1.誰がために




――誰かを捜してるんだ。


ずっと、ずっと永い間、俺はたった一人を捜している。

そいつだけを求めて、俺は旅を続けている。





「へえ? 誰を捜しているんだい?」

気の良さそうな笑みを浮かべながら、俺の横で馬車の手綱を捌く男が聞いてくる。
細身で日に焼けた30代前半のその男は、旅の間に知り合った商人だ。
行き先が同じだったので俺は彼の馬車に乗せてもらっている。

道中、そいつとは色んな話をした。
その流れでつい口に出していた言葉は、遠い昔から何故か俺の胸に引っ掛かり続けていること。

「それが解れば苦労はしないよ」

軽い口調で返す。
と言っても本心なんだけどな。

俺の言葉を冗談と受け取ったのか、商人が笑い声を上げる。

「おもしろいな、ぼうず。誰かも解らねえのに捜し回ってるのか?」

「いいんだよ。人生やっぱ目的がなきゃ虚しいだけだろ?」

「ガキのくせに言うじゃないか」

そう言って彼は楽しそうに笑う。


けど。俺にとっちゃそれは生きる目的だ。
時の流れから放り出され、生きることに意味を見つけられないほどに永い時を生きる俺。
けれど俺は生きてる。

もういいやとか思ったことは少なくない。
でも何故かすぐに、もう少し生きてみようって気になるんだ。
それは・・・もう記憶にすらない遠い遠い昔に会った誰かの言葉があったから。

何を言われたかなんてもう覚えちゃいないし、あれから気が遠くなるほどの年月が過ぎ、普通ならその『誰か』ってのはすでにこの世にいないって思うもんだよな。

それでも・・・俺はどこかで信じてる。

いつかきっと、その『誰か』に会えるんだって。


だから・・・・・・俺は負けないぜ。


呪いの紋章なんかにはな。
 


誰かとの約束なんだから・・・・・・




馬車に揺られながら見上げた空は、どこまでも青く澄んでいた。
















「お前が俺をここに導いたのか?」

焼け焦げた匂い。血臭。
累々と横たわるのは真っ黒に焼け爛れた死体。
人間なのか馬などの動物なのか。
その判断すらつかないほどの有様だ。

「血が紅いって言えるのは平和な時だけだよな」

戦場でみる血は・・・黒い。
赤黒いとでもいうべきか。

俺はそんな戦場でみる血と同じ色をした自分の右手を翳した。

「なあ、お前はここに来たかったのか?」

別にな、いつものことなんだけどさ。
慣れたなんて思っちゃいけないかもしれないけど・・・慣れたよ、本当。



「そこで何をしている?」


突然掛けられた声に驚いて振り向く。
いつの間にそこにいたのかは知らないけど、甲冑を纏った屈強そうな男が俺を見ていた。

精悍な顔立ちと堂々とした態度。
軍人…それも将軍クラスだと解る。
気難しそうな表情で俺を観察するように眺めている。

まあ、こんな所に俺みたいな子供がいるのはおかしいもんな。

「戦災孤児か?」

間違ってはいないよ。
300年前の戦災孤児だもん、俺。

「来るがいい」

そう言って大きな武骨な手が差し伸べられる。
頑固で融通の利かない頭の固い軍人かと思えば、どうやらそうでもないらしい。


断る理由もないし、世話になることにした。
こんなとこで野宿とかする気にはなれないしな。
雨露凌げるんならありがたい。



この日、俺はテオ・マクドールという男に拾われた。



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坊ちゃんと出会う前のテッドの話です。
テッドはずっと坊ちゃんを想って捜し回っていたのですっ。
次回は坊ちゃんの話♪



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