2.出会い
「なあ、ティエンよ。お前は将来何になりたい?」
突然師匠がそう訊いてきた。
グレッグミンスターからは幾分離れた草原で、僕はいつものように修行を受けていた。
カイ師匠は武術や棒術の達人で、僕の先生だ。
その休憩の時に師匠が僕にそんな質問を掛けてきた。
何故そんなことを聞くのだろうと不思議に思ったが、
「僕は軍に入り、父上をお助けしたいと思ってます」
僕の答えに師匠はにやりと笑った。
思った通りだと言いたげな表情だ。
「模範回答だな」
師匠はいったい何を言いたいのだろう。
僕は何かおかしなことを言っただろうか?
僕は帝国将軍である父上を誰より尊敬している。
息子としてだけでなく、軍人として父を目標にしてきた。
そんな父と共に、バルバロッサ様にお仕えしようと思うことがおかしいだろうか?
「お前さんは聡い子供だ。だがやはりまだ幼い。知らないことが多過ぎる。俺はお前にもっと世界を知ってほしいな。お前は俺の自慢の弟子だから、つまらない生き方はしてほしくない」
「軍人になることがつまらない生き方なのですか?」
「そうは言ってない。しかしな、将来を決めるのはもっと色んなことを見て、聞いて、知ってからでも遅くはないだろう?」
「僕は世間知らずですか?」
その問いに師匠は豪快な笑い声を上げた。
「まあな。お前さんはお坊ちゃんだからなあ」
師匠の固い手が僕の頭を痛いくらいに撫で回す。
手が離れると、今まで明るく笑っていた師匠の顔が真剣なものに変わった。
「けれどお前は純粋だ。誰よりも。世間を知ったお前がどんなふうにその才能を開花させていくのか。俺は楽しみにしている」
師匠の言葉は抽象的でよく解らない。
子供扱いされているのか、期待されているのかも。
いや、両方なのかな・・・?
「坊ちゃん、お帰りなさい」
家に帰った僕を出迎えたのはグレミオだ。
家の中からはシチューの良い香りが漂ってくる。
「ただいま、グレミオ」
「今日はテオ様がお帰りになる日ですよ。腕によりをかけて夕食を作りますからね」
ああ、そうだった。
遠征に出掛けていた父上が、今夜帰ってくる。
グレミオやクレオ、パーンもそばにいるのに、やはり父親がいなかったことが寂しく感じていたようだ。
今すごく嬉しいって思いが溢れてくるのが解る。
「嬉しそうですね、坊ちゃん」
優しい顔をしていながらグレミオは結構鋭い。
にこにこと笑いながら図星を付かれ、思わず僕はそっぽ向いてしまった。
ああ、何だか後ろで楽しそうに苦笑しているグレミオの姿が思い浮かぶ・・・。
軍人たる者、他人に心を読まれてはいけないというのに、僕もまだまだ修行が足りない。
カイ師匠が聞いたら「子供が生意気言ってんじゃない」とか言うだろうけれど。
その夜、数週間振りに帰って来た父上は一人ではなかった。
父上の後ろから促されて現れたのは、僕よりも少し年上らしい一人の少年。
父上は遠征先で出会って連れてきたのだと説明した。
ということは戦災孤児なのだろうか。
辛い思いをしてきたことを伺わせるほど、彼は暗い表情をしていた。
「俺はテッド・・・」
どこか憂いを帯びた瞳は、僕とさほど変わらない年齢であるだろう少年を、僕よりもずっと年上かのように思わせる。
これが、僕とテッドの出会い。
空には満月が輝く夜だった。
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テッドと会う前の坊ちゃんでした。
カイ師匠の口調や性格ってどんなだったのかうろ覚えなのですが(苦笑)
あともう少しテッドと坊ちゃんの話が続きますので。
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