4.かけがえのない
「お前さあ、友達いないの?」
寝台に寝転がりながら、テッドは机に向かう天流に言葉を掛けた。
手を止めて、一拍の間を置いて振り返る彼は怪訝そうに首を傾げる。
「何、突然」
天流の不思議そうな視線に、困ったような面持ちでテッドは言葉を探るように考え込む。
「昼間、お前が学校から帰って来るのが見えてさ。同級生と一緒みたいだったけど、表情が全然違ってたからさ・・・」
天流は昼間は大抵学校に通っている。
彼が今机に向かっているのも、学校で出された課題を処理しているのだ。
同年代の子供と比べても突出して知力の高い天流は、実はスキップで本来より数学年上のクラスに在籍しているのだが、その中でもトップクラスの成績だという。
テッドはそんな天流が同級生達のいじめを受けていないかと心配したこともあった。
学校は身分の高い子息らの通う場所で、そのほとんどはかなりのプライドの高さだ。
事実、天流は同級生達と打ち解けてはいない。
家で見せる無邪気な表情は、彼らの前では一切見られないのだ。
テッドが見た同級生と共にいる天流には、感情のない無表情が貼り付いていた。
「テッドならああいう友達が欲しいと思う?」
「思わないな」
即答である。
天流のような例外もあるが、身分の高い者というのは一概に友達にしたいタイプではない。
自尊心が高く、少しでも身分や能力の劣る者を見ると蔑み、己の力を誇示しようと低次元な嫌がらせをする。
しかしテッドの心配は杞憂に終わる。
少年達は皆、年下であるにも関わらず天流に一目置いているのだ。
もちろん始めからそうであったわけではないだろうが、天流の優秀さは火を見るよりも明らかだった。
「彼らは僕を利用したがっているよ。一応優等生の部類だから教師にも良く思われてるみたいだし、僕はマクドール家の嫡男だからね」
家族やテッドに対するものとはまったく違う、冷めた声音で淡々と言葉を発する。
その表情は昼間見かけた彼の様子と同じものだ。
こんな一面もあったのかとテッドは意外そうに天流を凝視する。
穏やかで多少世間知らずな天流とは思えないほど、その無表情には感情は一切現れていない。
「他人を蔑むか、媚びへつらうかしか出来ないような人種と懇意にしたいなど思わない」
「なるほどな」
冷徹ともいえる声音で言い切った言葉に、テッドは感心したように頷く。
「お前ってただの世間知らずなお坊ちゃんてわけじゃなかったんだな」
「何それ。喧嘩売ってるの?」
ムッと顔を顰めるその表情は、先程までとは違って幼い。
テッドは楽しそうに笑いながら身軽な動作で寝台から跳ね起きる。
「よーし、そんなお前にはこのテッド様が友達になってやるよ」
「はあ?」
「友達のいない天流坊ちゃんの初めての友達になってやるって言ってんの。ありがたく思いな」
「なっ! 僕だって友達くらい・・・」
偉そうな態度でふんぞり返るテッドの様子に、天流は心外だと言わんばかりに可愛らしい顔を顰める。
「友達になった記念にニックネームを付けてやろう」
「聞いてるわけ?」
「天流だからなあ。うーん。そうだ、ティルって呼ぼうっ」
「な、何それ? 何で愛称なんて付ける必要があるの?」
「天流なんて名前偉そうじゃん?」
「えらっ・・・人の名前を・・・」
思わず絶句する。
しかしテッドはそんな天流の様子にも楽しげな笑みを浮かべる。
「んー? ティルが嫌ならティエとかリウでもいいぜ?」
「そうじゃなくて・・・」
「じゃ、ティルで決まりな。よろしく頼むぜ親友」
そう言ってテッドは悪戯っぽく笑った。
天流は反論するのも面倒だと大きく肩で息をつく。
「ティエンでいいよ。グレミオ達もそう呼んでるだろ?」
「人と一緒じゃ嫌なんだよ」
「・・・・・・」
呆れたように深い溜息をつく天流だったが、まあいいかと諦めにも似た楽観的な台詞を心の中で呟く。
天流とてテッドに友達だと思ってもらえることは嬉しい。
親しげに見えてどこか一線を引いていた彼が、天流に心を開いてくれたのだ。
照れが手伝って言葉にすることはできないが、天流にとってテッドはすでに気が置けない存在となっていた。
「あ。俺のことはテッちゃんて呼んでもいいぜ?」
「遠慮しとくよ」
無邪気なテッドの申し出を、天流は感情のない無機質な声音で一蹴した。
部屋の窓から見える空が茜色に染まる頃、じゃれ合う二人を呼ぶグレミオの声が聞こえてきた。
階下からは夕食の香ばしい匂いが天流とテッドを誘う。
二人がお互いにかけがえのない存在となるのには、そう時間は掛からなかった。
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テッドと坊ちゃんカップル友情成立です(笑)。
坊ちゃんは家族の前ではちょっと賢いだけの普通の子供です。
しかし一旦外に出ると仮面を被ってしまうんです。
人見知りが激しいわけではなくて、人の本質を見抜いてしまうがために
信用のできない人間の前で本心を晒す真似は絶対にしないのですよ。
次回はフッチやルックも出て来れるかな。
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