第6章『風の王国』

1.ローラント王国奪回


風の王国ローラント。
世界で類を見ない高山バストゥーク山に伸びる天翔ける道。
その頂上付近に建つ美しい山岳都市は、常に吹き抜けてくる風と、女だけの戦士団アマゾネス軍に護られて難攻不落の城として名高かった。

だが、南の砂漠の盗賊団ナバールの襲撃を受け、王国を治めていた盲目の王ジョスターは殺され、王国は滅亡した。

今やローラント城にはナバール兵ばかりが彷徨し、不気味な静寂に包まれている。

そんな時、ローラント王国に風に舞う花が降り始めた。

風と共に城を包む花の中、次々と城内の兵士が睡魔に襲われて倒れていく。


それは、風の精霊ジンが風を操って眠り草の花を撒いたのだが、それを知る者は城内にはいない。

デュラン、アンジェラ、ケヴィン、シャルロット、ホークアイ、リース、そしてアマゾネス戦士達はローラント城の城門に来ていた。
ナバール兵は眠り込み、たやすく城門を開けることができた。
この好機に次々と突入する女戦士達。
「よーし! 行くぜ、皆!」
「おう!」
「いくでち!」
気合を入れるデュラン達に、ライザが話し掛けてきた。
「城内にはまだ眠っていない敵もいるでしょう。リース様、皆さん、どうか気を付けて!」
「ええ、皆も気を付けてね」
そう言って、槍を手にリースは城の中へと入っていき、すぐにデュラン達も続く。
城の中に一番詳しいのは他ならぬリースだ。

ローラント城はフォルセナ城に劣らずとても大きな城だが、フォルセナとの違いはローラント城は特に縦にも長いということで、いくつもの階段を上る必要がある。

1階から2階にかけてはアマゾネス軍がすぐに制圧した。
次に3階に続く扉を開いたリースは愕然とした。
「うわ! 何だ、こりゃ!」
リースに続いて入って来たホークアイが驚きの声を上げる。
後から来たデュラン達も驚きを隠せないようだ。
そこで彼らが見たものは、大量のモンスター達だった。

「城内にモンスターがいるなんて!」
リースが悲痛な声を上げる。
16年間親しんできた城に、モンスターが徘徊するとは・・・。
ナバール兵がいるだけでも美しい城が汚される思いだったのに、その上・・・。

「リース、しっかりしろ! こいつらを倒すぞ!」
素早くダガーを構え、ホークアイが呼びかける。
デュランも剣を構え、ケヴィンはモンスターに飛び掛かり、シャルロットはフレイルを振り回す。
アンジェラもまた呪文を詠唱し始めた。
リースは哀しみを怒りに代えて槍を構えた。
「皆さん、上の階を目指します。私に付いて来て下さい!」
「OK!!」
襲い来るモンスター達と戦いながら、六人は上を目指して走り抜ける。

最下級の悪魔とされるチビデビルや、魔術によって命を宿した剣イビルソードにはそれほど手こずることはないが、アーマーナイトやニンジャといった人間であった者達には苦戦を強いられた。
悪魔に魂を売り、強靭な肉体と高い魔力を得た、人間でありながら人間でないもの。
魔の甲冑を身に着けて巨大な剣を操る戦士、アーマーナイト。
隠密行動を得意とし、忍術と呼ばれる技を自在に操るニンジャ。
タイプは違うものの、かなりの強敵だ。
力と剣で攻撃をするアーマーナイトにはデュランとケヴィンという力技を得意とする者が、忍術を使う暗殺者であるニンジャにはホークアイとリースという素早い動きを持つ者が応戦する。
そして彼らをアンジェラmの攻撃魔法とシャルロットの治癒魔法が補助をして六人がそれぞれ自分達の個性を活かして協力し合う。

次々と襲い来るモンスター達を、その見事なまでの連携で倒しながら階段を駆け上がって行くデュラン達。


「この階にもいないようですね」
そのフロアのモンスターを全滅させた後、リースがさすがに疲れたように息をつきながら言った。
「俺は最上階にいると思うな。大抵敵の大将ってのはそういうもんだろ?」
ふざけているのかどうか解らないような台詞を吐いたのはホークアイだ。
「そうねえ、私もそう思うわ。リース、このお城はいったい何階まであるの?」
額の汗を拭いながらアンジェラがリースに問う。
「6階です。あと2階上です」
「ひっろいお城よねえ・・・」
リースの答えにアンジェラはうんざりしたような表情でそう言った。
それでも彼女はいつものように我侭は口にしない。
このような事態に文句をまくし立てるほどアンジェラは自己中心ではない。それはシャルロットにも言えることで、二人とも状況をしっかりと理解している。
確かに疲れてはいるが、リースやホークアイのためにもローラント城は取り戻さねばならない。


間もなくアマゾネス軍もそのフロアに上がって来た。

「後は頼む。俺達は上の階に進む」
デュランの言葉に女戦士達は頷き、
「どうか皆さんご無事で」
祈りの言葉がデュラン達の背中に掛けられた。

後の処理は彼女達に任せ、さらに上を目指す六人。
上に行くに連れてモンスター達もまた強くなっていくが、六人は協力し合ってそれらを倒し、最上階まで辿り着くことができた。

「この扉の先の突き当たりに最後の部屋があります。たぶん敵はそこにいるはずです」
そう言ってリースは最後の扉を開く。
扉を開けて彼女が踏み出したその時、無数の手裏剣がリースを襲った。
「きゃあっ!」
不意を突かれ、防御できずに倒れるリース。
一瞬の出来事に、デュラン達はすぐには状況が理解できなかった。
血に染まって倒れ伏すリースの向こうにはニンジャと思われる二人組が立っている。
その二人がリースを攻撃したのだろう。
ホークアイの表情が信じられないものを見るかのように凍り付く。
(リースが・・・・・・それに、あの二人は・・・)

リースもまたその二人のニンジャには見覚えがあった。
忘れもしない、あの二人だ。
「くっ」
苦しげにうめいてリースが身を起こし、我に返ったアンジェラとシャルロットが慌てて彼女を支える。
「リース! 大丈夫?」
「リースしゃん、しっかり!」
怒りを湛えてデュランとケヴィンが前に進み出た。
「てめえらっ!!」
「お前達はあの時の二人ね? エリオットを返しなさい!」
痛みに耐えながら問い詰めるリースに、二人のニンジャは冷笑を浮かべる。
「フン、知らんな・・・」

ナバール盗賊団がこのローラント王国を襲撃した日、リースの弟エリオットを誑かして城を護る風を止め、ローラントにナバールを侵攻させた張本人達。
彼らのせいでリースはすべてを失った。どれほど憎んでも余りある者達だ。
二人のニンジャはリースにとって憎しみの対象以外の何物でもなかった。
だが・・・。

「ビル! ベン! 何故お前達まで・・・」
ホークアイの悲痛な声に、デュラン達は驚いて彼を凝視する。
だが二人のニンジャは彼には目もくれずに、その先の部屋へと姿を消した。
「待て!」
すかさずデュランとケヴィンが二人を追う。

ホークアイは二人のニンジャが去った後、それを追おうとはせずにリースの傍に膝を付いて、心配そうに彼女をのぞき込む。
「リース・・・」
「ホークアイさん・・・、あの二人をご存知なのですか?」
苦しげな表情でホークアイを見上げるリースに、ホークアイは黙って頷く。
「ああ。かつての・・・仲間だよ・・・。リース、君はここにいるんだ。いいね?」
「いいえ、そういうわけには・・・。お父様の、それに皆の仇を討たないと・・・」
そう言って、痛みに耐えながらリースは身体を起こしかkうぇう。
ホークアイは表情を険しくしてリースの肩を掴み、力尽くで押し止めた。

「リース! おとなしくするんだ! そんな身体で戦えるわけがないだろう!」

絞り出すような声で彼女を叱咤するホークアイ。
リース、それにアンジェラやシャルロットも驚いたように彼を見つめる。
だがすぐにホークアイはリースを気遣って口調を和らげる。
「俺達に任せてここでじっとしてろ。もっと自分を大事にしろよ。王女様なんだろ?」
「ホークアイ・・・」
「わかったな?」
「はい・・・」
今度はリースも素直に頷いた。
ホークアイはふっと微笑んで立ち上がる。
「じゃ、シャルロット、リースを任せたぜ」
「はいでち」
「リース、頼むからちゃんといい子にしててくれよ」
からかうような口調でそう言われ、リースの頬が染まる。

「んじゃ、行きましょ、ホークアイ。デュランとケヴィンなんてとっくに行っちゃったわよ」
リースのことはシャルロットに任せて、ホークアイとアンジェラは駆け出した。


二人のニンジャやデュランとケヴィンが入って行ったその部屋では、すでにその四人の戦いが繰り広げられていた。

「おい、お前ら遅いぞ!」
「ごっめーん、怒んないでね、デュラン」
軽い口調でそう言って、アンジェラはすぐに呪文を詠唱し始める。
ホークアイも両手にダガーを構えて戦闘に参加する。

しかし、ホークアイは相手の攻撃を受け止めるだけで、決して自ら二人に掛かって行こうとはしない。
「ビル、ベン! 俺が解らないのか?」
彼はニンジャ達のダガーを受け止めながら、必死に説得を試みる。

砂の要塞ナバールでは、親友のイーグルやニキータと共によくふざけ合っていた。
チームを組んで悪どい商人の家に忍び込んでは、金品を巻き上げていた。
共に語り合い、酒を酌み交わした仲間達。

「頼む! 目を、目を覚ましてくれ!」
「貴様など知らん」
ビルとベンはそう言い放っただけで、ホークアイの叫びに答えようとはしなかった。

「ホークアイ、伏せて! 〈ホーりーボール〉!!」
アンジェラの鋭い声が響き、彼女から発せられた無数の光の球体がビルとベンの周りを包む。
「何だ?」
次々に光が弾け、眩い光の爆発が起きた。

「「ぐああっっ!!」」
吹き飛ばされる二人のニンジャ。

ホーりーボールはかつて滝の洞窟でフルメタルハガーがデュランに放った魔法で、その時は単体にのみ有効だったが、アンジェラが使ったのは全体に攻撃が有効だ。
呪文の唱え方によっては単体、全体攻撃どちらも可能だが、単体に対しての時より全体に対しての方が呪文が長いことは否めない。

倒れた二人にすかさずデュランとケヴィンの攻撃が繰り出される。
その様子を見ながら、ホークアイはきつく唇を噛み締めた。
(くっそー! 戦うしかないのか!)
どちらにしろ、リースを傷付けたことは許し難い。

ホークアイは、自分に向けて放たれた手裏剣を素早くかわして、ダガーを手にビルとベンに向かって行った。



戦いが長引くにつれ、デュランとケヴィンも、そしてホークアイもこの場にリースがいれば、と思わずにはいられなかった。

ニンジャの武器はホークアイと同じくダガーで、主に接近戦を得意とする。
そんな彼らに対してリースは彼らの苦手とする距離を取った戦いができるのだ。
デュランはまだいざ知らず、ケヴィンとホークアイも接近戦タイプなので、この戦闘はかなり苦しい。
何しろレベル的には闇の力を得たビルとベンの方が今の彼らより力が上なのだから。
また、ビルとベン、二人の力はまったくの互角でもあるので、どちらにも気を抜くことができない。


「忍法、雷神の術!」

ベンの声と同時に閃光が走り、四人の頭上から雷が落とされた。

「「「うわっ!!」」」
「きゃあっ!!」

全身を強い電流が駆け抜け、激しいショックに四人は膝を付く。

「しまった! 雷神の術は忍法でも最大の威力で防御力を下げてしまうんだ! アンジェラ、魔法を早く!」
ホークアイの言葉が終わるよりも早く、アンジェラは呪文の詠唱に入った。

「影潜り!」
突如、ビルの姿が消えた。
「? どこへ?」
瞬間、ホークアイの顔色が変わった。
「ケヴィン! 影に気を付けろ!」

「!!」
ホークアイが言い終わるが早いか、ビルは突然ケヴィンの影から現れ、斬り付けてきた。
何度もダガーが振られ、あまりのそのスピードに火煙が上がる。
「うぅっっ!!」
あまりの技の威力に、ただでさえ雷神の術によって防御力を下げられたケヴィンは、かなりの打撃を受けた。
「ケヴィン!」

吹き飛ばされて、ケヴィンが倒れると同時にアンジェラの呪文が完成した。

「〈エアブラスト〉!!」

覚えたての風の力を借りた攻撃魔法。
アンジェラから鎌鼬が発せられ、竜巻が敵を包んで切り裂く。

エアブラストを唱え終わるとすぐに、アンジェラは封呪のロッドを手にして解放の呪文を唱える。

「解呪! 第一の法!」

ロッドから発せられた光がケヴィンを包み、彼の傷を癒した。
そう、ロッドに封じ込められた最初の呪文はシャルロットの治癒魔法、ヒールライトだ。

「ありがとう、アンジェラ!」
回復したケヴィンは、すぐさまビルとベンに向かって行く。
そしてアンジェラは封呪のロッドを手にもう一度同じ呪文の詠唱に入り、デュランとホークアイの傷を癒した。
シャルロットがいない今、アンジェラは攻撃と治癒の呪文を交互に唱えてデュラン達を援護しなければならない。
(でも、ちょっとキツイわね)

ビルとベンは強過ぎるほど強い。
攻撃魔法よりも治癒魔法に専念した方がいいかも知れない。
しかし、攻撃魔法の援護をしなければ、武器攻撃だけではデュラン達もかなり苦しいだろう。


一方、ビルとベンの二人もまた、少なからず焦りを感じていた。
どんなに強力なダメージを与えてもデュラン達は回復してしまうのだから。

「影潜り!」

「!!」
またもやビルの姿が消えた。
デュランは激しい悪寒を感じてアンジェラを振り返る。

「きゃあっ!!」
デュランの直感通り、ビルは魔法で彼らを援護するアンジェラを真っ先に片付けようと、アンジェラの影に潜り込んで移動し、素早い動きで彼女を斬り付けた。

アンジェラ!!

慌ててデュランがアンジェラに駆け寄ろうとする。
しかしそれよりも早く、ビルが倒れたアンジェラに止めを刺そうとする。

振り上げられたダガーを、アンジェラの若葉色の瞳が凝視する。

(デュラン! お母様!)


やめろおぉっっ!!!


デュランの絶叫を無視して、ダガーはアンジェラに向けて振り下ろされた。



キイインッッ!!


金属のぶつかり合う耳障りな音が響く。

「何!?」

振り下ろされたビルのダガーはアンジェラに突き刺さる前に、駆け付けたリースの槍に受け止められていた。

驚いて一瞬硬直したビルのダガーを、リースは槍を振って薙ぎ払う。

「リース!」
デュランの胸に安堵感が広がる。

「大丈夫ですか? アンジェラさん」
ビルを見据えたまま、アンジェラを背後に庇って問うリース。
「ええ、平気よ。ありがとう、リース」
「まっててくだしゃいよ。いまシャルロットがてあてしてあげまち」
リースの後から部屋に入って来たシャルロットが、アンジェラの手当てを始める。

二人の加勢に、デュラン達三人は安堵した。
これで戦いはかなり楽になる。

「リース、怪我はもう大丈夫なのか?」
ホークアイの問いに、リースは微笑んで頷く。
「はい。シャルロットちゃんの治癒魔法のおかげです。私も助勢しますね!」
槍を構え、リースが戦いに参加する。


リースの距離を取った戦い方に、ビルとベンは戸惑った。
ダガーで斬り付けようとしてもリースに刃が届かないのだ。

だが、リースの持つ長い槍は確実に彼らにダメージを与えてくる。

「くそ、小娘!」
ビルは焦りを感じて、何とかリースとの距離を縮めようと突進するが、ニンジャほどではないにしろリースの動きもまたかなり素早いのでそれもままならない。
その上、もう一人距離を取った戦いのできる戦士、デュランが加わってビルを攻撃する。

槍と剣が交互に突かれ、そこにさらにアンジェラが攻撃魔法を放つ。

「〈エアブラスト〉!!」

「ぐわあ―――っっ!!」

風圧に切り裂かれ、ついにビルが倒れる。

「ビル!」
慌てて駆け寄るベン。
ビルの身体を抱き起こす彼に、デュランの剣が突き付けられた。

「ビル、ベン・・・」
反対側からホークアイの静かな声が掛けられる。
その表情は暗く、重い。
「もう終わりだ。負けを認めてローラントから手を引いてくれ。そして、リースの弟を・・・」

ホークアイの言葉が終わらないうちに、ビルとベンの身体が空気に溶けるかのように透け始める。
「?」
「美獣様、申し訳ありません・・・」

言葉と同時に、二人の姿がその場から完全に消え去った。



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04.10.30.UP


ローラント城イベントでした。
前半はホークリで後半はデュラアン色強いです。
この辺は特に「風の詩」にも収録してますので読まれた方はつまらないかも知れませんね(苦笑)。
次回はホークリラブラブ物語です(笑)。



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