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第5章『風の精霊』
4.風の精霊との出会い
デュラン達一行は、『眠りの花畑』よりさらに上へと天翔ける道を上り、『風の回廊』へと辿り着いた。
風の回廊は天翔ける道の中腹を山の西側へと伸びている通路である。
その回廊の奥にデュラン達が求める『風のマナストーン』はあるのだ。
だが、その通路は奥から吹く強風に遮られて先に進むことができない。
「なんだよ、この風は。先に進めないぞ」
強い向かい風に髪を乱しながらデュランが毒づく。
その後ろではシャルロットが風に吹き飛ばされかかっている。
「きょわ〜っ! とばされるでち〜〜っっ!」
体の小さな彼女は他の五人と違って強風の中踏ん張るには体重が軽過ぎるのだ。
そんなシャルロットを掴まえているのは、六人の中で最も体格の良いケヴィンだ。
「ここには侵入者を防ぐ装置があるんです。風神像の向きを変えないと・・・」
そう言ってリースは「この辺りのはずだけど・・・」と呟いて何かを探すように辺りを見回し、目的のものを発見したのか、少し離れた場所に移動する。
そこには、岩に埋め込まれている何かの装置らしきものがあった。
リースがその装置に手を当てると、ふと風が止まった。
像から吹く風が止まったというわけではなく、像の向きが変わって別の方向に風が流れているのだ。
「いったい何なのよ、この像は」
「気を付けて下さい。風神像は色々な所にありますから。城内からだと像の機能を全部止めることも可能なのですが、今は一体ずつ向きを変えることしかできません」
リースの説明にホークアイが納得したように頷く。
「そういうことか。仕方ないな、ともかく進もう」
「きゃははははは!」
突然シャルロットの笑い声が響き、デュラン達が振り向くと、ケヴィンとシャルロットの二人が向きを変えた風神像の強風に煽られて通路を飛んでいく様が目に入った。
「皆、面白いよ、コレ!」
あまりのことにしばらく呆気に取られていた四人だったが、すぐに「無邪気だなあ・・・」と言って笑った。
「でも良い方法よね。よーし、私もやろv 進行方向はこっちでしょ?」
「はい」
アンジェラは、リースが頷くのを確認するとケヴィンとシャルロットに続いて風に乗って飛んだ。
「きゃーっ! 気持ちいいーっ!」
風が弱くなってきた辺りで、アンジェラはケヴィンに支えられて着地した。
すぐにデュラン、ホークアイ、リースもそれに続く。
「ねえねえ、リースしゃん。あのブサイクなぞうはどこにあるんでちか?」
もっと飛びたいと、大きな瞳を輝かせて問い掛けてくるシャルロットに、リースは優しく微笑む。
「心配しなくてもたくさんありますよ」
そうして、リースが風神像を操作しながら、六人は回廊を奥へと進んで行った。
遊びに夢中になって、シャルロット辺りは本来の目的を綺麗さっぱり忘れていた頃、
「あ、なんかアナボコがあるでち」
好奇心に駆られ、嬉々として見付けた穴を覗くシャルロット。
「待って、シャルロットちゃん!」
慌ててリースが駆け寄ったが、シャルロットはすでに穴に入って、
「うっきゃ―――っっ!!!」
「何だ!?」
驚いてデュラン達も駆け寄る。
リースはすでに槍を構えて穴に入って、潜むモンスターとの戦いを始めていた。
天翔ける道の奥にいるだけにニードルバードの力も強く、また鳥類系のモンスターとは別の進化を遂げた鳥人類ハーピーといった強力なモンスターも襲って来た。
ハーピーは上半身は人間の女性とよく似ているが、巨大な翼と鋭い爪を持って襲い掛かってくる狂暴なモンスターだ。風の属性を持っているだけに風を操って攻撃を仕掛けて来る。
もちろん弱点は地の属性の攻撃なので、アンジェラは地の力を存分に引き出して魔法で応戦し、デュラン達もまた武器攻撃でモンスターを倒す。
いくら強い力を持つモンスターでも、やはりデュラン達の敵ではなかった。
デュランとケヴィンの力、ホークアイとリースの素早さ、そしてアンジェラの強力な攻撃魔法。
ここまで揃っていれば彼らの前に敵は無い。
「あうう、こわかったでち〜っ」
「シャルロットちゃん、大丈夫? 風の回廊にもたくさんモンスターが出現するから、あまり離れちゃ駄目よ」
震えるシャルロットを優しく抱き締め、慰めるリース。
だが、彼女は知っている。
しばらく前までは風の回廊はおろか、天翔ける道にすら今ほどモンスターは徘徊してはいなかったことを。
また、七日に一度マナの祝日とされる日にはモンスター達は活動しないことは、かつて誰もが知っていた。
それはモンスターの力の強さは日によって違うからだ。
風の属性を持つモンスターは風の日、つまりジンの日にその力が最も強く発揮され、反対に地の属性のモンスターの力は弱まる。その逆もまた然りだ。
マナの祝日は無属性で、全てのモンスターの力の効力が弱まる日なので、その日はモンスターはあまり出現しない。
しかし、いつからかそれらの法則はほとんど意味を持たなくなっていた。
「こちらです」
リースを先頭にデュラン達が辿り着いた場所。
そこには巨大な石があった。
「?」
石の前に誰かがいる。
暗黒の鎧を身に纏った騎士らしき男だ。
「何者だ!」
デュランがすかさず剣を構えてアンジェラやシャルロットを背後に庇い、ケヴィン、ホークアイ、リースもまた武器を手に身構える。
黒騎士はだが、デュラン達をちらっと横目で一瞥しただけで、すぐに空気に溶けるようにその姿を消した。
「消えた・・・? リース、今のは?」
風の回廊にいるのだからリースは知っているのだろうかと思ってデュランが問うが、リースには何の心当たりもなかった。
「見たこともないです・・・」
「見ろよ。でっかい石だな」
暢気な口調でそう言ったのはホークアイだ。
彼は消えたのはどうしようもないと、黒騎士のことは処理したのだ。
彼は、どうにもならないことを真面目に検討しようとは思わなかった。
それよりも今は目の前のこの物体が気になる。
以前ある場所で彼はこれと同じ物を見たことがあった。
それはアンジェラとケヴィンにも当てはまっていた。
風の回廊、否、世界に無数にあるどの石とも全く違う性質の巨大なその石。
それは―――。
〈マナストーン・・・〉
デュラン達からフェアリー達が全員現れた。
デュランからは青銀、アンジェラからは真紅、ケヴィンからは銀灰、シャルロットからは黄金、ホークアイからは漆黒、リースからは純白のフェアリー達がその姿を現して石の元に飛ぶ。
〈これがマナストーン・・・。実際に見るのは初めてね・・・〉
〈ええ。この中からやがて神獣が甦るかも知れないのね〉
〈そうなると世界は再び暗黒に・・・〉
「おい!物騒なこと言うなよ!」
デュランの怒ったような声がフェアリー達の言葉を遮る。
続いてシャルロットも、
「そうでちよ、なんてことをいうんでちか!」
〈あ・・・、ごめんなさい・・・。そうならないように頑張ってるんだもんね・・・〉
〈この辺りに風の精霊ジンがいるはずよ。探しましょう〉
「こっちじゃないか? ほら、出口だ」
何事にも目敏いホークアイが光の漏れてくる方向を指す。
それは六人が入って来た所とは別の穴だ。
デュラン達はその穴を通って外に出た。
〈ジンさん!〉
フェアリーが飛んだ先には、大きな耳とぽっちゃりとした体付きの精霊がいた。
〈こんにちはダスー。ワシに何か用ダスか?〉
のんびりした口調で問い掛けてくる精霊ジンに、フェアリー達は今までの経緯を説明した。
〈ジンさん、あなたの力が必要なの。お願い、私達と一緒に来て〉
〈事情は解ったダスー。ワシもお手伝いするダスー〉
〈ありがとう!〉
「なあ、さっきマナストーンの所にいた黒い騎士は何なんだ?」
話が終わるのを見計らって、デュランがジンに問い掛ける。
ジンは愛嬌のある仕草で首を傾げ、
〈さあ、わからんダスー。何だか『マナストーン』を調べていたみたいだったダスけど〉
「ふうん・・・」
デュランは無性にあの騎士が気になっていた。
何故かは彼にも解らなかったが、あの騎士に何かを感じていた。
(いったい何故だろう。おかしなもんだ・・・)
仲間となることを承諾した精霊ジンは、デュラン達にその力を注いでフェアリー達と共に姿を消した。
これでデュラン達は、風の精霊の力を得ることができたのだ。
次はナバールから風の王国ローラントを取り戻す。
デュランには黒い騎士に対しての疑問もあったが、今はそれを考えても仕方が無い。
六人は、風の回廊を後にして、再び『眠りの花畑』へと向かった。
草原の王国フォルセナの英雄王からはジンを見付けた後でフォルセナに戻るように言われていたが、このままナバールに占領されたローラント王国を見過ごすわけにはいかない。
「でも、私達の問題に皆さんを巻き込むわけには・・・」
次にローラントに行こうと言うデュランの言葉に、リースは申し訳無さそうにそう言った。
彼女の言葉にホークアイは、
「だけど、俺は行くぜ。リース、俺には行かなければならない事情がある。解ってくれるよな? それに、君に国を返してやりたいんだ。俺にも協力させてくれ」
「ホークアイさん・・・」
今までも時折見せてきた、ひどく真剣なホークアイの表情。
鋭くも哀しい瞳に見つめられ、リースの胸が高鳴る。
「ちょっとちょっと、あんた達、二人で世界作んないでくれる?」
呆れたような怒ったようなアンジェラの声が割り込んできた。
それを引き継ぐように、デュランが諭すようにリースに話し掛ける。
「リース、俺達だってホークアイと同じだ。君に国を返す手伝いをしたいんだ。俺達に迷惑を掛けるとか、そんな心配をする必要はないんだぜ」
「そうでち。シャルロットのちからをあまくみてもらってはこまりまち!」
「オイラも手伝う。自分でそうしたいと思ってんだから、リースが気にすることない」
デュラン、シャルロット、ケヴィンがそれぞれ強い決意を持ってリースの言葉を否定する。
リースは戸惑い、困ったような表情で三人を見やる。
そんなリースの様子にアンジェラは軽くウィンクして、
「ほーらね。意地張んないで素直に受け入れなさいよ。皆あんたのために自分達の意志でナバールと戦うつもりなんだからね。駄目って言っても無駄よ。私達は仲間なんだからね!」
「アンジェラさん、皆さん・・・」
リースを見る五人の表情は強く真剣なものだ。
誰もが仲間のために戦うという断固たる意志を秘めている。
迷惑を掛けるとか、私達の戦いだとか、そんな台詞は彼らの自分への想いへの裏切りでしかない。
仲間なのだから―――・・・。
その言葉がこれほど優しく胸に染み込んできたことがあっただろうか・・・。
リースの湖面のような瞳に、ローラント王国が滅びたその日から流すことをやめた涙が込み上げてくる。
「・・・お願い・・・しても、よろしいんですか・・・?」
涙に掠れる弱々しいリースの声に、デュラン達は柔らかい笑みを浮かべる。
いつもどこか気を張っていた気丈な少女が、ようやく見せた弱い一面。
ホークアイは腕を広げてリースの身体を優しく抱き締めた。
温かな腕に包まれ、リースは久しぶりに安らぎを感じていた。
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04.10.10.UP
風の精霊編終了です。今回はちょっとだけデュラリーちっくv
シャルロット書くのはやはり楽しいです♪
次回からはローラント編。別名ホークリ編(苦笑)。
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