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19.遠い日の約束
薄闇の冷たい石造りの部屋。
あの女に捕らえられてからずっと俺はここで拘束されたまま動けない。
何も見えない、何も聞こえない暗くて冷たい空間に一人っきり。
嫌だな、ここは。
あの場所に似てる・・・。
300年間ずっと見てきた夢の中がまさしくこれだ。
一面の闇に覆われた音のない世界。
ふと現れては消える小さな光が、さ迷う死者の魂だと気付いたのはいつだっただろう。
ソウルイーターが見せる生と死の狭間に一人佇む。
紋章を受け継いでからずっと灰色の未来と同じ頻度で見てきた夢を、この部屋では夜と言わず昼と言わず見せ付けられる気がする。
あいつも、見てるだろうか。
忌まわしいあの夢を。
そう思うと、居たたまれなくなる。
あいつが苦しむとこなんて見たくないのに。
俺の、生涯唯一人の親友。
何よりも大事な奴・・・。
何があっても護らなきゃいけない紋章を、唯一託せると思った。
でも、そのせいでどんなに辛い思いをしているだろう。
あいつだったら、俺よりずっと上手くあれを制御できると思うけど。
そう、信じてるけど。
冷静で、聡明で、物事に動じない、およそ子供らしくない子供だけど、その実意外に世間知らずで純粋な奴。
普段はまったくの無表情なのに、ふと見せる笑顔が好きだった。
そう言えば、あいつと居たたった数年の間だけ、何故か闇の夢も灰色の未来も全然見なかったな。
不思議な奴だ・・・。
傍にいると、とても良い気持ちになって安心する。
誰とも違う存在。
まるで『あの人』のようだ。
300年も世界中を放浪していれば色々な奴に出会う。
中には今や「英雄」と謳われてる奴もいた。
確かに良い奴もいっぱいいたな。
そいつと居て「いいな」と思ったこともある。
けど、『特別』なのは『あの人』と『あいつ』だけだ。
おかしなもんだな。
『あの人』に会うためだけに今まで旅を続けていたのに、『あいつ』と出会えて満ち足りた。
あんなにも、求めていたのに・・・。
『あの人』にもう一度会うことを。
遠い遠い昔・・・すでに顔も覚えていない。
それでも、求めた・・・。
■■■■■
深い深い闇の空間を、落ちているのか上昇しているのかも解らない。
何の感触もない無重力感。
また、あの夢か。
もう俺の右手にソウルイーターは宿っていないのに、やっぱり300年も付き合ってれば何かしら特別な絆でも出来るんだろうか。
時々こうして夢を見る。
そして、『あいつ』がどうしているのかを端的にでも知ることができるんだ。
その度に俺の心は後悔でいっぱいになる。
ごめんな、お前が苦しんでるのに、俺は傍にいてやることもできない。
せめて紋章を通じて意識だけで話せないものかな。
こんなことならもっとソウルイーターの力を制御できるように勉強すりゃ良かったな。
あの女の目を逃れるために抑えることしかしなかったことを、今更ながら後悔する。
ふと目を開けると、闇が広がるだけだったそこに、赤い光が灯っていた。
珍しいな。
今までは闇の中にはどこまでも続く枯れた草原やそこをさ迷う魂しか出て来なかったのに。
赤い光。
蠢きながら、それは視界いっぱいに広がってゆく。
ああ、なんだ。炎じゃないか。
過去、何度も見た戦場の炎。それとも焼き討ちに遭った村かな。
俺の村も、こうして炎に包まれたよな。
そこから連れ出してくれたのは・・・・・・。
?
何だろう?
声が聞こえる。
子供の泣き声・・・?
「おじいちゃーん! みんなあっ!!」
聞こえてくるというより、俺自身が発した声だ。
この声は、ガキの頃の俺。
ということは、この炎は俺の村が焼ける姿か。
久しぶりに見る夢だな。
旅を始めた頃はよく見ていたけど、数年もしないうちに闇と灰色に取って代わられていた。
焼け落ちる村に走ろうとする俺の腕を誰かが掴んでる。
300年振りに見る『あの人』の夢。
よく顔を見たいのに、涙で歪む視界では見えない。
だけど、雰囲気で解る、哀しげな様子。
「離してよ!!」
暴れる俺を、『あの人』は優しく、だけど強く抱き締めた。
「駄目だよ。君のおじいさんと約束したんだ・・・」
哀しげに掠れる優しい声。
思ったより幼い感じがする。
男かな、女かな?
そういや性別を考えたことなかったな。
すぐ傍には『あの人』の他に複数の気配がする。
そうだ、『あの人』は一人じゃなかった。
ある日村に突然現れたのは『あの人』を含む5、6人の男女の異邦人だった。
焼け焦げた建物。
動く人影もない。
滅びた、俺の村。
その中心にある祭壇から光が漏れている。
村に戻ると、異邦人達が一人、また一人と光の中に姿を消していった。
別れの時だ。
ずっと繋いでくれてた手が外されようとして、俺は必死に『あの人』にしがみ付いた。
「嫌だ! 行かないで! 一人にしないでよ!!」
離れたくなくて、置いて行かれたくなくて、俺は『あの人』に縋り付いて大声で泣いた。
多分『あの人』はとても困っていただろう。
傍で女性の困惑した声がした。
少年だか少女だかが迷惑そうに俺を睨んでいた。
そんなもの気にしてられないくらい俺は必死だった。
迷惑だと思われても、我侭だと詰られても、これから訪れる孤独はあまりにも恐ろしくて・・・。
けど『あの人』は俺を突き放すどころか、ぎゅっと抱き締めてくれた。
「ごめん、テッド・・・ごめん」
何で謝るのか解らなかった。
泣きそうな表情と、悲痛な声。
俺が、哀しませてるのか・・・?
「待っているから。君と、また会える時を・・・ずっと待ってるから・・・」
「また、会えるの?」
尋ねると『あの人』ははっきりと頷いた。
「遠い遠い時の向こうで、僕達は必ず会える。・・・君が、会いに来てくれる・・・」
確定した未来だというように『あの人』は言いきった。
その言葉に、俺は今も救われている。
「きっと」とか「おそらく」とか曖昧な表現じゃなく、「必ず」と『あの人』は言ったんだ。
「君は・・・これから一人で生きていくことになる。
だけど、僕は待っているから・・・。君と出会う時を・・・。
君と、会いたいから・・・」
綺麗な琥珀色の瞳が揺れている。
泣かないで。
貴方に泣かれると、とても辛いよ・・・。
俺自身、ぐしゃぐしゃに泣いてるけど、貴方には笑ってほしいんだ。
「僕、会いに行く! 絶対に会いに行くから!」
泣かないで。
お願いだよ・・・・・・。
想いを込めて叫んだ言葉に、『あの人』が驚いたように目を見張った。
そして、次の瞬間には、とても・・・とても綺麗な笑顔が広がった。
全てを失い、これから一人残される俺が、その時だけは確かに幸せだった。
絶対にこの人と出会いたい。
この人の傍に、『帰りたい』。
想いの丈を込めて、俺は『あの人』に顔を近付けていった。
いつだったか、誰かに聞いた『大好きな人にする行為』ってやつを実践するために。
当時の俺はその行為が何なのかよく解らなかったけど、『あの人』が『大好き』になってたから思わずやってしまってたんだよな。
その、いわゆる・・・『キス』ってやつを―――。
当然のことだけど『あの人』はとても驚いてた。
外野が大騒ぎしてた気もするが、そんなことはどうでもいい。
『あの人』は驚いて、当惑の表情で俺を凝視し、困ったように、でも優しく笑ってくれた。
次々と光の中に吸い込まれていく異邦人達。
最後に『あの人』が光に歩み寄り、俺を振り返った。
まだ繋いでいた手が外される。
離れる手を握り締めたい衝動をぐっと堪えて、俺は『あの人』の姿を焼き付けるようにじっと見つめた。
すると『あの人』は少しだけ腰を屈め、俺の頬に口付けた。
柔らかな感触。
俺の目の前で漆黒の髪が揺れる。
顔を離すと、『あの人』は俺の目を見つめて、
「約束だよ、テッド。必ず会いに来て。
君は、僕の大切な『―――』だから・・・・・・」
そう言い残し、優しい笑みを浮かべる『あの人』の姿は、やがて光の中に消えていった。
不思議な光も消え、焼け爛れた村に俺はたった一人残された。
俺はその場に蹲り、大声で泣いた。
もう戻らない離れていった温もりが恋しくて、淋しくて、声が掠れても涙が枯れても、ずっと、ずっと泣いていた。
すべてを失った俺に残されたのは、右手に宿った『呪い』と、心の奥深くに刻まれた優しい約束だけ。
――君に会いたい・・・――
『あの人』のこの言葉は、300年間俺を支え続けてくれた。
■■■■■
気が付けば俺の周りは闇に覆われていた。
今のは夢か、それとも・・・。
急激に意識が浮上していく。
目覚めの時間だ。
突如浮遊感が消え、俺の身体は確かな感覚を取り戻した。
薄い闇に閉ざされた冷たい部屋の中。
重い音を立てて扉が開き、ウィンディとかいう女が姿を現す。
すでに俺の手にはソウルイーターは無いってのに、何を考えてか1年も拘束されたままだ。
「お前に働いてもらう時が来たよ」
妖しい笑みを浮かべながら歩み寄って来る。
俺に向かって差し出された手にはおかしな紋章。
「お前に協力なんかするもんか!」
睨み付けながら叫ぶようにそう言うと、ウィンディは愉快そうに笑った。
「それはどうかしらねえ」
紋章が俺に触れた途端、俺はまた闇に捕らわれた。
だけどその闇はいつもの闇ではなく、纏わり付いて俺の自由を全て封じるかのようなものだ。
手足を動かすこともできなくなり、視界は闇に包まれた。
霞み掛かった意識の向こうでウィンディの笑い声が聞こえた。
嫌な声だ。
お前なんかの思い通りになってたまるかよ。
俺は『あいつ』を護るためなら何だってする。
『あいつ』の笑顔を護るためなら―――・・・。
ああ、そうか―――。
今、ようやく気付いたよ。
綺麗な琥珀の瞳と輝くような笑顔。
そんなの持ってる奴なんて、一人しかいないじゃん。
なんだよ、そういうことか。
へへっ。
俺っていつの間にか『約束』果たしてるじゃねえか。
なあ、そうだろ? 『親友』
『あの人』は―――ティル、『お前』なんだからな。
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テッドのファーストキスの相手は坊ちゃんだと判明(笑)。
坊ちゃんの相手はもちろんテッドです♪
この話は、坊ちゃん達が過去に行ったのと同時に、
ソウルイーターの繋がりが濃いテッドも、意識だけが一緒に過去に行ったという設定です。
テッド曰く「大騒ぎしてる外野」はクレオとフリックとルックです(笑)。
ビクトールとシーナは一足早く現代に戻りました。
次回はテッドを想う坊ちゃん。(と嫉妬する外野(笑))
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