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第2章『光の精霊』
1.滝の洞窟の戦闘
聖都ウェンデルから旅立ったデュラン、アンジェラ、ケヴィン、シャルロット、ホークアイ、リースの六人は滝の洞窟へと再び足を運んだ。
今度は六人共、はぐれないように気を付けて進んだ。
途中滝の流れる様の見渡せる道に出、フェアリー達は何かを感じたのかデュラン達を呼び止めた。
〈ちょっと待ってて。見て来るから〉
そう言って六人のフェアリー達は滝に沿って上に昇ったり、下に降りたりを繰り返してデュラン達の元へ帰って来た。
〈この滝の水から『マナの力』を感じるわ〉
〈ここの上の方に変な横穴があったよ〉
〈そこにウィスプがいるかも知れない〉
「よし、それじゃあ、行こう」
そうして、更に滝の上を目指してデュラン達は歩を進めた。
「ところでさあ、何で獣人達はジャドを占領なんてしたんだい?」
襲い来るモンスター達を倒しながらしばらく進む中、ふとホークアイがケヴィンに話し掛けた。
それはきっと誰もが抱いている疑問であろう。
問われたケヴィンは一瞬躊躇して、
「ウェンデルを侵攻するつもりなんだ」
ケヴィンの答えにシャルロットが憤慨する。
「いったいウェンデルがなにしたっていうんでちかっ!」
「ウェンデル、人間達の希望だから。人間達の心の拠り所だから」
「ビーストキングダムは人間達に復讐しようとしているんですね? 今まで人間達に迫害されてきたのだから、それも仕方が無いことかも知れませんね・・・」
「なーに言ってんのよ! 獣人達の行動は更なる悲劇の繰り返しだわ! そんなことはすぐにやめるべきよ」
祖国アルテナを思い出したのか、アンジェラはきつい口調で言い放つ。
獣人達はリースの言った通り、昔から人間達に迫害されてきた。それゆえに一年中闇に包まれた地に追いやられたのだ。
獣人達の多くは人間を憎み、いずれ復讐をしようと考えている。
そんな獣人達が集まったのが、ケヴィンの父が治めるビーストキングダムだ。
そして、長年の沈黙を破って獣人達はついに動き始めたのだ。
人間達への復讐のため、人間達の心の拠り所、聖都ウェンデルを侵攻するために。
「アルテナはフォルセナに攻め入ろうとしていて、噂ではナバール盗賊団が風の王国ローラントを襲撃したとか聞いた。何だか世界中で何かが狂ってやがる」
吐き捨てるように言ったデュランの言葉にホークアイとリースが僅かに反応する。
この二人はお互いに正体は知らぬものの、ナバール盗賊団のシーフと、そのナバールによって滅ぼされた、風の王国ローラントの王女なのだ。
唯一人リースの正体を知っているアンジェラは、心配そうにリースを見やる。
リースはそんなアンジェラの視線に気付いて、大丈夫だというように微笑む。
そうしているうちに、デュラン達はフェアリーの言っていた横穴へとたどり着いた。
「あれか。フェアリーの言っていた横穴ってのは」
というデュランの言葉の後、六人はしばらく沈黙した。
彼らの視線の先には一本の吊り橋があった。
それは、古くなって今にも落ちそうな細い橋だ。
「まさか、これを渡るってんじゃないでしょうね・・・?」
思いっきり顔をしかめてアンジェラが言ったが、それに答える声は無い。
アンジェラの予想通りなのだから。
「これしかないからなあ・・・」
呟くようなホークアイの言葉の後、ケヴィンが元気に腕を振って、
「じゃ、行こう」
「じょーだんじゃないでち!」
シャルロットの怒声に、橋に手を掛けて渡ろうとしていたケヴィンは振り返り、
「どうして?」
首を傾げて不思議そうに聞くケヴィンの様子に、デュランとホークアイは内心呆れた。
「あんたしゃんにはデリカシーってのがないんでちかっ!?」
ケヴィンはますます訳が解らないと言うように顔を顰めた。
「ったく、いくならあんたしゃんたち、オトコだけでいくでち! シャルロットはずえ〜ったいに、こんなトコロあるきましぇんからねっ!」
「え・・・?」
ケヴィンはまだ解らないようだ。
アンジェラもシャルロットも、純粋に怖くて行きたがらないことを。
彼は二人の我侭だと思っていたので、
「じゃあもう二人は置いて四人で行こう」
途端にリースの表情が強張る。
「えっ? わ、私もですか?」
動揺するリースの様子に、ケヴィンは信じられないというように目を見開いて彼女を凝視する。
「・・・まさか、リースも嫌?」
茫然と問うケヴィンの視線に耐えられず、リースは困惑して俯く。
アンジェラやシャルロットと違って、どんな状況にも不平を唱えずに受け入れてきたリースが、二人と同じように我侭を言うなんてケヴィンにはとても考えられないことだった。
もう我慢が出来ないとばかりに、デュランとホークアイが弾けるように笑い出した。
その様子を呆気に取られて見るケヴィンと、不満を顔に出して睨むアンジェラとシャルロット。そして俯いたまま赤くなるリース。
アンジェラもリースも高い所は苦手ではない。特にリースはどちらかというと平気なのだが、足場が不安定なのはどうも駄目だった。
「あははは、ケ、ケヴィン、つまりだね、麗しき女性陣は、その吊り橋を渡るのが、怖いんだよ、あっははは!」
笑いながら、途切れ途切れにホークアイが説明すると、ケヴィンはようやく納得したように相槌を打って、
「何だ。ならそう言えばいいのに」
「さっさと気付きなさいよね! とにかく私はやーよ! こんな危なっかしい橋渡るなんて」
頑として譲らないというアンジェラの態度。
笑いを治め、デュランは小さく息をついてアンジェラに手を差し伸べた。
ふいに差し出されたその手を、アンジェラは戸惑って見つめる。
「俺が手を引いてやる。来いよ」
照れているため、どことなくぶっきらぼうなデュランの口調に、驚きに彼を凝視していたアンジェラの表情が次第に笑顔になっていく。
まるで花が咲くようなその光景に、思わずデュランは見惚れた。
そしてアンジェラが恥ずかしそうに、自分の手をデュランの手に重ねると、逞しい手がアンジェラの細い手を握る。お互いの手の温もりが感じられた。
「ありがとv デュラン」
デュランは黙ってアンジェラの手を引いて、吊り橋を渡り始める。
一心に前を向いていたので誰も気付かなかったが、デュランの頬は赤く染まっていた。
二人が吊り橋を渡り始めると、ケヴィンはシャルロットに屈託無く笑いかけた。
「シャルロットはオイラが連れてってやるよ。ほい」
そう言って背中を向けてしゃがむケヴィンを、シャルロットは不思議そうに首を傾げる。
「なんでちか?」
「おんぶだよ」
さらりとそう言われ、シャルロットは真っ赤になって怒る。
「あんたしゃん、かんっぺきにシャルロットをガキんちょあつかいしてまちね! なんてしつれーなひとでちか!」
「・・・・・・行かないのなら・・・」
しゅんと項垂れてケヴィンは立ち上がりかけた。
「だ、だれもそんなこといってないでち・・・」
しぶしぶシャルロットはケヴィンにおぶさった。
そして無事にデュランとアンジェラが渡り終えたことを確認して、ケヴィンは橋を渡り始めた。
残されたホークアイとリースは、ケヴィンとシャルロットが渡って行くのを見ていた。
「いやあ、面白い二人だね。そういうことだし、リースは俺が手を引いてあげるよ」
言いながら手を差し伸べるホークアイを、リースは申し訳なさそうに見つめる。
「す、すみません。ご迷惑を掛けてしまって・・・」
リースの言葉にホークアイは眉を寄せて、
「俺、他人行儀は好きじゃないんだけど?」
不機嫌そうなホークアイの声に、リースはどうしていいのか解らず、重ねようとした手を止めた。
空中で止まったリースの手をホークアイは強引に取って、ケヴィンとシャルロットが渡り終えた吊り橋に足を掛ける。
ホークアイの機嫌を損ねてしまったのだろうか?
彼に手を引かれて、リースは不安な思いで橋を渡って行った。
渡り終えた所にデュラン達は居て、
「意外と丈夫ねえ、このボロ橋」
感心したようにアンジェラが言った。
「六人で一斉に渡っても大丈夫なんじゃないか?」
デュランも同意したように今にも落ちそうな吊り端を見て言う。
間もなくホークアイとリースも橋を渡り終え、デュラン達と合流し、六人は更に奥へと進んだ。
奥へ行くにつれ、モンスター達も強くなっていった。
毒を仕掛けてくるゾンビや、強い攻撃力を持つゴブリンなどが襲って来て、デュラン達はさすがに苦戦を強いられた。
「キリがないわね! だからモンスターって嫌いよ!」
不平を唱えながらもアンジェラは応戦する。
しかし、六人の中で一番攻撃力の低い彼女がモンスターを倒すことはかなり苦しい。
デュランやリースといった、戦いのエキスパートである戦士はアンジェラやシャルロットをうまくフォローしながら戦っていた。
(悔しい! これじゃ私、足手まといじゃないの!)
彼女は、こういう時に自分が魔法を使えないことが悔やまれた。
「なんだかこっちにアナボコがあるでちよ!」
リースに庇われながらも一所懸命フレイルを振り回していたシャルロットが声を上げた。
彼女の言葉に従って、アンジェラやシャルロットを先に促してデュラン達はその穴へと入った。
岸壁に阻まれた場所で、少しでもモンスター達が襲い掛かるのを遮断しようと思ったのだが、不思議なことに穴に入っ時点でモンスター達はデュラン達に襲い掛かろうとして来なかった。
穴の外で遠巻きにこちらを伺うモンスター達を見て、デュラン達は首を傾げる。
「どうしたんでしょう? 襲って来ませんね」
「ああ・・・」
その時、地面が揺れた。
ゴゴゴゴゴ・・・
突然の地響きに驚い体勢を崩すデュラン達。
「な、何だっ!」
間もなく地響きが治まると同時に、
ドオオォンッッ!!!
凄まじい音を立てて、巨大な蟹を思わせるモンスターが現れた。
「何っ!?」
驚愕の色も露にデュラン達は慌てて身構える。
巨大な蟹のモンスターは侵入者達を睨み、その両目から光線を発して一番近くにいたケヴィンを捕らえる。
「うわ――っ!!」
「ケヴィンしゃんっ!」
慌ててシャルロットは倒れ込むケヴィンに駆け寄って、持って来た薬草で急ぎ応急手当を始める。
相手が自分達を敵と見なしたのなら黙ってやられるわけにはいかないと、デュラン、ホークアイ、リースの三人は武器を手にモンスターに向かって行った。
「皆! あの化け物はフルメタルハガーよ! 気を付けて、奴の甲羅は堅くて武器を通さないわ!」
シャルロットを手伝ってケヴィンの手当てをしているアンジェラが声を張り上げる。
アンジェラの言う通り、デュランの剣もホークアイのダガーも、リースの槍もフルメタルハガーには効かない。
「くそ! あの身体は刃物を弾きやがる!」
何度攻撃してもダメージを与えられないことに、デュランは焦りを感じた。
「だったら方法は一つだぜ! お二人さん」
デュランもリースも焦っているというのに、ホークアイは一人飄々とした態度を崩さずに、
「目を狙え!」
一言そう言い放って、ホークアイはフルメタルハガーの片目にダガーを突き刺そうとした。
だが未然にそれに気付いたか、堅い瞼が綴じてダガーは弾かれる。
「ちっ!」
忌々しそうに舌打ちをしてホークアイは素早く後ろに跳んだ。
直ぐに目を開いたフルメタルハガーの身体が空中へ跳び、地響きを立てて着地すると同時に言い様のない圧迫感がデュラン達を襲った。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
激しく襲う衝撃の波に、デュラン達は耐え切れずに倒れ込んだ。
間髪入れずに光線がリースに向かって放たれる。
「リース!」
ホークアイが慌てて立ち上がろうとするが、如何せんショックは大きかった。
光線はだが、手当てを受けたケヴィンがリースを抱えて跳んでかわしたため、宙を切るだけだった。
「リース、無事?」
そっと彼女を降ろしながら問うケヴィンに、リースは感謝の意味も含めて優しい微笑みを浮かべる。
「ええ、助かりました。ありがとう、ケヴィンさん」
ケヴィンはリースに照れたような笑みを返し、向き直ってフルメタルハガーを見据える。
「何とかして、あいつの片目だけでも潰さないと・・・」
「俺がやる! どいてろ!」
ショックから立ち直り、どうにか身体を起こしたデュランが剣を構えて怒鳴った。
「たあっ!」
気合と共にデュランは渾身の力を込めて、剣で十字を描くようにしてフルメタルハガーの片目を切り裂く。
どんなに堅い体を持つモンスターといえど、目を鍛えることなどできはしない。
片目を潰されたフルメタルハガーは、苦悶の叫びを上げてのたうった。
その時、我を失ってもがく巨大な蟹から光の柱が立ち、そのエネルギー波はデュランの周りを螺旋を描くようにして包み込んだ。
「何だ?」
驚きと戸惑いでどう対処すべきか咄嗟に思い付かないデュランに、顔色を変えたアンジェラが悲鳴のような声を上げる。
「デュラン! 逃げて!!」
アンジェラの叫びと同時に、小爆発が起きた。
「うわあっ!!」
爆風に吹き飛ばされてデュランの身体が宙に舞う。
為す術もなくアンジェラ達の見守る中、デュランは地面に叩き付けられた。
「デュラン!!」
悲痛な声を上げてアンジェラが彼に走り寄る。
慌ててデュランを抱き起こしたアンジェラは、幾分か安堵したように息をつき、
「良かった、ちゃんと生きてる。シャルロット、お願い、手当てを手伝って!」
「わかったでち!」
頷いて、シャルロットが二人の傍に駆け寄るのを確認して、ホークアイがダガーを構える。
「では、俺も反撃覚悟でもう一方の目を潰すとするか」
いつものように飄々とした口調で、しかし瞳に真剣さを湛えて素早くフルメタルハガーの眼前に移動する。
悶絶するその巨大な身体の動きを上手く読んで攻撃をかわし、ダガーを残された片目に思いっきり突き刺す。
更なる激痛に、地響きを立てて怪物がのたうつ。
素早い動きでフルメタルハガーの近くを離れて、ホークアイは肩を竦める。
「さて、これからどうするか・・・」
両目を潰したはいいが、これからどうやってあの怪物の息の根を止めるべきか。
リースもケヴィンも困ったように悶絶する怪物を見やる。
「え・・・と、壁壊して岩の下敷きにするとか」
ケヴィンが天井を見上げてそう言った。
相次ぐ地面の揺れに、洞窟が脆く崩れやすくなっているので、それも不可能ではないだろう。
「それで行こう」
あっさりとホークアイが同意して、ダガーを構えて壁際に寄る。続いてケヴィンも壁際に寄って、崩れやすそうなポイントを探し始めた。
すると、デュランの手当てをしていたアンジェラやシャルロットも立ち上がって、
「私もやるわ! デュランをあんな目に遭わせた怪物、絶対に許せない!」
「シャルロットもやるでち! あれがでてきてからシャルロットのかつやくがないんでちから!」
そういう問題ではないのだが、何はともあれ右側の壁にホークアイとケヴィン、左側の壁にアンジェラ、シャルロット、リースが寄って行って武器を構える。
「では皆さんご一緒に!!」
冗談めいた口調のホークアイの言葉を合図に、ケヴィンの拳と蹴りが、ホークアイの二本のダガーが、アンジェラのロッドが、シャルロットのフレイルが、リースの槍が一斉に壁を叩き付けた。
その瞬間蜘蛛の巣状の亀裂が壁から天井に掛けて電流のように走り、轟音を立てて天井が崩れ落ちた。
五人はすぐにその場を離れて安全な場所まで走り、天井の下敷きになるフルメタルハガーの最期を見つめる。
洞窟全体に影響は及ばないくらいだが、それでも激しく降り注いだ岩に押し潰されて怪物は沈黙した。
「やったか?」
ほっと息を吐いて呟いた後、ホークアイの表情が凍り付く。
彼らの目の前で、フルメタルハガーを押し潰した岩が盛り上がったのだ。
慌てて身構えるホークアイ達を襲ったのは、まだ生きていた怪物ではなく、その怪物の最期の攻撃とも言える爆発である。
「どわわあ〜っっ!」
「ひょえぇ〜っっ!!」
爆風に吹き飛ばされるホークアイ達の悲鳴は、爆音に飲み込まれていった。
この爆発も、滝の洞窟全体に影響を及ぼすほどのものでもなかったが、すぐ近くにいた六人には溜まったものではなく、地面に叩きつけられた彼らは自分達の気が遠くなることを感じていた。
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04.5.10.UP
戦闘シーンは好きだけど書くのは苦手です・・・。
リーダーはデュランなのになあ。今回ホークアイがリーダーですよね(苦笑)。
でもホークアイやリースは、ナバールやローラントでは仲間を束ねる立場にいたんだし
デュランがリーダーならこの二人は副リーダーとか参謀かなあと思ってます。
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