22.静かな拒絶




「帰られましたか、ティエン殿」

竜騎士の砦に戻った天流達を、竜洞騎士団の長ヨシュアと解放軍の一員であり名医と謳われるリュウカンが出迎えた。


魔法によって眠らされる竜達を起こすための薬の材料の1つである月下草を手に入れ、シークの谷を出た時には、すでに日は西の空に沈んでいた。

リュウカンに月下草を渡し、フリックが次に必要となる黒竜蘭の在処を問い掛ければ、冴えない表情で二人が視線を交わし合う。
何かあったのかと訊くと、二人は少しの逡巡の後に重い口を開いた。

「フッチが一人で帝国のグレッグミンスターに向かってしまったのだ」

「黒竜蘭は、グレッグミンスターの空中庭園にしかない。わしが口を滑らしたばっかりに・・・」

その言葉に、表情の機微が窺えない天流とルック以外の顔色が変わった。

グレッグミンスターといえば赤月帝国の首都であり、敵の本拠地である。
今や帝国と対立する位置にある竜騎士。
見習といえどもその一員であるフッチがそのような場所に赴いて、見つかればいったいどうなってしまうのか。最悪の場合殺される恐れすらある。

「大変じゃないか。あんな危険な場所に一人で向かうなんて」

フリックが身を乗り出して言った。
天流はルックを振り返り、

「ルック、グレッグミンスターまでテレポートを頼めるだろうか?」

「何言ってるのさ。あんたが今すべきなのは休むことだよ」

険しい口調でそう返される。

「だが・・・」

言い募ろうとする天流だが、全員がルックと同意見なのは彼らの表情からも読み取れる。
事情を知らないヨシュアやリュウカンさえ、天流には休息が必要だと思わせるほどに今の彼はいつもと様子が違った。

「随分とお疲れの様子。天流殿、フッチのことは我々に任せてどうぞお休み頂きたい」

竜騎士を統べるヨシュアにまでそう言われれば、客人の立場である天流達がこれ以上出しゃばるわけにもいかないだろう。
僅かに迷った天流だが、結局は仲間達の心配そうな視線に負けた。

だがそれでもクレオとルックに連れられて部屋に向かおうとする途中、ハンフリーと擦れ違う際には一言残した。

「何かあればすぐに呼べ」

リーダーとしての言に、ハンフリーは無言のまま頷く。

天流をゆっくりと休ませてあげたい思いは彼も同じで、その心情はひどく複雑なものではあったのだが。







ルックと共に入浴を済ませて宛がわれた部屋に入ったところで、天流はルックとクレオの二人に問答無用で寝台に押し込まれた。

「坊ちゃん、とにかく今は休んで下さい」

自分自身も憔悴した顔でクレオが気遣う。
天流が解放軍リーダーとなってからは呼ぶことを自粛していた「坊ちゃん」と言う声に、隠しきれない哀しみと優しさが宿る。
泣きたいのを必死に堪えている。そんな声音だ。



クレオが退室した部屋にはルックと天流の二人だけとなった。
沈黙が支配する部屋。
煌々と部屋を照らしていた燭台の火はルックによって消され、小さな明かりだけが薄暗く残る。

寝台に横たわったまま、天流はただぼんやりと天井を見つめている。
しばらくその様子をじっと見つめていたルックだが、次第に苛立ちを募らせていった。

「寝ないわけ?」

声を荒げたわけではないが、静まり返った部屋には大きく聞こえた。
しかし、応えはない。

「どうしたのさ」

「何でもない」

何でもないわけないだろう。
そう返してやりたかったが、これ以上の会話を拒否するかのように天流が目を綴じてしまったため、言葉は声にならなかった。
代わりにルックはただ深く溜息をついた。







深夜、ふいに砦内が慌しさを帯びた。

部屋に騒音が届いたわけではないが、ルックと天流は敏感に異変を感じ取って身を起こした。
同時に扉が軽くノックされ、ハンフリーが顔を出す。

「フッチという少年が見つかりました」

聞くが早いか、天流はすぐにその足で部屋を出て行った。
そして、ルックとハンフリーも彼に続く。



ヨシュアの部屋の寝台の上に、気を失った少年が横たわっている。
傍にはヨシュアやミリア、リュウカンの姿もあった。
天流達が部屋に入ると、ヨシュアがフッチの傍から離れて彼らに歩み寄る。

「天流殿」

「彼は大丈夫なのですか?」

「フッチは無事です。目立った外傷もなく、じきに目を覚ますでしょう。黒竜蘭も、手に入れたようです」

「では、他に何か?」

ヨシュアは天流の鋭い洞察力に感嘆する。
場の雰囲気からすぐに何らかの事態が起きたのだと察知するとは。

事の次第を話し始めたのはミリアだった。

「ブラック・・・フッチの竜が、命を落としました」

「ブラックが・・・」

「それがどうしたのさ」

見知った竜の悲報に言葉を失う天流の隣で、疑問を口にしたのはルックだ。

「竜を失った竜騎士は、ここにはいられないのです」

苦しげにそう言って俯くミリアの横を擦り抜け、天流は寝台の傍らに立つ。
のぞき込むと、幼い寝顔があった。
いったい何が彼の身に起きたのかは解らないが、よほど危険な目に遭ったのだろう。
掠り傷だらけの寝顔はひどく寝苦しそうだ。

天流はリュウカンに視線を移すと、

「それで、3つ目の材料は?」

「・・・・・・竜の肝じゃ」

言葉に詰まった後、絞り出すように言われた言葉に一瞬瞠目した天流だが、すぐに平静を取り戻して「そうですか」とだけ呟いた。
リュウカンの様子から、使われた竜の肝がブラックであることは明白だ。
天流は冷静に、英断だ、と頷いた。

「では材料は揃ったのですね」

「うむ。すぐに薬の調合に取りかかろう」

「頼みます」

あどけなく眠る少年は、まだ自分の身に起きたことを知らずにいる。
そんなフッチを優しい眼差しで見やり、軽く息をついて向き直った天流はそっとその場を離れた。
振り返った天流は無表情ながらも疲れの色が濃い。
心配げな顔になるヨシュアやミリア、ハンフリーらに何か言われる前に、天流は「それでは僕は休みますので」と言い残すと、ルックと共に部屋を後にした。


三人と眠り続けるフッチが残された室内には、暫く静寂が続いた。
天流達が立ち去った扉を見つめていたハンフリーが窺うようにヨシュアに視線を移すと、彼はそれを受け止めてミリアに声を掛けた。

「ミリア、お前は天流殿をどう思う?」

「信頼できる素晴らしい方です。まだお若いですが、私はヨシュア様と同じくらい尊敬できる方だと感じました」

冷静な部下が誰かをここまで称えるのは初めてだった。
しかし、ヨシュアは驚くでもなく、穏やかに目を細めた。



フッチが目覚めたのは、それから暫く経ってのことだった。





■■■■■





翌日、晴れやかとは言えない朝を迎えた天流達はヨシュアと謁見した。
解放軍への助力を快諾したヨシュアは、行く所を無くしてしまったフッチをハンフリーに預けたいと申し出、ハンフリーはそれを承諾した。

「天流殿、戦の時には、我々はいつでも駆け付けます」

共に戦いましょう、と右手を差し出すヨシュア。
天流はしっかりと頷いて、手袋を嵌めた右手を彼のそれに重ね合わせた。

ここに、解放軍と竜洞騎士団の同盟が結ばれた。


ヨシュアに呼ばれてやって来たフッチは、見るからに意気消沈している様子だ。
俯いた暗い表情からは、天流と再会した時のような明るさはない。
ハンフリーや天流に礼儀正しく「よろしくお願いします」と頭を下げた時も、その声は小さく消え入りそうだった。
フリックが励まそうとするが、フッチは俯いて黙りこくったままで、代わりにルックの見下したような一瞥がフリックに向けられた。







竜騎士の砦を出た天流達がミリアの竜に乗って本拠地に戻ると、竜が珍しくて多くの人々が集まってきた。
そんな中、人波を掻き分けて駆け寄って来るのは毎度のことながらシーナだ。

ティル―――ッ!!

がばっと天流の身体を両腕で抱き締めたシ―ナは、ひとしきり天流の感触を楽しんだ後少し上半身を離して友人を見やる。
途端に満面の笑みが消えて心配に変わった。

「何かあったか?」

相変わらず鋭い。
しかし、彼に応えたのは天流ではなく、背後からの後頭部への強打であった。

バコンッという小気味良いが、同情をかき立てる重い音と共に崩れ落ちるようにしゃがみ込むシーナ。
何があったのか自分の目で確認できなかった天流が驚いて腰を屈めかけたが、ルックに腕を掴まれ引き寄せられたため叶わなかった。

「さっさとマッシュに報告に行くよ」

そのまま有無を言わせず、引きずられるように城内へと連れ込まれていく。
戸惑いながらも状況が見えていないため、抵抗らしい抵抗もできずに天流はルックに連行され、クレオが早足で二人に続いた。

その場には痛みに頭を抱え込むシーナと、青褪めたフリックと、茫然と立ち尽くすハンフリーやフッチ、ミリア以下解放軍の面々が残された。


「・・・ルックのやろぉ〜〜〜・・・」

痛みを堪え、うめくようなシーナの声に、凍り付いていた面々は呪縛から解き放たれた。
時間にして数秒程度ではあったが、時間の感覚など失わされるような沈黙が消えると、ようやくいつもの雰囲気が戻る。
元々ルックの凶行には免疫のある軍だ。すでに誰もが何事もなかったかのように振舞っている。
さすがにフッチとミリアはまだ放心状態ではあったのだが・・・。

青いマントを翻して天流達の後を追おうとしたフリックは、後ろからマントを引っ張られて嫌な予感を感じながら振り向いた。
案の定、半目の据わったシーナの顔がフリックを見上げている。

「あんたなんかに訊きたかねえけどティルもクレオさんも行っちゃったし、しょうがねえから訊いてやる。何があったんだ?」

ありがたく答えろとばかりに尊大な態度のシーナに、「それが人にものを尋ねる態度か!!」と内心で憤慨するフリックだが、今まで散々酷い目に遭わされた経緯もあったため、保身のためだと自分を納得させながら憎々しげに事の次第を説明した。


紋章のことを告げるのは憚られたので、その辺には触れずに、フリックは天流達の後を追う道すがら、シークの谷や竜騎士の砦で起きたことをシーナに告げた。
テッドという少年の死に話がいくとシーナの表情が一層厳しくなった。

(ティルの親友があいつを護って死んだ・・・)

通りで様子がおかしかったわけだ。

天流を心配する気持ちと同時に、テッドという少年に対して怒りや妬みにも似た感情が沸き起こる。

(親友なら、あいつを傷付けんじゃねえよ!)

シーナはテッドを直接知らないし、彼らの事情を知っているわけでもない。
だが、親友でありながら天流を最も傷付けるようなやり方で命を落とした彼が腹立たしかった。

しかし、それと同時に・・・大切な親友を傷付けなければならなかったテッドという少年が哀しかった。





■■■■■





執務室では、軍師マッシュがクレオから報告を受けているところだ。
数少ない天流の理解者である彼は、ひどく落ち込んでいる様子の天流を時折心配そうに見やりながら話を聞き、竜騎士との同盟の成功を労い、フッチらの受け入れを承諾した。

全てを聞き終えると、マッシュはクレオとルックに退室するよう言い、執務室には天流と二人だけとなった。

「大丈夫ですか?」

肩を抱くように両手で包み込み、少しだけ身体を屈めて天流をのぞき込む。

「マッシュに・・・話しておきたいことがある」

マッシュの問いには答えずにそう切り出す天流に、優秀な軍師はすぐさま表情を引き締めた。
戸惑うように震える息をつき、迷いを見せながらも天流は訥々と語りだす。

右手に息づくものの正体を。



天流の右手にあるものが真の紋章であることは知っていたが、その特性は知らなかった。

オデッサ、グレミオ、テオ、そしてテッドの魂をその紋章が盗み取ったなどと聞かされ、冷静なマッシュといえども動揺を隠せない。
話し終えた後、マッシュはただ「・・・そうですか」とだけ呟いた。

「貴方には、言っておかなければならないと思ったから・・・」

だから話したのだと、話す間張り詰めていた糸を僅かに緩め、言いたいことは言ったと静かな瞳でマッシュを見上げる。
軍師の顔には戸惑いと、天流を気遣う思いが浮かんでいた。
そこに、恐怖や嫌悪はない。そのことに、天流は幾分穏やかになれた。

そんな痛ましい天流の姿に、思わずマッシュは細い身体を抱き締めていた。

「私は、何があっても貴方の軍師です」

少しでも、支えてやりたい。
ほんの僅かでも、彼の力になってやれることができれば。
彼の心を癒せることができれば。

マッシュの腕の中で、天流は切なげに琥珀の瞳を揺らした。





■■■■■





「切り裂き」





耳慣れた不吉な台詞が広間に響き渡った。

4階の住人達が慌てて自室の扉に鍵を掛け、それでも安心できずに部屋の隅に身を隠してしまうほどの恐怖を伴うそれは。

毎度のことながら青いマントの青年に向けられたものだった。



「なっ、何を・・・いきなり・・・っ」

血まみれで床に這いつくばった、何とも情けない格好で不吉な声の主を睨むフリックに、彼の険しい視線よりも尚凍て付く眼差しが向けられた。

「あんた、またこのタラシに余計なこと話しただろ。本当に口が軽い奴だね。男のくせに」


ぐさっっ


男のくせに口が軽い。

その台詞にフリックは心の底から落ち込んだ。
これまで散々ルックとシーナに酷い目に遭わされ続け、口では勝てないので剣を抜こうとすればルックの容赦ない魔法が飛び、挙句の果てにはマッシュと天流に説教される日々。
シーナに脅されルックに見下され、行き付くところは切り裂かれて医務室に直行し、リュウカンの「またか」というありがたいお言葉。
フリックは心からルックとシーナとの縁を切りたいと、切に願った。

涙をちょちょ切らせながら意識を失ったフリックには興味が失せたように、ルックとシーナは互いに睨み合った。

「ティルの親友のこと、本当なんだな?」

「あんたには関係のないことだ」

「大事な友人を心配して何が悪いんだよっ」

「いちいち首を突っ込むなって言ってんだよ」

「てめえ、そうやってティルを一人占めする気だな! 抜け駆けばっかしやがって!!」

「はっ、馬鹿じゃないの。あんたは何でも詮索し過ぎなんだよ。友人なんてほざくんならそっとしといてやれば」

天流を心配し、大切に思っているのはルックもシーナも同じだろう。
しかし、この口論を見守るクレオは、どうも天流を巡っての三角関係の縺れのように感じていた。

(まさかねえ・・・)

自分の考えを一笑に伏そうとしたのだが、上手くできずに曖昧な笑みが口元に宿った。


舌戦が激しさを増し、そろそろ紋章戦に突入かと思われたその時。

「何をしている」

冷静な声は、息を潜めていた人々にとって天上の調べのように聞こえたことだろう。
一触即発だったルックとシーナはその声が耳に届いたと同時に互いに向けていた紋章や剣の矛先を下ろした。

振り返ったルック、シーナ、クレオの三人の視線を一身に浴びるのは、ちょうど執務室から出て来た天流である。
ルックとシーナ、そしてその先に倒れ伏すフリックの姿を見止めると、天流はすぐに事情を理解して咎めるように二人の友人を見た。
それに対してルックは素知らぬ顔で肩を竦め、シーナは「あはは」と笑いを漏らす。

「・・・僕は部屋に戻るから、皆も休んでいいよ」

諦めたような溜息の後、そう言って天流は自室の方へと歩いていった。

一拍置いてルックとシーナが天流の後を追い、その場にはクレオとフリックが残る。

あっさりと見捨てられたフリックは、さすがに同情したクレオによって救護班(いつの間にか結成されていた)が呼ばれ、医務室に運ばれていった。





「ついて来ないでくれる」

「お前こそ!」

などという心が洗われるような会話を交わしながら、ルックとシーナは軍主の部屋の前で天流に追い付いた。

いつもならばそのまま三人で部屋に入って雑談などするのだが、この日は違った。

「すまない、今は一人にしてくれ」

扉の前で二人に向き直り、天流は済まなそうに二人にそう告げた。

「けどさ・・・」

困惑顔で天流に手を伸ばそうとするシーナだが、続く言葉が見つからずに黙ってしまう。
弁の立つシーナにすら、天流を慰める言葉がなかった。

本当は傍にいてやりたい。
肩を抱いて、自分達に護られた中で思う存分泣かせてやりたい。

だが、天流の静かな表情はそれを拒絶していた。
ルックやシーナ、クレオにすら弱さを見せたくないという意志がある。

グレミオやテオを亡くした時は自分達を受け入れてくれたのに。

まるでテッドとの格の差を見せつけられたようだ。


何も言えずにいるシーナにもう一度「済まない」と告げ、二人の前で扉が閉じられた。

初めて閉ざされた天流との間にある扉。
天流に閉め出された事実は、軽い気持ちで女性を口説いては断られてしまう結果とは比べ物にならないほど辛いものだった。

「まったく、死んですら忌々しい奴だね」

不機嫌と不快と不満をすべて凝縮した低い呟きに、シーナは恐る恐る隣を見やった。
そこには、抑え切れない怒りを露にするルックの秀麗な顔がある。
ここまで怒っている彼は珍しく、流石のシーナも思わず逃げ腰になった。

「そ、それって、テッドって奴のこと?」

「他に誰がいるのさ」

テッドに対してはシーナもついさっき怒りを感じたばかりだが、ルックのそれはシーナ以上のようだ。
まるでテッドの存在そのものを疎ましく思っているかのような。

そう考えてシーナは1つの結論が浮かび上がり、その突拍子もない考えに自分で驚いた。
当惑を隠せない目で怒りを醸し出すルックを見やり、信じられないような口調で問い掛ける。

「な、なあ、お前、もしかして・・・」

「何さ」

「いや、その、ティルのこと・・・好き、とか?」

大きく開かれたルックの目がシーナに向けられた。

いきなり何を言い出すんだこの馬鹿は。

翡翠の瞳がそう言っているかのようで、シーナはルックの怒りへの恐怖も忘れて腹立たしげに「こいつ・・・」と心の中で毒づいた。

「ま、僕が今まで出会った人間の中で1番マシなのは確かだね」

そう言って、次の瞬間にはルックの姿はテレポートで消え去った。


天流の部屋の前にはシーナ一人が残された。


ぽつんと佇んだまま、彼はしばらくの間動かなかった。
馬鹿にしたような目つきでさっさと姿を消したルックだが、シーナは自分の考えがまったくの見当外れだとはどうしても思えずにいたのだ。

別にルックが天流に特別な感情を抱いていても、それを異常なことだと思ったりはしない。
男女問わず魅了するのが天流なのだから、惚れただのというのは今更だ。

誰に対しても興味を示さないルックが誰かを思うのは喜ばしい。
男同士なんだか女の子同士なんだかわからないビジュアルも、言ってみれば目の保養にもなる。かも知れない。
しかし、そう思えば思う程心の奥で異質なものが徐々に湧き上がり、シーナは混乱していった。

「参ったなあ・・・。もしかして、俺もなのか?」

恋愛に対する知識も免疫もないルックと違って、シーナは自分の中でいつの間にか育っていた感情を正確に知る。


テッドに怒りや妬みを感じたのも。
天流に扉を閉められて傷付いたのも。

すべてはそれに繋がっていたのだと―――。





物音一つしない長い廊下を一人進むシーナは、窓から見える青空を見つめながら、三人の関係がこれから少しずつ変化していくのだと確信していた。



(まあ、ルックに勝てる自信は微妙なとこなんだけどな)



顔に似合わず狂暴な少年の容赦のなさを思って、不敵なシーナといえど身震いを抑えられなかった。





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シーナの自覚話になってしまった。ちなみにルックはまだ自覚なし(苦笑)。
まず坊ちゃんを慰めてくれたのはマッシュでした。
ただ、坊ちゃんの周囲に対する思いは・・・色々と複雑なようです。

次回はフッチとルックとある人が坊ちゃんを慰めてくれます。
予定ではテッド編は次回で終わり。・・・あくまで予定では・・・。



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