20.親友





グレッグミンスターの華やかな街が一望できるマクドール邸の一室に、帝国五将軍の一人テオ・マクドールの子息、天流の部屋がある。

綺麗に片付いた部屋は、12、3歳の少年のものとしてはいささか大人びた印象を受ける。
玩具や娯楽の品はほとんどなく、部屋を飾るのは家族の絵や品の良い調度品。
本棚に並べられているのは教科書や辞書はともかくとして、子供が読むには難し過ぎる分厚い本ばかりだ。

それでも部屋が重苦しく感じないのは、柔らかな色合いの家具と毎日水を替えられている一輪差しのおかげだろうか。
改めてクレオは、1つ年下の青年の人柄を思う。

そして、そんな彼の愛情の感じられる部屋に包まれて心安らかにいられるはずの部屋の主人。
家の者からは親しみを込めて「坊ちゃん」と呼ばれ、愛されて育った少年は今、ベッドの中で酷く魘されている。


息苦しさと身体の重さが本当ならば安らぐはずの眠りを邪魔をして、幼い表情が苦痛に歪む。
吐く息は荒く、時折痛ましい声が漏れていた。
脂汗の滲む額に貼り付く前髪を優しく払うと、撫でられる感触に天流はほんの少しだけ表情を和らげた。

日に焼けていない白い肌と、少女のように繊細で愛らしい顔立ち。
か弱く見える容姿に反して冷静で聡明な少年は、クレオが尊敬して止まないテオの一人息子であり、何があっても護らなければならない可愛い弟のような存在だ。

そんな大切な少年が苦しむ姿を見ることは、クレオにとっても辛いことだった。



―――キイ・・・

小さな音を立てて扉が開かれ、誰かが静かに部屋に入って来た。
今この部屋に入って来る人間は限られている。
テオは留守だし、パーンは部屋の出入りを自粛させられているため、残るは二人だけ。


「ティル・・・」

遠慮がちに呼びかけるその声はやはり、二人のうちの一人だ。

寝台で苦しむ天流よりも少し年長の少年、テッド。

彼はクレオの傍に来ると、寝台に手をついて天流を除き込んだ。
その気配にうっすらと瞼を上げた天流の潤んだ瞳に、心配そうな親友の姿が映る。

「・・・ッド・・・?」

掠れる声が名を呼ぶと、彼はにやりと笑った。

「よっ、元気か?」

顔色が悪く、高い熱を出す相手に何を問うているのやら。
天流の看病をしていたクレオは心の中でそう言って苦笑した。

しかし当の天流は嬉しそうに親友に微笑みかけ、

「・・・うん」

どう見てもやせ我慢でしかない応えに、クレオはもちろんテッドも苦笑するしかない。
親友が傍にいるのが嬉しくて身を起こそうとする天流だが、クレオとテッドが二人掛かりで止めた。

「病人は寝てろ」

「・・・ごめんね・・・」

寝ていてごめんね。
一緒に遊べなくてごめんね。

言葉にならない謝罪の言葉。
そこには、テッドに不快な思いをさせているのではないかという不安が現れている。

「ばーっか。余計なこと考えてないで早く元気になれよな」

テッドの言葉に、天流は安堵したように表情を和らげた。



天流の心配は、過去の経験によるものだ。

昔からこうして頻繁に寝込む天流に、近所の子供達は親しくしようとはしなかった。
無邪気に遊びに誘おうとしていた子供達も、いつしか来なくなる。
大人達は「身体の弱いマクドールの子息」に何かあっては大変と必要以上に気を遣ってしまい、それが子供達にも悪い影響をもたらしてしまう。


決して口には出さないが、天流が寂しがっていることはクレオ達も知っていたが、どうしようもなかった。

しかし、テッドだけは他の子供達とは違っていた。
天流が寝込んでいても普段と変わらない態度で接し、起き上がれない彼のために色々な話をしてくれる。



テオが拾って来た少年。
孤独と悲壮感を背負いながらも、それを他人に感じさせないように偽りの明るさを顔に乗せていた。
一人で生きてゆく術を身につけた子供らしくない子供は、その人当たりの良い態度に巧みに本心を隠し、誰にも心を開いていなかった。

すぐに体調を崩してしまう天流に対しては「軟弱な貴族のお坊ちゃん」というイメージしか持たず、恩人の息子ということで礼儀正しく振舞うものの好意や親しさはなかった。
甘やかされ、大切に護られている温室の花だと侮蔑にも似た認識が、彼のふとした態度にあった。
グレミオやクレオがそれを否定したとしても、彼には坊ちゃん可愛さ故の甘やかしとしか捕らえなかっただろう。

同年代の少年ということもあって、初めの頃はテッドを気にしていた天流も彼の自分に対する厳しい見方に気付いていたのか、あえて関わろうとはしていなかった。
過去が過去なだけに、友人を作ることを諦めていたのだ。
しかしそれも、貴族の傲慢さだと誤解されてしまう。



そんな時、ひょんなことで知られてしまった事情。

天流がすぐに寝込んでしまうのは、身体が弱いわけではなく―――毒のせいだということ。


グレミオやパーンも知らなかったこと。
この二人に知られれば大騒ぎするのは目に見えているため、テオとクレオ、そして薬を作ってくれているミルイヒ・オッペンハイマーしか知らない真実。


いったいどこで毒の知識を得たのかは解らないが、周囲には薬と称して天流が飲んでいたそれを見たテッドは慌てて天流の手からそれを奪い取った。
気に入らない相手とはいえ、目の前で毒など飲んでいれば人道的にそれを止めようとするだろう。

「薬」を「毒」だと確信したテッドは、信じられないような目で「薬」を天流に手渡したクレオを見た。

「どういうことだよ、クレオさん」

険しく睨み付けるテッドに、クレオが答えるより先に口を開いたのは天流だった。

「クレオを責めないで。これは仕方の無いことだから」

険しかったテッドの表情が驚愕に変わって天流を唖然と凝視する。
当然のことではあるが、天流が「毒」だと解っていて飲んでいるのだという事実が信じられないようだ。

「これは自分を守るためなんだ」

「ど、どういうことだよ」

「こうやって飲み続けて毒に慣れることで、誰かに毒を盛られても多少は効果を抑えることができる」

「毒を・・・盛られるのか?」

茫然とそう尋ねるテッドに、天流は一瞬迷うような素振りを見せたが意を決して言葉を返す。

「僕は赤月帝国の将軍の息子だ。父上の失脚を企む者や父上の命を欲する者が僕を狙ってくることもある。グレミオ達が護ってくれていても、どうにもならない時には僕は自分で自分を守らなければいけない。そのために武術を学び、毒にも慣れる。将軍の息子としての義務だ」

天流の言葉にテッドも驚愕しているが、クレオもまた驚きを隠せなかった。
いくら「薬」が「毒」だったと見破られたとはいえ、こんな風に天流が誰かに事情を晒してしまうとは。
この時初めてクレオは、天流にとってテッドが他の子供達とは違うのだという思いを抱いていることを悟った。それが好意的なものなのか、いつものように客観的に観察しての結論なのかは解らなかったが。

見ると、テッドの方もこの瞬間から天流を見る目が今までと違っているのが見て取れた。

「それでお前、すぐに寝込んでたのか」

「1つの毒に慣れてくると更に強いものになるから。慣れるのには時間が掛かるんだ」

「お前はそれでいいのか?」

そんな辛い思いをしてまで毒を飲み続けて、天流が苦しむ姿に家族もまた苦しんでいるだろうに。

「自分の身を守ることで父上の負担は少なくなる。これが僕のするべきことなんだ」

テオの失脚を企む者や、赤月帝国と敵対関係にある者などテオ・マクドールを狙う輩は多く、いつ天流にも危険が及ぶか解らない。
だが、幼い天流ではテオやクレオ達に護られることしかできない。
ならばせめて天流に出来る唯一のことといえば、自分の身を護ることだけだ。

年端もいかない少年が背負うには、あまりに過酷過ぎる「義務」。
そして、こんな幼い子供を狙おうとする者の存在に怒りが湧き上がる。


天流の真っ直ぐな視線を受け、強張っていたテッドの顔が笑みを象った。
それまでの偽りのものではなく、そこには紛れもなく天流への好意があった。

「ふーん、ちょっとは頭いいんだな、お前」

「それは褒めてもらっていると思っていいの?」

あのような会話の後だというのに、二人とも珍しく子供らしい悪戯っぽい笑みを交わす。



これが、二人にとって本当の始まりだった。



少しずつ歩み寄りを見せ、お互いを知ったテッドと天流。

いつからか二人は『親友』と呼び合うようになった。





分かり合えた二人は今、寝ている天流の傍でテッドが話を聞かせているところだ。

まだ少年でしかないはずなのに、テッドの知識は驚くほど深く広い。
彼の話を聞くことが、天流の何よりの楽しみとなっている。
クレオにとっても天流が楽しそうにしている様子は嬉しかった。


楽しげな二人を微笑みを浮かべて見守りながら、いつまでも天流がこうして穏やかに過ごせればいいと願う。







■■■■■







過去の洞窟にて300年という時を渡った天流達は、夜の紋章を宿した意志ある剣、星辰剣を手にバンパイア・ネクロードの城に攻め入った。
捕らわれの身となっていた戦士村の少女テンガアールを、彼女を助けるのだと言って同行してきた少年ヒックスと共に救い出し、ネクロードの脅威からロリマーを解放した。


新たにクロン寺や戦士の村の人達を仲間にすることができた一行は、戦士の村の村長の厚意もあってこの日は村で休むこととなった。


日が落ちた頃、村長の家に泊めてもらい、夕食を終えた天流達は宛がわれた部屋でくつろいでいた。

2部屋を六人で使うことになり、天流とルックとクレオが同室となっている。
これはもちろん、ルックが天流とクレオ以外のメンバーと同室になる事態を思いっきり嫌がったためである。

戦士の村に訪れた初日に村長の家に泊めてもらった時、ビクトールが天流とクレオを同室として、他の四人で1部屋を使おうという提案をしたのだが、それに対してルックは不機嫌も露に言い放った。


『冗談じゃない。僕以外は全員外で寝なよ。それか永眠するかだね』


ビクトール、フリック、シーナの3人が揃って青褪め、見兼ねたクレオが自分達と同室でいいかと問うと、彼は素直に頷いたのだった。
初めからそうすればいいんだよと言わんばかりの尊大な態度で。


現在は、過去の洞窟から帰ってネクロードの城に攻め込む前にシーナはマッシュへの報告のために本拠地に戻り、ネクロードを倒した後ビクトールがメンバーから外れているのだが、部屋割りは同じだ。

女性であるクレオがフリックと同室になるわけにもいかず、だからと言って天流やルックがフリックと同室になるということは、ルックが断固反対したのだ。
フリック自身、天流とならまだしもルックと同室などになれば生きた心地はしないだろう。
そんなわけで、フリックは一人寂しく数人が使える広い部屋を一人で使っている。

それはさておき。

ルックは入浴中のため、部屋には天流とクレオが二人きりだ。
ここでも自然と『リーダー一番風呂制度
(※100のお題『坊ちゃんの入浴』参照)』が有効らしく、天流はすでに湯上りである。
濡れた黒髪を丁寧に拭いている彼の傍に寄り、クレオはトレイに載せていたホットミルクを差し出した。

「どうぞ、ティエン様」

「ありがとう、クレオ」

天流が手を止めてカップを受け取ると、クレオは天流が使っていたタオルを手に取って、湿ったままの天流の頭を拭いてやる。

「大丈夫ですか? ティエン様」

「ん?」

「テッドくんのことです。ショックだったでしょう?」

遠慮がちに問う。
天流はすぐには答えを返さずにミルクを口に運んだ。


先日訪れた、遥か300年の過去の世界。
そこで出会った一人の少年は、1年ほど前に帝国軍に捕らわれた天流の親友だった。
突然現れたウィンディという女性に村を滅ぼされ、一人残されてしまった幼い子供は、置いて行かないでと泣き叫びながら天流に縋り付いた。
その時、滅多に変化のない天流の表情が、フリックにすらそれと解るくらい泣きそうに歪んだ。
泣いているテッドを一人置いて行かなければならなかったことに、天流自身がどれほど傷付いただろうか。


「・・・・・・・・・」

沈黙したまま俯く天流に、クレオはそれ以上言葉を続けることもできずに優しい手つきで天流の髪を拭く。

また一口ミルクを飲んだ後、天流から小さな声が漏れた。

「・・・・・・テッド、小さかったね」

「ええ。坊ちゃんよりも少し背が低かったですね」

「不思議な気分だよ。テッドは僕よりも少しだけ背が高かったのに、あのテッドは僕よりも小さかった」

もう、追い付けないのだと覚悟していたのにね。

寂しそうに、そう呟いた。


過去の世界で出会ったテッドは、天流よりも頭1つほど背が低かった。
1年前まで一緒だった彼は天流よりも少しだけ高く、天流が知らないようなことをたくさん知っていて、数年でしかないはずの差が何年にも感じたことはあった。
それが300年の差があったと知ったのは、1年前にテッドと引き離される直前のこと。

「300年は長いね・・・」

「そうですね」

長いなんて言葉では言い表せられないだろう。
その途方もなく永い年月を、テッドは生きてきたのだ。
たった一人、時の流れの輪から外されて。

いつも明るく元気だった彼。
「親友だぜ」と言って笑うまで、どれだけの苦しみを抱えてきたのか。


それっきり口を噤んでしまった天流。
髪を拭き終わったクレオは空になったカップを天流の手から受け取ると、トレイに載せて立ち上がった。

扉に向かいかけて天流を振り返り、労わりの笑みを浮かべる。

「あまり、無理をしないで下さいね」

そう言って彼女は静かに部屋を出て行った。


しばらく閉ざされた扉を見つめていた天流は、知らず知らず詰めていた息を深く吐いた。
琥珀の瞳には自嘲が浮かぶ。

「クレオにも心配を掛けてるな・・・」

テッドのことでショックを受けているのはクレオも同じはずなのに、彼女はいつも天流を心配する。

思えば自分はいつも家族に心配を掛けているなと、今はもういない父や兄代わりの青年達の姿を思い浮かべる。

ぎゅっと目を綴じ、闇に閉ざされた向こうで誰かの気配を感じた。
慣れた風の気配を、天流は身動きせずに沈黙で迎える。
近付く気配もまた何も言わず、寝台の1つに腰掛ける音が静かな部屋に微かに響く。

「何暗い顔してるのさ」

いつものそっけない口調が耳に届き、視線を向けてみると不機嫌そうな顔と目が合った。

「何もないよ」

「そういう台詞は鏡を見てからいいなよ」

らしいと言えばあまりにも彼らしい言い草だ。
心配しているのか馬鹿にしているのか解らない。
相手が天流以外であれば完全に馬鹿にしているのだが、彼が心配をしてくれているのだというのはちゃんと伝わっていた。

「テッドを覚えてる?」

問いに、ルックの不機嫌が倍増していく。
彼は初めて会った時からテッドを嫌っている。
その上先日には天流との衝撃的な場面を見せつけられた。
ルック自身何がこんなに苛立たしいのかよく解らなかったが、テッドに対するその感情は増すばかりだ。

「覚えてるけど・・・」

「彼のことを考えていたんだ」

「・・・・・・ふうん」

ルックの不機嫌には気付かずに言葉を続ける天流に、気の無い返事をしながらもルックは彼の様子を気にしていた。

1年以上前に魔術師の島で出会った後、数ヶ月後に再会した時には天流の傍にテッドの姿はなかった。
「あのガキはどうしたのさ」と尋ねようとしたことも何度かある。
だが、何故かテッドの話題を出すことが躊躇われ、訊けずにいた。
嫌っている相手の話をすることが気に食わなかったこともあるが、テッドの名を出すことで天流が傷付くのではないかと思ったのだ。

案の定、今の天流はとても哀しそうだ。

「僕が解放軍に入ったのは、帝国軍の実状を見たからというのもあるけど、そもそもはテッドを助けたかったからなんだ」

「助ける?」

「テッドは・・・帝国軍に捕らえられてる」

「・・・・・・そう」

テッドが捕らえられ、帝国軍に追われた天流達はテオを頼ってグレッグミンスターを出た。
その途中でビクトールやオデッサに出会い、今まで見えていなかった様々なことを目にした。
解放軍に入り、オデッサの遺志を受け継ぎ、家族を失いながらも前に進んできた。
圧政から人々を解放したいという思いは真実
(ほんとう)だが、それでも天流は自分の1番の望みを忘れてはいない。

「テッドだけでも助けたい・・・」

「・・・・・・」

リーダーとしてではない天流の思いを聞けたことが嬉しかった。
しかし同時に込み上げるのは、テッドに対する怒りにも似た激しい感情。
ずっと一緒にいた家族同然の存在を天流が心配するのは不思議ではないのに、ひどく気に食わない。

その感情が何なのか、ルックは知らなかった。


間もなくしてクレオが戻ってきたため、この話題は終わりを告げる。








■■■■■







ティル―――っ!!


翌日、本拠地へと戻った天流達を笑顔のシーナが迎えた。

瞬きの手鏡でトラン城の地下に現れた一行を、ずっとそこで待っていたのか、転移するやいなや天流をきつく抱き締めたのだ。

傍ではビッキーやへリオンが「お帰りなさい」と声を掛けている。

「久しぶりだなあ、ティルーv 3日も会えないなんて拷問だよなあ。大丈夫だったか? 熊のおっさんや青いのにいかがわしいことされなかったか?」

「ちょっと待て! 青いのとは俺のことか!? いかがわしいことって何だっ!」

「ええー? 20代も後半に差し掛かった奴がわかんないわけ〜? あんたもしかして経験ないの?」

「なっ! 何を言いやがる、このガキ!!」

真っ赤な顔で怒鳴るフリックと、飄々と意地の悪い笑みを浮かべるシーナの言い争いが始まる。
その間も天流はシーナに抱き締められたままだ。
間近で怒声を上げられて、いささか不快な様子だがされるがままとなっている。


しかし、怒りを募らせる人物がここに一人。





切り裂き





・・・・・・・・・・・・。





何事もなかったかのように静けさを取り戻した地下でフリックとシーナ、一般の兵士が掃除をしている頃、天流はマッシュへの報告のために会議室に赴いていた。

マッシュが苦い顔で天流に同行したルックを咎めるも、右から左に聞き流されて効果は無い。
しかし「実害がなかったから良いですが」とフリックとシーナの怪我は実害ではないと言い切る辺りが、彼も慣れていると言える。





会議室から出た天流を待ち受けていたのは、やはりシーナだった。
ただ、今度は満面の笑顔ではなく、切羽詰ったような必死の形相だ。

何かあったのかと身構えた天流の肩を、がしっと両手で掴むと廊下に響き渡る大声が発せられた。


あのテッドとかいうガキはお前の何だっ!!?


「・・・・・・??」

驚きのあまり目を丸くする天流に、シーナはさらに続ける。

「フリックに聞いたんだよ。俺や熊のおっさんが元の世界に戻った後、あいつお前にキスしたんだって!? 何か昔からの知り合いらしいけど、何々だ!?」

「・・・あの青・・・余計なことを・・・」

低い呟きはルックのものだ。
思い出してしまった不愉快な場面に、改めて怒りが湧き上がる。
とりあえずフリックは後で血祭りに上げると心に誓い、まずは目の前のタラシをと、武器であるロッドを持つ手に力が篭もる。

「親友だよ」

「っっ!!」

何気なく告げられた言葉に、シーナはショックを受けて硬直した。

「し・・・しん・・・ゆう・・・」

(俺にだって「友達」って言葉しか言ってくれないのに、「親友」!? 俺よりランクが上!?)

シーナを支配するのは敗北感だ。
「親友だよ」と答えた天流の表情の優しさからも、いかにテッドという少年が彼にとって大切な存在かが解る。

「シーナ?」

目に見えて落ち込んだシーナを、戸惑いがちに窺う天流。
きょとんと見上げる天流の仕草の可愛らしさに、ショックを忘れて抱き締めようとシーナの手がおかしな動きを見せた時。



ドガッッ!!



あえて語るまでもないが、ルックのロッドがシーナを直撃した音である。

「あんたいい加減にしなよ」

お前もいい加減にしろっ! 毎度毎度切り裂いたり杖で殴ったり、馬鹿になったらどうしてくれんだよ!!

「それ以上なりようもないだろ。却ってマシになるかもしれないじゃないか」


ムカつく!!(怒)


叫んだ後ハッと我に返ると、シーナはルックから天流に向き直り、

「そうだ、こんなこと話してる場合じゃねえ。ティル、お前は親友とキスするわけ!?」

「・・・・・・」

気を取り直したシーナの問いに、天流は困惑するしかなかった。
シーナは普段見せない真剣な表情で天流を見据え、答えを待っている。
困り果ててルックを見るも、助け舟を出してくれる気はなさそうだ。
それどころか彼も答えを待つかのように天流を見つめている。

(いったいどうしたんだろう、この二人・・・)


微妙な沈黙が流れていると、会議室の扉が開いてマッシュが現れた。

「ティエン様、お話が・・・・・・何をなさっているんですか?」

扉の前で立ち尽くす三人を不思議そうに眺めながら問いかける。
天流はほっとしたように「何でもない」と返し、複雑そうな友人二人に目を向ける。

「それじゃあ、また後で」

そう言い残してマッシュと共に会議室に消えてしまった。



「・・・に・・・逃げたな・・・」

暫し閉じられた扉を見つめていたシーナだが諦めたように振り返った先で、心の底から不機嫌なルックの険しい表情を目の当たりにして、ずささっと後ずさった。

「なっ、る、るっく、さん!?」

「何さ」

「な、何って、なんでそんな顔してんだよ?」

殺されるかと思ったぜ、と冗談半分本気半分の感想を述べる。

刃物のような鋭い翡翠の視線に射貫かれ、じりじりと後ろに下がりながら、命の危険に晒される事態に陥れば、父親に怒られようがマッシュに説教食らおうが会議室の扉を開けて天流に助けを求めようと準備を整える。

「・・・ふん」

シーナの焦燥を余所にそれだけ言うと、ルックの姿は一瞬にしてその場から消え去った。


後に残されたのは茫然と立ち尽くすシーナのみ。

「な・・・なんだったんだ・・・?」

とにかく命が助かって良かったと胸を撫で下ろす。



その後ルックの腹いせが、ある人物に向けられたというのは言うまでもない。





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前半はテッドと坊ちゃんの馴れ初め話なぞを書いてみました。
始まりはフリックと似通ってますが、そこは『大人』なテッドなので酷い事態にはなりません(苦笑)。
そのフリックはもうオチキャラとして定着してますね。(哀れな・・・)

ルックは完全にテッドに嫉妬してます。
ただ、自分の感情には気付いてません。知識がないので(笑)。

次回はついにシークの谷編。(・・・上手く進めばの話ですけどね(汗))



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