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□ 午睡 □
はらはらと舞い落ちる花弁が、木陰に眠る少女の上に優しく降り掛かる。
ぽかぽかとした陽射しが柔らかな温かさをもたらす春の陽気に、木の根元に腰を下ろして読書を楽しんでいた秀麗はいつしか心地良い眠りへと誘われていった。
そんな秀麗の傍に足音を忍ばせて近付いた青年は、長い指でそっと髪の毛に絡んだひとひらを摘まんだ。
「お嬢様」
囁く声は少女を起こすためのものではなく、眠っていることを確かめるように低く優しい。
彼が並んで樹の根元に腰を下ろしても、優しく肩を抱き寄せても、秀麗からは安らかな寝息が漏れるだけ。
「お嬢様、起きて下さい」
静かな呼びかけに、だが秀麗は眠りから解き放たれない。
少女とその家族にしか見せない微笑みを浮かべ、静蘭は髪や肩に積もる花弁を払いながらそっと唇を寄せた。
髪に、額に、頬に、羽のように軽い口付けが花弁の代わりに舞い降りる。
くすぐったさに、秀麗の意識はは少しずつ眠りから浮上し始めた。
「・・・ん、くすぐったい・・・」
クスクスと笑いながら、静蘭は口付けを繰り返す。
顔を背けようとしても、身を捩りたくても、頬や肩に触れる手が動きを封じる。
「・・・ん〜・・・もう、静蘭たらぁ〜」
寝起きの舌足らずな声でたしなめられる。
眠たげな顔が恥ずかしさに頬を赤くして静蘭を睨むが、怖さを感じるどころか、そのあまりの可愛らしさに余計に離し難い。
しかし静蘭は緩みそうになる口許をあえて引き締めた。
「こんな所でお眠りになって・・・。温かくなってきたとはいえ、風はまだ冷えるでしょう」
「う〜ん、眠るつもりじゃなかったんだけど・・・」
穏やかに叱られ、秀麗は困ったように肩を竦める。
本当に、少し読書を楽しむだけのはずだったのに、いつの間に寝ちゃったのかしら。
自分でも不思議そうにそう言った。
「お嬢様が風邪を引かれれば、皆が心配します。旦那様も、藍将軍や絳攸殿、それに主上も」
「うん、解ってる。前に大騒ぎになったものね。あら、静蘭は含まれてないの?」
「言うまでもないですよ。私ならその時は付きっきりで看病します」
「ふふ、ありがとう。私も静蘭が風邪引いちゃったら付きっきりで看病するわね」
「・・・嬉しいですが、危険かも知れませんよ?」
静蘭の瞳にどこか妖しげな光が灯る。
「? ああ、移るかも知れないってこと? でも人に移せば治りは早いって言うわよね」
「移るでしょうねえ。ええ、そんなことをすれば」
「移ったとしても、やっぱり静蘭が辛いのは嫌だもの」
「ありがとうございます、お嬢様。その優しさはきっと私の辛さを癒してくれるでしょう」
会話がおかしいことに秀麗はまったく気付いていない。
それを良いことに、静蘭の言動は随分危険な意味を含んでいた。(意味が解らない方はどうか解らないままでいて下さい(汗))
微妙に危険を伴なったほのぼのとした雰囲気で微笑み合う二人。
寄り添いながら他愛もない会話を交わして幾許か経った頃、ふいに静蘭は思い出したように「あ、そうそう」と呟いた。
「鴨が葱・・・いえ藍将軍と絳攸殿が食材を持参していらっしゃっていますよ」
「え!? それを早く言ってよっ」
慌てて立ち上がる秀麗に続いて、静蘭も腰を上げた。
そして走り出そうとする秀麗の腕をやんわりと掴んでゆっくりと歩き出す。
「彼らがどんなに餓えようが、お嬢様の安らぎの時間に比べれば然したる問題でもないでしょう。ですから急がなくて大丈夫ですよ」
静蘭の優先順位がどれだけお嬢様至上かがよく解る台詞だ。
その端正な顔に浮かぶのは、有無を言わせない極上の笑顔。
実際、秀麗の寝顔を目にした時点で客の存在など頭の片隅にすら残ってはいなかった。
「桜が綺麗に咲いていますね。景色を楽しみながらゆっくりと帰りましょう」
例え楸瑛や絳攸が餓えようが、追い討ちを掛けるように父茶を差し出されていようが、どこぞの吏部尚書に八つ当たりされようが、王に愚痴られようが、秀麗との至福の時間と秤に掛けるほどのことではないのだ。
起き抜けのぼんやりとした思考では秀麗に逆らう術もなく、二人は家までの道程をゆっくりと歩いたのだった。
了
静蘭v秀麗です。甘過ぎですか?(苦笑)カップル成立しちゃってますね。
個人的には秀麗を想う男性陣と、誰にも靡かない秀麗という構図が好きなのですけど(笑)。
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