第4章『土の精霊ノーム』

1.土の精霊との出会い


草原の王国フォルセナが魔法王国アルテナによって侵略されようとしていたのを阻止したデュラン達六人は、土の精霊ノームを見付けるため英雄王の助言に従って夕焼けのモールベア高原を探索していた。

「確かこの辺りに邪神像があったと思うんだが・・・」

額に掛かる前髪を掻き上げながらデュランが言う。
フォルセナ出身の彼は一番この辺りのことに詳しく、彼自身幼い頃から冒険心に富んでいたので、フォルセナの人達も知らないような抜け道などもよく知っていた。
もちろん英雄王の言っていた邪神像のある場所もだいたい把握している。


生い茂る草を掻き分けて六人はしばらく邪神像を探していたが、耐え切れなくなったようにアンジェラが声を上げた。
「もういやっ! 草で肌に傷が付いちゃう! 邪神像はいったいどこにあんのよっ!」
叫ぶようにそう言って、手近にあった岩に腰掛ける。

「シャルロットもつかれたでち! あついでち、あせがきもちわるいでちーっ!!」
アンジェラに続いてシャルロットも音を上げる。
男性陣はまたか、という表情で二人を見やる。
すでに三人とも、アンジェラやシャルロットの我侭にはだいぶ慣れてきているようだ。
「シャルロット、疲れたのは皆同じ。頑張れ」
子供に言い聞かせるようにケヴィンがシャルロットをたしなめると、シャルロットはもう我慢がならないというようにケヴィンを睨み付け、

「あんたしゃん! いいかげんにシャルロットをガキんちょあつかいするのやめるでち! こうみえてもシャルロットは15さいなんでちからね! もうすぐ、オ・ト・ナ!



「「「げげっっっ!!!」」」



デュラン、ホークアイ、ケヴィンの三人が一斉に仰け反った。

「オイラと同い年!? 信じられない・・・」
「見えん・・・」
「犯罪だ・・・」

口々に驚きの声を漏らす三人を、シャルロットは物凄い目つきで睨みつけた。

なにか、いいまちたか・・・?

「「「・・・いえ・・・」」」


一斉に首を振る三人を見て、アンジェラとリースは苦笑する。
二人も初めてシャルロットの年齢を知った時は随分と驚いたが、シャルロットがハーフエルフなのだと知って納得した。エルフは長命ゆえに成長もまた人間に比べると遅いのだ。

だが、男性三人はそのことを知らされていない。
それについて彼女達が何も言わないのは、アンジェラは面白くて、シャルロットとリースは聞かれないからという理由だった。

「と、とにかく、アンジェラにシャルロット! さっさと立ってキリキリ探せ! 早くしないと日が暮れるぞ!」

今はもうすでに夕刻だった。
太陽はほとんど西に傾き、風景はデュラン達をも包んで茜色に染まっている。
緑色のはずの草原さえ夕日の色に染め上げられ、状況が状況でなければいつまでも観賞していたいと思えるほどの美しさを醸し出している。

「ねえ、もう明日にしようよー。私、もう立てないよ」
「・・・・・・」
デュランの怒ったような目を向けられても、アンジェラはその場を動こうとしない。
そのアンジェラが座っている岩にシャルロットも寄って行って腰掛ける。
「シャルロット!」
ケヴィンの叱咤にシャルロットは舌を出して答える。
「べーっだ! もうシャルロットはいっぽもうごきましぇんからねーっだ!」
「お前らいい加減にしろよ!」
「なによっ!」

四人が言い合いをしている間、その成り行きを見守っていたホークアイは、ふと気になる物を目の端に捕らえた。
「・・・あれ? なあ、リース、あれって・・・」
「ええ・・・」
リースも同じことを考えていたらしく、ホークアイに話し掛けられて首を傾げて同意する。
そんな二人の様子には気付かず、デュラン達の言い合いが続く。

「英雄王様も仰っていただろう! ノームを見付けて来いって!」
「今すぐになんて言わなかったじゃないの!」
「そうでち! きょうはもうおねむでち!」
「駄目! 今日中に精霊見付ける!」
「お〜い、すいませんが〜」
激しい言い争いの中に、ホークアイの暢気な声が介入してくる。
「何だよ、ホークアイ」
「いやあ、さっきからリースと二人、気になることがあってさ」
「何よ?」
アンジェラが胡散臭そうにホークアイに視線を移す。
だがその問いにはリースが答えた。
「あの、アンジェラさんとシャルロットちゃんの座っている岩が・・・」

「「「「?」」」」

言われたデュラン達の視線がその岩に向けられる。

「「「「あっ」」」」

アンジェラ達は立ち上がって岩を凝視する。
それは自然の岩ではなく、どう見ても・・・。

「邪神像だ」
呆然とデュランが呟く。

〈ようやく気付いてくれたようじゃの。わひゃひゃひゃ〉
陽気な声と共に小さな体の老人が姿を現す。
「きゃあっ、何よコレ!」
驚いたアンジェラがその場を飛び退る。
そのアンジェラから赤いフェアリーがが現れた。
〈ノームさん!〉
「ノーム?」
〈わひゃひゃひゃ、そうじゃ。ワシがノームじゃ。何やら可愛い娘ばかりじゃのv 結構結構〉
「何ほざいてんのよ、このジジイ!」
と、逆上するアンジェラとは反対にシャルロットはふんぞり返って、
「ほっほー、このシャルロットちゃんのうつくしさにきづくとは。ろーじんといえど、かんしん、かんしん」
〈うーん、残念じゃがワシはロリコンではないのでな〉


ピキッ


素早く引くデュラン達五人。





んのクソジジイッ!!! シャルロットだってジジイにようはないでちっ!!



「シャルロット、落ち着け」

ケヴィンに押さえられ、今にもノームに掴み掛かりそうだった野獣は取り押さえられた。

〈お願い、『聖域の扉』を開くためノームさん達の力が必要なの!〉
必死にノームに懇願するフェアリー。
そのフェアリーにノームは温かく笑い掛け、冗談交じりに答える。
〈わしゃ、カワイコちゃんの頼みごとは断れないタチでの・・・。よかろう! ドーンと任せなされ!〉
〈ありがとう、ノームさん〉

デュラン達の内に、ノームの力が注がれていった。
〈やったね! これで二人目だよ!〉
嬉しそうにそう言って赤いフェアリーはアンジェラの中に消えた。

「やりましたね。では英雄王様にご報告に行きましょう」
「ああ、そうだな」
リースの言葉にデュランが同意したが、
「ええ!? 今から行くの? 明日にしようよ、今日はもう疲れたわ」
アンジェラが不平を唱える。
「またそんなことを」
ほとほと困り果てたように顔を顰めるデュラン。
だが、意外にもリースがアンジェラの言葉に同意した。
「それもそうですね。今からお城に行くのもちょっとしんどいですね。そろそろ夕食の時間ですし」
「そうでち! シャルロット、おなかすいたでち!」

結託する女性陣の言葉にデュラン達は対応に困ったが、リースがそう言うならということで、その日は休むこととなった。
自分達の意見が通ったというのに、アンジェラは不機嫌な表情で、
「あんた達ってリースの言うことなら聞くわけ?」
その拗ねた口調は明らかにヤキモチだ。
だがホークアイ以外はそれに気付くこともなく。
「まあ、そうなるかな」
「リースは我侭言わないから」
デュランとケヴィンの言葉が終わると同時にアンジェラとシャルロットの目が据わり、二人はぎょっとして何かまずいことを言ったのだろうかと焦った。
そんなやりとりに、ホークアイは一人笑いを抑えるのに悪戦苦闘した。


その後、デュラン達は高原を抜け、日の落ちたフォルセナの街を通り抜けて宿屋に向かった。


宿屋に着くと、アンジェラが不思議そうな表情でデュランを見て、
「どうしてデュランの家に行かないの?」
「えっ?」
一瞬狼狽し、デュランは強張った表情で俯く。
「ごめん、それだけは・・・。俺、旅立つ前に決めたんだ。紅蓮の魔導師を倒すまで帰らないって・・・、だから・・・」
そこまで言って黙り込むデュラン。

これは彼の精一杯の意地だ。
一人の戦士としてのプライドなのだ。
それが理解できても、やはり五人の仲間達は「頑固だなあ」と思わずにはいられなかった。

「ふーん・・・。でも残念だな、デュランの部屋見てみたかったのに」
するとアンジェラは何かを思い当たったように人の悪い笑みを浮かべ、
「あーっ、ホントはエッチな本とかあって見せられないとか?」

言われたことの意味を理解するのに少し時間が掛かった。
気付くと同時にデュランは真っ赤になって慌てた。
「バ・・・バカヤロ!
ようやくそれだけ言って言葉に詰まるデュランに、アンジェラとホークアイが声を上げて笑う。
続いてシャルロットも爆笑。
「きゃはははっ! デュランしゃんダサダサでちっ!」
「かっ、勝手にしろっ!」
言い捨て、真っ赤になったままデュランはそっぽ向く。
と同時にリースと目が合い、デュランに向けて彼女はふわりと微笑んだ。
「早く帰れる日が来るといいですね」
リースの優しい言葉に、デュランは照れたような笑みを返す。

その様子を見ていて、アンジェラとホークアイの胸に「おもしろくない」という思いが湧き上がる。
そしてそこは行動派の二人らしく、
「リース、一緒にお風呂に入りましょーっ」
「デュラン、今日は祝杯上げようぜっ!」

二人とも気になる異性の方に行かないところが「らしい」かも知れない。


そうして男性陣は男性陣、、女性陣は女性陣として引き上げていく六人だった。





■■■■■





その夜、デュランは宿屋の窓から帰って来た祖国の夜景を見つめていた。
彼の視線は、あくまで『家』にあった。
そして残してきた大切な家族に思いを馳せる。

(ウェンディ・・・、ステラ伯母さん・・・)

いつでも自分を励ましてくれる存在。

しっかり者で可愛い妹、ウェンディ。
優しく、厳しく、そして温かな愛情を持って育ててくれた伯母、ステラ。

(もうしばらくの間、待っていてくれ。俺は必ず帰って来るから・・・。
父さんのように立派な剣士になって、二人を守れるようになって・・・


かつて英雄王の親友でもあった『白銀の騎士団』リーダー、ロキは、英雄王…時のリチャード王子と共に竜帝に挑み、一命を賭して見事にこれを倒した。
彼の偉業は伝説として伝えられ、彼は英雄として称えられた。

それが、デュランの父である。


(父さん・・・。俺に父さんの血が流れているのなら、剣に命を懸けた父さんの意志が俺にもあるなら、俺は必ずあいつを・・・紅蓮の魔導師を、倒してみせる!)



一人の青年の堅い決意の中、平和の戻ったフォルセナの夜は、静かに更けていった。





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04.8.10.UP


この話のためにドワーフに高い金を支払いました(笑)。
ノーム編と言いながら1話で終わったようなものですが、何故か続きます。
さて、次回からはローラント編に向けての話となります。
ホークアイとリースが中心となる予定♪



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