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第5章『風の精霊』
3.生き残っていた仲間達
眠りの花畑。
それは山の中腹にあると、アマゾネス戦士の生き残りであるライザは言った。
彼女の言う『山』とは世界に類を見ない高山バストゥーク山のことで、その山の間を這うようにして続く山道が漁港パロと風の王国ローラントを結ぶ唯一のルートだ。
その険しい山道は天へと続くが如く長く高く伸び、天翔ける道と呼ばれている。
しかし、その天翔ける道は今やモンスターの徘徊する危険な道となっていた。
その道に多く出現するモンスターは鋭い嘴を持つ鳥類ニードルバードだ。
『風のマナストーン』のあるこの地に出現するだけあって、その力の源は風の力に属し、弱点は地の力だ。
だから地の精霊ノームの力を得たアンジェラの地の魔法はニードルバードに多大なダメージを与えられる。
「ダイヤミサイル!!」
アンジェラの呪文に呼応して地中に埋もれる鋭いダイヤの原石が出現し、敵を容赦なく貫く。
「「「おお――っ!」」」
魔法に馴染みが薄い男性陣が感嘆の声を上げてアンジェラに拍手を送る。
「あんたしゃんたち、なにのんきにかんしんしてるんでちか! さっさとモンスターをたおすでち!」
「ああ、はいはい」
シャルロットに叱られて、デュラン達は慌ててモンスターとの戦いを再開した。
そんな中、功労者であるアンジェラは杖を握り締めて俯いていた。
「どうしたんだ? アンジェラ」
不審に思ってデュランがアンジェラに近寄る。
彼女は小刻みに肩を震わせていた。
「アンジェラ?」
何か様子が変だ、とデュランは焦った。
「く、くく・・・」
押し殺すような声がアンジェラの口から漏れる。
「な、泣いているのかっ?」
オロオロとうろたえるデュラン。
だが、アンジェラは泣いているわけではなかった。
突然顔を上げたかと思うと、彼女は豊満な胸を仰け反らせ、
「おーっほほほほほっ!! 使える! 魔法が使えるわっっ!!!」
大声で高笑いを始めるアンジェラに、デュランだけでなく全員が驚いて目を向けた。
誰もが”何事だっ!?”という表情だ。
だが、アンジェラはそんな仲間達の視線など気に留めずに歓喜の声を上げる。
「なあんて気持ちが良いのかしらっ! デュラン、私は今生きる喜びを感じているわ! 嗚呼、人生ってなんて素晴らしいのかしらっっ!!」
「・・・そ、そうか。良かったな・・・」
アンジェラの異常なまでの気迫に圧倒され、しばらく声の出なかったデュランだったが、何とか答えを返す。
「さあ、この力で私に逆らう愚か者は全て地獄に叩き落してあげるわっ! モンスター共、死ぬ気で掛かっておいで!! おーっほほほほほっ!!」
「悪役だよ、ありゃあ・・・」
呆れ果てたように呟くホークアイの言葉に、傍にいたリースは曖昧に笑う。
余程嬉しいのであろうアンジェラは、天翔ける道を高笑いしながら魔法を連打して進んで行った。
もし天翔ける道を一人でも一般の人間が通り掛ったりしようものなら、デュラン達は迷うことなく他人の振りをしたことだろう。
だが幸いにも、危険なこの道を登ろうとする者はいなかった。
■■■■■
山の中腹の東側に花が咲く場所がある。
ライザが言ったのは其処のことだろう。
リースは五人を先導してその場所に来たが、特に変わった様子はない。
「ここに何があるんだ?」
周りを見回しながら、デュランが問う。
だがリースにも答えようがなく、「さあ」としか言えない。
「綺麗な花畑だわ」
嬉しそうにアンジェラは風に揺れる小さな花に手を伸ばす。
「本当にここ、言われた場所?」
ケヴィンが困惑気味にリースに問い掛ける。
それに続いてホークアイも、
「あのライザって人は『眠りの花畑』って言ったっけ。本当にここがそうなのか?」
「それは間違いないです。天翔ける道で花の咲く場所はここしかないんです。『眠りの花畑』は眠り草の・・・、あっ、皆さん花には気を付けて!」
「え? ・・・あれ?」
リースの言葉の意味を聞き返そうとして、突然デュラン達は急速に睡魔に襲われた。
「むにゃ、なんだかおねむでち〜・・・」
「なあに? すごく眠くなっちゃった・・・」
間もなく、リース以外の全員が次々にその場に倒れて眠り込んでしまった。
「ああ、どうしましょう・・・」
一人眠らなかったリースは、困り果てて立ち尽くした。
どれくらいそうやって佇んでいただろうか。
ふいに人の気配を感じてリースは振り向いた。
「誰ですか?」
槍を手にして身構えるリース。
その彼女の前に現れたのは・・・。
「リース様? リース様ですか!?」
「皆!」
近付いてきたのは、リースの見知った顔ばかりだった。
あの忌まわしい襲撃の日に、死んだとばかり思っていたローラント城での従者やアマゾネス軍の仲間達。
彼らの表情は、自分達の大切な主君に会えたことへの驚きと喜びに輝いている。
リースもまた、笑顔で彼女らの元に駆け寄った。
「リース様、よくぞご無事で!」
「ええ、皆も・・・」
「あそこで倒れている人達は?」
「私の仲間達なの。助けてあげて」
「はい、リース様のお仲間であれば」
そう言うと何人かのアマゾネス戦士達がデュラン達に近寄り、シャルロット以外は二人ずつで抱えて運び始めた。
そして残った者達は『眠りの花畑』にある洞窟の中に、リースを案内する。
「ここは?」
「秘密のアジトです。ナバール盗賊団に占領された城を奪い返すための準備を進めているところです」
「!!」
驚きを隠せないリースに、アマゾネス達は微笑んだ。
彼女達は本気なのだ。
「リース様、他にも何人か生き残った者がここにはいます。どうか顔を見せてあげて下さい」
「ええ、でも、どうして皆助かったの?」
不思議そうに問うリースにアマゾネス達は説明を始めた。
ナバール盗賊団が風の王国ローラントを攻めて来たその日、リースの弟エリオット王子が盗賊団に連れ去られるのを見た一部のアマゾネス戦士達は王子を救うために盗賊団を追いかけて城を出た。それが彼女達だ。
だが『眠りの花畑』に迷い込んでデュラン達同様気を失ってしまったのだ。
やがて風向きが変わって目を覚ました時には、すでに王子も盗賊団の姿も無く、城は落城した後だった。
「・・・申し訳ございません、リース様」
王子を助けられなかったことで、彼女達はずっと自分自身を責めていたのだろう。
悔しそうに涙を浮かべる彼女達にリースは優しく微笑みかける。
「いいのよ、皆。自分を責めないで・・・。こうして生き残っていてくれただけで、私は嬉しいの・・・」
「リース様・・・」
洞窟には数十人のアマゾネス軍団の生き残りがいた。
世界最強と謳われた女戦士達もかなり数が減ってしまったが、それでもリースは嬉しかった。少数でも仲間達が生き残っていてくれたことが。
アマゾネス達は王女リースの帰還を心から喜んだ。
誰しもリースがいればナバール盗賊団など打ち払うことができると意気込んでいる。
だが、現実はそれほど甘くはない。
リースが帰還しても、アマゾネス軍団の数が大幅に減ってしまっているこの現状でローラント城のナバール兵と戦っても、十中八九負けてしまうだろう。
(この人数ではナバールから城を取り戻すことはできない。どうしたらいいかしら・・・)
デュラン達が眠る部屋でリースは一人考え込んでいた。
やがて夜も更けてきた頃、まずはアンジェラが眠りから覚めた。
「う、うぅ〜ん、あれ? リース、ここは?」
半覚醒で伸びをするアンジェラ。
「ここはローラントの秘密のアジトです」
「え?」
上半身を起こして、アンジェラはきょとんとした表情でリースを見る。
そんなアンジェラにリースは微笑んで、
「生き残っていてくれたんです・・・。ローラントの仲間達が・・・」
リースの目にうっすらと涙が浮かぶ。
すぐに事情を察したアンジェラは、優しい微笑みを浮かべてリースを抱きしめた。
「そっか、良かったね。良かったね、リース・・・」
囁くように繰り返しそう言いながら、アンジェラの手がリースの背をさする。
そうしていると二人はまるで仲の良い姉妹のようだ。
しばらくアンジェラの優しい腕に身体を預けていたリースは、やがて身体を離して真剣な表情で彼女と向き合った。
「でも、今のアマゾネス軍の人数では城を取り戻せないんです。何か良い方法はないでしょうか?」
問い掛けられてアンジェラは腕を組んで考え込み、
「そうねえ・・・。・・・ねえ、私達がさっき眠くなった花畑って眠り草の花でしょ」
「え? ええ」
「それを使えないかなあ。ナバールの連中もローラントをそうやって襲ったんでしょ? 同じことをやってナバール兵を眠らせるの。できないかしら? ねえ、フェアリーはどう思う?」
アンジェラの声に応えるようにアンジェラからは真紅の、リースからは純白のフェアリーが姿を現す。
〈風の精霊ジンの力を借りればわけないわ〉
〈『風のマナストーン』のある場所は解っているんでしょう?〉
「ええ」
「じゃ、決まりね。さっさと皆を起こしてそこに行きましょ」
「はい」
リースが同意するとアンジェラは頷いて、そして大きく息を吸い込んだかと思うと、
「起きなさ―――いっっ!!!!!」
洞窟全体に響き渡るほどの大声に、当然ながらデュラン達は飛び起きた。
強制的に現実に引き戻された彼らが目眩を押さえて見たものは、清々しいアンジェラの笑顔とリースの驚いたような困惑したような表情だった。
「おはよv よく眠れた?」
「皆さん、大丈夫ですか?」
同時に発せられた二人の美少女の言葉。
どちらが優しいかは比べるまでもないだろう。
「アンジェラ! 俺達に心臓発作起こさせる気か、お前は!!」
デュランの言葉にアンジェラはケラケラと笑いながら、
「そんなヤワな心臓持ってないでしょ、あんた達は」
「うう、頭クラクラする。ところで、ここどこ?」
リースはデュラン達にこれまでの経過とこれからのことを説明した。
「つまり『風のマナストーン』の所に行くんだな?」
説明が終わるとホークアイがそう尋ね、リースが頷く。
「というわけだから、さ、行きましょ」
アンジェラの言葉に呼応するように全員が立ち上がった。
目指すは風の回廊、風の精霊ジンのもと――・・・・・・。
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04.9.30.UP
今回はちょっと短めでした。
アンジェラが非常に生き生きと楽しそうに見えれば幸いです(笑)。
次回は精霊との出会いです。
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