軍主の受難(リオウ編)

坊ちゃん :リーシア・マクドール
:月華(ユエファ)・マクドール
2主:リオウ
:ユアン(元)
坊ちゃん達の設定はこちら


「それじゃあ皆、行くよ」

「おーっ!」

リオウの呼びかけにナナミの元気な声が応え、仲間達が頷いた。

本日、同盟軍リーダーの遠征の同行を務めるのはマチルダの騎士カミューとマイクロトフ、竜騎士フッチ、そして義理の姉であるナナミである。

このメンバーを見た勘の良い者達はすぐに今回の行き先を知って、ある者は苦笑し、ある者は複雑な表情を浮かべた。

そんな中でも特に目立つ人物を視界に捕らえたリオウは、思いっきり睨みを効かせて問いかけた。

「何か言いたいことでもありますか? ブルーサンダー」

「どうしてそう突っ掛かるんだ、お前は・・・」

「あんたが文句を言いたそうな顔をしてるから訊いてやったんですよ」

「あのなあ、見てたのは俺だけじゃないだろ。何で俺ばかりに・・・」

「そんなのあんたが不必要に目立つからに決まってます。嫌なら大衆に溶け込んで下さい」

厭味を込めてブルーサンダーと呼びかけられたフリックは、リオウのきつい言葉に憎々しげに口を噤んだ。
これ以上何かを言ってもすぐに切り返されるだけだ。

どうしてこう、この軍主は怒りっぽいのか。
4年前のリーダーがどこまでも無感情だったためか、今回のリーダーは随分と短気に感じられた。


「つまりあれだろ。フリックが言いてえのは、また懲りもせずにリーシアを迎えに行くのかってことだろ。毎回説得にあれだけ苦労しながら、お前も飽きないな」

険悪になりつつあった二人の間に、フリックの隣に立つビクトールの声が割り込んだ。

「いいでしょう、別に」

眉間の皺を1本増やしたリオウの不機嫌な顔がふいと背けられる。
痛いところを突かれたのか、その頬は僅かに紅潮していた。


ビクトールの言葉通り、今回の遠征の目的地はグレッグミンスターのマクドール邸だ。
トランの英雄と誉れ高きリーシア・マクドールの助力を乞うため、軍主自らがリーシアを迎えにトランの地まで行く。
しかし、その道程が非常に険しいことは知る人ぞ知る。

バナーの峠越えもさることながら、もっとも神経と時間を費やすのがトランの英雄の説得だ。
リーシアが相手では「一緒に戦って下さい」「うん、いいよ」とはいかない。
断られるのはまだ良い方で、下手をすれば完全無視された上に見兼ねたクレオに「今日はお引き取りください」と言われておしまいである。

そんなリーシアの説得には、実は元解放軍のメンバーを連れて行けば成功しやすいということに気付いたのはいつだったか。
ビクトールやシーナ、タイ・ホーならば強引に、ヒックスやテンガアール、スタリオンにビッキーにメグなどは無邪気に纏わり付いていつの間にやらリーシアを連れ出す。
フッチやカスミが懸命にお願いしたり、フリックが頼み込んだり、クライブやハンフリーやペシュメルガがしばらくじーっと黙っていればそのうちリーシアが折れてくれる。
ルックに至ってはすぐさまテレポートで二人どこかに消える。

同盟軍の者でもリーシアが悪い印象を抱いていなければ成功することもあるが、やはり元解放軍の成功率の比ではない。

だが、元解放軍を何人も同行させることにリオウは消極的だ。というのもメンバーに複数人、元解放軍が居ると彼らにリーシアを独占されるからだ。リーシアに密かに想いを寄せる彼にとってはおもしろくないことこの上ない。
しかし、彼らがいなければリーシアは自分の誘いなど歯牙にも掛けない。
最もリーシア獲得率が高いのはルック。次点でシーナなのだが、リオウはこの二人とははっきり言ってとことん仲が悪い。となると、リオウとも比較的仲が良く、ルックとシーナに続くリーシア獲得率の高いフッチが同行者の一員となるのである。

そしてマチルダの赤騎士&青騎士はリーシアとは穏やかな関係を築いているので、同行しても彼の不興は買わない。それどころか面倒臭がりのリーシアを戦わせることなく、安全に峠を越せられるほど強いのだから言うことなしということだ。


そんなこんなでリオウ達はテレポートを依頼するためにビッキーの元へと向かった。

その途中の石板の前は、ビッキー以上に正確なテレポートを使えるくせにリーシア以外のためには指一本動かしたがらない風の魔術師の定位置だ。

リオウを先頭に現れたメンバーの顔触れにすぐさま軍主の目的を解したようで、ビッキーの元に向かう彼らに注がれる翡翠の視線が鋭さと冷たさを増した。


「ビッキー、バナーまでテレポートお願い」

「こんにちはぁ、リオウさん。バナーまでですねぇ」

にっこり笑って呪文の詠唱に入るビッキー。

「隣国の人間に助けを求めるほど人材が乏しいのかい、この軍は」

ビッキーの声に被さるように、リオウ達の頭上から冷たい声が降ってきた。
見上げると、嘲りを浮かべた無表情がリオウを見下ろしている。

「何? リーシアさんを呼ぶのが何か悪いの?」

「悪いね。彼だって迷惑がってるってこと、あんたの軽い頭じゃ解らないわけ?」

刃物のような鋭さを含むその言葉に、リオウがカッとして反論をしようと口を開いた。
その時だった。


「っくしゅん!」


「「「「「 あ 」」」」」

リオウ、ナナミ、フッチ、カミュー、マイクロトフが声を漏らしたその一瞬後には。



リオウの姿はどこにもなかった。





■■■■■





バッシャーンッ!!



派手な水音を立てて、リオウの身体は水底へと沈んでいった。


なんなんだ〜〜〜っ!!!??


状況が解らず数秒間沈むままになっていたが、我に返ると慌てて浮上して水面から顔を出した。
周囲を見渡すと、目の前には見慣れた建物が大きくそびえる。
それは同盟軍の本拠地、ノースウィンドウ城であった。

「デュナン湖に落とされたのか・・・」

落とされる一瞬前に聞いたビッキーのくしゃみに、また彼女の失敗に巻き込まれたことを理解する。

ぶつぶつと文句を呟きながら桟橋まで泳ぎ、そこにいたヤム・クーの手を借りて何とか水から這い出た。

「あーあ、これじゃあどこにも行けないや・・・」

当然のことながら思いっきり水を含んで重くなった服の裾を持ち上げてそうぼやく。
これではリーシアの所に行こうにも、まずは着替えなければならない。

仕方なくリオウは城内へと戻って行った。



ホールに入ると、何やら言い争うような声が聞こえてきた。
聞き取れる言葉のフレーズから失敗テレポートのことかなと考えながら、声の聞こえる方に足を向ける。

騒いでいるのはフリックだった。いつホールに来ていたのか、石板の前に立つルックやシーナに対して声を荒げている。

何故あの二人に怒っているのだろう。
ビッキーの失敗は二人には関係がないのに。

そう思って身を乗り出して彼らの様子を覗おうとしたリオウは、そこで思ってもみない人物を目にした。

「リーシアさん!?」

「え?」

大きくホールに響いた声に、石板前に立つ4人が一斉に振り向いた。
その中でリオウの驚きに満ちた目が映すのは、ここにいないはずの人物だった。

(なんで? なんでリーシアさんがいるの!?)

慌てて階段を駆け下りたリオウは真っ先にリーシアに駆け寄ろうとしたが、ルックとシーナが遮るように立ちはだかる。

「何だよ、邪魔しないでくれない?」

「邪魔はあんただよ。まだ懲りないわけ」

「そんな格好でうろつかず、さっさと着替えろよ」

その言葉に反論できずにぐっと詰まる。

「ルック、シーナ、駄目だよ」

ルックとシーナの背に隠されていた少年が二人をたしなめる。
彼は全身がずぶ濡れとなったリオウを見やり、心配そうに表情を曇らせた。

「大丈夫?」

優しく気遣われ、リオウは唖然となった。

(リーシアさんが喋った? 表情が動いた? 僕を心配した?)

何故? 何? 何がどうしてどうなって? いったい何事??


ありえない事態にリオウの頭の中は疑問の洪水が渦を巻いて、すべての思考を流し尽くした。

数十秒間の硬直の後、リオウはリーシアの肩をがしっと掴んだ。

何か悪いものを食べたんですか!!?

「・・・え???」

ひどい言い草だが、それほどリーシアと優しい言葉には縁がないはずなのだ。
わけが解らずにきょとんとする彼を思い詰めたように見つめ、

「「・・・?」」

二人は異変に気付いた。

「君・・・ユアンじゃない?」

「貴方はリーシアさんじゃない?」

二人の口から出た言葉に、ルックとシーナとフリックらも目を丸くした。

「リーシア?」

「ユアン?」

聞き慣れない名前に揃って首を傾げる。

困惑に満ちた静寂が落ちた。

そんな中、ルックがリーシアに似た少年の肩に手を置いて注意を促す。

「月華、そいつはどうやら馬鹿猿じゃなさそうだよ」

「え・・・でも・・・」

「確かに盾の気配だけど、異質だ」

「うーん、言われてみればユアンとは微妙に違うような気がするよな」

月華と呼ばれた少年の空いた肩に手を掛け、シーナの油断のない視線がリオウを見やる。

「ユアンって誰のこと?」

「同盟軍の軍主の名前だよ」

「え?」

月華の答えにリオウはますます混乱した。

同盟軍の軍主は自分のはずなのに、いったいどういうことなのか。
そしてリーシアによく似ていながら、どこか違うこの少年は?

「つまり、ここはあんたの同盟軍じゃないわけ」

簡潔にルックが説明した。

「え・・・と、時間を超えたわけじゃないよね? だとしたら・・・??」

「異世界と言った方がいいかな。君がいた同盟軍とは同じだけどまったく違うということになるんだ」

「・・・・・・な・・・何で??」

「そんなの知らないね。あんた自分の世界で何かおかしなことしなかった?」

「おかしなことって・・・、ビッキーの失敗テレポートくらいしか・・・」

「あぁ〜、そりゃ災難だったなぁ」

丁寧に説明してくれる月華とは違い、まるで他人事のようなルックとシーナ。
そんな二人に挟まれている月華の顔色がみるみる青くなっていったが、苦悩するリオウは気付かない。

「と、とにかく、まずは着替えた方が良くないか? えーと・・・?」

異界の軍主をどう呼べば良いのか解らず、フリックの戸惑いの目が向けられた。
リオウは彼の言いたいことを察して、

「リオウです。貴方はフリック、で良いんですか?」

「ああ」

どうやら”違う”のは自分とトランの英雄だけのようだ。

「身体も冷え切っているようだし、風呂に入れよ。服はユアンのを着ればいいな。体格も同じようだし」

フリックに促され、リオウは素直に従った。
肩越しに振り返ると、月華達が自分を見つめている。

後でゆっくり話をしたいな、と思いながらリオウは階段を上がっていった。





「おかしなことになったな」

リオウが去った後、シーナが一言そう言った。
その表情はどこかおもしろがるようなそれだ。

「ね、ルック。ユアンはどこにいるの?」

「ああ、それだけどね。感じないよ」

「「え?」」

この世界の軍主の行方を問う月華に、淡々と答えるルック。

「探ってみたけど盾の気配はあのリオウって奴のしか感じなかった」

振り返った月華を見やったルックとシーナは、彼が顔面蒼白となっていることにようやく気付いて、驚きうろたえる。

「さっき、テッドがソウルイーターを使ったよね。もしかしてルックの魔法と合わさって変な相互干渉とか起こさなかった!?」

「・・・・・・」

月華の鋭い言葉にあのルックが言葉に詰まった。

「何、月華ちゃん、さっきの見てた?」

シーナの問いに月華は哀しそうに頷いた。

「テッドがいきなり飛び出したかと思うと、こんなことに・・・」

止める間もなかったと落ち込む月華に、ルックとシーナは困り果てた。
おそらく月華の中の”彼”も困っていることだろう。
彼らは決して大事な月華を哀しませる気はなかったのだから。

「そ、そんなに気にすることないって、月華ちゃん。な?」

「そうだよ。悪いのはあいつの青いの並の運の無さだ」


その原因の一端のくせに何を言うか。

という言葉が喉元まで出掛けたシーナだったが、何とかそれを飲み込んだ。



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