第1章『旅の始まり』

3.課せられた使命




聖都ウェンデル。
大陸の中央に位置する巨大なその都市は、マナの僧侶達によって治められている聖なる街だ。
かつて世界を救った『マナの女神』の神殿がこの土地に建てられて、信者達が世界各国から集まった。
それが現在のような一大都市まで発展していったのである。

都に住む人々は神の教えや規律に反することなく、清く正しい生活を送っている。
その街の中心には光の神殿があった。
世界の人々の心の拠り所であるその神殿には、高潔なる神官達と光の司祭が居る。

その光の神殿に今、アンジェラとり―スは辿り着いた。

「ようやく来たわね。さ、行きましょう」

神殿内は、信仰の敬虔さの感じられる神聖な雰囲気の造りだ。
二人は、その神殿を真っ直ぐに司祭の居る奥の部屋を目指して進んだ。


突き当たりの重い扉を開くと、部屋の奥にマナの女神像と祭壇があり、荘厳さを漂わせる玉座には一人の老人が座っている。
僧侶の法衣を身に纏ったその老人こそ、光の司祭だろう。
朝早くから部屋に入って来た二人の少女を見つめる瞳はどこまでも優しく、白い髭を長く伸ばしたその老人から感じられるのは、大いなる温かさだった。

リースはふと、今は亡きジョスターを思い出した。
リースの父、ジョスターもまた光の司祭と同じように優しさに溢れた瞳を持っていた。たとえその瞳は何も映すことができなくとも・・・。

「貴方方に『マナの女神』様の祝福を得られますように・・・」
穏やかに光の司祭が言葉を紡ぐ。
アンジェラは臆することなく司祭に近付き、観察するように視線を動かす。
「ふーん、あなたが光の司祭さん? なんかフツーのおじいちゃんってカンジ。私を助けてくれるかと思ってわざわざ来たのに・・・」
「・・・・・・」
「ア、アンジェラさん、何てことを言うんですかっ」
アンジェラの無礼な態度をリースが焦って窘める。
「構わんよ。ここには色々な人間が来る」
穏やかに言った光の司祭の言葉に、アンジェラは多少の引っ掛かりを感じずにはいられなかった。
(あれってつまりどういうことかしら)
リースは考え込むアンジェラの隣に歩み寄り、司祭と向き合った。

「司祭様、私はローラント王国の王女、リースと申します。
ナバール盗賊団に襲われ、王が討たれ、弟のエリオットも攫われて国は滅んでしまいました・・・。国を、そして父を守ることができなかった私はこの命に替えても弟のエリオットを助け出したい・・・。
司祭様、どうかお導きを・・・」

神に祈りを捧げる敬虔な乙女のように、リースは両手を組んで瞳を綴じる。
「リース・・・」
苦痛に満ちた声で自国の悲劇を語るリースに、アンジェラは掛ける言葉が見つからなかった。

「何と、ローラント王国が・・・?
・・・うーむ、しかしこればっかりは『マナの女神』様でもないかぎり・・・。一度死んだ国を再建することなど・・・・・・」
「・・・・・・」
司祭の言葉に、リースは耐えるように唇を噛んで俯いた。
そんな彼女の肩を、アンジェラが優しく抱き締める。

その時、扉を乱暴に開け放つ音が響いてデュランが入って来た。
「あら、デュラン」
デュランはアンジェラとり―スをちらっと見やってから、二人を押し退けて光の司祭の前まで進み出た。
「あんたが光の司祭か? さあ俺にクラスチェンジの方法を教えてくれ! 俺は強くなりてえんだっ!」
突然激しく喚き立てるデュラン。
だが、光の司祭は動じずに彼を見つめる。
「やめておけ・・・。お主ではまだまだ経験不足。とてもクラスチェンジなどできん」
「な、何だとおっ!」
声を荒げるデュランに、光の司祭はあくまで穏やかに続ける。
「お主も『マナストーン』という名前だけは聞いたことがあるじゃろう。充分に経験を積み、『マナストーン』から力を得られればクラスチェンジが叶う」
「そんなカッタリイことやってられっかよ! 俺は今すぐ強くなってあの紅蓮の魔導師を倒してえのに!」
「紅蓮の魔導師?」
アンジェラがデュランの言葉を反復する。
リースはそんなアンジェラを不思議そうに見やって、
「どうかしたんですか? アンジェラさん」
「・・・うん・・・。ねえ、それってアルテナの紅蓮の魔導師のこと?」
アンジェラの問いに、デュランはハッと彼女を見た。
「! ヤツを知っているのか?」
「そりゃそうよ。こう見えても私、魔法王国アルテナの王女なのよ」
「何!」
さすがにデュランもリースも驚きを隠せず、思わずデュランは剣に手を掛けた。
それを見てアンジェラは不機嫌も露に、
「勘違いしないでよ。私はそいつのせいで国を追われたの」
そこまで言って言葉を切り、俯きながらも思いきって話し始める。

「・・・・・・私、アルテナの王女なのにどうしても魔法が使えるようにならなくて・・・。そんな私にお母様はとても冷たかった・・・。私の命と引き換えに、古代魔法で『マナスーン』のエネルギーをコントロールしようとするなんて!」
その時の哀しみを思い出して、アンジェラの身体が震える。

どんなに冷たい態度で接せられても、アンジェラは母が好きだった。
いつも母親の愛情を欲していた。それなのに・・・・・・。

「・・・・・・それから後のことは覚えてない・・・。気が付くと城の外に倒れていたわ・・・。私はどうしていいか解らなくなって雪原をさ迷い・・・、辿り着いたエルランドの町で旅の占い師から聖都ウェンデルのことを聞いて、藁も掴む思いでここまで来たの・・・」

デュランもリースも黙ってアンジェラのつらい告白を聞いていた。
「・・・そうだったのか・・・」
「紅蓮の魔導師はね、お母様と一緒に私を殺そうとしたのよ! あんな奴大っ嫌いっ!」
「・・・そうか、・・・そうだな・・・、スマン」
そう言ってデュランは警戒を解いて、真剣な表情でアンジェラを見つめる。
「教えてくれ。あの紅蓮の魔導師はいったい何者なんだ?」
デュランのあまりに真剣な表情に思わず見惚れたアンジェラだが、すぐに気を取り直して彼の問いに答えようと考え込む。

「・・・・・・以前は私と同じく魔法がてんで駄目で、いつも魔法の先生のホセに怒られてたのに、ある時いきなりアルテナ一の魔法使いになっちゃってさあ・・・、今じゃお母様の右腕として大威張りよ! 王女である私を『アンジェラ!』なんて呼び捨てよ! ああん、もう、思い出しても腹が立つわっ!!」

話しているうちに怒りが込み上げ、声を荒げるアンジェラの説明に、デュランの表情が心なしか厳しいものとなった。
「・・・・・・アルテナ一の魔法使いか。・・・だが、俺もフォルセナ一の剣士だった男の息子、負けるわけにはいかない・・・・・・」
「へえー、デュランってフォルセナの戦士なの?」
「ああ。俺の親父はかつて竜帝と戦ったんだ」

草原の王国フォルセナは剣術の盛んな国であると知られている。これでデュランが戦い慣れした動きをするわけが解る。


その時、扉が開いてホークアイ、ケヴィンの二人が入って来た。

「おや、皆さんお揃いで?」
飄々とそう言いながら、ホークアイが三人の元まで歩み寄る。
続いてケヴィンも緊張した面持ちでホークアイの後から進み出た。

「光の司祭ってあれかい?」
リースの隣に来たホークアイは、座する光の司祭を指して問う。
この場にそれらしい人物は一人だけだったが、一応確認を取るところが彼の慎重さを物語っている。
「ええ、そうですよ」
これがデュランかアンジェラであれば「当たり前だろ」と言うところだが、リースはホークアイの意志を察してにこやかに答えた。
そんなリースに軽くウィンクをして、ホークアイは先程までとは打って変わった真剣な表情で司祭に向き直った。
「俺はホークアイ。司祭さん、あんた『死の首輪』って知ってるか? どうすればその呪いが解けるのか教えてくれ!」
「『死の首輪』! あの封印されし古代魔法か! いったい何が起こったのじゃ?」
「・・・・・・実は、ある日いきなり現れたイザベラって女が俺の知り合いに呪いを掛けやがったんだ。おかげで俺は散々な目に遭ってここまで来た」
「そのイザベラという者、只者ではなさそうじゃな・・・。ホークアイ殿、残念じゃがワシでも古代呪法の呪いを解くことはできん・・・」
光の司祭の言葉にホークアイは絶句した。
「そんな! じゃあどうすることもできないのか! どわっ!!
最後の悲鳴は、ケヴィンに思いっきり突き飛ばされ、バランスを崩して倒れ込んだためである。

「光の司祭、カ、カール、生き返らせて! 大切な、トモダチ・・・ちびウルフ、カール・・・」

ホークアイを突き飛ばしたケヴィンは勢い付いてか、本来の口下手が災いしてか、上手く言葉を発せられずに焦る。
それでも光の司祭は、穏やかな表情で辛抱強く彼の話を聞いた。
「お主、名は?」
「え? ケ、ケヴィン」

「そうか・・・、よく聞けケヴィン。
命あるもの、いつかは死というものが訪れる。それは避けては通れない、生きるものの宿命・・・。命は一つ、かけがえのないもの。だからこそ尊い・・・。
だが、それはまた新たな命の誕生に繋がって、カールの命は戻らぬが、その魂は今もお主の心に生き続けておるのじゃろ?」

「う、う、それじゃあ、もうカールは・・・・・・?」
縋り付くようなケヴィンの瞳を、光の司祭は温かな眼差しで真っ直ぐに見つめる。
「お主の心の中にカールが生き続けてさえいれば、いつかきっとお主の前にカールの生まれ変わりが現れる日が来るじゃろう・・・・・・」
「そ、そんな・・・」

大切な親友が戻ることはない。
その事実を受け止めるのは、ケヴィンにとってとても辛いことだった。
しかし、ケヴィンはただ哀しむなどということはしたくなかった。
それでは、カールの死は何なのかという思いに駆られるから・・・。

「・・・獣人王! オイラ、絶対許さない! カールの仇、討つ!」
絞り出すような声で、ケヴィンは決意の言葉を吐く。
その様子を見ていたデュラン達はケヴィンの台詞に驚いて、
「え? 獣人王? 何でビーストキングダムが出て来るのよ?」
アンジェラのその問いはそのままデュランやリースの疑問だ。
しかし唯一人、ホークアイだけは三人の様子に苦笑して、
「ケヴィンは獣人なんだよ」
「「「えっ?」」」
一瞬理解できずに聞き返す三人。
「驚いただろ? いや、俺も驚いたよ。いきなり目の前で獣になられてさ」
はっはっは、と笑いながら語るホークアイだが、彼は滝の洞窟からずっとケヴィンと行動を共にしていて、いきなり目の前で彼の変身シーンを見せつけられた時は腰を抜かす程驚いたのだが、事実としては格好良くないので黙っていることにした。
「だけどオイラ、ジャドを襲ったような奴らとは違う! オイラは・・・」



バタ―――ンッッ!!



突然ケヴィンの言葉を遮って、デュランの時よりも尚激しく乱暴に扉が開け放たれ、一斉に全員の視線が集まると同時に神殿を揺るがす程の大音声が轟いた。





あんたしゃんたちはオニでちか―――っっっ!!!!!





その場の誰もが思わず耳を塞いでしまう程の大声の持ち主は、言わずと知れたシャルロットである。
「シャ、シャルロット・・・・・・」
驚くデュラン達を睨みながら、怒り心頭に達した形相のシャルロットがどす黒いオーラを発しながら、彼らにゆっくりと近付いていく。

「あんたしゃんたち・・・、よくもこんなびしょうじょをモンスターのなかにおいてけぼりにしまちたね・・・。なんてちもなみだもない、ゴクアクニンでちか・・・。
このウラミはらさでおくものか〜・・・・・・

完全に目が据わっているシャルロットの恨みの言葉にデュラン、アンジェラ、リースの三人がたじろぐ。
だがホークアイは心外だというように顔を顰め、
「・・・一応俺達、君と一緒に行ってたぞ。勝手にはぐれたのはシャルロットだろ・・・」
「そうだよ。シャルロット、オイラ達にモンスターの相手押し付けて、自分は逃げた」
ホークアイの言葉を受け継ぐようにケヴィンが言う。
「そうそう、『あとはぜ〜んぶあんたしゃんたちにまかせまちたから、がんばるでちよ〜v』なんて言ってたよな」
実はまったくその通りで、ホークアイとケヴィンはシャルロットと共に滝の洞窟を進んでいたのだが、次々と現れるモンスター達にうんざりしたシャルロットは二人に全部押し付けて、自分はさっさと去って行ったわけだ。

シャルロットはしばらく沈黙した後、わざとらしく視線を外して虚空を見つめ、
「・・・・・・ま、まあ、そんなこともあったかもしれないでちね・・・」
「「あったんだよ」」
ホークアイとケヴィンの声が見事に重なった。

「シャルロット! どこに行ってたんじゃ!」
それまで茫然とことの成り行きを見ていた光の司祭が、怒ったような声を発した。
「うひゃ! おじいちゃん!」
驚いてからシャルロットは司祭の渋い表情を見て縮こまり、
「・・・はうう・・・、ごめんちゃい・・・。でも、でもヒースがっ! ヒースがあぁぁっ!」
突然泣き出したシャルロットに、今度は光の司祭の方が慌てた。
「なっ、何があったんじゃ?」
「んとね、じゅーじんがヒースいじめてて、シャルロットがつかまって、へんなヤツがまほうで、うにょ〜ん、びろ〜ん、ばひゅ〜んって・・・」
シャルロットは泣きたい気持ちを堪え、司祭に事の次第を伝えようと努めたが、こんな説明で理解できるような人間はここにはいない。
「?? 何だかさっぱり解らん・・・」
それは全員が同感だったが、シャルロットにはそんなこと知ったことではないので、自分の説明を理解しない司祭に焦れて、
「あーもうっ、じれったいでちね! とにかくヒースがそのへんなヤツにつれていかれちゃったんでちっ!」
「何っ! 何ということじゃ・・・」

〈ねえ、私達にも話させてよ〉

そう言って出てきたのは妖精、フェアリー達だ。
それを見てホークアイはポンと手を打って、
「おお、そう言えば」
思い出したような彼の様子からも解るように、デュラン達はフェアリー達のことを忘れていたのだ。
フェアリー達はそんな彼らを一睨みし、光の司祭に向き直った。
〈司祭様、私達は『マナの聖域』から参りました。世界から『マナ』が減少し、『聖域』の『マナの樹』が枯れ始めています・・・〉
この言葉に光の司祭は今まで以上に驚き、
「何と! 大変じゃ! 『マナの樹』が枯れれば『マナストーン』に封印されし『神獣』が目覚め、世界は滅んでしまう!」

慌てる司祭をデュラン達はきょとんとした表情で見つめる。
「??? 何のことだ?」
「おお、シャルロット! 何ということじゃ! お前がフェアリーに選ばれてしまうとは・・・」
「おじいちゃん、どうちたの? フェアリーしゃん、うちのおじいちゃん、もーろくしちゃったんでちかね?」
「何を他人事みたいに言っておる。お主達はフェアリーに選ばれし者、お主らが『聖域』に行って『マナの秘宝』を手に入れねばならぬのじゃぞ!」

これにはさすがに事の大きさが解ったのか、デュラン達は一様に驚き、慌てた。
「何よ、それ! 聞いてないわよ!」
「おいフェアリー! どういうことだ!」
〈・・・ごめんなさい・・・。『マナ』の減少によって、私達は『聖域』の外では誰かに取り付いてないと死んでしまうのよ。あの時あなた達に会ってなければ今頃・・・〉
「はいはい、そりゃよかったね。じゃあもうお役御免なんだろ? さっさと俺から離れてそのジジイにでも取り付いてくれ」
「オイラもそう思う! フェアリー、今元気。光の神殿来た。もうオイラはカンケーない」
「そうでち! むずかしーこというひとはシャルロット、きらいでち! おじいちゃんとこいくでち!」

リース以外の五人は、フェアリーを光の司祭に押し付けようと、まことに無礼な限りだ。

〈リースは?〉
話題を振られたリースは困ったようにフェアリーを見て、
「・・・・・・ごめんなさい・・・。私、エリオットを探さなければならないのよ。他の人を見つけて・・・」
「それができれば苦労せんわい。フェアリーは一度宿主を選んでしまうと、その宿主が死ぬまで一生離れることができんのじゃ・・・」
司祭の言葉は六人の間に更なる混乱を招いた。

ぎょえーっ! なんでちか、そりわ!
「そんなバカな! 俺は行かねえぞ!」
「俺だってマナだかバカだかの秘宝になんて用はない!」
「私だってやーよ! そんな秘宝なんて必要ないもん!」
「オイラ、カールの仇取りに戻る!」

口々に不平を唱える面々に、フェアリー達は何を思ったかそれぞれの宿主に耳打ちをする。

デュランに対して青銀のフェアリーは、
〈あなた紅蓮の魔導師を倒したいんでしょ? 『マナの秘宝』を手に入れれば最強の戦士になれるよ〉
「何?」

アンジェラに対して真紅のフェアリーは、
〈アルテナの理の女王の狙いも『マナの秘宝』なんでしょ? 女王にあなたの力を認めさせるいいチャンスだと思うけどなあ・・・〉
「え?」

ケヴィンに対して銀灰のフェアリーは、
〈今のままじゃ獣人王に勝てないことは、あなた自身が一番よく解ってるでしょ? 『マナの秘宝』さえあれば、獣人王より強くなれるのに〉
「本当か? オイラが獣人王より強く・・・」

ホークアイに対して漆黒のフェアリーは、
〈あなたジェシカの呪いを解いて、イーグルの仇を取りたいんじゃなかったの? 『マナの秘宝』を使えば呪いを消し去り、イザベラを倒すことだってできるよ〉
「何! てめえ、人の頭の中のぞいたなっ?」

リースに対して純白のフェアリーは、
〈『マナの秘宝』を手に入れれば、あなたの望みはすべて叶うよ。エリオットを見つけて、ローラントを再び元の平和な王国に戻すことだって・・・〉
「えっ? 本当に?」

そんな中、シャルロットに取り付いている黄金のフェアリーだけは、彼女とではなく光の司祭と話していた。
〈司祭様、私にシャルロットをお預け下さい。お願いします〉
「マナの女神様はこの子に何と過酷な運命を与えたもうたのか・・・。シャルロットよ、気を付けて行くのだぞ・・・うぅぅ・・・」
「なに、かってにきめてるでちかっ。シャルロットはいきましぇんよ〜だ!」
〈ヒースを助けなくていいの?〉
癇癪を起こして踵を返そうとしたシャルロットだったが、フェアリーの言葉に足を止めた。
〈ヒースをさらって行った奴、すごく邪悪な気配を持ってたよ。ヒースを助け出すにはきっとマナの力が必要になる・・・〉
「・・・うぅ・・・でも・・・」

「ちょっと待ってくれ。だいたいその『マナの秘宝』とかって、いったい何なんだ?」
デュランのその問いはもっともな疑問だろう。

「『マナの秘宝』・・・、それは全ての精霊を司る、古の力の象徴・・・」
フェアリーが答えるよりも早く、光の司祭が静かな口調で語りだし、六人は黙って穏やかなその声に耳を傾けた。


「マナの女神が世界の創造に用いし黄金の杖の仮の姿・・・。
『マナの秘宝』を手にせし者、世界を支配しうる力を与えられん・・・。
その『秘宝』。今、尚『マナの樹』の根元に密かに眠らん・・・。

『マナの樹』が完全に枯れてしまう前に『マナの秘宝』を手に入れることができれば、マナの女神様は再びお目覚めになって世界をお救い下さり、望みも叶えて下さるじゃろう」


室内に沈黙が落ちた。

それぞれが己の心の内で葛藤していた。
特に望んだわけでもない旅に出るべきか、それとも・・・・・・。


そして、まずデュランが、
「よーし、その秘宝を手に入れて紅蓮の魔導師を必ず倒す! フェアリー、俺は行くぜ!」
(我が国王を侮辱した紅蓮の魔導師、俺はお前を絶対に許さない!)
断固たる意志を持ってのデュランの決断。
その様子にアンジェラの心が揺れた。

アンジェラの母親である理の女王もまた、フェアリーの言った通り『マナの秘宝』を手に入れようとしている。
では、自分が先に行って『秘宝』を手に入れれば、女王も自分を見直してくれるのではないだろうか。愛情を与えてくれるのではないだろうか・・・。
儚い望みかも知れない。だが・・・・・・。

「私も行くわ。よろしくね、デュラン」
「その秘宝さえあれば獣人王に勝てるんだな? オイラも行く!」
アンジェラに続いて、ケヴィンも決断した。
必ずカールの仇を討ってみせるという思いを秘めて。

「俺も行くぜ! イーグルの仇、イザベラを倒し、ジェシカを救うためなら何だってやるぜ!」
ホークアイもまた決断する。
いつまでも無実の罪を被ってはいられない。
親友イーグルの仇を討って、その妹であるジェシカを助ける。
そのために彼は旅に出たのだから・・・・・・。

「私も行きます」
そう一言だけ言ったのはリースだ。
短いその言葉の中には、彼女の固い決意が秘められている。
父ジョスターを殺し、国を滅ぼした憎きナバールの者共から弟エリオットを助け出すため、そしてローラント再興のため・・・・・・。
秘宝を手に入れることによってそれが叶うというのなら、リースは迷いはしない。
それにローラント再興も大事だが、『マナの樹』が枯れて世界が滅んでしまってはその望みも叶わないのだから、尚更だ。

「ち・・・ちょっとちょっと、あんたしゃんたち〜・・・?」
唯一人決断していないシャルロットは、次々に決断するデュラン達について行けず、困惑した声を上げる。
そんなシャルロットにフェアリーが更に言い募る。
〈『マナの樹』が枯れてしまったら、ヒースをさらった邪悪な者の力が増大して、ヒースを助け出せなくなるよ〉
最後の言葉にはシャルロットに一気に決断をさせる要素を含んでいた。
「それをはやくいうでち! ほれほれあんたしゃんたち、なにをぼけらっとつったってるんでちか! ヒースをたすけにれっつご〜! でち」
ヒースのことは別にデュラン達には関係がないのだが・・・。
しかしデュラン達は何も言わなかった。
というより、言っても無駄だと踏んでいるのかも知れない。

すっかり意気込んでシャルロットは一目散に駆け出そうとして、止まった。
「ところで、どこにいけばいいんでちかね?」
「『マナの聖域』よ。あんた話聞いてたの? 一人で先走るんゃないわよ、ガキ」
辛辣に言い放つアンジェラに、シャルロットは恨みがましい視線を送ったが、反論できないのが悔しかった。
そんな二人のやり取りを他の者達は完璧に無視して、
「で、その聖域にはどうやって行くんだ?」
というホークアイの問いにフェアリー達は困ったような表情で、視線を交し合い、
〈・・・ごめんなさい・・・。マナが減ってしまい、私達にはもう『聖域への扉』を開くだけの力は残っていないの・・・〉
フェアリーの言葉を引き継ぐように、光の司祭が話し始める。

「世界の様々な所に『マナストーン』と呼ばれる、『神獣』が封印されし8つのエネルギーポイントがある。これらのマナストーンからエネルギーを解放すると、『マナの聖域』と現世を繋ぐ『聖域への扉』が現れる。この扉に入れば『マナの聖域』へと辿り着けるのだが、マナの女神様が眠りについた時、『聖域』を現世から封じるために8つのマナストーンのエネルギーは封じられてしまった」

「どうすれば?」
一息ついて、司祭はまた語り始めた。
それはデュラン達にとって決して良い意味の内容ではなかった。

司祭の語った話はこういうことだ。

大昔には古代魔法と呼ばれる呪法によってマナストーンのエネルギーを自在にコントロールすることができていたらしいのだが、その呪法を巡って利権を奪う合うようになった国々によって戦乱が巻き起こり、世界は『神獣』以来の危機を迎え、滅亡寸前までいったことがあったという。
かろうじて生き残った者達は同じ過ちを繰り返さないよう、その古代魔法を禁断の呪文として術者の命を奪うような呪いを掛け、封印してしまったというのだ。

「今では失われた魔法として、誰も知る者はいない・・・」
それはつまり、デュラン達には打つ手がないということだ。
「お手上げか・・・」
ホークアイの呟きは、静まり返った部屋に空しく響く。

〈待って。一つだけ手があるよ〉
沈黙の中、ふとそう言ったフェアリーにデュラン達の視線が集中する。
フェアリー達は、かすかな希望を見付けたことへの喜びに頬を赤く染め、弾むような口調で喋り始める。
〈マナストーンの近くには、必ずその属性の精霊達がいるはずよ〉
〈彼らの力を借りることができれば、残された『マナの力』で私達でも『聖域への扉』を開くことができるかも!〉
フェアリーの言葉に光の司祭は顔を輝かせ、
「その手があったか。お主達が通って来た滝の洞窟の上には、『光のマナストーン』があると言われている。滝の洞窟で光の精霊ウィル・オ・ウィスプを見たという者も多い。まず始めに滝の洞窟に行って調べてみると良い」

「はい!」
希望の光が差し込み、デュラン達の表情も輝く。



デュラン、アンジェラ、ケヴィン、シャルロット、ホークアイ、リース、そして六匹のフェアリー達はそれぞれの思いを秘めて今、精霊の元へと向かおうとしていた。





こうして『マナの秘宝』を巡る壮大な冒険がこの瞬間、幕開けするのである。





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04.4.30.UP


なんか、やたらと長かった・・・(滝汗)
今回は台詞が多いですね。光の司祭喋りっぱなし(笑)。
それにしても、こうして見るとフェアリーって本当にちゃっかりしてますよね。
有無を言わさずデュラン達を巻き込んでますし(苦笑)。
とりあえず第1章はこれで終わりです。

次回は滝の洞窟で・・・恋が芽生える兆し(笑)



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