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いらっしゃいませ! 4
(※オリキャラ視点)
『まるで乙女ゲームの世界みたい』
居並ぶ煌びやかな方々を見つめる眼を輝かせ、うっとりとそう言ったのは、私の従姉妹。
素敵な男性達に愛されるヒロインになれるのだと、胸をときめかせたのは私も同じだ。
古い血筋を受け継ぐ私達は“特別”なのだと、信じて疑わなかった。
あの美しい男性達の誰かと結ばれ、幸せになる未来を確信していた。
だって、私達には彼らに愛される“資格”があるのだから。
私は江戸時代から続く旧家の傍系として生まれた。
東雲家を中心にした“本家”は日本屈指の名家だ。
私の家はその末端で本家に入ることは出来ないけれど、親族には本家に嫁いだ人もいる。
東雲家は少し不思議な一族で、 先祖代々近親婚で血統を守っているらしく、そのせいかどうか解らないけど女子が生まれ難い。
本家の私と同じ年頃の子供達も、男性の割合がずっと多いことからも、それは事実なのだと思う。
その点、本家から離れて長い私の親族は女性が多い。
私達もきっと本家を継ぐ人達のもとに嫁ぐことになるのだろう。
私の両親も、従姉妹達の両親も乗り気で、何度か本家に打診しているようだ。
祖父母は「あまり過度な期待はしないように」と悲観的な考えだけど、内心では私達が本家の人と結ばれることを願っているはずだ。
そして数年前、東雲家直系の総司様が数えで元服の年を迎えられた日、私達は祖父母や両親と共に本家に挨拶に伺った。
本家には総司様の他にも本家筋の男性が居て、その中のどなたかに見初められれば、本家に嫁ぐことができる。
私は未来の旦那様に会うのが楽しみで仕方がなかった。
これは元服を迎えられ、これから益々東雲家の跡継ぎとして励まれる総司様や、その補佐をしていく方々のお披露目でもあり、同時に婚約者になり得る私達との顔合わせの意味もあるのだ。
そうして出会った見目麗しい素敵な男性達。
何て美しくも凛々しい方々だろう。
ほう、と溜息を零しながら、私達は彼らに見惚れた。
今まで見たどんな美形よりも美しい歳三様。
少し意地悪な笑顔が魅力的な総司様。
物静かで、涼やかな雰囲気を持つ一様。
人懐っこい笑顔が素敵な平助様。
優しくて大人の色気を感じる左之助様。
豪快で野性味溢れる新八様。
物腰柔らかで、笑顔の優しい敬助様。
大らかで頼りがいのある勇様。
皆、とっても素敵!
他にも何人か若い男性がいるけれど、特に素敵なのがこの八人だ。
誰を選ぼうか迷うけれど、まずは本家の女性達が優先される。
歳三様や総司様のお姉様は誰を選ぶのだろう。
総司様のお姉様は歳三様の許婚候補筆頭、歳三様のお姉様の相手は敬助様か勇様が有力らしいけれど、まだ正式に決まったわけではない。
その他の女性達も早く決めてほしい。
そんなことを考えていると、隣に座る従姉妹がうっとりと呟いた。
まるで乙女ゲームの世界みたい、と。
そうだ、乙女ゲームのように皆の好感度を上げていけば良いのかも。
本家の女性達より好かれれば、総司様や歳三様にだって愛されるかも知れない。
きっと彼らは学校や職場でもたくさんの女性達に想われているだろうけれど、彼らと結ばれる“資格”があるのは一族の者だけ。
その一族の末端に生まれた私達はヒロインになれるのだ。
高校生になり、総司様や一様が通う高校に進学した私は、お二人の人気を眼にする度に優越感を感じた。
“資格”を持たない女達がいくら騒いだって、彼らには見向きもされないのよ。ヒロインになれなくて残念ね。
そんな時、嫌な噂を聞いた。
本家の源三郎様が経営する喫茶店『試衛館』に女性がいる と。
慌てたようにそれを私に伝えた従姉妹に写メを見せてもらったけれど、本家の女性ではない。
『試衛館』は総司様達にとって特別な場所で、たくさんの申し込みがあったにも関わらず従業員を受け入れることはなかった。
時々歳三様が手伝われていると聞いて、私もアルバイトを申し込んだのだが断られた。
少し申し訳なさそうな優しい笑顔で『手伝いは歳三君達で足りているんだ』と言われ、それ以上粘ることができなかった。
それなのに、何故『試衛館』に女性従業員が居るのだろう。
聞けば、歳三様と親しげに談笑したり、平助様と一緒に楽しそうに歩いていたと言う。
一族でもない、どこの馬の骨とも知れない女と親しくするなんて、彼らには許されないはずなのに。
従姉妹と一緒に親達に女性のことを教え、本家に知らせようとしたけれど祖父母に止められた。
本家の方々の行動に口を挟んではいけない、ということだが納得できない。
ヒロインになどなれない女が、彼らのそばにいて良いわけないじゃない。
従姉妹達と相談し、今度の休日に親戚を訊ねるという理由で本家に行くことを決めた。
早くあの女性を皆様から遠ざけなければ。
なのに。
何故あの女性がこの邸にいるの?
広い玄関に入ると、二人の女性が立ち話をしていた。
「元気だった? 千鶴ちゃん」
「お千ちゃん、来てくれて嬉しい!」
どうやら一人は客人のようだけど、一族でもない人が図々しく本邸を訊ねるなんて、どういう神経しているのかしら。
不意に、千鶴、と呼ばれた女性が私達に気付いて眼を丸くした。
「お客様ですか?」
まるでこの家が自分の家であるかのような態度が気に障る。
「貴方、どなたです?」
「どちらのお家の方々でしょう?」
従姉妹も私と同じ気持ちなのか、険しい眼で“千鶴”を睨みながら問い、私もそれに続いた。
「家、ですか?」
「私は京から来たけど?」
「ここは由緒正しい血統の一族が住まう地ですよ。貴方方のような名もなき者が軽々しく出入りしてはいけません」
「・・・はあ」
言葉の意味が解らないのか、“千鶴”が不思議そうにこちらを見る。
“お千”は不快げに眉を寄せるが、そもそも身の程知らずにもここに上がり込もうとする彼女達の方が悪いのだ。
本家の方々に伝えて摘み出してもらわないと。
「君達、誰?」
突然割って入った声にはっと顔を上げると、奥から総司様が顔を出した。
まさかいきなり会えるなんて。
「そ、総司様、あの・・・っ」
挨拶しようとすると、総司様の後ろから他の方々も集まってくる。
この家を出て大学の寮に入っているはずの歳三様や左之助様までいて、あまりの幸運にすっかり舞い上がってしまった。
「何だ? お千のお供か?」
「いいえ、いきなり現れた知らない人達」
左之助さんと“お千”の会話に我に返る。
見惚れてる場合ではなかった。
「そういえばさっき面白いこと言ってたね」
「そうです、この人達何の権利があって東雲家に入り込んでいるのですか? ここに居て良いのは本家の方だけなのに!」
「血統なら、彼女達は僕なんて足元にも及ばないほど高貴な姫君達なんだけど?」
「え?」
総司様の言葉にわけが解らずきょとんとなっていると、歳三様がくつくつと笑い声を漏らした。
「まったくだ。うちの爺共が喜び勇んで傅いてる女達なのになあ」
「千鶴は我らが一族が長年待ち望んでいた真なる頭領だ。ここに居ることに何の不思議もない」
「やっと帰ってきてくれたお姫様に出て行かれたら、じーさん達泣いちゃうって」
一様、平助様と続けられる言葉に頭の中が真っ白になる。
これって、どういうこと?
「嬢ちゃん達、誤解は解けたか? 悪いがお姫様達の感動の再会なんでな、水を差さないでやってくれや」
左之助様はそう言うと、「どうぞ、姫君」と“お千”に恭しく手を差し伸べる。
“お千”の方も快活に笑いながら「苦しゅうない」と冗談めかして答えた。
彼女の脱いだ靴を揃えるのは平助様だ。
茫然とする私達を残し、“千鶴”と“お千”は彼らとともに邸の奥へとそぞろ歩いていった。
その後、親類と話をした私達は、“千鶴”と“お千”が東雲家以上の血統を持つ姫君なのだと教えられた。
そして“千鶴姫”様は総司様達に大切にされている唯一の女性なのだと。
素敵な男性達に愛されるヒロインは、彼女一人だったのだ。
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「で、彼女達は誰ですか?」
居間に場所を移し、千鶴と千姫が二人で仲良く談笑する様を微笑ましく眺めながら、総司が歳三に問いかけた。
「親族くらい覚えとけ。彼女達は 」
名を告げても、総司は首を傾げるばかりだ。
何度か顔を合わせたこともあるのだが、自分の興味のないものにはとことん無関心な総司の記憶には残っていないようだ。
「まあ、親族つっても、もうかつて自分達が何であったかを知ってるのは祖父母だけだろうがな」
彼女達の祖父母はまだかすかに“鬼”の気配を感じるが、その子供達からはもう力を感じない。孫なら尚更だ。
ほとんど“人”となった彼らは、“鬼”の存在すら知らないだろう。
「そういえば、うちの娘達を嫁に、と何度も打診してきた家の名ではありませんか?」
「ああ、女が多いのだから一人くらいは見初められると思っているらしいな」
「女が生まれ易いって事は、もうその血に価値がないほど薄まってるってことなんだがなあ」
「でもさ、俺達一族の悲願はもう果たされたんだし、別に血統を残す必要もないんだよな」
「何だ、平助。お前千鶴以外に好きな女でもできたのか?」
「ちげーし! 俺が好きなのは千鶴だけだっての!」
「何だ、恋敵が一人減ったと思ったのに、残念だなあ」
わいわいとじゃれ合う彼らは、不意に千鶴の様子が変わったことに目聡く気づく。
どうやら、お千は厄介ごとを携えてやって来たらしい。
〈次〉
13.12.20up
ヒロインになりたい女の子達の話でした。
良い男が揃ってれば夢見ちゃいますよね。
しかもそこらの女の子より自分に可能性があるなら尚更です。
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