージュのパイロットだったカガリは、以前イザークが搭乗するデュエルガンダムに助けられたことがある。
ディアッカからそのガンダムのパイロットがイザークであると教えられ、カガリは彼に感謝を述べた。
その折に、色々と話しをしたのだ。
始めは頑なでぶっきらぼうだったイザークだが、カガリの気さくで飾らない態度に徐々に打ち解け、しばらくすると普通の会話をしていた。

その後も、オーブ代表であるカガリとプラントで高い地位を得たイザークは度々顔を合わせた。
今では二人は友人と言っても過言ではない。

後日礼を言わなきゃなと思いながら、他のカードを1つ1つ手にとってゆく。
ふと、難しい表情をしているキラに気付き、「どうしたんだ」と尋ねると、キラは眉を寄せて低い声で言った。

「アスランから来てない」
「え?」

言われてカガリは散乱するカードや贈り物に視線を落とす。
確かにこれらの中にアスランの名前は見当たらなかった。

「僕はともかく、カガリにプレゼント贈らないってどういうこと?」

こんなことじゃあ大事な妹との交際は認められないなあ・・・とキラの背後に剣呑なオーラが揺らめく。

「でも、アスランは一番にメールを送ってくれたじゃないか」

キラのどす黒いオーラに、慌ててフォローを入れるカガリだが、それでもアスランからカードの1つすらないのには落胆を隠せない。
そんなカガリの気持ちなどお見通しだと言わんばかりにキラの表情が益々険しさを増す。

その時、チャイムの音が鳴った。
応対に出るのはキラの母だ。
少しして戻って来た彼女の顔には満面の笑みが広がっている。

「カガリさんにお客様よ」
「私に?」

誰だろうと首を傾げるカガリの隣で、何かに気付いたのかキラがハッとして、すぐに苦笑を浮かべた。
立ち上がって玄関に急ぐカガリの後をゆっくりと追いながら、擦れ違い様に母親に視線をやると息子の言いたいことが解ったのか、彼女はにっこりと笑う。

(あのメールはどこから送ってきたのさ)

来客の姿を思い浮かべながら、心の内で呆れたようにそう呟いた。





「誕生日おめでとう、カガリ」

ドアの向こうに立って優しく微笑むのは、先ほど話題に上っていた人物だった。
現れたカガリに花束を手渡し、驚きに茫然となっているカガリの頬に軽く口付けを送る。

「アス・・・ラン・・・?」

目の前の人物の名を呟いた後、我に返ったカガリの頬が紅く染まる。

「い、いきなり何するんだよっ」
「いいじゃないか。久しぶりに会ったんだから」

アスランの唇が触れた頬を手で覆い、真っ赤な顔で文句を言うカガリに、アスランは悪びれることなく答えた。
端正な顔に浮かぶ笑顔はどこまでも優しく、カガリを見つめる翠の瞳はとても綺麗で甘い。
いつもながらこんな表情を向けられると、カガリはどうしていいか解らなくなる。
アスランがそんな風に見つめるのは、カガリだけなのだということを彼女は果たして認識しているのかどうか。


「キラも誕生日おめでとう」

遅れて姿を見せたキラに、アスランはカガリに対するのとは違う笑顔を向ける。

「ありがとう、アスラン。でも何でここにいるのさ?」
「カガリの誕生日なんだ。当然だろう」

あっさりと言ってのけた言葉に、キラは何故か心の底から納得してしまった。

(普段淡白なくせに本気で好きになった相手には熱いんだよなあ)

昔はアスランに何かと世話を焼かれていた思い出が脳裏に蘇る。
一度心の内に入れた者に対してはどこまでも尽くすのがアスランの性分らしく、彼の愛情を一身に受けるカガリはアスランにとって何よりも優先される存在だ。
どんなに忙しかろうが、カガリのためならば休日をもぎ取るくらいやってのけるだろう。

「それじゃあ、カガリは連れて行くから」

わけが解らずに困惑するカガリの腕を引くアスランに、キラはすかさず釘を刺す。

「夕方までには戻してよね」
「え、そんなに早く?」
「当たり前だろ! 門限は6時だからね!」
「夕食くらい一緒にさせてくれよな」

カガリの肩を抱いて、切れ長の翡翠の瞳で睨み付けてくるアスランに、キラも負けじときつい視線を浴びせる。
バチバチと音が聞こえそうな危険を孕んだ沈黙。



「・・・・・・じゃあ、9時・・・」

「・・・・・・わかったよ・・・」

しぶしぶと譲歩するキラに、アスランもまたしぶしぶ同意する。

「なあ、アスラン。キラは一緒に行かないのか?」

カガリの無邪気な問いにアスランとキラは驚愕に目を見開き、ややあってキラは必死に笑いを堪えて俯き、アスランはがっくりと肩を落とした。

「カガリ・・・俺と二人きりは嫌か?」

普段のアスランからは考えられないほど情けない声で問いかける。
カガリは頬を紅く染めて慌てて首を振り、

「そ、そういう意味じゃなくて、だって私達が一緒に出掛けるとキラは一人になるじゃないかっ」

キラはカガリが自分を気遣ってくれることを嬉しく思った。
確かに少し淋しさはあるが、それも彼女のためならば我慢もできる。

「行っておいでよ、カガリ」

困惑するカガリからアスランに渡された花束を受け取り、「これは生けとくからね」と笑い掛ける。
それでも尚、彼女は心配そうだ。

「大丈夫だよ。父さんや母さんだっているんだから」

その言葉にようやく安堵したカガリが「そうだな」と答えたのとほぼ同時に、ピンポーン、とチャイムが鳴った。
一番ドアに近いアスランが扉を開くと、そこに立っていたのはサイとミリアリアだった。

「サイ、ミリアリア!」

声を上げたキラの視線の先の二人も、玄関先に佇む三人をびっくりしたように見つめる。

「何? どうしたの?」
「何してるんだい?」

当惑するサイ達。

「これからアスランとカガリはデートなんだ」

キラが簡単に説明すると、サイとミリアリアは納得し、アスランとカガリは仲良く頬を染めた。

「じゃあキラは私達と遊びましょ」
「え・・・」

明るく弾むミリアリアの声が、先刻までのキラの淋しさを吹き払った。

「「二人とも、誕生日おめでとう!」」

そう言ってキラとカガリにプレゼントを渡す二人。

「「ありがとう」」

きょうだいと声を揃えて礼を言うキラは、大事な二人の友人の飾らない好意が嬉しくて満面の笑顔を返した。


これで大丈夫だな。

嬉しそうなキラを自分のことのように喜び、カガリはアスランに促されてドアに向かう。

和気合い合いと友情を温めるキラ達に背を向けて、アスランとカガリは手を繋いでドアの向こうへと踏み出した。



END

アスカガ前提キラカガ誕生日。
こっそりとイザカガを主張してみたり(笑)。
(実はアスカガ以上に萌えかねないCPです(苦笑))

アスランからカガリへのプレゼントは・・・謎です。(え?)
もちろん花束だけではないでしょう。
指輪とか他の装飾品とか、はたまたペットロボとか考えてはみましたが、
結局わからず仕舞いです(苦笑)。

キラの誕生日を祝ってくれるのはサイとミリアリア♪
いつまでも仲良しでいられると良いですね。



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