坊ちゃん:天流(ティエンリウ)・マクドール
月華(ユエファ)・マクドール
2主:ユアン(元)
坊ちゃん達の設定はこちら
※この話はNo.068:変わるもの 変わらないもの 、No.083:伸ばした手の関連作です。
先に上記を読まれた方が良いかも知れません。
次元と常識を超えて、マクドール家の月華坊ちゃんとリーシア坊ちゃんの世界が同盟軍軍主によってリンクしていた頃、ここ、天流坊ちゃんの世界の同盟軍軍主にもある異変が訪れようとしていた。
「え? 帰ってない??」
マクドール邸の前に立ち尽くし、ユアンはクレオの言葉に絶句した。
「ええ、そちらに泊まるって連絡があったんだけど・・・知らなかったの?」
クレオの言葉にユアンは瞬時に何事かを悟った。というか、これ以外に考えられなかった。
(性悪魔術師と放蕩息子の仕業かああ〜〜っっ)
脳裏に浮かんだのは、小憎たらしいことにいつも天流の両隣をキープしている、人を馬鹿にしたような眼をした少年と、嘲るような笑みを浮かべる青年だ。
せっかく、苦労してシュウの監視を振りきり、邪魔者を排除して、天流との二人の時間を楽しむためだけにバナーの峠をたった1人で越えて来たというのに、1人占めするはずだった彼の人がいないなんてっ。
「うわあ〜〜んっ!!ティエンさあ〜〜んっっ!!」
滝の涙を流しながら、ユアンは全速力で来た道を駆け抜けて行った。
「元気な子ね〜」
走り去る後姿を見送るクレオは感心したようにそう呟いた。
■■■■■
瞬きの手鏡を使った瞬間、ユアンは不思議な感覚を覚えた。
今まで何度も使ってきたそれが、どこかいつもと違う。
本拠地の入り口に立ち、ユアンは不思議そうに鏡を見つめた。
「う〜ん、気のせいだったのかなあ? 何か・・・ぐにゃって感じで空間が歪んだような気がしたんだけど・・・」
うーんうーんと唸っていたユアンだがハッと我に返ると、
「こんなとこで突っ立ってる場合じゃない! ティエンさんを悪魔達から救い出さないと!!」
決意も新たに顔を引き締め、城の中に駆け込んだ。
全速力で走り抜けて行くユアンの姿に、城の住人達は何事かという目を向けている。
その視線の中をわき目も振らずに駆けていたユアンだが、何だか違和感を感じ始めていた。
(なんか変だな〜。何が変なのか解らないんだけど、何だか変なんだよね。何が変なんだろう??)
う〜ん、と首を傾げながらも走る速度は変わらない。
その時。
ツルッ
「へ!?」
ズべシャッ!!
「ふぎゃっ!」
拭き掃除をして間もなかったのだろう。足を滑らせたユアンは、見事なまでに盛大にすっ転んだ。
「〜〜〜っ」
言葉もなく痛みに耐えるユアン。痛みからか恥ずかしさからか、顔が真っ赤だ。
「大丈夫か? ユアン」
「うぅ・・・はい、だいじょーぶです〜・・・っ」
頭上から落ちてきた声に顔を上げようとしたユアンは、見覚えのある紅い服を目にした途端、痛みも忘れて立ち上がるとその人物に抱きついた。
「マクドールさあ〜ん! 会いたかったです〜〜っっ!!」
ふにゃ
「ん?」
何やら不思議な感触だった。
今までにも何回か天流に抱きついたことはあったが(直後に切り裂きが飛んでくる)、その感触は細身だが程よく筋肉が付いた少年のそれだった。(髪や首筋から良い香りがして思わず(自主規制)したくなるけれど)
しかし今、顔を埋めた胸は・・・胸が・・・。
有り得ない柔らかさを持っていて・・・。
まるで・・・・・・。
「うわわわ〜〜! すみません、すみません、ごめんなさいいいっ! し、失礼しましたああ〜〜っっ!!!」
「あ、ユアン・・・?」
戸惑ったような声を振りきって、耳まで真っ赤になったユアンは物凄い勢いで走り去って行った。
(うわあ〜、ど、ど、どうしよ〜っ。お、女の子に抱き付いちゃったよぉ〜〜っっ!!)
あまりの恥ずかしさに、ユアンはがむしゃらにひたすら走り続け、蹴り壊すかのように階段を駆け上がり、怒涛のように廊下を駆け抜け、目の前に現れた扉を破壊しかねない力でバッターンッ!と開け放つと、部屋に入った途端にバタンと倒れた。
静寂が落ちる。
「うぅ〜〜、変質者って思われたかも知れない〜〜・・・」
「それは大変ですね」
「ぅええっ!?」
まさか人がいるとは思わず、突然耳に届いた女性の声にガバッと上半身を起こしかけ、ユアンは固まった。
そういえば、混乱して走り回って辿り着いた部屋に入ったけど、記憶が正しければあのルートで行き着く部屋といえば・・・不本意ながらも自室の次に訪れる頻度の高い、恐怖の一室ではないか。
(し、し、し、執務室だ、ここ〜〜!)
この部屋に居るのは、言わずと知れた鬼軍師シュウ。
よりによって何故こんな所に来てしまったのだろう。
できれば今すぐ立ち上がってこの部屋から出て行きたい。
これから自分に起きる事態など、解り過ぎて想像したくもない。
恐る恐る顔を上げ、閻魔大王の前に突き出された罪人の心境で目の前にそびえる机と、そこに座る人物を見上げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうしました? ユアン殿」
「どうしたんですか? ユアンさん」
「え・・・あ・・・いや・・・その・・・」
茫然とした表情で硬直したユアンに、怪訝そうな声が掛けられる。
「あのぉ、つかぬことをお伺いしますが・・・」
この先の言葉を言っていいものか、どうか。
それより、何故この人達は自分の名前を知っているのだろう。
少なくともユアンにとって部屋にいる二人は・・・
「ど、どなたでしたっけ?」
初対面のはず。
「「・・・・・・・・・」」
二人はきょとんとした表情でユアンを見つめた。
その不思議そうな様子に、的外れなことを言ってしまっただろうかと焦る。
記憶の底を引っ掻き回してみるが、やはり二人に見覚えはなかった。いや、何となく誰かに似ているような気はするのだが。
いつもは鬼軍師が踏ん反り返っている重厚な机には、だいたい同じ年頃ではあるが知的な女性が座り、傍らにはメガネをかけた少年が分厚い本を手に立つ。
(こんな人達、同盟軍にいたっけ??)
「・・・頭でも打ちましたか?」
落ち着いた声で女性が冷たい一言を投げ掛ける。
「失礼します」
声と同時に扉が開き、物腰の柔らかな女性が現れた。
「ああ、クララ」
「え? 誰?」
「何言ってるんです。キバ将軍のご息女じゃないですか」
「・・・・・・はい?」
キバ将軍の娘? キバ将軍の子供は息子だろ!?
それに名前だって“クララ”なんてアルプスの匂いがしてくるようなものではなく、“クラウス”のはずだろ!?
「ユアン殿、用が無いなら出て行きなさい。ここは遊び場所ではありませんよ」
「え? 軍務は良いんですか?」
いつもなら部屋に入れば最後、待ってましたとばかりに大量の書類で埋めつくされるのに。
だが女性は「何言ってんだ?」とばかりの眼を向け、
「それは貴方の姉の仕事です。軍主はナナミ殿なのですから」
「はいいっ!!???」
いつから? いつからナナミが軍主になったわけ!?
それに部屋にいるこの人達って何だか似てる!? シュウとアップルにっ!
「あ、あ、あの、もしかして貴方は同盟軍の軍師ですか?」
「何を今更。貴方方がアップルと一緒に私に頼み込んで来たのでしょう?」
(何これ何これ何これ!? どーなってんの!!??)
頭を抱えて悶えるユアンを指差し、クラウス・・・いやクララとアップルの間で「ど、どうしたんですか? ユアンさん」「さあ・・・僕にもよく解らないんです」という会話が交わされる。
「ユアン殿、何やら混乱しているところ申し訳ないですが、邪魔だからさっさと失せなさい」
この辛辣さは間違いなくシュウだ。
フォローするかのように、アップルらしき少年が口を開く。
「ユアンさんの憧れの月華さんが石板の所に居ると思いますよ?」
「ユエファ・・・さん?」
「ええ、貴方の大好きな月華・マクドール嬢ですよ。さっさと行きなさい」
(マクドールさん!?)
聞くや否や、ユアンは執務室を飛び出した。
こんな所で混乱しているよりも、天流・・・いや、トランの英雄と会えれば何か進展があるかも知れないという期待を抱き、ユアンは石板のもとへと急いだ。
(それにしてもマクドール嬢って・・・もしかして天流さんも女性なのかな? 男が女で女が男で・・・わけわかんないよぉ〜っっ!!)
「あら、ユアン」
「え?」
突然呼び止められ、キキーッ!というブレーキ音を響かせてユアンは止まった。
声の方を振り返ると、赤いマントを纏った栗色の長い髪の綺麗な女性がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
(・・・誰? 赤い服と茶色い髪ってことはカミューさんかな? でも騎士って雰囲気じゃないんだけど・・・)
「そんなに急いでどうしたの?」
「ええっと・・・失礼ですが、貴方は・・・?」
言いにくそうに問われ、一瞬目を丸くした女性は次に笑い出した。失礼に当たるユアンの言葉に気を悪くするでもなく、彼女は気さくな笑顔を浮かべる。
「なあに? 一日会わなかっただけで私のこと忘れたの? じゃあ自己紹介しましょうか。私はオデッサ。同盟軍弓兵団の団長よ。これで良いかしら?」
―――・・・・・・オデッサ???
「オデッサさんて・・・フリックさんの・・・?」
「フリックの話、覚えていてくれたのね。彼が死んでもう5年になるのよね・・・」
フリック、死んだんだ・・・。
故人の話に笑い転げたくなるのは人として最低だろうか。
「ところで、ユアンはどこに行くの?」
「あ、えーと、ティ・・・マクドールさんに会いに・・・」
「ああ、石板の所にいるわよ。ユアンは本当に月華が好きね」
月華の名前に、オデッサはさらに柔らかな笑みとなった。
以前、フリックがオデッサと天流は自分や天流の従者達が嫉妬するほど仲が良かったと聞いたことを思い出す。確かに仲が良さそうだ。
「あ、そうだ。ビクトーラがユアンと手合わせしたがってたわよ。時間ができたら付き合ってあげてね」
「・・・・・・・・・・・・」
ビクトーラ・・・。どうやら女性の名前らしい。
だが、その名前がいったい誰を指しているか、悩む必要もないように思えた。
「いいいいいえ、あの、そそそそそれは・・・まままままた今度ということでっ」
恐怖に引き攣った顔を必死に振り、くるっと身体を反転するなり脱兎の如く駆け出すユアン。その表情は鬼気迫るものがあった。
(うわああ〜〜んっ! 助けてマクドールさあ〜ん! ビクトールの女版に会う前に、元の世界に戻りたいよぉ〜〜〜っっ!!)
あまりにも切実な心の叫びだった。
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