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坊ちゃん:天流(ティエンリウ)・マクドール
2主:ユアン(元)
※この話はNo.047:湖 、No.003:職人の関連作です。
『貴方が落としたのは金のフリックですか? 銀のフリックですか?』
『いいえ、青いフリックです』
『心清き正直者よ。褒美に金と銀と青のフリックを差し上げましょう』
『要りません』
――こうして解放軍リーダー天流・マクドールは湖から突然現れた怪しい魔女・・・もとい盲目の占星術師から金銀青のフリックを押し付けられ賜ったのだ。
『んで、金銀フリックを改造して解放軍の最終兵器として使用し、見事勝利を呼び込んだってわけ』
知られざる解放軍勝利への道さ、とシーナから聞かされた嘘なんだか本当なんだかよく解らない話に、同盟軍リーダーユアンは一つの決意を秘めて桟橋を睨みつけていた。
その視線の先には晴れた青空に溶け込むかのような青いマントの後姿。
(金銀フリックを使えば、きっとハイランドにも勝てる!)
解放軍が手にしたことで、最強と謳われた赤月帝国軍に打ち勝ったという最終兵器を同盟軍も手に入れることが出来たならば――。
青いマントが風に靡く様を睨み据え、一流の戦士である彼に気づかれないよう細心の注意を払って徐々に距離を詰める。
そして一気に駆け出した。
「フリック!! かぁくごおおおぉぉぉ!!!!!」
どげし!!!
「なんだあああぁぁぁ!!!???」
バッシャ―――ンッッッ!!!
哀れ、軍主の渾身の蹴りを食らったフリックは激しい衝撃に吹っ飛び、デュナン湖の底へと沈んでいった。
大きな波紋が広がり、ぶくぶくと気泡の浮く湖面を見つめながら、ユアンはフリックの犠牲に表面だけの哀悼を捧げる。
この程度の犠牲で勝利を呼び込めるのなら安いものだ。
魔女が出てくる時を待つユアンの頭の中には、ハイランドに勝利した同盟軍の華々しい勇姿が思い浮かんでいた。
『おめでとう、ユアン。ついに勝利したね』
『はい、ティエンさん。僕、頑張りました!』
同盟軍兵士達の歓声の中、白亜の城は鬼軍師と風の紋章術師と大統領子息タラシ男と共に崩壊していく。(何故かハイランド軍の姿がない)
勝者ユアンの目の前には、白いドレス姿の天流がほのかに頬を染めてユアンを見上げている。・・・何でこんなに身長差が・・・?
『ティエンさん、戦争が終わったら・・・僕と結婚してくれますか?』
実物よりもかなり逞しい青年ユアンの言葉に、言うまでもなく可憐な乙女姿の天流は恥らうように俯き、そっと頷く。
『・・・・・・はい・・・』
『ティエンさん!』
ユアンと天流の回りはピンク色に包まれ、色とりどりの花がこれでもかと咲き乱れる。
この世の天国っ!!!
妄想にだらしなく相好を崩していると、ザバーッという水音と共に湖から一人の女性が現れた。
両脇には金色と銀色のフリックの姿がある。
(よし、キタ―――!!!)
ぐっとガッツポーズを決めるユアンに、湖に浮かぶ魔女・・・じゃなくて盲目の占星術師が柔らかな声で問いかける。
「あなたが落としたのは金のフリックですか? それとも銀のフリックですか?」
「いいえ、僕が落としたのは・・・」
これで最終兵器が手に入る!
戦争が終わる!
お邪魔虫も排除できる!
そしてめくるめくティエンさんとのピンク色の日々よコンニチハ!!
よーし、行くぞ! 僕が落としたのは!!
「ピンクのフリックです!!!!!」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぴんく?
あれ?
何か変だなと首を傾げるユアンの前で、湖の魔女の美しい顔に笑みが宿る。
ニヤ〜・・・と、それはもう本当に魔女だとしか形容のしようのない恐ろしげな迫力を秘めた凄絶な微笑み。
(こ・・・怖い・・・)
「うふふふ・・・嘘を付きましたね。私個人としては笑い転げて褒め称えたくなるほど愉快な嘘ですけれど、嘘は嘘です。そんな悪い子にはお仕置きが必要ですね・・・」
まるで呪詛のような死の宣告にも似た恐怖の言葉。
「う、ウケたのならちょっとした言い間違いくらい大目に見てくれたっていいじゃないですかあ!!」
「おほほ、甘いですね。私の可愛い弟子の婚約者であるティエンへの貴方の邪な思いを私が知らないとでもお思いですか? ティエンの嫁ぎ先はルックの元ということをここに明言致しましょう」
――いったいいつ天流がルックの婚約者になったというのだろうか。
「ティ、ティエンさんは僕のお嫁さんになるんだあああ!!!」
天流が男だという根本的な問題は、この二人には取るに足らないもののようだ。そもそも本人の意思は何処だ。
「ふ、おさるさんには言葉が通じないようですね。弟子とその花嫁のため、悪い子にはお仕置きです!」
言葉と同時に魔女・・・レックナートの右手が光に包まれる。
「おにしゅうとめ〜〜〜〜〜っっっ!!!」
断末魔の叫びを上げ、ユアンの意識は闇の中へと落ちていく。
そして、桟橋から発生した光はノースウィンドウ城をすっぽりと覆い、やがて城は不気味な静寂に包まれた。
そして数十分後。
ノースウィンドウ城に壮絶なる絶叫が轟いた。
■■■■■
ピンク、ピンク、ピンク、ピンク、ピンク・・・。
周り中ピンクのフリックだらけ。
ノースウィンドウ城の住人全てがピンクのフリックになるというこの世のものとは思えない光景に、天流・マクドールは絶句していた。
その隣には不機嫌絶頂の風の紋章術師も居る。
自宅でクレオとまったりとくつろいでいたところに、突如現れた友人に半ば連れ去られるようにしてノースウィンドウ城に連れて来られた天流の眼に飛び込んできたピンク色は、冷静にして有能な元解放軍リーダーの思考を真っ白にしてしまうほどの威力を持っていた。
立ち尽くす二人に気づいたピンクのフリックの一人が必死な様子で天流の元に駆け寄ってくる。
よく見ると実物よりも幼い印象のフリックだ。
「ティエンさ〜ん! どうしましょう、この状況〜〜!!」
「・・・・・・君、誰?」
ガーン!!!
ショックに真っ青になるピンクのフリック。
その後ろから眉間に深い皺を寄せる年相応のピンクのフリックが近づいてきた。
「マクドール殿、それはうちの馬鹿猿です」
「・・・そういう君は?」
「シュウです。このような姿で申し訳ない」
「シュウ殿? 何故皆フリックになってるんですか?」
「すべてはこの馬鹿の浅はかな行動が原因で・・・」
そうして語られた事の顛末に、天流は複雑な表情となる。
どうしてユアンはあんな対処に困るものをわざわざ欲しがったのだろう。
「馬鹿猿軍主にタラシ男・・・後でひっそりと闇に葬ってやる・・・」
天流に聞こえないよう、低い声音で物騒な台詞を呟くルックに天流の視線が向けられる。
「ルックは変わらないね」
「この僕があんな屈辱的な姿になるわけないだろ」
きっぱりはっきりと、声を落とすことなく言い放たれたルックの言葉に、周りのピンクのフリック達が一斉に硬直する。反論できないのが悔しいやら情けないやら。
ちなみにルックの他にもジーンやシエラ、ビッキーといった得体の知れない謎な力の持ち主達もおかしな術に掛かることなく自分の姿を保っているという。
また、湖から救助された本物のフリックは、あまりの衝撃に現在部屋の隅に蹲ってぶつぶつと壁とお話しているらしい。
シュウらしきピンクのフリックは気を取り直すように咳払いし、天流に向き合う。
「と、ともかく、うちの猿がしでかしたことで貴方の手を煩わせるのは大変申し訳ないのですが、我々には貴方に縋るより他ありません。どうか力を貸して頂きたい」
「力を貸すのは良いけれど、この事態はレックナート様の仕業だというのなら僕よりもルックの方が・・・」
しかしルックは沈鬱な表情で首を振った。
「あのクソババア、おもしろがって笑ってるだけで元に戻すつもりはないらしい」
綺麗な容姿に似合わない暴言を吐き捨てる。相当機嫌が悪いようだ。
周り中ピンクの男が所狭しと徘徊してれば無理もないことだが。
その時、ピンクのフリックが飛び込んできた。
「大変です! ハイランド軍が進攻して来ました!!」
「何だと!!」
一斉に声を上げる無数のピンクのフリック達。
「く、こんな時に!」
「ど、どうしよう」
「仕方ありません、このまま軍を整えましょう!」
「各自、戦闘準備だ!!」
次々に声を上げ、わらわらと動き回るピンクのフリック達。
誰が誰やら・・・。
■■■■■
戦闘は――ものの数十分で終わった。
何百何千というピンクのフリックに迎えられれば、ハイランド軍が混乱するのは当然である。
きっと彼らはしばらくの間、ピンクの悪夢に苛まれることだろう。
「良かったじゃないか。馬鹿猿の望み通り簡単にハイランド軍を撃退できた」
「ふざけんなあああ!! こんな恰好で勝っても嬉しくも何ともない!!」
ユアンと思われるピンクのフリックの絶叫に、ルックは冷たく鼻で笑った。
大勢のピンクのフリックの姿を見せられるのは不愉快だが、ルック自身は被害に遭っていないので彼らの災難も所詮は他人事だ。
不戦勝で凱旋するデュナン軍の表情は非常に複雑なものだった。
かつてこれほどまでに喜べない勝利があっただろうか。
帰還する大勢の兵士達も、それを迎えるノースウィンドウ城の住人達も全員ピンクのフリック・・・・・・不気味過ぎる。
ホールの石版の前に立ってユアン達を待つ天流は、不気味な行進を直視することができずにさりげなく目を逸らした。
すぐに傍に来てくれたルックの存在が心の底からありがたい。
一方、不気味な集団と行動を共にしていたルックも、天流の姿にようやく心が休まる。
「ルック、レックナート様に会いに行こう」
「だね。この光景はさすがに耐え難い」
どうでもいい他人事とは言え、自分や天流の精神にまで打撃を与える光景。このまま放置しておくわけにもいかないだろう。
二人の会話を聞いたピンクのフリック達は、同様に期待を込めた眼差しを二人に送っている。
「お願いします! ティエン殿、ルック殿!」
「お前達だけが頼りだ」
「早く俺達を解放してくれ」
「・・・解ったからこっち見ないでくれる」
レックナートはにこにこと満面の笑顔で弟子とその花嫁を迎えた。
「よく来てくれましたね、ティエン」
「レックナート様、ユアン達を元に戻してあげてくれませんか?」
「そうですねぇ、貴方の頼みなら聞かないわけにはいかないでしょう。ですが、条件がありますよ」
「・・・何でしょう」
僅かに怯む天流を守るようにルックが前に出る。
「猿と青男くらいいくらでも供物として捧げますから、あのおかしな術をさっさと解いてくれませんか?」
「あんなもの要りませんよ、私だって」
師弟揃ってひどい言い草だ。
「私の望みはただ一つ」
そう言って伸ばされた白い手が、そっと天流の手を包み込む。
「ティエン、ルックと婚約なさい」
「「・・・・・・・・・」」
何だか前にも聞いたような台詞だ。
「あのおさるさん、戦争が終わったら本当に貴方にプロポーズしかねないのですもの。でしたらその前にルックと既成事実を作ってしまえば良いと思うのです。お迎えが来ないうちに弟子の晴れ姿を見たいという老い先短い私の願い、叶えてくれませんか?」
貴方ならあと数百年はお迎えの目を掻い潜って生き続けますよ。
天流とルックは心の中でそう呟いたが、声には出さなかった。
二人は素早く視線を交わし、無言の中で理解し合ったように僅かに頷き合う。
「解りました」
「僕も解りましたよ」
「まああvvv」
パアッと顔を輝かせ、レックナートは満面の笑顔を浮かべた。
かくて、ようやくノースウィンドウ城に平和が戻った。
ピンクから解き放たれた人々は感涙に咽び、フリックではない自分や同胞の顔を見て歓声を上げる。
それからしばらくの間、ノースウィンドウ城の住人達はピンクやフリックに過剰な拒否反応を起こしてしまうが、それ以外は概ね平穏を取り戻した。(少々フリックが引き篭もってしまったりもしたが、それはたいした問題でもない)
平穏を取り戻したノースウィンドウ城の様子を確認したレックナートは、満足げに弟子とその花嫁を見やる。
「さて、ルック、ティエン。婚約指輪はどうします? 結婚式はいつにしましょうか?」
嬉々として式場やら指輪やらのバンフレットを開くレックナートに、天流とルックは静かな声で言った。
「残念ですがレックナート様」
「僕達は結婚なんてしませんよ」
「―――――はい?」
笑顔のまま固まる魔女。
「え? ちょっとお待ちなさい。だって・・・」
「僕達は“解りました”とは答えましたが」
「“結婚する”とも“婚約する”とも言ってませんからね」
「なっ!」
言葉を失うレックナートに礼儀正しく会釈し、二人は風に包まれて消え去った。
残されたのは大量のパンフレットと立ち尽くす盲目の占星術師だけ。
「後が怖いね」
転移した先のマクドール邸の天流の部屋で、部屋の主がそう言った。
それに同意を込めた苦笑を返し、ルックは天流を抱きしめた。
「別に嘘は言ってないからいいんじゃないの。それより、今日はここに泊まってもいい?」
「いいけど、何故?」
「どうせ今頃向こうでは大騒ぎだろうからね」
なるほど、と納得する。
ルックの言葉通り、ピンクから開放された人々は夜通し騒ぎ、翌日にはピンクのフリックではない同胞や自分の姿に再び歓喜の声を上げることになる。
静けさを好むルックには迷惑極まりない状況である。
こうして、静かなマクドール邸に泊まったルックは天流と共に気持ちの良い眠りへとついたのだった。
夜闇に包まれた寝台に眠る天流の穏やかな寝顔を優しい眼差しで見つめながら、ルックは小さな声で囁いた。
「別に、婚約しても良かったんだけどね」
「ふ・・・ふふふ・・・この私を謀るとは、立派に成長しましたね・・・」
暗闇に低く流れる声は、誰に聞かれることもなく闇に消えた。
END
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